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第158話 vsガミジン その②

 かつてファウストによってオルディウスの息子が奪われてしまったという理由から、ザガンは拷問を受ける羽目になった。決して目を瞑る事が出来ないように瞼を切り取られた彼女は力づくで拘束させられ、彼女の目の前には同じく磔にされた彼女の子供を用意される。「自分はどうなっても良いが、子供だけはやめてくれ」と懇願するも叶わず、彼女の子供は腹と胸を切り裂かれたうえで内臓を丸裸にされ、焼けた杭をゆっくりと一本ずつ刺され続けた。


 幾度となく幼い子供の悲鳴が上がる中、拷問を行うという大役を任されていたのは他でもないガミジンである。自分が彼女の後任になれると思い上がっていた彼は、やかましいからという理由でザガンの舌を力づくで抜き取ると、血の混じった涙を流して我が子がいたぶられる姿を見つめるザガンを見て嗤っていた。そして最後には虫の息になりながらも助けを乞う子供をザガンに見せた上で、子供の首を切り落として彼女の前に置く。オルディウスはただ欠伸をしながらその光景を眺めていた。


 その後は彼女も死なない程度に同じ目に遭わされた上で、現世へと追放された。優秀な才能を殺すのは惜しいとオルディウスの命によって、仕方なく生かされたに過ぎない。激しい憎悪と屈辱を味わったものの、自分一人では奴に勝てないと踏んでいたザガンは今日までその機会を窺い続けていた。そして早くも、その一つ目の復讐が果たせる機会が訪れている。


「やれ !」


 そんな風にザガンが沸々と憎しみを思い起こしていた時、ガミジンが差し向けた傀儡達が走り出す。ここからが本番だと感じたムラセとファウストも構えようとするが、二人の前に立っていたザガンが突然両手をかざした。すると服の裾やズボンを突き破って大量のワイヤーが彼女の体から伸び出す。ハリガネムシのように蠢くそれは鋭い先端を傀儡達の方に向けると、あっという間に伸びて彼らの肉体に突き刺さっていった。


 刺さるだけでなくそのまま体内へ潜り込んでいくワイヤーによって傀儡達は壮絶な痛みを味わい、その場で悶え苦しみだす。そんな彼らを睨みつつも、何か手ごたえを感じたらしいザガンは伸びきっているワイヤーを束ねて掴み、綱引きの如く一気に引っ張った。たちまちワイヤーがびっしりと巻き付いた脊髄や頭蓋骨が体から引っこ抜かれ、辺りに血や臓物をぶちまけながら傀儡達は倒れていく。デーモンから力を授かっているとはいえ、所詮は人体である。骨と内臓を抜かれて無事で済むはずが無かった。


「おっと…」


 ほんの少し前まで笑っていたガミジンも表情が凍り付き、若干焦りを見せ出していた。まだ傀儡の数は残っているが、一度に大半が殺された状況を見て慄けないわけがない。


「雑魚の相手を適当にしてくれ。アイツは私がやる」


 ザガンはそう言う傍ら、引き抜いた骨に巻き付けていたワイヤーを体に戻す。その途中で一部を引き千切り、束ねた上で変形させて鉄の棒を形成した。もはや錬金術である。そうして自分の方へ向かってくる彼女を前に、ガミジンも両腕を剣のように変形させた。両者が走り出し、互いに武器を振りかざして相手へ叩きつける。火花が迸り、鍔迫り合いを行っていた彼らだが、直後にガミジンは背後に殺気を感じた。


 次の瞬間、地面から鎖の付いたクナイが飛び出て来た。よく見ればザガンのズボンに紐状の膨らみがある。鍔迫り合いになった瞬間、不意打ちを行うためにザガンは体内で作った鎖付きのクナイを操り、ズボンの内側を通した上で地面に潜り込ませていた。


「チッ… !」


 しまったと思ったガミジンは舌打ちをして、片方の腕を盾に変形させて攻撃を防ごうとする。しかしそれがマズかった。両腕の剣を使ってやっと彼女と競り合う程度な彼の力では、どう足掻いても片手で彼女の動きを抑えられない。何とかクナイは防げたものの、鍔迫り合いをしていた方の腕をザガンに払い除けられてしまう。そしてがら空きになってしまった腹を鉄棒で殴られ、シェルターの外壁へと叩き飛ばされた。


「バケモンかよ…」


 ヒビが入る威力で壁に叩きつけられながらも、何とか立て直したガミジンは心情を吐露する。拷問を受けていた時の彼女の情けない姿を見ていたガミジンは、それが初対面だという事もあってか取るにも足らない奴だと勝手に判断してしまっていたのである。


 吹き飛ばされた際の余波で土煙が巻き起こり、前方の視界が遮られていたが、その瞬間を狙ってザガンは膝蹴りを放ってくる。彼女の奇襲を咄嗟に躱したガミジンだが、膝蹴りが壁に当たって亀裂を拡大させた光景を見ると再び彼女へ恐れをなす。


「拷問で受けた私の傷はほとんど癒えた」


 そう言いながらザガンは態勢を整え、両腕にガントレットのように変形させた金属を纏わせる。


「だがな、記憶だけはそうもいかない。不意に蘇る。愛していた者の悲鳴や、それを退屈そうに見つめるあの女…」


 再びガミジンを殴っていきながら、ザガンは自身が抱えていた憎しみをぶちまけ続ける。


「…そして何より…」


 そしてガミジンが壁際まで追い込まれた直後、両腕に纏っていた金属を一つの塊にまとめ上げると、あっという間に大槌へと変形させた。


「お前の不愉快な笑顔が」


 そのまま彼へと叩きつけると、地の底まで響く様な鈍い音が上がった。壁を破壊する事に成功し、その拍子にガミジンもシェルターの内部へ叩き込まれてしまった。


「さっきまでの威勢はどうした ? 余裕そうに笑っていただろう」


 起き上がるガミジンを睨みながら、ゆっくりとザガンは外壁に出来た穴からシェルターへと入って行く。


「それとも何だ…あのたった一回の顔合わせ程度で、お前は私の全てを知った気でいたのか ? 天晴と言わざるを得ない間抜けな脳味噌だ」

「黙ってればベラベラと…お前が現世で呑気にしていた間、俺は遊んでいたわけじゃない。手の内を明かしていないのは、俺も同じだ」


 挑発をするザガンに言われっ放しなせいか、少し憤りながらガミジンも反論した。


「その結果がこれだとするなら猶更惨めだな。所詮、私やファウストが追放されなければ側近にすらさせてもらえなかった日陰者、それがお前だろう。奥の手など見せなくても良いぞ…この程度の奴に出来る事など、たかが知れてる」


 本気を見せるつもりなのか、ガミジンが赤い稲妻を迸らせる中でザガンも彼を煽りながら同じ様に稲妻を纏う。戦士としての矜持に則って全力で迎え撃ってやる…などといった様な崇高な意思ではない。嘗め腐った三流以下の虫けらに越えられない壁を見せてやるという、下卑な考えに近いものであった。

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