シェルターには換気機能が付いています
座学が終わったので、実技に入ります。
・牛肉(部位不明)を、オリーブオイルで焼く
・フライパンに残った旨味成分もろとも、寸胴にポイ
・玉ねぎ、人参、セロリ、ニンニクを粗く切って、焼く
・玉ねぎに色がついてきたら、寸胴にポイ
・水を入れて沸騰させる
・赤ワインを入れる
・アクを取りながら、焦げないように、永遠煮る
*****
『今日はとりあえず、3時間ぐらい煮ましょう』
アリサさんの指示で、長い作業が始まります。
俺は、スープが焦げないように、木べらで、かき混ぜ続けます。
あまりに時間があるので、アリサさんには、一旦、俺の店の内装の見学をしてもらうことにしました。
ヒヨリちゃんはガンダルにお出掛け中ですが、天使が店内でソシャゲ中なので、アリサさんも変な真似はできないはずです。
コーヒーをいれて、ゆっくりしてもらうことにしました。
・・・
そこから、1時間ほどして。
アリサさんがシェルターに帰ってきました。
また、美少女と2人きり。
変に緊張してきました。
こういうとき、何の話をふればいいのか、悩ましく。
でも1つだけ。
前々から効きたかった質問があったことを思いつき。
スープをかき混ぜながら。
後ろでイスに座るアリサさんに、投げました。
「アリサさん。
魔王、倒したい、とか思ったことあります?」
「ない」
即答でした。
でも、特に驚くことはなく。
「自分もです」
と返しました。
「新しい人生、せっかくもらったんだから。
私はやりたいようにやるわ。
あなたとの売上バトルも。
結果はどうであれ、楽しかった。
初めて踏み入れた未開の地で。
おおよそゼロからレストランを成立させる。
火や水の工面はどうするか?
難題はたくさんある。
それを1つづつクリアして。
無から理想を作り上げた。
・・・。
あなたもね」
「たいへんだったけど・・・。
やっぱり面白かったです」
「これからも、自分の私はやりたいようにやるわ。
せっかく、『移動可能店舗』っていう、とんでもオモシログッズをゲットしたんだから。
もっと、楽しむわよ!」
そういってアリサさんは、俺を指差して笑った。
俺も振り返って、笑みで返す。
そして、その笑みが消え、重要な一言が添えられる。
「ただし、もし魔王が私の店を害するようなことをしたら、潰すわ。
木っ端微塵にね」
ここで、俺は押し黙る。
もし俺の店が、同じく襲われた場合。
俺の今の力で、戦えるのだろうか?
俺の今のレベルは75。
ミエルさんは、『魔王の幹部と戦うには、最低でもレベルが100は必要』と言っていた。
だから・・・。
「俺も、俺の力で、店を守りたい。
俺はこれから、自身の強化に、力を注ぎたいと思います」
「素晴らしい心掛けね。
じゃあ、いつか。
今度はリアルバトルで勝負しましょう!」
「それは絶対嫌です」
アリサさんとの、そんなやり取りの中で。
俺の今後の大方針が決まったのでした。
*****
では、料理の続きです:
・ザルで漉す
・小麦粉をバターで色づくまで炒める(ルーを作る)
・ルーとスープを混ぜる
・塩、胡椒で味を整える
・完成!
「今日は、このくらいにしましょう」
出来上がったソースは、濃厚なブラウン。
食欲そそる香り。
舌にのせると、さまざまな旨味が踊る。
が。
「なんか足りない」
そして、その『何か』がわからないのでした。
「初回にしては、頑張ったんじゃない?」
「店で出すには、もうちょっと研究が必要ですね」
「まあ、うちのデミグラスソースの方が美味しい事実は、いつまでも変わらないけれどね」
いつも通り。
勝気な笑みを見せるアリサさん。
改めて。
素敵な人だと思った。
「今日はありがとうございました。
あの。
これからは。
競合とかじゃなくて・・・」
俺がそこまで喋ると、アリサさんはわずかに。
驚いた表情を見せる。
そして俺は、彼女の右手をつかんで、
「師匠と呼ばせてください!」
って言ったよ。
*****
アリサさんが帰る頃には日が暮れかけていた。
アリサさんと入れ代わりで、ヒヨリちゃんが帰宅。
「いい匂いがします」
「晩御飯できてます。
『ハッシュドビーフ』です!」
車輪鉄骨テーブルにはすでにミエルさんが座り。
ソシャゲで待ち。
その机には、出来たてのハッシュドビーフが2皿。
ホカホカライスの上に。
牛肉の細切れを、デミグラスソースで煮込んで、ぶっかけた、アイツ。
「じゅるり」
「冷めないうちに食べてね」
「いただきます」
ヒヨリちゃんは荷物を席の脇に置き。
ミエルさんの対面に座り。
即、実食。
「はひゃろひへ、ふー!」
何を言ってるか不明だが、顔面からは幸福感を見て取れる。
「私、これ、好き」
次いでの感想は、天使から。
今まで、ろくな食レポをしなかった天使が、素直に感想を吐露した。
それが意外で、俺は軽く拳を握る。
手応えあり。
「オムライスも、今練習中です。
デミグラスソースオムライスがメニューに載るまで。
皆さん試食のほう、よろしくお願いします」