第5話 誤解
「お父様、お母様、お兄様、おはようございます!」
元気よく食卓についた三姫に、兄以外の親が驚いた。 それも、そのはず三姫は、晩餐会の翌日は必ずと言っていいほど気落ちしているからだ。
「やっと、婿を捕まえたか!」
と喜ぶ父に、「お相手はどんな方?さっそく、婚礼衣装を仕立ててもらわないと!」、そして、行動が早すぎる母。
三姫の両親は、「よかった、よかった」、と言いながら、両家の顔合わせやら結納やらと盛り上がりだした。
「あの・・・お父様、お母様、ちょっと勘違いされてるわ。その・・・確かに男性ですが・・・」
「わかっている!お見合いも、うまくいかなかった、お前が・・・自分の力で手に入れてきたのだからな!」
「ずっと辛い思いをしてきたものね。その気持ち、わかるわ」
いや、何もわかっていないなこの親、と心の中で突っ込みを入れつつ、両親は泣き出した。
「あのね・・・イギリス人の男友達ができたの」
「は?」
「え?」
「「友達!?」」
三姫の両親は固まった。
「三姫が昨日、ある西洋人男性にぶつかって、転んで、その男性に誘われて踊っただけの事ですよ」
そこに、兄の忠司が冷静に昨日の出来事を説明した。
三姫は、忠司の説目にうなずくと
「はじめて申し込まれたから、嬉しくって、嬉しくって!あと、会話も興味深くて!それでね・・・あれ?」
自分が話している間、両親の態度が一変した
「あれ?お父様、お母様どうされたの?」、と問うと、父親が怒鳴りだし、母親は失神しかけた
「あれ?ではない!礼子!!!お前は何のために、晩餐会へ行ったんだ!?」
「礼子・・・このままじゃ、あなた、一生独身のままよ・・・」
三姫の母親は、立ち上がるとふらふらとしながら、自分の部屋へと戻っていった
三姫は去っていく母親の背中をみて、多少の罪悪感を感じつつ、「で、でも、はじめて誘われたのよ! 」と父親に抗議するも、「相手が西洋人だったら、意味はない!結婚にも繋がらない!いつまでも子供気分でいるな!」
と叱られた。
「だったら、お兄様はどうなのよ?私よりモテモテなのに、一人も恋人を作らないじゃない!」
三姫もここは引けないと思い、やや怒りながら、父に詰め寄ると兄から
「私は自分の身分に合う人と父上にも認められる人を選ばないといけないから、寄られて当たり前の身分が高めの女性と付き合う事にしている。」
「忠司の言うとおり。忠司は私の跡取りで次の当主、礼子とは立場が違う!だからと言って、誰でもいいわけではない。」
父親と兄に正論を言われて、ぐうの音が出ない三姫は、ゆっくり食べなさいと父親に叱られつつも、その場を離れたい一心で何時もより早く食べ終わった。
「あそこまで、怒らなくてもいいと思うのに。敬子さんに話してみよう」
そう思いながら、自室へと足を速く動かした。