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第163話 嘗めるな

 ベクターが無事でいられるか分からない。そう思った一同は群がってくる雑魚たちを蹴散らしつつ、ようやくセフィロトの麓にまで辿り着く。植物だというのに麓というもおかしな話だが、そう呼ぶに相応しいだけの大きさへと成長し続けていた。


「何かヤバい事になってんね」


 リリスが見上げながらぼやく。


「これ以上放っておくのはマズいな…早めに対処しなければ」

「だが、どうやって ?」


 セフィロトの具合を見たザガンも、険しい表情で最悪の事態を連想した。そんな彼女にイフリートが話しかけていた時、自分達が来た道とは反対側の方角から、アルド・インダストリーズから派兵された兵士と、彼らが運用する無数の軍用車両が姿を現す。アーサー、そしてケルベロスを従えたリーラも一緒だった。ついでにタルマンとジョージもケルベロスの背中から飛び降りてくる。


「ベクターと一緒じゃなかったのか ?」

「ああ、北側に支援が必要だと連絡があったもんでな…片付けて来た。セフィロトについてはこちらに任せてくれ。一応だが対策を考えてある」


 イフリートが尋ねると、アスラを装着した状態でアーサーが答える。そして背後で何やら忙しく動き出している兵士達に目を向けながら、自分達が請け負うと言い出した。


「分かった。だが急いだ方が良いぞ」

「勿論だ…周囲の魔力の濃度も上昇してきてるからな。恐らく猶予は無いんだろ ?」


 ザガンも信頼をすると決めたのか、頷いてからアーサーに任せる。彼らがそうして話す一方で、ガスマスクを付けているリーラはムラセ達にある装置を渡していた。


「これは ?」

「ハイドリートで見つけた召喚機があったでしょ ? タルマンと一緒に少し改造させてらった。瞬間移動に使う魔方陣を組み込んで座標を設定してるから、地面に設置して自動的に発動する魔方陣の上に乗っかれば良い。まあ、本来の使い方とはかなり違ってるけど…いざって時の緊急脱出用でも良いし、オルディウスをセフィロトから離れさせるのに使っても良い。魔界の瘴気から魔力を補給出来なくなれば、少しはヤツを弱体化させられるでしょ ?」


 手に取って眺めているムラセに対し、リーラは魔改造を施した召喚機について説明をする。通用するかは分からないが、確かに持ってて損は無さそうだった。


「ホントは私達も行きたいところだけど、足手纏いにしかならなそうだし…とりあえずこの辺りの雑魚はこっちで引き受ける。どうか気を付けて」

「いや、これだけしてくれれば十分。ありがとね」


 申し訳なさそうにするリーラだが、そんな彼女へリリスはフォローを入れてから感謝を伝える。そしてイフリート、ザガン、ムラセ、ファウストと共にセフィロトの方へ向かい、デーモン達が通り道として使っているという大きな洞穴を根元で見つける。


「中はかなり入り組んでいるが、とにかく下層へ向かっていけば魔界や深淵に辿り着ける筈だ。その代わり敵もいるだろうが…行くか ?」

「なあに、立ちはだかる奴は全員殺すまでだ」

「右に同じ」

「いつでも行ける」

「よし…ベクターさんを助けないと」



 ザガンは注意事項を伝えるが、他の者達は既に覚悟を決めていた。そして彼らが洞穴の中へ消えていくと、間もなくデーモン達の悲鳴や激しい衝突音などが聞こえ出す。


「デーモン達に同情するぜ…」

「いやはや全く」


 何が起きているのかをすぐに察し、タルマンとジョージは彼らと対峙する事になった敵の運命を憐れんだ。




 ――――その頃、ベクターはオルディウスに対して幾度となく攻撃を仕掛けていた。だが、障壁を使って防がれるか回避されるばかりでまともに相手にされない。


「悪くない筋だ」

「へ、偉そうにしやがって。逃げてばっかりかよ」


 オルディウスは思っていたよりも真面目に分析をし続ける。そんな彼女の態度が気に入らないのか、ベクターが挑発するように言った。


「なら本気で戦いたいと思わせてくれ…その不完全な体でどこまで出来るのかは知らんが」


 息を上げる事さえなく、淡々とオルディウスは反論する。実の所を言うと、彼女はさほど期待をしているわけでは無かった。あまり過剰にハードルを上げてしまうと、望む結果では無かった際の落胆も非常に大きなものとなってしまうからである。さらに、ベクターと対峙をした時点で分かった事だが、彼はまだ完全に力を取り戻しているわけでは無いらしい。


 全ての魔具を取り戻せていないせいで、本来持っているポテンシャルを出し切れていない。それならば全力を出しきたとしても高が知れている。故にわざわざ本気になってやる必要も無いと彼女は思っていた。


「よし、なら遠慮なく行って良いんだな」

「息が上がってるが、今までは全力じゃなかったとでも言いたいのか ?」

「おうよ。ウォーミングアップは入念にやる派なんで」


 そう言ってからベクターは再びオベリスクで彼女に斬りかかる。オルディウスは腕を金属で覆い、そのままベクターの攻撃をいなし続けた。


「喰らえ !」


 その最中に、ベクターが叫んでレクイエムを突き出してくる。わざわざ攻撃する事を声に出して何の得があるのだろうか。そんな風にオルディウスは呆れ、障壁で身を守ろうとする。しかし、レクイエムは”時流超躍テンプス・ホッパー”の形態へと変化しており、直接攻撃をするつもりなど毛頭ない事が分かった。


「バーカ」


 ベクターが呟いた直後、彼を除くすべての時間の流れが急激に鈍化する。そのまま背後に回った上で、”殲滅衝破ジェノサイド・ブラスト”に形態を変えてからゆっくりと照準を彼女に合わせる。その時だった。


「…え ?」


 ほんの僅かではあるが、オルディウスの指が少しだけ動いたように見えた。一瞬だけ戸惑ったベクターだが、能力が解除される前に攻撃を行った。ところが、”時流超躍テンプス・ホッパー”の効果が解除されていないにも拘わらず、オルディウスは動き出す。そしてベクターの方を見てから張り合う様に光線を放ったが、その顔からは少し余裕が消え失せていた。一方、自身の物とは桁違いな威力を前にしてあっさりと押し負けたベクターは、そのまま間一髪で横に転がりながら回避する。


「アガレスの力だな。懐かしい」

「何で…」

「昔戦った事がある。その際に奴の体へ触れて力を複製したが…まさかお前も使えるとは思わなかった」

「…マジかよ」


 力を手に入れた経緯をオルディウスは懐かしみ、そのままベクターの方へ視線を向ける。スピードという点においては自分に利点が無いのだと分かったせいか、少々面食らったように彼は慌てていた。


「どうした。怖くなったか ? …命乞いをしたいなら、まだ間に合うぞ」


 揶揄う様にベクターへ話しかけるが、すぐに気持ちを立て直したらしいベクターは一呼吸おいてから再び構えを取る。


「ちょっと、ヤバいかもな」


 しかし想像以上に彼女の力量を見誤っていたのか、聞こえないくらいの声量でポツリと弱音を吐いた。オルディウスもまた、態度にこそ出さなかったもののベクターと早いうちに対峙出来た事を喜ぶ。もし放置し続けていれば、間違いなく自分にとっての障害となり得る力を持つ事になっていただろうと彼女は確かに実感していた。

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