この世界では、紙とインクはまだ比較的高級品です
日が昇り。
ついにガンダル、内部へ潜入。
ダルトさん、ライザさんとは別行動。
俺一人での、任務となる。
ガンダルは岩山をそのまま要塞にしたような風貌の街で。
家は石造り、ただし骨組みは木造とのこと。
が、一部は鉄骨が使われている家屋もあるそうな。
そして、普通の街では見られない『機構』があります。
それは、『水道管』です。
おおよそ全ての住宅で、蛇口をひねれば水が出る。
そんなインフラが、おそらく、この世界で始めて導入されたであろう場所なのだそうだ。
『鉄』という資源が、インフラまでも整備する、世界一の先進都市を作り上げた。
では、ガンダルは、なぜ、こんな急勾配の山に沿って発展したのか?
それは、この山で、『鉄鉱石』と『石炭』が採掘できるからである。
鉄鉱石を、石炭燃焼のエネルギーで加熱して、加工する。
そして、それは武器を産み、ここに住む人間に支配力を与えたのだ。
以上。
ダルトさんから聞いた情報でした。
報告を終わります。
*****
とにかく、街を全体的に俯瞰で見ようと考えたが。
坂道を登ったり、下ったりで、エネルギー消費が激しかった。
途中からは作戦を変え、ギルドが併設された酒場で、情報収集することに。
結果、この街に存在する商店、施設で、俺の心の琴線に触れるものを、おおよそ列挙できたのである:
・ギルド(ココ)
・武器屋(多数)
・魔法屋
・本屋
・家具店
・建材店
・食材店
ここガンダルは、武器屋の数も世界一であるそうです。
当然、熾烈な競争が繰り広げられているわけであって。
そして、ライザさんは、その競争の中に飛び込もうとしているのした。
頑張れ、ライザさん。
その他は、おおよそ、今まで訪れた街にも存在した施設ですが。
1つ、明確に異質な施設がありました。
『本屋』です。
*****
本屋さんの前まで来ました。
前世で見た、『古本屋』、そのモノのような佇まいです。
扉を開ける。
その前に。
なぜ、『本屋』が『異質』なのでしょうか。
その理由は単純で、『紙とインク』が高級品だからです。
まだ、『凸版印刷』や『出版』という概念すら、存在していません。
では、この店は、何をする店なのでしょうか。
それは、まだ、俺にもわかりません。
故に、その謎を解きに来たのです。
「お邪魔します」
ホコリ舞い散る。
本棚の奥に、ナニモノカの気配を感じます。
妖怪レーダー、検知。
失礼、人でした。
白い長い髪、白い着物の30歳くらいの女性が、本を扱っています。
「依頼かい?」
「否、社会見学です」
「そういうのを、冷やかし、って言うんだよ」
あしらわれそうになったが、ここは引かずに。
不思議、発見!
「何をされているんですか?」
「本、作ってる」
「作家さんですか?」
「違うよ。
アタシは『装丁屋』さ。
紙の束を、まとめて、表紙と裏表紙を付けて、本を作っているのさ」
正解は、『装丁をするお仕事』、でした。
正解者に拍手。
俺、不正解。
「本が、売ってもらえるのかと思ってました。
店の前と、中に置いてる本は、売り物ではないんですか?」
「アレは、ただのゴミだよ。
文字がかすれて見えなくなったり、劣化したりしたものを回収してるのさ。
そんで、装丁部のみ使い回す。
この装丁ってな・・・。
高っけーーのよ。
超高価。
だって、紙が高価なんだから。
こんな厚い紙、しかも色付きとなれば、さらに高価になる。
それ故の、廃品回収とも言う」
「あの、不躾なことを申しても良いでしょうか?」
「何?」
「あの古本、売ってください」
「おめぇ、バカなのか?
『文字がかすれて読めない本』、だと説明したんだぞ」
「いいんです!
読めなくても、いいんです!
表紙だけ、雰囲気が出ていれば、いいんです!」