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第159話 vsガミジン 終

 ある程度の傀儡の群れを殲滅した頃、ムラセは少しだけ息を荒らげつつもファウストと共に破壊された外壁の方へと向かう。壁に出来た穴を潜り抜けた先では、ザガンとガミジンが相まみえていた。自身の気分の昂り方と、妙に陰鬱とした空気が漂っていたお陰で、周囲に魔力が充満しているのだとムラセは気づく。


「うおおおおおおお‼」


 ガミジンが叫んだ。何事かと思ったムラセだが、次の瞬間にガミジンの体が粒子状へと崩れていくの目の当たりにすると危機感を覚えた。すぐに巨大な化身を呼び出し、ファウストと自分を守る様に覆い被させる。目を細めながら見つめる先では、大量の粒子が空中へと拡散していた。そして砂嵐の様に吹き荒れながらザガンの周りを囲み始める。


「助けないと…」


 ムラセは呟き、父を抱きかかえながら少しづつ前に進む。そして近場にあった瓦礫の裏に隠れて様子を窺う。


「父さん、ここで待ってて」


 付近を見回し、倒壊しかけている建物や電柱を見つけたムラセが言った。


「何をする気だ ?」

「どうなってるか上から様子を見なきゃ」


  疲弊してる状態のファウストが尋ねると、ムラセは簡単に言い残してから走り出す。そしてゲーデ・ブリングを使って電柱や建物を昇って行き、やがて足場に使えそうな石で出来た雨樋の上に立つ。しかし吹き荒れる粒子は気が付けばドーム状になっており、全く中の様子が見えなくなってしまっていた。


 一方で粒子に囲まれているザガンもまた、デーモンの形態である巨大な牛の姿に変貌していた。試しに粒子の壁に触れるが、激しい火花と共に腕を弾かれてしまう。摩擦熱により真っ赤に熱せられている鋼鉄の腕をザガンは眺め、これがガミジンの考えた奥の手だと悟る。高速で回転する粒子の大群が周りを囲み、無理に脱出をしようとすれば肉体を削ぎ落し、粉々にしてしまうのだろう。囚われたのが自分だった事がせめてもの幸運だった。


「どこを見てる ?」


 囲むだけなら自ら動かねばどうしようも無いだろうと思っていた矢先、ガミジンの声が響き渡る。次の瞬間、粒子の中から拳が飛んできた。間一髪で防いだザガンだったが、あと少し後ろへよろければ再び粒子の餌食になってしまうというギリギリの場所に立っていた。少々驚いていると、今度は背中にお返しと言わんばかりに大槌を叩きつけられる。今度こそザガンは吹き飛ばされ、真正面から粒子によって体を削られていった。


 鉄が焼ける様な焦げ臭さを吸い込みつつ、焼け爛れた装甲のままザガンは体勢を立て直す。すぐに装甲を修復しながら中央へ戻り、周囲に目を光らせて動きを読もうとし始めた。そんな矢先、再び背後から無数の棘が粒子の中から生えると、一斉にザガンを突き刺す。胸や腹などの急所は良かったが、関節だけはダメだった。肩やひじを貫かれた事で思わず呻きそうになるザガンだったが、そんな彼女の背後には夥しい牙を生やした爬虫類に近い姿となっていたガミジンが立っている。


「どうした。手も足も出ないか ?」


 得意気に言って来る彼に対してザガンは殴りかかろうとするが、それより先にガミジンは自らの肉体や彼女に刺さっていた棘を分解し、再び辺りを囲っている粒子の中へ引っ込んでしまう。


「侮辱した事を後悔させてやる。簡単には殺さんぞ。少しづつ痛めつけ、肉体と精神を嬲り殺してやろう」


 そんな声が響き渡る中、幾度となくザガンは不意打ちを食らう。ガミジンは粒子の嵐から音もなく現れると、彼女の体を切り裂き、殴り飛ばし、突き刺すなどして攻撃を加えた。彼女が反撃しようとすれば再び粒子の中に逃げ込み、死角が出来た傍から再び攻撃を始める。視界が悪いせいでザガンからすれば補足が困難だが、ガミジンにとっては図体がデカいせいで狙い放題という圧倒的に不利な状態であった。


 正々堂々か否かで言えば間違いなく後者だが、ザガンはそれを糾弾する事は無かった。そんなみみっちい器は持ち合わせていないという自負心によるものだが、決して何も考えていないというわけではない。何か突破口がある筈だと攻撃を受け、装甲と体力を擦り減らしながらも策を考える。その時、今まで受けた攻撃を思い返している際にわずかだが閃きが走る。


 彼女はガミジンによる一連の攻撃に共通点がある事に気づく。ガミジンはザガンを攻撃する時のみ姿を現していた。つまり、攻撃をする時だけは実体化しているのである。その瞬間を狙えば、もしかすれば勝機があるかもしれない。その直後に背後からまた殴り飛ばされ、今度は頭を掴まれてから吹き荒れる粒子の壁へ無理やり頭を押し付けられた。


