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第121話 貸し

「何かシェルターの端っこで大怪獣バトル始まっちゃってるんだが、これはほっといて良いのか ?」


 各地で戦闘が続いている最中、ハイドリートの上空を旋回している飛空艇からマークがアーサーへ連絡を取った。


「何が起きてる ?」


 投下されたポッドに備えられている生体認証用のパネルに手を当てながらアーサーが聞き返す。


「デカいの二匹ともっとデカいの一匹が殴り合ってる…あ~あ、またぶっ壊しやがった」

「まあ大丈夫だろう。それより装備について情報があると言ったな。教えてくれ」


 設備や建物、そして防衛用の外壁を巻き込んで戦闘を行い続けている大型のデーモン三匹についてマークが実況をしていたが、まあ彼らなら大丈夫だろうとアーサーは割り切っていた。そしてポッドの中に用意されていたアスラの装備を取り出し、急いで身に着けていく。


「今度は凄いぞ。あちこちから集めたデータやサンプルを参考にして、極限までエネルギー消費を抑えられるようにした。それだけじゃない。一番の強みは何と言っても腕部や胴体に取り付けているフィルム型コンシューミングパネルだ」

「どういう事だ ?」

「魔力を利用して電力を確保するのが魔導エネルギーだが、とうとうそれに必要な設備をも運べるようになったってわけだよ。簡単に言えば、君がデーモンを殺したりしてやつらの血液やら体液が付着すると、それらに残留している魔力をパネルが吸収。パネルには魔力の伝導率が高い素材を利用してるんだが、そこを魔力が伝導する際に発生する熱をエネルギーに変えてるって訳さ。これまでは短時間の活動でもいちいち長ったらしい充電が必要だったが、もう心配いらない…要するに、死にたくなかったらとにかく殺しまくって血を浴びればいい。勿論、それに耐えられるよう冷却システムも強化した。おかげで重量は少し増したが…まあ君なら大丈夫だろう」


 マークは新しく組み込んだ機能について得意気に語り出す。細かい所については良く分からなかったが、ひとまず暴れ続けていればガス欠になる事は無いらしい。


「それと君の指示通り、援軍については小規模のチームを複数作って各地での避難活動や救援に派遣した」

「分かった。そのまま待機を頼む」

「了解、良い報せを待ってるよ」


 そのまま通信を終えたアーサーは他の面々の様子を確認する。既に装備を整え終わっていたのか、警戒を続けつつも談笑をしていた。


「でも、ここまでして協力なんかする必要あります ?」


 デュークが言った。こちらの目的は済んでいる以上、いつまでも居座る理由など無い。


「先の事も見据えて動けるようになれ。ここで避難や支援活動のためにウチの企業が動いておくとどうなる ? シアルド・インダストリーズに対する住民の心象は良くなるし、シェルターの運営に携わっている連中や治安維持をしている組織にまで貸しが作れるからな。そうなると予定通りにシェルターの実権を握った後も余計な対立を生まなくて済む」

「ああ~、成程…」


 疑問を抱える新米に対してダニエルが語ると、どうやら腑に落ちたのかデュークも頷いていた。だが、それによって発生する恩恵にあやかれるようになるのは生きて帰ってこそである。そう思いながらアーサーはアスラのシステムを起動し、マスク越しに移るインターフェースの調整を行いながら敵の接近を待ち続けた。




 ――――アガレスによって発射された矢は、ベクターの胸と脚を捉えた。そのまま倒れて藻掻くふりをしながら、ベクターはアガレスの様子を確認する。後はこのまま動けなくなった様に振舞えば、死んだと勘違いしたアガレスが近寄って来てくれる筈だった。


「ん… ?」


 体に違和感が生じる。痺れ、そして寒気がし始めた。やがて息苦しさまで出てくる。


「やっべ…毒か」


 以前、体が頑丈なのを良い事に色んな毒を摂取してみようと悪ノリに近い形でタルマンと実験をしていた事をベクターは思いだす。キノコや蛇の毒を摂取した際と似たような症状が起きている事から、神経毒の類であるという事はすぐに分かったが、気づいた頃には筋肉が満足に動かせる状態には無かった。かなり効きが早い。


 落ち着け、これが毒なら対処が出来ないわけではない。これほど姑息で警戒心の強い相手なら、何らかの拍子に自分自身がこの毒に侵される危険性も考慮してる筈である。つまり血清のような治療用の道具を持っているかもしれない。問題はそれをどうやって探すかという点である。


「…ベクターさん⁉」


 遠くから声が聞こえた。目を凝らすと、アガレスの背後から声を出してムラセが走ってきている。間違いなく大変な状況だというのに警戒心が無いのは困りものだが、タイミングとしては決して悪くはない。


「コイツの仲間か。なら話が早い」


 既にベクターを倒したと思ってるらしいアガレスは、そのまま鈍重な足取りで振り返ってからムラセを見た。跪いて動けなくなりつつあるベクターを心配しつつ、ムラセも構えを取る。


「ん ?」


 ムラセの視線の先では、アガレスに気づかれないようにベクターが余力を振り絞って大振りなジェスチャーをしていた。腕時計を指差した後に、両腕を広げるという動作を何回か行うが、どんどん体を動かすのが辛くなってきているらしい。とうとう地面にゆっくりとうつ伏せに倒れてしまった。


「時計…それで手を広げて…というか伸ばして…時計…時間…時間…伸ばす…あ」


 連想ゲームの様に類似する単語を挙げていき、やがて時間を稼いでくれという意味を込めたジェスチャーなのかとムラセは気づいたが、なるべく悟られない様にアガレスの方へ睨みを聞かせ続ける。手を貸す気は勿論あるのだが、どんな敵かも分からない状況で無茶振りを始めるベクターに対し、ウンザリしていたのもまた事実であった。

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