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第160話 vsベリアル ①

 ――――話は、ザガン達がガミジンに遭遇した頃と同時刻の頃まで遡る。


「数は立派だけど、こんな寄せ集めみたいな連中じゃ心配するだけ無駄だったかな」


 引き裂かれ、バラバラにされ、そして黒焦げになった死体の山を踏み越えてからリリスは言った。


「ハナから雑魚で足止め出来るなんて向こうも思ってないだろ。問題はベリアルだ。俺達がいる事を知れば恐らく…特に姉貴は…」


 後をついて行くイフリートはベリアルの名前を出し、なるべくなら会わない事を願っていた。


「大丈夫でしょ。昔とは違う…それに今度はアンタもいるし、いっそ二人掛かりでボコっちゃうってのも――」


 怖気を誤魔化すためにリリスは気丈に振舞うが、やはりいつもに比べて威勢が足りない。そう思っていた矢先だった。天候が悪いわけでもないというのに雷が目の前に落ちたかと思えば、焼け焦げた地点に一人の男が佇んでいる。おぞましいニヤケ面でこちらを見ているその男と目が合った瞬間、二人に寒気が走った。思わず背筋を伸ばしてしまいそうになり、自分達が鉢会いたくないと思っていた人物が現れた事を体の反応で理解してしまう。


「おーおー、懐かしい気配だと思って来てみたが…やっぱりお前等だったか。なあ」


 ベリアルは笑った。彼にしてみれば古い顔見知りに会った嬉しさというよりは、昔によく弄繰り回していた古いおもちゃを見つけた時の感覚に近かったのだろう。再会を喜ぶわけでも無く、遊びたくてまらないのをアピールする様に指を鳴らしてウズウズしていた。


「久しぶりだなイフリート、いつ以来だ ? …そっちにいるのは…ああ、思い出した。あの出来損ないか」


 ベリアルはイフリートに対しては少し穏やかに話しかけたが、リリスを見ると忌まわしそうに彼女へ言い放つ。


「お前が親父とお袋を殺したと聞いた時は驚いたが…まさかこうして裏切るとは思って無かったぜ」

「裏切るも何も、味方だった事なんか無いだろクソデブ」


 わざとらしく顔をしかめて残念がるベリアルだが、リリスの心象は穏やかでは無かった。彼女がまだ無力であり一族全体から迫害を受けていた頃、率先して彼女をいたぶり、辱め、暴力の限りを尽くして破滅へ追い込もうとしていたのが他ならぬベリアルであった。すぐにでもぶん殴りたくて仕方がないのだが、彼に対する恐怖心も完全には抜けきっていない。


「そうイライラするな。昔みたいに仲良くしようぜ。お前が必死に媚び売って男女問わず色んな奴のイチモツや尻の穴舐めてた時みたいに――」


 だが挑発するために彼女がひた隠しにしていた過去をベリアルが喋り続けた事で、トラウマを呼び起こされたリリスは高速で距離を詰めてから衝動的に彼の顔面を殴る。そんな彼女の攻撃は彼の巨体を吹き飛ばすが、すぐに立ち上がったベリアルはニヤリと笑って口の中の血を吐き捨てる。傍から見れば大して効果は無さそうに見えた。


「いきなり不意打ちとは礼儀がなってねえな…ったく。ファウストはどんな教育をしてたんだ ? それか、アイツもてめえに股開かせてばかりだったってか ?」


 正直かなり痛かったが、ここで変にリアクションを取っては嘗められると思ったベリアルは余裕そうな態度を維持する。とうとう恩人まで侮辱された事でリリスが更なる殺意を抱いた直後、イフリートが隕石と見紛う様な火球を放った。ベリアルは腕を振って青色の炎を出現させてから、それを用いて炎の壁を作り出して防いでみせる。


「それ以上続けてみろ、二度と減らず口を叩けんようにしてやる」


 イフリートが忠告をする一方、咄嗟に彼の攻撃を防いだベリアルは自身の腕が少し焦げている事に気づいた。かなりの威力である事が窺える。


「イフリート、なぜだ ? 俺ほどでは無いにしても、お前の才能に関しては一目置いてたんだぜ ? それだってのに、んな落ちこぼれのクズと組んで人間の味方までしちまうとは…魔界でなら、支配者の一員として力も富も思うまま。俺と一緒に好き放題出来ただろう」


 ベリアルはどうしても納得がいかないのか、おどけた態度でイフリートに問いかける。オルディウスの下に付いている以上、少しでも配下を増やしておきたいというのが本心であった。戦力を強化すれば必然的に自分の地位も上がる。何より、いざクーデターを起こす時には駒として役に立つ。


「確かにお前の言う通り…そこの女はクズだよ。おまけにとんでもないアバズレだ」

「は ?」


 イフリートは唐突にリリスを見ながら言った。てっきり庇ってくれるものかと思ったが、背後から流れ弾を食らったリリスは素っ頓狂な声を出す。


「部屋は酒と煙草まみれ。街を歩けば風俗やストリップクラブに入り浸り、気に入った奴は老若男女構わず便所や路地に連れ込む…類は友を呼ぶのか知らんが、気が付けば一緒につるむようになった奴らも大概イカれてる。お世辞にも上流とは言えん、おかげで振り回されっ放しだ。でもな、そんな奴らに囲まれて遠慮も無しにバカな事するのも意外と悪くない。魔界で権力手に入れようが、お前みたいな奴に媚び売って、しょうもないルール押し付けられて狭苦しく生きるより楽なんだよ」


 イフリートは本音を吐露すると、首を鳴らしてからベリアルを睨む。どう足掻いても味方には引き込めないと分かり、ベリアルは体に稲妻を纏わせてデーモンとしての姿に変身しようとしていた。


「しょうもない情に流されちまったか。馬鹿な奴め」


 ベリアルが失望した様に言いながら変身をする。二本の角を生やし、全身を鱗の様なゴツゴツとした皮膚が覆っている。そして上半身には巨大な眼がびっしりと埋め込まれており、ギョロギョロと動きながら周囲を睨んでいた。


「勘違いすんな、お前と組むのが死ぬほど嫌だ…それが大前提だ」


 イフリートも負けじと言い返してから変身し、さっさとしろと言わんばかりにリリスの方を見た。


「りょーかい」


 少し嬉しそうに返事してからリリスも変身すると、地の果てにまで響くほどの大きな雄叫びを上げる。そして一目散にベリアルの方へと突っ込んで行った。

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