カクテルパーティー効果とはうるさい場所でも自分に関連する事柄はちゃんと聞き取れるようなことを意味します
正解は、
・女性客が増えた
でした。
正解者に拍手。
よくできました。
よくできました。
カクテル効果があったのか。
今まで競合に取られていた女性客が、こちらにも足を向けてくれるようになったのです。
カクテルや、オシャレ内装も要因ですが。
もう一つ、忘れてはいけないモノがあります。
それは、『ヒヨリちゃんの料理スキルが爆上がりした』ということです。
もう、俺も、離されないように必死です。
毎日、時間が空いては、ヒヨリ師匠から料理のコツを教わるのでした。
ヒヨリちゃんにも、思うところがあるらしく。
『いつまでもアリサさんに負けっぱなしじゃ、私も嫌です』
と気合いをのぞかせていました。
さて、ここからは売上成績表の分析に入ります:
・カクテル人気
・全体的に売上は当然落ちたが、夜間のドリンクの売上は上々
・特に炭酸入りのモスコミュールが人気だった
・昼営業では、ライスメニューよりパンメニューの方が人気
・これは競合MILK FARMのライスメニューの質が高いことが原因だと思われる
・やはり、MILK FARMへの客入りはすごい
・パスタや有糖カフェオレ、イチゴサンドなども好調
・これは女性客が増えたことと関連すると思われる
・総じて、予想したより売上は高かった
時間は、PM23:00。
お給料を払うと同時に。
2人に、遅めの夕食、否、夜食を振る舞おうと準備を始めようとすると。
CLOSEDの札がかかったはずの店の扉が勢いよく開いた。
「T・D・L!
デミグラスソースの売れ行きはどうかしら?」
連日の勤務にもかかわらず。
全く疲れた様子を見せない競合アリサ嬢は今日も元気だった。
「アリサさん、すみません。
まだデミグラスソースは試作段階なので。
お店では提供していません」
「あらら、それは残念。
なら今回、新メニューはないの?」
「それはあります。
これです」
俺は、ミエルさんに振る舞うつもりで用意していたモスコミュール。
銅製のカップに入ったソレを手渡す。
その瞬間。
アリサさんの顔色が変わる。
「モスコミュール!?
炭酸なの!?
どこでこんなモノ!?」
「企業秘密です」
「カクテルに手を出してきたわけね。
やはり、油断ならないわ。
このお店の雰囲気なら、バー営業でも稼げる。
さすがは、私がライバルとして認めた男ね」
「なんか、普通に褒められましたが。
普通にありがとうございます。
でも今回、売上はアリサさんの圧勝だと思います。
MILK FARMに出入りするお客の数、めっちゃ多かったですもん。
ガンダル『1』、美味しいレストランだって、みんな言ってます。
それはもう、うちのお客さんも」
「あったりまぁえじゃライオ!
わたいを、アレだとほぼってうるの?
世界れ、イチバンの豪運ももちゃぬせ、ららら。
もうぬどど負けルこちゃなんぺ、成田そ!」
「どしたの?」
「うっしゃい!
私だって、努力しれ、ここまでのしあがったのの!
なのの!
今日もいっぱし、頑張ったろ!
だから、もっとワラシをもてなしなしゃい!
モスコミュール、プラス、わん!」
そんなこんな叫んで、空の銅製カップを天に掲げた競合。
俺の前まで来ると、そのカップをほっぺたにグリグリと擦り付けてきた。
ちべた!
「わかりましたから、どこか好きな席に座っておいてください。
オカワリ、すぐ作ってきますから!」
すぐさま、シェルター内に逃げ帰る。
これはまさか。
俗に言う、『下戸』というヤツでは?
「おねぇさま!」
モスコミュールを持って店内に帰ると。
そこには、いつの間にか、メイアさんが来ていて。
いつものごとく、射殺す視線で睨みつけられた。
「おねぇさまは、お酒、1滴も飲めないのよ!
あなた、私のおねぇさまを酔わせて、何をし・・・」
「メイア、うっしゃい!
ワラシ、飲めるお!
メイアも飲め飲め、のむろ!」
「くっ・・・。
おねぇさまのご命令なら仕方ありません。
タドル、私にも何か飲ませない」
「すぐ、作ってきます」
「プラス、2杯!!」
俺は、ドラゴンルーラーソファー席に座るアリサさんの前にモスコミュールを配置すると。
また、すぐにシェルターに戻る。
2杯のモスコミュールを作り、そして店内に戻ってくると。
メイアさんは床で寝ていた。
「もしかして、メイアさんも酒、だめなんですか?」
「これジェ、ウリュサイやつがいなくなって、いっぱい飲めるわよ。
早く、くれ!」
どうやら、アリサさんがメイアさんに無理やり飲ませたらしい。
再び、テーブルに1杯置くと。
「おミャーも、飲め!」
とか言われたため。
仕方なく、対面の席に座る。
いつもの凛とした顔が、へにゃっとしての赤面。
モスコミュールをチビチビと飲み始めた。
かわいい。
「あんたって、好きな人、いんの?」
!!!
この前あったのと同じ展開!!
心臓が強く跳ねると。
うまく思考が回らなくなる。
おちつけ。
とりあえず、素数を数えるんだ。
「直感で答えんしゃい!」
「い、いるというか、いないというか。
好きの定義って、難しいというか」
「うだうだ、ったら、ぶっころっそ!
天使、私、鳩サブレ、だったら、どれえリャぶら!
選べ!」
やばい、今、ミエルさんもヒヨリちゃんも、シラフだ。
いや。
ってか、ミエルさん、この展開を面白そうに見てるんだけど。
モスコミュール飲みながら。
確かに、作り方、教えたけど。
最近、飲みすぎですわよ!
「えーっとですね・・・。
まあ、どちらかというとですね・・・」
あー。
こんな風にモジモジしてたら、『早く選べ』って言われるんだろうな。
とか、思ってたら。
アリサさんは、とんでもないことを言い出した。
「いいから!
私にしとけ!」
「はっ!?」
「私がイチバン、魅力あるろ!
私。
私にしてよぉ・・・」
そして、アリサさんは涙ぐみ。
俺のエプロンの紐をクイクイし出した。
なんなのなんなのなんなのなのん。
めっちゃ、可愛いんですけど。
これは、アリサ、と、答えても・・・。
しかし、意外な展開は、これでは終わらなかった。
「タドルさんは渡しません!」
そう言って、モスコミュールを片手に持ったヒヨリちゃんが乱入してきた。
ヒヨリちゃんもいつの間にか、顔が赤くなっている。
「鳩サブレ。
あんた、私に勝てるとオモトルノ?
笑止!
超笑止!」
「あなたがどんなに強くっても、店長は譲れません!」
そう言って、ヒヨリちゃんは俺の左腕をつかんだ。
と次には。
アリサさんが俺の右腕をつかむ。
両サイドからひっぱられ。
「俺は、一体、どうしたらいいんだ!」
「全員、うるさい」
天使が、一言つぶやくと。
アリサさんとヒヨリちゃんは眠ってしまった。
おそらく。
天使の扱う、睡眠魔法だと思われる。
ここでタイミングよく、分身黒髪少女さんがやってきて。
熟睡中のアリサさんとメイアさんを引きずって帰っていった。
分身も大変やな。
そんなこんなで。
慌ただしい夜は過ぎていたのでした。