光魔法は魔力を高圧圧縮することで、対象を貫通するほどの威力を実現できます
森の奥に歩を進めながら、エリンさんの話は続きます。
「スフィンスブルは、牛の獰猛さとスフィンクスの知性を併せ持った、非常に厄介な怪物です。
体は石のように硬く、刃物での攻撃も、なかなか致命打になりません。
一方で、その巨体を持って実現するされる突進攻撃。
それを筆頭に。
鋭い爪、硬い顎など、注意すべきポイントは多々あります」
「でも、こいつが一番厄介な理由は別にあるわ。
タドル、何だと思う?」
「魔法、ですか?」
「正解よ」
「スフィンクスブルは、両目からビームを放ちます」
「目からビームでんの!?」
「そのビームは、簡単に人間の体を貫通しますので。
目が光ったら、全力で回避してください。
目が光り出してから発射までに、若干タイムラグがあります。
タイミングを見逃さないで」
「やばいじゃないですか!」
「だから、結論はね。
『お姉さんたちに、全部任せなさい』、ってことよ。
今回は、私とエリンが殺る。
それでOK?」
「ヒヨリちゃん!
持ち物!
再確認!!」
「イエッサー!」
「は?
あの?
話、聞いてる?」
その後、ヒヨリちゃんは、腰に取り付けたミニバックから、何かを取り出して。
そして、それを天に掲げて、全員に見せた。
「忘れ物、ありません!」
「あの・・・。
それ、なんなの?」
「ジャーキーです」
「牛?」
「ドラゴンルーラージャーキーです」
*****
そして、エンカウント。
敵、発見!
「みんな、まずは私が切り込む。
援護、よろしく!」
その言葉を残し、地を蹴り。
草むらから、飛び出し。
対象との間合いを一気に詰める。
刀は既に、鞘から抜かれ。
敵、スフィンクスブルの側面を切り裂くべく。
真横に構えられ。
そして。
次の瞬間。
『風』が、刀を包み込んだ!
「魔法剣だ!」
俺が叫ぶのと、一閃が同時。
その一閃は、相手の体をとらえずとも。
そこから生まれた風の刃が、次々に敵に襲い掛かった。
<<ギュオーーーーーゥ!>>
猛獣は咆哮を上げ、臨戦態勢へ。
攻撃者が存在したはずの場所に向け、即、剛腕を振るう。
空間を、鋭利な爪が引き裂くも。
攻撃者は、既に次手。
「シオンさん、速い!」
称賛すべき点は速度のみでなく。
彼女の『気配を消す能力』の高さにもある。
あっという間に回り込み、相手の背後を取っていた。
「地裂!」
その叫びと同時に、刀を地面に突き刺す。
すると、その位置を始点として、橙の色の槍が、次々に地面から湧き出し、突き出して。
そして、地割れが敵に到達し、そこから槍が敵を串刺しにして行った。
あまりに展開が早すぎて、全てを追いきれない。
せいぜい、1人と1匹の交戦を追える程度。
視界の端に存在する情報は、全て捨てられているのである。
「レイ!」
完全に無警戒の方向からの叫び。
それは、魔力収束完了の合図。
草むらから、いつの間にフィールドに飛び出していたエリンさん。
彼女が構える杖の先端から。
光線発射。
それは、敵側面、ど真ん中をぶち抜いた!
<<ギュゥ!!>>
そして、次に発された言葉は、こんな言葉だった。
「レベルアップです!」
それは、つまりブルの絶命を意味しているわけで。
俺とヒヨリちゃんに出る幕なかった、というわけで。
2人は、手を叩きながら、草むらから出て。
エリンさんの元に駆け寄った。
こういう表現もできます。
「光魔法の、お手本を見せてもらっちゃいました。
エリンさん。
すごい威力と精度でした」
「光魔法は、どれだけ魔力を圧縮収束できるかが肝の魔法です。
下級4属性とは、実現難度が大きく異なります。
でも、私も最初はこんなにうまくいかなかったのよ。
地道に行きましょう」
その後、シオンさんの魔法剣もベタベタに称賛。
風の魔法剣、『ウィンドセーバー』。
土の魔法剣技、『地裂』。
2技連撃で、相手を翻弄したのだった。
ここで改めて。
この2人、強い。