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第155話 疾走そして突入

「あまり美味くないな…」 


 暇を持て余していたオルディウスは、廃墟だらけとなったノースナイツの敷地内を散策していた。試しに入った店で適当に腹ごしらえでもしたくなり、無断でキッチンに侵入した上で既に完成していたハンバーガーを手に取ってみる。だが、好みに合わなかったらしく一口齧ってから床に捨ててしまった。魔界よりはマシな物でも食えるかと思ったが、とんだ期待外れだと彼女は店を出る。


 丁度その時、遠方から強い気配を感じ取った。強大且つどこか自分に似たその気配の持ち主が誰なのか、それを理解するのにさほど時間はかからなかった。


「来たか」


 先程の不味い食事で不機嫌だったオルディウスはすっかり調子を取り戻しつつ、再会を心待ちにしているかのように高揚していた。




 ――――翌日の早朝、日も昇っていない暗闇の中でベクターは遠目からノースナイツを睨み、そのままバイクに跨ってから煙草に火を付け始めた。セフィロトが急速に成長を進めているという事もあってか、急遽予定を早める事になってしまったのである。


「飛行艇で偵察していたチームから連絡が入った。既に外壁の周りは雑魚の群れに囲まれているらしい。攻撃の予定を早めるのに苦労したが…確かにこの様子じゃ時間が進むにつれて手遅れになってたかもしれん」


 背後からアスラの装着が終わったアーサーが情報を報せてくれた。そのまま届いたという写真を何枚かベクターに見せる。シェルターの内側から蟻の様にデーモンが出入りをしている状況らしく、周囲を片っ端から制圧しながら規模を増やし続けているらしい。


「これだけの数をあらかじめ連れて来るってのは無理だろうな。つまり――」

「内部から何かしらの方法で生み出しているか…魔界から連れて来てるか。あるいは両方。ザガン曰く、あのバカでかい樹はデーモンの死骸やら何やらからエネルギーを吸い取って成長するらしい。大量に呼び寄せたから何割かを生贄に、そして残る奴らで守りを固めさせるって手口だろ。向こうも急いでるのかもな…ウカウカしてられねえ」


 大量のデーモン達はどこから現れたのか。アーサーが考えている内にベクターが推測を述べた。そのままバイクのエンジンを始動させる。


「本当に大丈夫なのか ?」


 アーサーが聞いた。


「問題ない。昔っから前線で暴れる方が性に合ってる」

「そうじゃない。聞けば最近仲間と大喧嘩したそうだな。ちゃんと和解はしたか ?」

「向こうから頭下げてくれるんなら考えてやるさ…それとも何だ、俺の事心配してくれてるのか ?」


 どこからか身内との不和を聞きつけていたアーサーに尋ねられるが、ベクターは軽口を叩いて見栄を張った。


「…余計な私情が原因で、連携が取れなくなると困るんでな」

「まあ何も心配しなくて良い。もう始めちまっていいのか ?」


 その様子を滑稽そうに見つめながらアーサーは理由を説明するが、ベクターは茶を濁してからすぐにでも行きたそうにバイクのハンドルを握る。


「それぞれ持ち場に着いてる。後はお前次第だ」

「俺が先に突っ込んで注意を引いて、ある程度殲滅した所で四方から突撃…だっけ ? 俺はそのままシェルターに突っ込んで行っても良いんだな ? 」

「ああ」

「分かった。それじゃあ、久々に暴れてやりますか」


 ベクターはそう言ってからアクセルを吹かして走り出す。そのままオベリスクを片手に握ったまま、こちらの存在に気づき始めたデーモンの群れへと突っ込んで行った。突撃して来るバイクにぶつかったらひとたまりもない…そんな事も思いつかない知能のせいか、数体のインプが迷うことなく突っ込んで来る。


「邪魔だ‼」


 容赦なくベクターは轢き殺し、そのままこちらへ襲い掛かって来る者達はオベリスクで片っ端から薙ぎ払っていく。進路をふさがれないように逃げつつ、数を減らしてはノースナイツとの距離を縮めていくという地味ではあるが着実な方法を取っていた。


