第24話 一任
あの後、すぐに出発したが、一番酔いが回ってないという点もあってか運転はベクターが担当する事となった。
「よし…もうすぐか」
普段任せきりだったためか、若干ぎこちの無い手つきでハンドルを握って整備もされていない砂利道をひた走り続ける。しっかり握っていなければハンドルを切る事もままならない様な振動が、手や指先へヒシヒシと伝わって来ていたが心地良さも感じた。
「――ほんでこいつがサブマシンガンと弾倉。使い方は教えた通りだ」
「ありがとうございます ! 」
その頃、酔いが醒めたらしいタルマンがムラセのために用意したサブマシンガンと弾薬を彼女へ手渡していた。角ばったボックス型の弾倉をジャケットのマガジンポーチへと仕舞いながら彼女も礼を言う。今回は場合によってはベクターと別行動を取らなければならないかもしれないため、彼女の身を案じた上での配慮だった。
やがて装甲車を停めた三人は厳重に施錠をしてから外へと出る。曇り空に出来た無数の切れ目から光が差しこんでおり、廃墟に積まれて放置されている瓦礫たちを照らしている。人の気配は感じられず、昼間だというのに不気味な静けさがあった。
「よし、信号弾使ってみるか」
ベクターがそう言いながら信号弾を打ち上げると、間もなくどこかから銃声が聞こえる。おおよそ返答用の信号弾を持ち合わせてないか、通信機器が故障しているから代わりに居場所を知らせてくれたのだろうとベクターはすぐに理解した。
音がした方へ向かってみると、瓦礫の裏側に女性が寄りかかっている。余程辛いのか、脇腹を抑えて顔を少し歪めていた。隣には瀕死になった状態の男性まで倒れている。
「あなた…死神ね」
「知ってくれてるようで嬉しいよ。二人でお楽しみ中だったか ? 」
視線が合った女性が反応を示すと、ベクターは空気の読めない発言をかました。
「だったら、もうちょっとマシな所を選ぶわよ…来てくれてありがとう」
少し痛みに喘いだものの、想像より威勢よく彼女は答えた。荷物にあった応急処置用の治療キット使えと二人にベクターは頼み、二人が横たわっている男性に近寄ったのを見計らってから女性の前へ座り込んだ。
「言うまでもないだろうけど、何があった ? 」
「デーモン…って言いたいところだけど、あんなヤツ見た事ない。デカい癖に空を飛び回って…何かをこっちに飛ばしたと思ったら爆発が起きて…どうにも出来なかった」
ベクターから尋ねられた女性は、自身が体験したありのままを伝える。彼女の話を聞きながら周囲を見回していると、焼け焦げた地面に、下半身が無くなっている死体が転がっているのを目にした。
「成程。まあ凡人には酷な相手だったろうな」
「ひっどい言い草~…じゃあ、死神さまのお手並みとやらに期待するわ。せいぜいあそこにある死体みたいにならない事ね」
ベクターが不遜な態度で笑いながら言った。その横着な物言いに少しムッとしながら、女性も死体を指差して彼に釘を刺す。
「タルマン、ムラセ。二人を頼む」
「おう」
「分かりました」
ベクターが立ち上がってから改めて手当てを続けるように頼むと、二人もそれに頷きながら返事をする。そのままベクターは歩き出し、怪しいと睨んでいたドームへ向かった。
「たのもー」
そんなことを言いながら、勢いよく入り口のドアを蹴飛ばして中へと侵入する。照明が無いせいか非常に暗い。やがて目が慣れてくると、埃をかぶった内装が目に付いた。かつてはここで和気藹々としながら試合が始まるのを待っていたのだろうか、ベクターはそんな時代に生まれてみたかったと鼻で笑ってから探索を再開した。
――――その頃、ようやく一通りの処置を終えたムラセ達は周囲の見張りを交代で行っていた。
「…何か遅いですよね、ベクターさん」
「まあ基本寄り道するの大好きだからな。少なくとも緊急事態ってのはありえねえ」
異変が一切ないというのも、却って心配になるのかムラセは愚痴を零してしまう。しかし特に不安がる様子もなくタルマンは彼女を諭し、小腹が空いたと言ってカップラーメン作りに勤しんでいた。
「ほれ」
タルマンはそのままフォークと一緒に女性へ手渡した。
「どうも…あなた達は彼の仕事仲間 ? 」
女性は受け取ったカップラーメンが冷めるまで少し待っていたが、暇潰し程度に聞いてみた。
「まあそんな所だ。俺は助手…んで、こいつは新入り兼弟子候補」
「よ、よろしくお願いします」
タルマンが自分達の紹介をし、ムラセもそれに便乗する形で挨拶をする。女性は一口だけカップラーメンを食べてから改めてムラセの方を見ていた。
「あなたみたいな若い子なんて久しぶりに見たわね…どうしてハンターに ? やっぱりお金が稼げるって聞いたから ? 」
「まあ、大体成り行きというか…勿論ちゃんと目的もあるんですよ ? …自分の父親を捜すための情報を集めたくて」
興味ありげに聞いてくる女性へ、ムラセはバカにされないだろうかと恐る恐る答えた。少し驚いたような顔をしていた女性だったが、納得した様に小さく頷く。
「ふ~ん情報収集とは珍しい。でも…この仕事に関わっている組織の人脈の広さを考えれば、案外理にかなっているかもね。 ついでに興味本位で聞くけど、お父さんはどんな人なの ? 」
女性は特に揶揄う事も無く、かといって勝手に背景を想像して同情するわけでもなかった。その代わりにと、助けられたお礼でもしてやろうという心意気から、自分に知っている事なら話してあげようと彼女に質問をしてみる。
「それが…全然分からなくて。母も全く話してくれませんでしたから…名前も顔も、何にも知らないんです」
「難易度、高いわね…」
ムラセからの回答で、思っていたより無茶苦茶なスタート地点に立っている事を知った女性は、少し困った様に覇気のない声で反応する。しかし、「それってもう死んでいるんじゃないのか」と言い切るだけの度胸と無慈悲さは持ち合わせていなかった。




