アトラシア、ポリアネシア間海路では、まれにクラーケンが出没します
日がまだ昇る前。
モーニングコーヒーとバターサンドを流しこんで。
天使を喫茶店に残して。
俺は一人で出発した。
パレル到着と、日が昇るのが一致。
俺が、これだけ早く行動を開始したのには理由がある。
それが、『朝市』である。
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「これは、何ていう魚ですか?」
「ニシン」
「これは?」
「イワシ」
「他の魚は?」
「今日は、獲れてない」
「これ、生で食べれる?」
「生で食べるなんて話、聞いたことない」
「何か注意点あります?」
「今日中に食べて」
そんなやりとりで始まった朝市探索。
俺のお目当は『魚介類』であった。
理想的には、新たなるメニューを閃くために。
ただ、俺は。
正直言って。
魚に関して、無知だったのである。
「刺身が食べたかった。
カンパチとか、ブリとか。
期待してたさー」
刺身を喫茶店で提供。
それは、現在、まだ考えていない。
ただ単純に、俺が食べたかったのだ。
そして、その刺身にとっても、醤油が欠かせないのである。
ただ、ニシンとイワシはとっても安く。
イワシ一匹70G、ニシン1匹120Gだった。
この地の人間にとって、貴重なる、タンパク源である。
俺は、朝市を出している、全ての店を巡った。
とある食材。
それを狙いすまし。
街ブラロケ。
撮れ高は、如何に?
が、しかし。
ニシンとイワシ以外の魚は、販売されていなかったのである。
「『タラ』は、いたけどねー」
タラちゃん、君は美味しいのかい?
どっちなんだい!
が、しかし。
その答えを探すことは、後回しにしようと決めたのだった。
*****
魚を諦めた俺が向かったのは、港。
さあ、ここからが最重要事項だ。
「1人、80,000Gだ」
「た・・・。
高いのか、安いのか。
全くわからん!」
俺がやってきたのは、海運企業の受付。
海賊の親分みたいなオッちゃんが、渡航費用を淡々と告げた。
そして、ここから。
いつもの展開が始まるのであった。
「詳細は、あちらに置いてあります、取説をご覧ください」
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ここから取説の読み込みを行いますので、皆さまはカンパチのお刺身の映像をお楽しみください
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読み込み完了。
ここから、要約のアウトプットを行います:
・旅程は6日
・早朝出発し、6日目の正午ごろに到着
・このあたりは、無数の島が存在していて、その島に沿って海を渡る
・なので、沈没しても、その島まで泳げれば助かる
・食料飲料は、自分で用意しておくこと
・一応、船内購入は可能だが、高価、かつ最低限の食料しかない
・寝室とかはないので、廊下で寝てもらう
・天候が荒れた場合、旅程が変わる可能性がある
・途中に交易拠点があるので、そこで一旦休息
・たまーに、クラーケンが出る
・出たら死ぬけど、死んでも、特に賠償とかない
「受付のおじさん、すみません。
あの、この『クラーケン』ってなんですか?
イカのでっかいやつ、なの?
あと、『出たら死ぬ』って何なの?」
「お前、クラーケンを知らないのか?
クラーケンは『海龍』だ。
『巨大なウミヘビ』、という奴もいる」
「龍!?」
「とにかく、デカイ、バケモノだ。
おぞましい緑色の体に、赤いタテガミを生やしてて。
目が存在しない。
襲われたら、チンケな船なんて、ひとたまりもねぇ」
「ダメじゃん!」
「でも安心しな。
滅多に出没なんかしねぇから」
「でも、出たら死ぬんでしょ」
「死ぬ。
ほぼ、みんな、死んだ」
「・・・」
「まあ、それでもお前は大陸を渡りたいのか、ってことだ。
覚悟と金が揃ったら、また来るんだな」
「わかりました」
脅しを受けても、俺の決意は変わらない。
『鉄』と『醤油』が、俺に勇気をくれる。
あとは、『金』だけだ。
・・・
そして、ここで、俺は。
まったく関係のないものに、目を奪われたのである。
「受付のおじさん、すみません。
あの、端っこにいっぱい置いてあるやつ。
どこに売ってるか、知ってますか?」