シェルターの防御性能は、内装品には効果をおよぼしません
石天板プロジェクト、一旦保留のあと。
作業場には、4人のメンバーが残った。
俺、モリタさんと、双子ちゃんである。
「イノリちゃんとカナエちゃんにも聞いて欲しい話があるんだ」
「聞きたい!」
「なのです!」
「新しいテーブルを作りたいんだよ。
『丸テーブル』っていうんだけど」
「天板が丸いんだね」
「飲み込み、はやーい」
イノリちゃんが即答。
そして、カナエちゃんが即質問。
「でも、それだと、4本の脚、どう付けるのですか?」
「脚を、1本にしたいんだ」
「フラミンゴ!」
「スキアポデス!」
「どこで覚えたの、そんな単語・・・」
『スキアポデス』って、『ぷよ◯よ』かよ。
「でも、脚が1本さんだと、ポキっといきそうで怖いですね」
「イノリちゃんの言う通り。
だから最初は、脚は太くていいよ。
でもイスみたいに、人間の全体重が乗るわけじゃないから。
そこまで、重さ、に対して強くなくってもいいかな」
「試行錯誤、するです!」
「でも、今回一番がんばってもらいたいのは、脚じゃあないんだ」
俺は、ここで、紙を取り出し、設計図を書き始めた:
・脚1本、天板1枚、接地面板1枚
・天板と接地面板を、脚でつなぐ
・天板1枚、接地面板1枚は『円形』
「天板が円形で・・・」
「底板も円形、なのです」
「この円を、どれだけ、『真円』、『まんまる』に近づけられるか。
2人には、その点に、注力して欲しいんだよ」
「まず、四角の板を用意して、ノコギリで雑に削って。
そこから、ノミで丸く削って。
最後に、ヤスリで、ピカピカの円にするのです!」
「あははー。
説明要らずで・・・、非常に助かるよ」
「提案です!
この円の外周に、彫刻を施したいです!」
「その案。
即、採用。
やってよし!」
「やった!」
もはや、頼もしすぎる双子ちゃん。
ただし、1点だけ、注意を行いたい。
「ノミ、彫刻刀の扱いには、十分気をつけること。
絶対、無理したら、ダメ」
「了解、なのです!」
「一応、モリタさん、監督お願いします」
「当然だ。
なんかあれば、タマエにさんに顔向けできない」
よしよし、話はまとまってきている。
ここから、俺は最後の話題を切り出す。
*****
「ここからは、相談になるんだけど。
釘。
これ、見せたくないんだよね、お客さんに」
「釘を使わずに、『組む』んですか」
「正確には、『見える部分のみ、釘を使わない』という表現になる。
だから接地面と脚は、釘を使って合わせてもらって構わない。
でも、天板と脚を釘を使って合わせると、その釘がお客様に見えてしまう。
机に、『出っ張り』、『引っかかり』もできるしね」
「なら、『差し込めば』、いいんじゃないですか?」
その言葉はイノリちゃん。
そこから、イノリちゃん自らが、設計図にペンを走らせていく。
そのペンの軌跡は、『逆さの台形(厳密には六角形)』を描いた。
「これは、天板を、横から見た図だね」
「そうです。
真ん中だけ、木材を厚くして、この中心部分に、貫通しない穴を開けるの。
で、この穴に、ブスっと、脚の木を刺す」
「でも、これだと、木材を斜めにカットしないといけないな」
「斜め!
やるのです!」
カナエちゃんが、ガッツポーズでやる気を全面アピールする。
「この設計だと、脚と、天板に空ける丸い穴を、寸分の狂いなく、成形しないといけない。
とっても、難しいと思う。
だから。
いっぱい、失敗してください!
とにかく、作ってみよ!」
双子ちゃんは笑顔、モリタさんは呆れ顔。
あとは、純粋に。
純粋なる双子の力を信じよう。
「価格は、納品時に、品質を見て、最終決定しますが。
おおよそ、10,000Gほどで、『ヤリクリ』してもらえるとありがたいです。
可能なら2脚。
ドラゴンソファーのテーブルと、交換したいんです」
「価格、承諾した。
それでいい」
「ちなみに、塗料は、もう残ってないですよね。
前回のチェア作成で、既存の塗料は全部使っちゃいましたし」
「あるのです!」
「え?あるの?」
「ケントさんが、また商人さんから購入したって聞いてますよ」
「ナイス、ケントさん」
俺と双子ちゃん、3人で盛り上がる。
その傍で、肩を落とす人間がいたのだった。
「俺、その話、聞いてないんだけどなー・・・」
*****
「7,000Gだ」
俺はケントさんの元を訪れた。
すぐに意図を理解したケントさんは、すぐにバケツを持ってきてくれた。
そのサイズは前回と同じ。
しかし、数量は2個。
「10,000Gじゃないんですか?
前回、バケツ1個で5,000Gだったような」
「3,000G値切ってやった。
簡単な話さ。
『他に、こんなもの、購入する人間、このあたりには、いないんだろう』。
そう言ってやったのさ」
「ナイス、交渉術」
「ただ、これを『プレゼント』、というわけにはいかないな。
俺にも生活がある」
「俺が買い取ります。
その上で、家具店に提供します。
ちょうど今、新しいプロジェクトが動き出しました。
そのために、その塗料がどうしても欲しいのです」
俺は7,000Gを、その場でケントさんに渡す。
するとケントさんは、2,000Gを返金してきた。
「2,000G、まけといてやる。
だから、これからも、家具店を贔屓にしてやってくれ」
「了解しました」