ガンダルとポリンクは自治都市で、任意の国には属しません
腰まである黒の長髪。
黒いコート、ストッキング。
胸元とおへそが露出された黒いインナー。
その胸元にはハートマークのシール(?)が貼られていて。
二十歳前と思われるミーティアさんに対して。
この女性は明らかにお姉様。
予測年齢26歳。
当然、口には出せないが。
『この人には逆らってはいけない』。
自然と、そんなフレーズが浮かんだ。
ミーティアさんもお姉様も、俺のことはソッチノケで店内を見渡していた。
それはもう、興味津々で。
「ダルトさん、説明お願いします」
「結論から言うぞ。
明後日、この店を貸してくれ。
この店を、会議場として利用したい。
当然、金は払う。
こちらの女性がな」
「はじめまして、タドル様。
私はリズ。
以後、お見知りおきを」
「はじめまして。
喫茶店ROOTのマスターをしています。
タドルです。
よろしければ、ご職業をお教えいただけますでしょうか?」
「ガンダル冒険者ギルドの、ギルドマスターです」
めっちゃ、偉い人だった。
ガンダルは自治都市であり、国には属さない。
そのガンダルで、最も『武力』を持つのが製鉄所。
そして2番目に『武力』を持つのが冒険者ギルドであり。
つまり、ある意味で『軍隊の隊長』のような役割を持つ人物なのであり。
この人の発言1つで、最悪、戦争が始まることまで考えられるわけであって。
そして、そんな人物が言う『会議』とは・・・。
「このたびは、どのような会議を執り行われるので、ありますでしょうか?」
緊張で変な敬語になる。
嫌な、予感がする。
「バルタン国王様との、軍事協力に関する会議です」
ほら、きたー!!!!!!!!
国王、きたー!!!!!!!!
厄介事、きたー!!!!!!!!
俺は脳内で絶叫するも、ポーカーフェイスを可能な限り保とうとがんばる。
「こ、国王様って。
おもてなしするには、こんなちっぽけな喫茶店では。
いやいや。
ぜんぜん。
アレ。
物足りない、といいますか。
不敬、だといいますか」
「国王様が良いと思うのではありません。
私が、ここがいいのです。
実は、私。
一度来店してますのよ、このお店に」
記憶になし。
「こんなオモシロイ場所、他にはありません。
場所も東門前で、ちょうどよいですし。
もう私、決めましたので」
「拒否したら、どうなりますか?」
「出店を禁止させていただきます」
「拒否権、ないのねー
・・・。
いや!
でも、待ってください!
オ・モ・テ・ナ・シ。
オモテナシ、ということは。
料理も必要ですよね。
自分は、国王様に振舞えるような料理は作れません!」
「それはお隣様、MILK FARMさんにお願い済みですので、大丈夫です。
心配なさらず。
場所だけ貸していただければ、問題ありません」
「なるほど。
とてつもなく納得してしまいました。
アリサさんの料理なら、国王様も必ずお喜びになるでしょう」
ここで、やっと心が落ち着きを取り戻してきて。
周囲の様子を確認してみる。
ダルトさんは、リズさんの隣にピタリと貼り付いている。
おそらく、護衛の意味もあるのだろう。
ミーティアさんは、喫茶店内を散策して楽しんでいた。
自由人。
ヒヨリちゃんは心配そうな視線でこちらを見つめていた。
アイコンタクトを取ると、ほのかに笑ってくれた。
ミエルさんは、ソシャゲっていた。
不敬。
さて、視線をリズさんに戻そう。
「あなたにお願いしたいのは2点です。
1つ、明日は、このお店を、徹底的に掃除してください。
模様替えはしなくて構いません。
私と国王様は、そこのドラゴンルーラーのソファーに座ります。
そして、もう1つ。
あなたも会議に出席しなさい」
「は!?」
いや、意味不明。
それ、意味不明。
「国王様がこの店の家具に興味を持った場合、あなたが詳細の説明をしなさい。
あと、機会があれば、GGD討伐の話をしても構いませんよ」
そう言って、リズさんは笑みを見せた。
ソファーの素材が『ただの紫のレザー』でなく、『ドラゴンルーラーのレザー』であることがバレている。
俺は、お客様にはそんなこと一言も漏らしたことはない。
このリズという女性は、たぶん。
『敵レベル確認魔法実行』
俺は、声には出さず。
そのフレーズを脳内で唱えた。
そして、その結果は、あまりにも驚くべきものだったのである。
・『敵レベル確認魔法』が妨害されました