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第136話 お久しぶり

 ―――現在


 灯りが消え、使い終わった食器や飲み終わった清涼飲料の缶が転がってる中で、ベクターは深い眠りについてた。ベッドに行くわけでも無く、床の上に突っ伏したままいびきをかいている彼の様子を確認したムラセ達は、そのままコッソリとキャンピングカーから出ていく。


「で、ここからどうするわけ ?」


 歩き出してからリリスがムラセに尋ねた。


「とにかくまずはザガンを探します。それでファウストの居所を教えてもらって…色々と聞きたい事を聞き出す。その後の事はそこから考えます。どの道ベクターさんが起きるまでには済ませたいですけど」

「向こうの出方次第というわけか…まあいい」


 ムラセが大雑把な計画を伝え、イフリートが相槌を打つ。そのまま砂利の上を歩いていき、やがてシェルターの外壁の前に三人は立った。リーラの情報によれば、保安機構はおろかどの企業からも認可を得られていない状況で土地を使っている…早い話が不法占拠だという。


「さて、どう入るべきか…」

「どうって、んなもん決まってるでしょ。オラー ! 開けろー! 責任者出てこーい ! 殺すぞー !」


 イフリートが悩み始めた直後、至極単純だと言わんばかりにリリスが入り口らしきゲートの前へ向かう。そして非常に強烈な勢いで叩きながら怒鳴り始めた。どうせ止めた所で聞かないと思っていたムラセとイフリートは、呆れた様子で黙って見ているしか無かった。やがて鉄製である筈のゲートに大小様々な凹みが出来、ようやく飽きたリリスがゲートから離れた直後、錆び付いたゲートが音を立てて開き始めた。


 ゲートの奥には武装した貧相なゲリラ兵にも見える様な男が数人、そしてその背後には見覚えのある長身の女性が立っていた。


「身体検査をしろ」


 仮面を付けていないせいで少々時間はかかったが、声を聞いた事でようやく三人はザガンである事に気づく。彼女の声に兵士達は頷き、銃口を向けたままムラセ達に近寄って行った。


「三人とも、その場で手を上げてくれ」


 兵士からの指示に言われるがまま三人は手を上げ、体を弄られる気持ち悪さに耐えながら周囲の様子を見た。武装こそしているが、貧相な体つきからしてあまり豊かな生活は送ってないのだろう。武器に関してもあまり手入れが行き届いて無いのか、汚れが酷く目立つ。もっとも、ザガンがこのシェルターに住んでいるとなれば武器など必要無いのかもしれんが。


「問題無さそうです」

「よし、ひとまず来い」


 異常なしと判断した兵士の報告を聞いたザガンは、そのままムラセ達を招き入れる。中に入ったムラセ達だったが、近くでカードゲームをしている見張りらしき兵士達や簡素な飲み屋、そしてポツポツと灯りが見える団地を観察して困惑した。事前に聞いていた情報によれば、そこんじょらのスラムなどとは比べるまでも無い程に治安が悪かった筈である。人が平気で住めているだけでなく、生活インフラもある上に小規模ながら軍事力まで抱えているシェルターだとは想像すらしていなかった。


「まあ座れ」


 適当に調達してきたらしい木箱を焚き火の前に用意し、ザガンは三人へ促した。三人が座るのを確認してから、地中に眠っている鉄鉱石を引き寄せると、それを操って椅子のような形へ変形させてから自分はそこへ腰を掛ける。上着などは一切纏っておらず、ジーンズにブーツ。そしてタンクトップという非常にラフな格好である。腕や肩から見える傷が大変生々しい。


「好きに飲め」


 兵士の一人がムラセ達の前に段ボールを置いた。常温で保管されていた缶ビールが入っている。リリスが二本手に取り、そのうちの一本をザガンへ放り投げる。ここで飲まなければ怪しまれると判断したのか、何か言うわけでも無くザガンもキャッチしてから缶を開けた。


「何か言いたげだな…というよりも、何から聞けばいいか分からないといった所か。まあ私もだが」


 飲み終わった缶を変形させて折り鶴を作りつつ、ザガンは口を開く。


「念のために聞くが誰かに後をつけられてないか ?」

「たぶんね。いた所でどうとでも出来るでしょ ? アンタぐらい強ければ」


 ザガンが質問するが、嫌味たっぷりに腕を擦りながらリリスは答える。


「狙われてるのが私一人で済んでいればな。今は違う」


 溜息をついて首を横に振ったザガンが理由を話すが、その言葉を聞いた三人はようやく本題に入れるかもしれないと顔つきが少し真剣なものになった。


「誰かを匿ってるって事ですか ?」

「ああ。こんな場所までわざわざ会いに来た理由は何となく察しが付いてる…ファウストだろ ? どの道これから話をするつもりだった…ついて来い」


 ムラセがどの様な会話をするつもりだったのかを予測していたザガンは、ファウストについて言及をしてから立ち上がる。そしてどこかへ向かおうとし始めた。


「オイ待て。ホントに生きてるのか…⁉」


 イフリートが思わず立ち上がって叫んだ。


「今から会わせてやる。ところでベクターはいないのか ? 何があった ?」


 ザガンも頷きながら答えるが、いつもなら仲間達の中心にいる筈のベクターがいない事を不思議に思う。


「飯に薬盛って眠らせて来た。会ったら色々と面倒な事になりそうだから」


 すかさずリリスが現状について話す。一体どういうことなのか聞きたくしょうがなかったが、歩きながらでもいいかとザガンは考えながらファウストの元へと向かい始めた。

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