ドラゴンの死骸を放置すると、ドラゴンゾンビ化する可能性があります
新しい、朝が来た。
昨日からの興奮が収まらず、早朝から目が覚めてしまった。
しかし、塗料が乾燥する、と思われる正午までは、何もやることがないのである。
喫茶店の窓からは、かすかに朝日が差し込んできている。
雨が降りそうな気配はなく、絶好の乾燥日和、だと思われる。
・・・
俺は、喫茶店中央の2人掛け席に座り。
喫茶店内を、1周、ゆっくりと眺める。
『俺は、ここから、この喫茶店の内観を、どうしたい、のだろう』。
そしてここから、以下のように思考が推移していった:
・夢を語るのはタダ
・『素材が存在しない』という条件は、一旦忘れよう
・その上で、俺はどんな家具、雑貨が欲しいのか
・それを、今時間のあるこの時間で、考えてみよう
・せっかくなら、紙にまとめておこう
・紙はカウンターの下の木箱に入れてある
・よかった
・台所のシンク下だったら、『エンジェルロック』が掛かっているので取り出せなかった
・本当はモーニングコーヒーを飲みたいけど、同様の理由で飲めない
・天使さんも、シェルター外で寝て欲しい
・でも、それもそれで、うーん
・これが、夢から現実に戻るということか
などという、よくわからん結論で、一連の思考が閉じられたのだった。
*****
さて、では、ブレインストーミングを始めよう。
お題は『欲しい家具、雑貨』。
ポイントは、『そんなの無理に決まってる』という思考をしないこと。
では、スタート!
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ここからブレストを行いますので、皆さまは睡眠中の天使の脚の映像をお楽しみください
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A4くらいのサイズの紙が、最下段まで埋まった。
2段掛けで。
こんなかんじです:
・2人掛けのレザーソファー
・3人掛けのベッドソファー
・レッドレザーのソファー
・ブラックレザーのソファー
・クッション
・バーカウンター
・バーチェア
・フロアライト、スタンドライト
・1本脚の木製テーブル
・鉄組みのローテーブル
・車輪付きローテーブル
・カーテン
・時計(置き時計、オア、掛け時計)
・鉄製のパーティション(フェンス)
・観葉植物(大、小)
・ガジュマル
・ハンギングスタイルの植物
・もみじ(観賞用)
・多肉植物
・ラダーシェルフ
・ブックシェルフと本
・メッシュメタルシェルフ
・雑貨を置く棚
・樽(観賞用)
・ドラム缶スツール
・ブラックボード
・酒類
・酒類用陳列棚
・コーヒーミル
・ドリップペーパー
・ドリッパー
・シーリングファン
・チェス(飾り)
・ネオンサイン
・黒系統色の扇風機
・薪ストーブ(暖炉)
・カレンダー
・工具類
・ハンモック
・オイルランタン
・バーテンダー衣装
・ソシャゲ用端末
・すこっぷ
・ジョウロ
・流木
・船の錨
・鉱石(紫水晶など)
・カフェテラス
・小上がり席
・家庭菜園
・ロッキングチェア
・ハンガーとハンガーラック
・ダンベル
・インテリア配管
・熱帯魚水槽
・美少女フィギュア
・美少女ウェイトレス
夢盛だね。
この時点で、俺はやっと気付いた。
「調理器具が、まったく入っていない」
ブレストの結果。
『料理の修行が最優先事項』、と、改めて理解したのでした。
今日の空いた時間は、料理の研究に充てようかな。
作成されたリストを、ゆっくりと眺め、1項目づつ、イチャモンをつけていく。
『ネオンサイン』とか、この時代にあるわけないだろ。
でも、バーといえば、ネオンサイン、みたいな勝手なイメージが、俺の脳内に存在していたのだった。
そして、ある1つの項目が、どうしても気になりだした。
それは、
・レッドレザーのソファー
である。
「ミエルさんに頼んで、レッドドラゴンの素材も回収しておけばよかった。
でも、あの時は、ルーラーの素材回収に夢中だったし。
あの場所に、またモンスターが襲来する可能性もあったから、急いで帰りたかったんだよなー。
でも、やっぱり、惜しいなー」
「おはよう。
私の名前呼んだ?」
そこには、すでにウェイトレス衣装に着替えたミエルさん。
気がつけば、とっくに日は登っていて。
俺が、どれだけブレストという名の妄想に浸っていたかが、よくわかった。
「今、ドラゴンルーラーのソファー、作ってますけど。
紫、だけじゃなく、赤いのも・・・。
欲しかったなー。
っていう話です」
「なるほどね」
「最近、ミエルさんにお願いばっかりしているので、なんか申し訳なさ、いっぱいですが。
あのドラゴンの素材、今から回収してもらったりはできませんか?
なーんて」
「それは、無理よ」
「ですよね」
「ただし、その理由は、今あなたの脳内にあるモノとは異なっているわ。
ドラゴンの死骸を放置するとね、ドラゴンはゾンビ化して、『ドラゴンゾンビ』になってしまうの。
これが、なかなか厄介なのよね。
毒も使うし。
なので、あの赤は。
これでもか、というほど、『火葬』してしまったのよ。
なので、回収は不可」
「そこまで考慮されてるんですね。
なんか、改めて、尊敬します、ミエルさんのこと。
でも、これでスッキリしました。
素材が消失しているなら、悔やむ必要もないですし」
この天使さん。
本当に頼りになる。
ソシャゲばっかりしてるけど。
彼女は、いつまでも、この喫茶店に、いてくれるわけではない。
それまでに。
学べることは、学んでおこう。
「ミエルさん、朝ごはん、作りますね」
「あ。
その前に、レッドドラゴンまた狩ってくるわね」
そう言って、光に包まれて消えた天使さんは。
20分後に、レッドドラゴンの死骸を持って再来したのだった。