「少しは呻いて欲しいもんだが…」


 装甲を削りながら不満げにガミジンは言うが、間もなく裏拳によって振り払われると再び消え失せてしまう。ザガンは懲りずに中央へと戻って行く。そして右の掌に鉄の刃を生み出してから、特に構える事も無く立ち続けていた。同時に四本の柱を自分の周りにすぐさま生やして見せる。この時ガミジンは気づいていなかったが、彼女は左腕から目に見えない程に細いワイヤーをコッソリと生やし、鳴子の要領で柱の間に張っていた。


 そんな事を知る由もないガミジンは何を考えているんだと呆れ、既にボロボロになっている背中でも刺してやろうと両腕を剣に変えてから襲い掛かる。そして柱の近くまで接近したその時、彼は何かが体に引っかかった様な気がした。その程度で停まる訳もなく、平然と振り切ろうとするが正に迂闊だったと言えよう。これによって柱の間に張っていたワイヤーが切れ、その感触が微かにザガンへと伝わる。後方に張っていた物が切れたとすぐにザガンは察知し、素早く振り向いて刃をガミジンに向けて放った。


 ガミジンの変形した両腕の内、一つはザガンの肩に刺さるが残る方は彼女の頬を掠っただけである。致命傷では無かった。一方でガミジンの胸元にはザガンの刃が深々と突き刺さっており、彼がこれに怯んで動けなくなったのをザガンは見逃さない。すぐさまワイヤーを引っ込めた左腕で彼の首を鷲掴みにすると、へし折らんとする勢いで締め付ける。抵抗しようと藻掻くガミジンだが、角の生えている頭部で頭突きを食らった事で更に怯んだ。


「クソ…」

「所詮馬鹿の一つ覚え…慣れさえすれば対策くらい出来る。力にかまけ過ぎたな」


 ザガンがそう言い放って刺さった刃を深く抉り込ませる間も、ガミジンは必死に腕や足で抵抗し続ける。操ってる本人が目の前の状況に精一杯でコントロールが出来なくなったせいで、ドーム状になっていた粒子は少しづつ崩壊していった。そんな様子を見たムラセは少し困惑したが、すぐに助太刀をせねばとファウストの方を見た。騒ぎが止んだ事に彼も気づいたらしく、建物の陰から様子を窺う。そして両腕を広げて巨大な槍を生み出す。


 ファウストが準備出来た事を確認したムラセは、建物の壁を蹴って飛び出してガミジンの頭上から垂直に落下した。片方の腕でゲーデ・ブリングを伸ばし、ガミジンの背中にしがみ付いた事でようやく彼はムラセの存在に気づく。飛び掛かって来る彼女の後ろには、巨大な拳を握りしめている化身が出現しており、すぐそこまで迫っていた。どうにかしなければと藻掻くが、隙を作るためにファウストは槍を投擲する。雷の様な速度で槍は飛び、ガミジンの脇腹を串刺しにした。巻き添えにならない様に、ザガンはその瞬間を見計らって彼から距離を置く。


「ぐああああああ―――‼」


 苦痛のあまりガミジンは叫ぶが、叫び終えるより前にムラセの繰り出す化身が拳を叩きつける。頭蓋骨が粉砕し、脳や目玉が潰れてしまったガミジンだが攻撃は終わらない。倒れた彼の方へザガンは行くと、無理やり体を引き起こす。それと同じタイミングで背中から体内の骨格を変形させる事で作ったアームを二本生やした。


「卑怯とは言うまいな」


 一言だけザガンは言うと、背中のアームを伸ばしてガミジンの両腕を掴ませる。許しを乞おうとする彼の腕を引き千切り、それによって抵抗できなくなった彼の腹へ再び刃を刺す。そして躊躇う事なく一気に切り裂いた。内臓と血が溢れ出す中、ザガンはトドメを刺すために自身の両腕を潜り込ませる。そして雄叫びを上げながら力づくでガミジンの体を真っ二つに引き裂いた。そのまま肉体を投げ捨て、その中に埋もれていた彼のコアを踏みつぶして破壊する。やがてガミジンの肉体は静かに消滅していった。


「…やったな」

「ああ。助かった」

「ベクターさん、どこだろう…」


 近寄りながらファウストが言うと、人間態に戻ったザガンも簡潔に答える。一方でムラセは心配そうに辺りを見回していた。


「おーい」


 声が聞こえた。声のする方を三人が向くと、リリスとイフリートが痣を大量に作ったままこちらへ向かっていた。言わずもがな血まみれである。


「ほほ~、派手にやったっぽいねえ」

「お互いな」


 自分の事を棚上げしたまま、疲弊してるザガン達へリリスが話しかける。人の事を言えないだろうと思ったのか、ザガンもすぐさま彼女へツッコミを入れた。

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