異世界にはまだ、鳩サブレは存在しません
「マスター、米焼酎、ロックで」
「マスターは、あなたでしょ」
ついに我が家に、『バーカウンター』がやってきた。
ミエルさんに、バーテンダー役をお願いし。
俺は、双子ちゃんの自信作であるバーチェアに腰掛ける。
「ミエルさん、俺、アレやりたいです。
『隣のお客様からです』ってやつ」
「役者が、足りないでしょうが」
「そうですね。
もう一人欲しいですね。
従業員」
ここで俺は店内を見渡す。
ジェルソンの家具店から、本日納入されたのは、以下のアイテム:
・バーテーブル
・バーチェア白x4
・バーチェア黒x4
・石天板テーブル
バーカウンターのセットは、旧式のセットと交換。
旧式のセットは、ジェルソンの倉庫に移動してもらった。
一方、石天板テーブルは4人掛け席用だが。
俺は、このタイミングで、4人席を増やすことにした。
入口右手、手前に、石天板と2人掛けソファーx2。
右手奥には、旧式の4人席セットを配置した。
この旧式セットも、近日中に改善する予定ではある。
これで、総席数は『28』となった。
以下は、その内訳である:
・1人掛け席x8 = 8
・2人掛け席x6 = 12
・4人掛け席x2 = 8
はっきり言って、この28席が、全部埋まることはないだろう。
埋まっても、全員に、料理を提供することはできない。
ただ。
ただ単に。
『家具をいっぱい置きたい』。
それだけの願望であった。
それでも、来てもらったお客様に、『お帰りください』、と言う。
そういうわけにはいかず。
「ほんと。
もう一人欲しいですね。
従業員」
再び、同じことを、呟いたのだった。
「すみませーん。
ここで、働きたいんですけど」
「・・・。
従業員、向こうから、キターーーーーーーー!!!!」
*****
「ナイフとフォークの看板を見ました。
ここは、レストランですよね」
「喫茶店です。
でも、食事も提供しています」
「やりました!
まさか、0歩で、目的地に到着するとは、思いませんでした」
「『バイトの面接』、ということで、よろしいですか?」
「はい!
よろしく、お願いします!」
「では、質問に答えてくださいね。
あなた、『転生者』、ですか?」
「うわぁー・・・。
もう、バレちゃいました。
・・・。
なんで、私が『転生者』だと、わかったんですか?」
「『鳩サブレ』です」
「なるほど」
「質問を変えます。
なぜ、頭に、『鳩サブレ』を付けているんですか?」
「厳密には、鳩サブレを模した『アクセサリ』です。
理由は単純です。
好きだからです」
「俺も、好きです。
鳩サブレ」
「気が合いますね」
「そして、残念ですが。
この世界には、まだ、鳩サブレは存在しません」
「覚悟はしていましたが、残念です」
「採用です」
「ほんとですか!」
「鳩サブレへの愛を感じ取りました。
あなたは、『食』に、強い愛情を持っています。
これは、鳩サブレがつないだ、運命だと思います」
「私は、まだ、あなたのヒトトナリは知りません。
でも、私は、鳩サブレを、信じます」
俺と、鳩サブレさんは、がっちりと握手をする。
こうして。
従業員確保の問題は、鳩サブレによって解決したのだった。
「なんなの、これ?」
*****
「マスター、米焼酎、ロックで」
「おまたせいたしました。
こちら、米焼酎、ロックでございます」
「あちらのブロンドの女性にも、同じものを」
「かしこまりました」
「よかったわね。
夢が叶って。
これで満足?」
俺が、一番左の席。
ミエルさんが、一番右の席。
サブレさんが、左から右へ移動して。
天使に、焼酎を提供した。
「ありがとう。
『ヒヨリ・サクマ』さん」
「マスターさん!
この人、占い師さんですか!」
「天使よ」
「天使です」
「はへぇー・・・。
地上にも、天使がいるんですねー」
「ヒヨリさん。
あなたは、天界で、どんな天使さんに導かれたの?」
「白髪の、シェリルさん、っていう。
綺麗な人でした」
「ありがとう」
「『後任』、ですか?」
「その通りよ」
「『後輩』、ですか?」
「同僚よ。
とにかく、これで。
『天界は今日も平和』、っていうことが、判明したわ」
「なるほど。
ほっと、一安心ですね。
なので、その握りしめた拳を、収めてください」
焼酎ロックを口にすると、天使の拳は『パー』になった。
クールダウン。
焼酎、お湯割りじゃなくて、氷割りでよかった。
俺も、飲もう。
「はー・・・。
焼酎うめぇ」
このまま、酔いが回り。
3人は、眠りについたのだった。