ポリアネシア大陸では鉄の製造が盛んです
ハムはある、ピーマンも売ってた。
必要要素はあと1つ。
『トマトケチャップ』だ。
が、しかし・・・。
「トマトケチャップの作り方が、わかんない」
トマト、潰すだけでいいのかな?
でもそれだと、『トマトピューレ』か。
いや、『トマトピューレ』なの?
ってか、『ピューレ』って何?
何語?
そんな知識しかない俺は、まあとにかく、作ってみることにした。
が、しかし、その前に。
1ヶ所、寄っておきたいところがある。
*****
ドアの上には『ナイフフォーク』の看板。
しかし、『コーヒーカップ』の看板は見受けられず。
それは、このお店が、純粋に、『料理だけ』で勝負していることを示しており。
その料理の実力は、すでに把握済み。
それは、俺が、この店を。
既に、一度、訪れていたからである。
「なつかしいなぁ。
初めてハミルトンに来たとき以来だぁ」
お店の名前は『MILK FARM』。
お一人様ではあったが、4掛けのテーブル席に通される。
俺は、手持ちのコーヒーミルを、隠すように。
隣の座席の下に配置した。
まだ正午より1時間くらいは早いだろうか。
それでも、数人のお客さんがいる。
前回の来店のあと、俺は、知ったのである。
この店が。
ハミルトン、トップの、人気店であることを。
「ご注文は、お決まりになりましたか?」
「スパゲッティー・ナポリタン、お願いします」
「かしこまりました」
ウェイトレスさんは、白と黒、ツートンのエプロンドレス。
しかも、顔も、かわいい。
めちゃんこ、かわいいのである。
整った顔に、優しそうなタレ目。
ブラウンのロングヘアーを結って、ポニーテールにしている。
そのポニーテールが揺れながら、厨房の中に消えていく様を眺める。
「この人、目当てで来店する人も、いるんだろうな」
そんな意見が生まれたのでした。
*****
ああ。
懐かしい、赤。
昔、なつかしい、赤。
懐古の赤。
食欲をそそる、赤。
赤色、トマトケチャップソースがたっぷり絡まったスパゲッティー。
その上には、ピーマン、玉ねぎ。
そして、ウィンナー。
まるごと、1本、ウィンナー。
俺の目が、腐ってなければ、ウィンナー。
紛れもなき、ウィンナー。
「そんな、バカな・・・」
生前の俺なら、ウィンナーを見て、こんなリアクションを取ることになることは、なかっただろう。
俺が、驚いている、その理由、それは・・・。
「この街には、ウィンナーは・・・。
どこにも売っていなかった、はず」
街中探したのである。
探し歩いたのである。
しかし、ハムにしか、出会えなかった。
『挽肉の腸詰』には、まったくもって、出会えなかったのである。
「どうやったんだ、コレ・・・」
恐る恐る、ウィンナーに口をつける、俺。
「あー、やっぱ、コレだわー」
ハムでは味わえない、『パリッと感』。
それを、完全に再現している。
ここの料理長、ほんと、凄すぎる!
そして、俺は。
『ウィンナー』に気を取られ。
『ケチャップ』というワードを完全忘却した状態で。
一皿を、あっという間に平らげたのだった。
*****
「しまった、味の分析するの、忘れてた」
後の祭。
後夜祭。
しかし、お皿にはまだ、赤い部分が残っている。
まずは、水で口をゆすいだ上で。
これを、慎重にスプーンで掬い。
その味を、言語化しようと努める。
そして・・・、
「わからん」
その赤色のソレは、もはや。
肉や野菜の旨味も混じった、複雑なナニモノかであった。
ただ1点だけ、明確にわかることがある。
「酸っぱい。
酸味」
トマトの酸味か。
もしくは酢を入れているのか?
たぶん、あとは、砂糖とか塩とかで味を調整するのだろう。
そして、最後。
とある結論に、行き着いたのである。
「完敗!」
やっぱ、この店、凄すぎる。
なんで、なんで、こんな美味しいの?
前回食べたオムライスも、今日のナポリタンも。
絶品。
もはや、ウィンナー単品でも、十分満足であった。
「これは・・・。
別の料理も食べて、吸収せねば・・・」
「何を吸収するんですか?」
瞬間、罪悪感で、吐きそうになる。
すぐに振り向き、ポニーテールを確認。
ウェイトレスさんが、急接近。
味泥棒に夢中になりすぎて、気配にまったく気づかなかった。
「この料理から、パワーを吸収。
エネルギー!
活力です!」
「ふふっ、うれしいです」
笑顔、かわいい・・・。
そんな優しい雰囲気に絆されて、気が緩んでしまったのでした。
「このナポリタンに使っている、トマトケチャップ。
その、作り方、知りたいなー。
なんて」
そして、ウェイトレスさんは満面の笑みで返すのだった。
「競合さんには、秘密です」