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第123話 またかよ

「…フン、死んだか」


 遥か遠くにあったアガレスの気配が消えた事で、彼が死んだのだとザガンはすぐに悟った。誰にやられたのかも察しがついていたが、慌てふためくような事でも無い。魔界からポータルで呼び寄せた所を捕獲した後、実験に使うつもりだったアガレスを強引にベクターへ差し向けたのは他ならぬザガンだった。しかし、今更アガレスが勝てるとは思っておらず、他人には言えない彼女なりの考えがあっての事だった。


「余所見すんなクソ牛女 !」


 そんな事に気を取られて隙を見せたせいで、直後にリリスがザガンの顔面を勢いよくぶん殴った。再び吹き飛ばされたザガンは立ち上がるが、既に角の片方が折れ、自慢の装甲についても損傷が酷くなっている。体力の消耗も激しいせいで魔力を使って修復する余裕も無い。二人掛かりとは言え自分とここまで渡り合えているイフリートとリリスを心の中で讃えつつも、再び彼らへ飛び掛かって行った。




 ――――その頃、ようやくタワーの前へ辿り着いたベクターとムラセは辺りに群がる雑魚を血まみれになりながらも蹴散らし、周囲の安全を確保できたか見回していた。


「キリがねえな。ゴキブリかよ」


 先陣切って突っ込んでおきながらベクターが愚痴を零した。


「真っ先に突撃した癖に文句言わないでください」


 段取りを立てることなく、置手紙を残して勝手に動いた事についてムラセも指摘する。


「うるせえ。こんなにつまんねえとは思ってなかったよ。俺は草刈りがしたいわけじゃないんだ」

「でもさっき殺されかけ――」

「ちゃんと勝算あったからな ? あの後 … おい、あれ」


 そのまましょうもない口喧嘩を楽しんでいた最中、ベクターが異変を察知して指を差す。タワーの外壁を壊して何かが現れていた。身構える事すらしなかったのは、二人もいれば多少の問題など怖くないだろうという余裕から来るものであったが、その現れた敵の姿を見て少し驚いてしまう。


「たしかあいつ、ハヤトとかいう…だよな ?」

「…ええ。でもあれ…」

 

 ベクターがムラセに確認を取り、彼女もそれに同調するが少し困惑していた。というのも、今のハヤトの姿が自分達が遭遇した時とは大きく異なっていたからである。獣の様な姿をした金属の体に作り変えられており、おまけに四足歩行になっている。さらに口が針金で縫い付けられていた。背中からは金属で作られているらしいアームが無数に蠢き、少なくとも人であったころの面影は無くなっている。


「たぶんだが、ここ最近失敗続きで愛想尽かされて『勝手に改造してやるからこれで戦え』みたいに なったんだろ。同情はせんが」


 ベクターが言った。彼が覚えている限りでもリゾートでムラセとリリス相手に不覚を取り、挙句ムラセとの二度目の遭遇ではタイマンで彼女に負けている。自分が上の立場にいるなら間違いなく切り捨てる対象に選んでいただろう。


「でもあんな姿になるのはちょっと…」

「あんな役立たずでも、裏切られたら困るのかもしれん。元の体に戻してやる事を条件に脅されてるのかもな。あれじゃ生活も一苦労だ」


 憐れみさえ湧いて来たムラセとは対照的に、ベクターは冷静さを保ちつつ他人事の様な態度を取り続けていた。そしてタワーを見上げ、”グレイル”がどの辺りに保管されていたかを思い返す。


「ムラセ、あいつ任せてもいいか ?」


  ベクターが唐突に聞いて来た。


「どうするんです ?」

「とりあえず元凶どうにかすれば少し落ち着くだろ。それとも一人じゃ嫌か ?」

「努力はします」

「それでいい。一回勝ったんだ。余裕だろ」


 ムラセから返答を聞いたベクターはニヤリと笑い、そのまま歩き出していく。案の定、変わり果てたハヤトが襲い掛かって来たが間一髪で躱してみせた。


「また後でな。生きてるか知らんが」


 ヘラヘラと挑発交じりに言い残し、ベクターはレクイエムを鉤爪状にしてタワーの外壁に引っ掛ける。そして外側を凄まじい速さで昇って行った。追跡を早々に諦めてベクターの方を見ていたハヤトだったが、やがてムラセの気配を感じると彼女の方へ首を向ける。その瞳には憎悪が宿っていた。




 ――――ベクターは”グレイル”があった階層まで辿り着き、無理矢理窓を割って侵入した。


「ったく、一丁前に防弾ガラスなんか使ってんじゃねーよ。割るの苦労すんだから」


 悪態をつきながら”グレイル”の管理をしている筈の部屋へ向かうと、勢いよく扉を開ける。しかし既に中はもぬけの殻となっており、保管されていたカプセルも割られていた。


「お探しの物はここにはないぞ。残念だがな」


 ベルゼブブの声がしたかと思えば、どこからともなく大量の虫が集まって来る。そして人型になった後にベルゼブブが虫達を掻き分けて現れた。


「痛い目見ない内に教えた方が良いぜ」


 ベクターが首を鳴らしてから警告をする。


「おお怖い怖い。落ち着け…今お前が見てるのは、虫達の擬態で作り出している俺の”幻影”だ。本物じゃない」


 しかしベルゼブブは飄々とした態度であしらい、この場で戦おうとしても無駄な労力にしかならない事を告げた。


「屋上に来い。色々話したい事もあるんでな。お前にとっては絶対に悪い話じゃないさ…それは約束しよう」


 一方的にベルゼブブが伝えた後、彼の姿に擬態していた虫の大軍は一気に離散し消えてしまった。辺りが静まりかえった事で孤独感をベクターは感じつつ、ベルゼブブの言っていた話というのが気がかりで仕方がなかった。今の自分は間違いなく彼にとって障害である筈だというのに、なぜこうも歩み寄る姿勢を見せてくるのか。それがいまいち分からなかったのである。

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