天使は魔王軍との戦いには干渉しないと取り決められています
『アザゼルの根城にたどり着くまでに、喫茶店レベルを「8」まで上げておきなさい』
次の日。
俺は、昨日寝ようとした際に、ミエルさんからかけられた言葉を思い出していた。
「タドル」のレベルではなく、「喫茶店」のレベル。
一見、不自然なアドバイスだが・・・。
当然、ミエルさんには何か考えがあってのことだろう。
現在の喫茶店レベルは「5」。
あと3段階のレベルアップが必要なわけで。
つまり。
喫茶店の営業売上を上げることが。
俺。
いや、俺たちの命運に関わってくる、と言えるかもしれない。
「結果、いままで通り。
自己鍛錬も、喫茶店運営も、がんばるゾイ!」
展開した店舗の前。
俺は、両手を胸の前で強く握り、決意を確かにした。
さあ、開店!
と、その前に。
例のごとく、メニュー表をご覧ください。
・コーヒー 300G
・無糖カフェオレ 300G
・シュガーカフェオレ 350G
・冷やし緑茶 300G
・唐揚げ定食 600G
・油淋鶏ユーリンチー定食 700G
・チキン南蛮定食 750G
・テキヤキポークハンバーグ定食 750G
・合挽き和風おろしハンバーグ定食 850G
・合挽きトマトハンバーグ+ライス 800G
・合挽きトマトチーズハンバーグ+ライス 850G
・トマトソースのチキングリル+ライス 650G
・ナポリタン 750G [▲]
・ペペロンチーノ 750G [▲]
・[NEW‼︎]ハッシュドビーフwithライス 1150G
・[NEW‼︎]オムライス 750G
・[NEW‼︎]デミグラスオムライス 1150G
・バターサンド 300G
・ホイップサンド 500G
・ホイップいちごサンド 600G
・ミックスサンド 500G
・ピザサンド 600G
・BLTサンド 650G
・エビカツサンド 700G
・テリヤキポークサンド 700G
・ビッグハンバーグサンド 950G [▲]
・ビール 500G
・米焼酎ロック 500G
・ウィスキーロック 500G
・赤ワイン 500G
・モスコミュール 500G
・ソルティードック 500G
・スクリュードライバー 500G
・[NEW‼︎]白ワイン 500G
・[NEW‼︎]キール 500G
・[NEW‼︎]カシスオレンジ 500G
・枝豆 300G
・生野菜サラダ 400G
・ポテトサラダ 500G
・ハムチーズ盛り合わせ 400G
・トマトチーズ盛り合わせ 400G
・フライドポテト 500G
※定食には、ご飯と味噌汁が付きます
※お料理をご注文の方は、通常ドリンク100Gで提供します(18:00まで)
※[▲]の料理は、繁忙時間以外注文可能です
※酒類は18:00以降注文可能です
※定食は-100Gでオカズのみにできます
新商品である「デミグラスオムライス」の売り上げが気になるところ。
カクテルも増えて、さらにバーっぽくなりました。
喫茶店、展開完了。
営業場所は、ガンダル東門前。
MILK FARMも、展開完了。
いつもの通り。
ほぼ同じ外観の店舗が、道を挟んで2つ並んだ。
と。
ここで。
アリサさんが店からゆっくりと歩み出てきた。
「ごきげんよう、T・D・L!。
デミグラスソースの仕込みは万全かしら?
でも、まあ。
改めて、言語化いたしますけれども。
デミグラスオムライスは、MILK FARMの人気メニューでありましてよ。
その点。
理解してらして?」
「はい、理解しています。
大丈夫です」
「それは、どういう意図の『大丈夫』なの?」
「デミグラスソースは、完全なる俺の『趣味』です!
あまり売れなくっても、あんまり痛くありません!」
「男の趣味って、いつも思うけど、面倒くさいわね」
「そういうの、男の趣味みたいなのを許してくれるのが、俺の理想の奥さん、嫁さん。
ということになりそうですね。
はい。
『価値観の共有』。
というより。
『価値観の理解』。
みたいな」
「夫婦だからといって、すべてを理解し合えるなんて思わないことね。
理想を捨てなさい」
「誰よりも理想が高い人の言うことではありませんね」
「よくわかっているわね。
私の特殊能力の1つは『高速移動』。
世界中の男を探しに探して。
『最善』を必ず見つけ出すわよ」
「アリサさんなら、本当に実現しそうで、怖いです」
俺が苦笑いを浮かべると、アリサさんは声を出して笑った。
少しの間が空き、その時間で、涼しげな風が吹き抜けたことを感じ取る。
そして、その風がやんだタイミングで、アリサさんの言葉が続いた。
「でも」
「はい」
「でも。
私。
その・・・。
あなたの、感性。
嫌いじゃないわよ」
「ありがとうございます」
素直にうれしく感じ、すぐにお礼を述べた。
述べたんだけど。
「ふっ」
なんか知らないけど。
アリサさんから鼻で笑われたのでした。
なぜに?
*****
その後、アリサさんとの世間話。
例えば、材料費高騰の話だったり、ベリアル戦線の戦況だったり。
そんな話をした最後。
こんな話題がアリサさんから投げられた。
「あなた、もし、ベリアルの一件がなかったら。
どうするつもりだったの?
言い換えると。
ガンダルにいつまで滞在するつもりだったの?」
「しばらく、かなり長い期間、滞在する予定でした」
「その理由は?」
「大きなノッポの古時計です」
「おじいさんの時計、ってやつね。
・・・。
ごめん、何言ってんの?」
「ポリンクは芸術の街です。
高品質な家具の製造も盛んです。
ここで俺は、家具の製造について、もっと学びたいんです。
なので、ガンダルより、ポリンクへの滞在を望んでいます」
「なるほどね」
「さらには、俺がすごくお世話になったジェルソンの村。
ここにも、ポリンクの家具製造の技術を持ち込みたい。
そんな思惑もあります。
ポリンクには、俺の理想が、たくさん詰まっています。
そして。
そのポリンクを脅かす、ベリアルという輩が、どうしても許せないのです」
「その目的を、すべて達成したアカツキには、どうするの?」
「先のことは、まだわかりません。
今日の売り上げすらわからないのに」
その言葉の後、アリサさんの表情が引き締まる。
何か、伝えたいことがあるのだろう。
「私の夢が、最近、具体性を帯びてきたの。
それは、『世界一のフランチャイズレストラン』。
それを経営すること。
私は、ガンダルだけに留まっておくつもりはないわ。
3号店、4号店・・・。
世界中にMILK FARMという名前を刻み込む」
「アリサさんだったらできますよ」
「でもね。
張り合いがないのよねー」
「『張り合い』ですか?」
「あなたのお店みたいな、ちょどよい『競合』。
それがあってこそ、燃え上がるのよ。
私の、魂が。
だから、ね。
・・・。
付き合いなさい!
私の!
世界旅行に!」
「えっ!?」
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