「…穴が空いてる」


 ふとシェルターの入り口が近づいてきた時、その隣の外壁にベクターは目を凝らす。巨大な熱を持った何かによって融解したかの様に焦げている大きな穴が空いていた。開けられるかどうかを確認するためにわざわざゲートまで行くより、あそこから侵入する方が手っ取り早いかもしれない。


 そのまま速度を上げ、敵を振り切りながら外壁に空いている穴へとベクターは急ぐ。そしてタイヤをガタつかせながらも、瓦礫の上を走ってシェルターの内部へ入った直後だった。目の前に人影が降り立ち、自身の行く手を阻もうとして来る。敵だと咄嗟に判断したベクターはバイクをウィリーさせ、そのまま人影へとぶつけた。自身は直前でバイクから離脱したが、敵は平然と受け止めている。それならついでにと、ベクターは助走を付けてドロップキックをかましてみせた。


 バイクごと吹き飛ばされた敵は瀕死の様にフラフラと立ち上がるが、似たような気配があちこちからした。待ち伏せをされていたのである。人間の見た目をしているが、ゾンビを彷彿とさせる様にどこか生気の無い不気味な連中だった。まあそんな事だろうと想定内であるかのようにベクターは鼻で笑うが、間もなく損傷に耐えられなかったバイクが爆発して炎上すると少し顔を強張らせた。爆炎の向こうから誰かがこちらへ歩いて来る。


「一番乗りがオルディウス様の御子息とは…やはり規格外だと言うべきか、それとも期待通りというべきか」


 アモンだった。ベクターの方を見ながら不敵に笑う彼だったが、それと同時にベクターも歩き出す。


「旺然たる態度ですな。お待ちしていましたよベクター様…いや、またの名を――」


 緊迫した表情でこちらへ近寄るベクターに対し、アモンは嬉しそうに話しかけようとする。しかしベクターは彼の事など無視して炎上するバイクの方へと向かって言った。


「ふむ…」


 流石に無視されるのは心外だった様子のアモンは口を噤んでしまった。一方でベクターは炎上しているバイクをどうにかしたいのか、辺りをキョロキョロと見まわしている。やがて道路の端に、少々凹んで傷だらけになっている消火器が転がっている事に気づいた。


「オイお前、そこの消化器取ってくれ」


 ベクターが付近でこちらに睨みを利かせる人型のデーモンに向かって指示をした。頼みなど聞いてやる義理も無いのだが、”殲滅衝破ジェノサイド・ブラスト”の形態に変えたレクイエムをベクターが向けると、流石に殺されたくないのかあっさりと消火器を投げ渡す。それを使って急いで火を消すベクターだが、既にバイクは丸焦げになってしまっていた。


「……やらかしたぁ」


 つい調子に乗り過ぎてしまった。ベクターはそう思いながら後悔した様に呟く。


「無事に返すとは言ってねえからセーフか ? いや、流石にセドリックに頼んで同じ物を新品でプレゼントしてやるか。だけど…えっとヤマカワのバイク…セドリックの野郎、ヤマカワに関しては筋金入りのアンチだからなぁ…」


 わざわざアル達に借りたバイクを壊してしまった以上、どうにか詫びをしないといけないとは思ったのだが、出陣前に「ヤマカワのバイクに乗るくらいなら全裸で三輪車に乗ってシェルターを一周してやりますよ」とセドリックが豪語していた事を思い出し、同じ代物を調達する事は不可能であるとベクターはバイクに付いてあるロゴを見ながら感じていた。


「あの、聞いてますか ? 私の話…」

「あ ? 聞いてるわけねえだろ。邪魔すんな死にたくねえなら」


 何だか蚊帳の外に置かれている気がしてならないと感じたアモンが尋ねるが、非常に辛辣な物言いでベクターはあしらう。このクソガキめと、アモンは心の中で彼を罵倒した。

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