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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート2:ターゲット

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第25話 プレイボール

「…‼」


 和気藹々とした空気が突然、辺りを動き回る無数の気配によって掻き消された。思わず身構えるタルマンとムラセは、無数のインプやヒルビスが迫って来ている事を把握する。


「やっぱり、気づかれちゃった…ごめん」

「なあに心配するな」


 自分の銃声が原因だろうと、女性が気まずそうに言ったがタルマンは落ち着き払ったまま彼女を励ましてショットガンを構える。ムラセも同様にサブマシンガンを握って照準を合わせようと必死になっていた。そしてヒルビスの一体を撃ち落とした瞬間を皮切りに、下級の群れは一斉に彼らへ向かって歩みを速めていく。そんな彼らへ、二人はありったけの弾薬を浴びせ始めた。


「嬢ちゃん、ヤバいと思ったらすぐに下がれよ ! 」


 弾をばら撒く彼女へタルマンが叫んでいた矢先、ヒルビスが腕へと噛みついて来る。しかし、服の内側に保護用のプレートを仕込んでいた事で怪我には至らなかった。


「クソッタレめ ! 」


 タルマンは罵りながら片手でショットガンを構え、必死に腕へ齧りつこうとするヒルビスを撃ち落とした。


「タルマンさん ! 」


 ムラセの叫び声と共にサブマシンガンから銃弾が放たれる。そして背後から飛び掛かろうとしていたインプへ命中すると、地面に叩き落として見せた。礼を言うタルマンに対して、ガスマスク越しではあるが笑顔を浮かべた彼女だったが、直後に瓦礫の上から飛び掛かって来たインプによる奇襲を許してしまう。


 ぶつかられた衝撃で銃を手放してしまい、首を掴まれたまま押し倒されたムラセはどうにか食われる事だけは避けようと抵抗をする。助けに行こうとしたタルマンだったが、他の個体が邪魔立てするせいで彼女へ近づけなかった。


「やだ… ! やだ… ! 」


 捕食しようとこちらへ悪臭漂う口を向けて来るインプに、涙目になりながらムラセは抵抗し続ける。このまま喰い殺されるなどお断りだという彼女の意思も虚しく、体にはインプの爪が食い込み、必死に藻掻く彼女の肩に牙がめり込んでいく。顔を食われなかったのは幸いだと思いたかったが、出血と激痛によってすぐにどうでも良くなった。


「うぐ…ああああ… !」


 苦痛に喘ぎ、着実に死が迫っている事を彼女は感じてしまう。どうにかしてコイツを殺さなければ自分がやられる。そうして彼女の心に情けが入る余地など無くなった次の瞬間であった。落雷にも似た音と衝撃が起き、赤い閃光が彼女の体を迸った。


「…なに…あれ… ? 」


 どうにかしようと拳銃を構えていた女性は、自分の目が捕らえた異変を信じられずにいた。倒れているムラセも何が起きているか分かっていない様子らしいが、彼女に圧し掛かっているインプは息絶えている。しかし、呆然と恐怖を作り出した最大の要因は、そのインプの亡骸を貫いている赤い雷を纏う腕であった、光り輝く結晶の様な見た目をしているその腕はインプの下、つまりムラセの腹の辺りから現れているようにも見える。形状からしても、間違いなく人間のそれでは無かった。


「…うう…よいしょ…」


 間もなく火花が散る様に腕は消え失せた。ムラセは血と苦痛だらけな体に鞭打って亡骸をどかして立ち上がる。インプに空いていた風穴がどうして作られたのかもイマイチ分からず、助かった事を喜んでも良いのかいささか疑問であった。


「嬢ちゃん、無事か!?」


 タルマンはすぐに駆け寄ってから怪我の具合を見た後に手を貸す。辺りにいたデーモン達もすっかりいなくなっており、ひとまず危機は去ったらしかった。


「ねえ…今のは ? 」


 再び近くに座ったムラセに、女性は半ば畏怖的な不安を感じつつ尋ねた。


「い、今の ? 」

「何か…ホラ、出てたじゃない。腕 ? なのかな…たぶん…あれ」


 自分でも何が起きていたか分からずに戸惑うムラセだったが、質問をする側である女性でさえ言葉を詰まらせていた。初めて遭遇した不可思議な現象を言語化するのは一、二分程度の猶予では足りる筈もなかった。


「…また誰か来るぞ !」


 同じく目撃者であったタルマンは、ムラセにどう声をかけるべきかと悩んでいたが、遠方から接近する装甲車の数々を目にしたことですぐに忘れる。そして全員に再び警戒を促した。




 ――――一方、ベクターは呑気に物色を続けていた。道中にて始末したデーモンの死体を尻目に売店へと勝手に入り、空いてるコップを手に取ってからサーバーのボタンを押してみる。当然、出るわけも無かった。


「ま、ですよね」


 そう言いながら乱暴にコップを投げ捨て、いよいよフィールドへと向かう。もっぱら野球場として使われていたらしい場所だが、すっかりと荒れ果てていた。雑草が目立つだけでなく、崩れかかっているらしいドームの瓦礫が目に付く。


「あんな市場じゃなくて、こういう場所こそ優先で開発して欲しいもんだね」


 娯楽こそが営みにおける至福だとベクターは考え、不意に口走った。そのままマウンドまで小走りで向かい、手ごろなサイズの破片を拾い上げる。


「…始球式といくか」


 そう言いながら軽くマウンドを足でならし、勢いよく破片をぶん投げる。観客席へ命中するという大暴投だったが、本人は至って満足げだった。軽く、そして固い激突音が球場に響き渡り、そのまま閑散とした物悲しい空気が流れる。


 ベクターは一瞬、背中に背負っているオベリスクの柄を掴みかける。どこからかは分からないが、明確な殺気を感じた。後ろを振り返ってみるが何も無い空っぽな観客席が広がっているばかりである。その時だった。何か鋭そうな物体が飛来してくるのを彼は視認する。軽やかなステップで横に避けると、その物体は後方の地面へと突き刺さる。直後に大爆発を引き起こした。


「おっと ! 」


 土が飛び散り、焦げ臭さが鼻を掠める。敵襲だと確信し、ベクターは物体が飛んできた方角へ再び目を凝らす。


「…ようやくお出ましか」


 気も冷やした事を隠すため、笑いながらベクターは言った。か細い肉体を見せつけ、翼を広げながら叫ぶデーモンはそのまま羽をばたつかせてから近寄って来る。そして翼を腕の様に振るうと、数枚ほどの羽をこちらへと飛ばしてきた。何かがマズいとすぐにベクターは察知し、走りながらそれを回避する。少ししてから立て続けに爆発が起きた事で、ようやく先程の攻撃の正体を知った。


「爆発する羽か、上等だぜ。一つ残らず毟り取ってやる」


 敵の攻撃がどの様なものかを把握し、ようやく戦意が固まってきた所でベクターは言い放った。

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