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第102話 余計な手間

「オコーネル ! まだ終わらないのか⁉」


 リリスがどこかへ行って少しすると突然警報が鳴り始めた。それが自分達にとって良い物ではない事を悟ったアメリアは急かすように無線で怒鳴る。アーサーとデュークは部屋で見つけた棚やゴミ箱などを通路で横倒しにし、簡易的なバリケードをこしらえていた。エレベーターからこのサーバールームへ続く通路自体は距離がある上に、トラップの設置も行ったものの念には念をいれるしかない。


『間に合わないかもしれないから時間を稼いでくれ !』


 流石に切羽詰まっているのか、ジョージも怒鳴り返してから端末の画面に目を向ける。データの圧縮が終わり、これからダウンロードを行うという通知が表示されていた。実のところを言えば、この時点でジョージが入手しようとしているのは単なる予備であり、アーサー達に渡す分は既に入手済みであった。なぜベクターが小声でもう一つ分データを取っておくようにと、出発前に自分へ頼んできたのかは分からないが無視をした場合は後が怖い。そのため、バレてはまずい事なのだろうと勝手に判断して内密にしていたのである。


「仕方ない。デューク、合図を出したら起爆しろ。曲がり角に俺達が差し掛かったらで良い」

「本気でやるんですか ?」

「マークの馬鹿が実戦でのデータを持って帰れって五月蠅いからな。アメリア、お前は俺と来い」


 アーサーはデュークに待機するよう命じ、アメリアへ同行するよう指示を出した。彼女も「了解」と簡潔に答えてアーサーの傍へ寄って来る。弾倉を入念に確認し、不具合が無い事を確かめてからアーサーはそのまま来た道を戻り始める。デュークがトラップ用の爆薬を設置した箇所を通り過ぎ、銃を構えながら決して広くはない通路を進む。逃げ場が殆ど無い空間である事は心配だったが、敵が来る方向が決まっている点は却って狙いを付けやすくて助かる。


「来るぞ」


 足音に気づいたアーサーが静かに手を上げ、後方にいたアメリアへとコッソリ告げる。報せを聞いたアメリアは横に立つと、引き金に指を掛けていつでも撃てるように構えながら歩幅を小さくする。直後、入り組んでいる通路の曲がり角から一人だけ兵士が現れた。銃を構えているアーサーを前にしているというのに、変形して昆虫の鉤爪の様な物を生やした腕をチラつかせている。人間ではない。そして案の定、片目の色が違っていた。


 そこらの銃器程度で死ぬことはないと自覚をしているのか、そのまま歩みを進めようとした兵士に向かってアーサーが発砲する。あっさりと食らったものの、何食わぬ様子で兵士は再び進もうとするが異変を感じ取ったのは間もなくであった。いつもならば痛みが治まり、血も止まっている筈だというのにそうなる気配が全く見受けられない。やがて銃創が熱を持ち始めた。鈍痛が傷口からジワリと広がっていく。


「効果ありだな」


 アーサーは呟いた。彼が放った弾丸は一般的に使われるものとは大きく異なっており、弾丸の素材としてデーモンのコアが使用されている物である。出発する前にマークが「届け出の都合から装備の手配は難しいが、ポケットに忍ばせられる程度ならば良い物がある」とアーサーに渡していた。


 近年デーモンの生態について調べていたマークだったが、人間を遥かに陵駕しているデーモンの持つ肉体の治癒能力を調べていた際、人間の武器による攻撃とデーモンによる攻撃では肉体の回復速度に違いがある事を見つけたらしい。そこを重点的に調べ上げていく内に、原因は魔力の強弱によるものではないかと彼は推測を立てた。デーモン達にとって魔力とは、エネルギー源であると同時に肉体における免疫機能としての役割も果たしており、有害な毒素または病原菌の中和や迅速な血小板の精製などといった特性を持っている可能性が高いと彼は睨んでいた。


 しかし攻撃に乗じてより強い魔力をぶつけて相殺させる事で、この機能そのものを阻害出来るのかもしれないとマークは思いつき、その考えが正しいかどうかを調べるために特性の弾薬をこしらえてみたというのが事の顛末である。弾丸の素材を集めるため、ルキナの口添えで会社の金を横領してコアを手に入れてから作り上げたのがアーサー達の弾倉に入っている試作弾であった。


 後でちゃんと報告してやらないと。アーサーはそう思いながらも立て続けに銃撃を行い、すぐさま兵士を亡き者にした。続々と現れる半魔達にも同じように試作弾を浴びせるが、ある程度致命傷を与えるか怯ませたところで弾薬は尽きてしまう。アメリアも同様であった。二人は見計らったように走り出し、体勢を立て直した半魔達もそのまま追いかける。


「今だ、やれ !」


 サーバールームに続く通路の最後の曲がり角に差し掛かったアーサーが叫ぶと、デュークも急いで起爆装置を押した。すぐに爆弾が作動し、タイミングよく付近を通りかかった半魔達はまとめて餌食となる。一方でアーサーも衝撃のあまり壁に叩きつけられた。


「やべ…大丈夫ですか⁉」


 しくじってしまったとデュークも焦り、大声で叫ぶ。


「問題ない…クソ、鼻血出た」


 顔を抑えながらアーサーは立ち上がり、そのままサーバールームへと戻って行く。その頃、何とか作業が終わったらしいジョージも彼らの前に現れた。


「こっちもようやく終わった。後は脱出ついでにぶっ壊してしまえば良い」


 ジョージはデータを収めているドングルキーを見せてから言った。デュークがそれに応じて別の起爆装置を起動すると、サーバーに仕掛けておいた小型の爆弾が次々と爆発し、サーバーや先程まで使っていた端末をたちまちスクラップに変えてしまう。そのまま一同は脱出をするためにエレベーターへと戻って行った。


「お疲れ~」


 エレベーターの前では壁や天井にめり込んでいる死体の数々や、血に濡れた床と壁に囲まれていたリリスが死体の上に座り込みながら手を振っていた。


「お疲れじゃないだろ。もう少し加減ってやつを…ん ? ちょっと待て」


 辺りを見たジョージは気分が悪そうに顔をしかめてから彼女に文句を言う。しかしエレベーターを見るや否や駆け寄り、やがて力づくでドアを押し開けてから中に入り込む。


「リリス、君何したんだ ?」


 扉を開けた先で動かなくなっているエレベーターを確認し終えたジョージは、なるべく平静を装いながら質問をする。


「いや、キリが無かったから。面倒くさくなってワイヤー引きちぎってエレベーター落としちゃった。そうすれば連中ももう来れないじゃん ?」

「…ここが唯一の出入り口だっていうのは事前に教えたよな ?」



 事情を説明するリリスだったが、ジョージは帰り道を失った事に絶望しているらしかった。


「…ああ~」


 そして少しした後、ようやく自分が何をしでかしたのかを理解したらしいリリスはハッとしながら声に出す。そのまま呆然としている様子の一同へ視線を送ってから、苦笑いを浮かべて「ごめん」とだけ呟いた。

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