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第142話 無差別

 ベクターがイフリートに気を取られている隙を見て、リリスは片腕で体を引き摺りながら切断された足の元へとど這いずって向かう。そして何とか足を掴んでから、体を起こして切断面に密着させた。すぐに再生が始まり、すぐに完全に動くようになるともう片方の脚も同じようにしてから立ち上がる。近くに転がっていた死体からも腕を拝借してくっ付け、リリスは全速力で突撃した。


「鬱陶しい奴だなホント…」


 イフリートと競り合ってる最中、背後からリリスに吹き飛ばされたベクターは苛立ちながらぼやいた。


「それが取柄なもんで」


 肩で息をしてはいたが、リリスも余裕そうに言い返す。このままでは埒が明かない。吹き飛ばしたザガンがいつ戻ってくるか分からない上に、シェルターのどこかで待機していたらしい増援まで現れていた。このままではこちらが消耗するばかりな上、ファウストに逃げられてしまう恐れがあった。とにかく彼らを抑えたい。団結して襲い掛かられては、ベクターにとっても流石に厳しかった。


 そんな彼の意思に応じたのか、突然レクイエムが稲妻を迸らせながら激しく光り出す。全員が何事かと警戒するように硬直したまま様子を窺っている中、やがて変形が終わったレクイエムは見た事も無い姿になっていた。


「これは… ?」


 ベクターは困惑していたが、やがてベルゼブブのコアを吸収した結果が反映された物だと理解する。昆虫の様な外殻に覆われた腕には小さな針が備わっており、所々に小さく空いた穴からはブンブンと何かが中で唸っているような音が聞こえた。やがて、そこから大量に小さな虫が飛び立ったかと思えば、凄まじい速度で成長して毒々しい模様を持つ大きめな虫へと成長する。ベクターを守る様に彼らは辺りを囲い出し、その内の一匹がじっと彼を見ていた。


「…指示待ちか ?」


 ベクターが問いかけてみるが応答はない。しかし、直感的に自分の言う事を聞いてくれるのだと悟った。


「周りにいる連中を何とかしろ」


 一言ベクターが命令してみる。すると、待っていましたと言わんばかりに虫の群れが激しく動き回り始める。そしてイフリート達へと襲い掛かり始めた。辺りはパニックになり、イフリートとリリスも虫を排除するために躍起になる。彼らにしてみれば相手にもならない雑魚だが、何せ周辺全てを埋めつくような大群である。かかりっきりになるしか無かった。


「ぎゃあああああ‼」

「お、おいしっかりしろ !」


 一方で兵士達は慌てふためき、遂には襲われて毒針を刺される者達が続出する。無事な兵士が退避させようと駆け寄るが、どうも様子がおかしい。刺された者達は体中の血管が浮き出ており、目が恐ろしい程に充血していた。その血走った眼で介抱に来た兵士を見るや否や、発狂した様に武器や拳を振るって攻撃を始める。


「おい何すんだ ! や、やめろ…ぐああああ !」


 たちまち辺りは虫の群れと虫の毒に犯された兵士、そして無事な兵士達が入り乱れて血の海と化してしまう。自分達にも例外なく襲い掛かってくる彼らを、イフリートとリリスは相手にするほかなかった。


「悪く思うなよ」


 その様子を見ていたベクターは呟き、やがて背を向けて廃病院の方へと向かう。道中でも襲い掛かってくる者はいたが、彼は容赦なく始末していった。




 ――――廃病院の屋上に停めているという飛行艇を目指し、ムラセとファウストは施設の中に設置されている階段を急いで昇っていた。


「間違いない。明らかに強くなってる… !」


 ムラセは言った。レクイエムの力を平然と乱用出来るだけではない。明らかに体の動きや、攻撃の威力まで上がっている。


「私の体に宿している魔具のせいだろう…それに呼応しているんだ」


 彼女肩を貸されながらファウストが推測する。


「呼応って…それだけであんなに ?」

「オルディウスの命によって魔具に変えられたのは、あの子のコア…そして血だ」

「血⁉」

「まずコアは二つに分けられた。レクイエムは能力の行使、そしてグレイルは魔力の貯蓄と吸収…それぞれがコアの持つ役割を分割され、代償こそあれど他の者でも使用できるように調整されていた。そして最後の血はいわば燃料…他二つの魔具の強化に使うものだ。恐らく、血に秘めている魔力があの男に反応しているに違いない。本当の主の下へ帰りたがってるんだ。ただでさえ血に宿っている魔力が肉体に負担となっているのに…くっ」


 少し苦しみながらファウストが説明をする間、ムラセは慄いていた。二つが揃った状態であれならば、血まで取り戻した時にはどうなってしまうというのか。


「もしベクターさんが血まで吸収したら…」

「力を完全に取り戻すことになるだろうな。オルディウスさえも恐れる潜在能力…それが完全に開放される事になるかもしれん」


 ベクターの持つ可能性について非常に警戒しているファウストだが、やがて階段を昇った先の渡り廊下へと出た二人の前に兵士が一人現れた。


「こちらです ! ひとまずは飛行艇で避難――」


 そうやって二人を廊下の先に待つ屋上への出口へ案内しようとした時だった。兵士とムラセ達の間に割って入る様に衝撃が走る。壁が爆発で吹き飛び、外から何かが入り込んでいる。


「間に合ったな…」


 ”爆噴壊突デモリション・フューリー”を解除し、立ち上がりながらベクターは呟く。そしてゆっくりとムラセ達の方を見た。

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