キャンプは加減が肝要である 後編
「ひ・み・つ!」
そう言って俺たちの元からいったん離れた藤村と生駒。何をするのか、まるで検討もつかない。余計なことしないといいけどな、と蒼馬は願っていた。
場所は変わって、悠介とシンジと俺は夕食の調達の川釣り兼川遊び(俺は勘付いている。8割方後者が目的であると。)に来ていた。この川はとても澄んでいて、川底もしっかり見える。近くには魚が何匹か泳いでいるため、釣れないこともないだろう。
「よっしゃー!早速泳ごうぜ!」
早速本来の目的を忘れつつあるシンジが、張り切って川に飛び込んだ。すでに水着に着替えているため問題ないが、あの張り切りようはなんなんだ…まあ、あいつらしいからいいか。彼が顔を出した。
「おーい!めちゃくちゃ気持ちいいぜ!早くお前らも入ってこいよ!」
「よっしゃ!俺も入るか!蒼馬、お前もどうだ!?」
悠介が俺も入るかと聞いてくる。俺は本来の目的重視で、釣りをすると答えた。少し残念そうにしつつも、「そうか、頼むぜ!」と彼は俺に釣りを任せてシンジの元に飛び込んだ。2人が水を掛け合ったり、泳ぎの競争をしたりしているのを尻目に、俺は釣りを始める。食料も取っておかないと、あとあと持たないかもしれないからな。
まあ、これは一応まかり通る口実であって、実はもう泳ぐ体力がなく、釣りでもしながらぼーっとしたいというのが俺の本音なのだ。2人には申し訳ないが、バーベキューの準備や火起こしで疲れてしまったため、とりあえず休みたい。現に、もうすでに俺はウトウトしかけている。竿が引いたら釣り上げればいいし、とりあえず寝よう。そう思い夢の国にダイブしかけた時、
遠くから水をかけられた。まさに寝耳に水と言わんばかりに俺は驚く。その方を向くと、
「おーい!衛藤くんも遊ぼうよ!」
どこにいたんだよ…あいつら…。そこには水着に着替えて川に入っている藤村と生駒がいた。手には水鉄砲を持っている。
「2人ともいたからいたんだ?」
率直な疑問をぶつける。すると藤村が答えた。
「衛藤くんがウトウトしかけた時にね。驚かそうと思って。びっくりしたでしょ?」
彼女はいたずら盛りの子供のような目をして聞いていた。その隣で生駒は少し申し訳なさそうにしながら、はにかんだ笑みを浮かべている。ただ、彼女らが俺を起こしたのはどうやら別の要件のようで、
「どう?水着、似合ってるかな?」
ゲームの水辺イベントみたいな展開が始まった。2人を見た時点で既に察してはいたが、改めて聞かれると返答に困る。
藤村はフリルのついた水色の水着を着ていた。ビキニタイプの水着が、彼女の華奢なスタイルをより目立たせている。色白の肌は美しいとさえ思わせた。一言で言ってしまえばとにかく可愛く似合っている。
生駒は彼女の性格らしい、ワンピースの水着を着ていた。彼女はと言うと、普段の制服姿からは少し想像しづらい…うわぁ…言いづれえ…まあ、その…豊かなものをお持ちになられていた。そのスタイルはまさに絵に描いたような、女子が憧れるようなそれであった。
「どうかな?衛藤くん?」
もう一度、藤村が聞いてくる。
「えーっと、どっちもよく似合ってるよ。なんか、互いの性格が出てる感じかな?」
俺は率直な感想を述べた。正確には、もう少し言いたいこともあるが、場合によっては海の藻屑ならぬ川の藻屑にされる可能性があるためこれ以上は口を噤んでおく。
「ほんと!?よかったぁ…」
藤村は安堵したような表情を浮かべる。
「少し、大胆だったかもしれなかったから、これ、私には似合わないと思ってた…でもよかった。衛藤くんがそう言うなら。」
生駒も、気にしていたのかもしれない見た目について納得できたようだ。むしろそれを着れるのは生駒くらいしかいない気もするが、本人には若干羞恥もあったのだろう。
「おっ!全員揃ったな!こっち来いよ!みんなで遊ぼうぜ!」
シンジと悠介が俺たちを呼ぶ。今行く、と答えて俺は彼らの方へ向かう。
「先に言ってて。遊べるもの用意してるからそれ取ってくる!」
そう言って藤村が川から上がった。そう言うことなので、とりあえず俺は生駒と一緒にシンジ達の方へ向かう。あいつら…どこまで行ったんだ…彼らと俺たちの間には意外と距離がある。きっとかなり泳いだのだろう。
「川底、すべるかもしれないから、気をつけて。頭打ったりしたら大変だしね。」
俺は生駒に声をかける。うん、と彼女は了承する。慎重に歩き、彼らの元へ向かう。するといきなり、
「きゃっ!」
生駒が小さく叫ぶ。足を滑らせた!やばい!反射的に俺は彼女を抱えるが、俺もその表紙に足を滑らせ2人同時に転んでしまう。
底がたまたま砂だったため、2人とも大きな怪我はなかったようだ。俺は目を開け…ん?なんだこれ?こんな柔らか…
「ひゃんっ!」
またしても生駒が声を上げる。今度はなんか違う。俺はふと手元を見ると…
「!!!!!!!」
俺の大きな手は、彼女の豊かなそれを…(すんません、もう胸でいいや)を掴んでしまっていた。反射的に助けようとした時に、覆いかぶさる体制になってしまったからだろう。
「ごっごめんなさいいいいいい!」
俺は即座に彼女から離れて、人生でおそらく最大級に誠意を込めて土下座をした。顔が水につかる?しるか!
「あっ…その…」
彼女は触られた事実と、めちゃくちゃ早く土下座する俺との狭間で少し動揺している。多分、しばき回したいのだろうが、ここまで土下座をされるとそれもしにくいのだろうか?
「えっと…別に、大丈夫だよ?私を助けようとして不可抗力でこうなったんでしょ?それに、衛藤くんがわざとするような人には思えないし…だから、怒ってないし、顔上げて?そろそろ溺れないかな?その体勢じゃ…」
「ぶっはぁぁぁ!死にかけた!」
俺は勢いよく顔を上げる。もうこのまま沈められると思っていたため、彼女の心の広さに、涙が出そうである。どんだけ優しいんだ…そりゃクラスのマドンナに君臨していたのもわかるし、藤村が来てなお、その人気が衰えないのもうなづける。
「本当にごめん…」
俺はもう一度謝る。くそったれ…めちゃくちゃ申し訳ないが、どっかでラッキースケベ現象に興奮していた俺がいる…ぶん殴ってやりたい…その邪な自分の気持ちも暗に含めて謝罪した。
「本当に大丈夫だよ。早く2人のところに行こ!」
彼女は微笑んで俺の手を握ってシンジ達の元に連れて行く。なんていい子なんだろうか!ああ神よ!ありがとう!そんな妄想を1人しながら彼女に合わせて俺も川を進む。
「おーい2人とも!まって!」
すると後ろから藤村も両手にいろんなグッズを抱えて追いついてきた。そっか、意外と時間経ったんだっけ。彼女も追いつき、3人で進む。
「遅かったな?大丈夫だったんか?」
シンジか少し心配そうに言う。事情を話しておいた。(もちろんラッキースケベは言っていない。俺と生駒の暗黙の了解だ。)
「そりゃ災難だったな…まあ、怪我がなくてよかった。衛藤、なかなか男気あるじゃねえか!」
「日菜ちゃんを助けたんだ!かっこいいなぁ衛藤くん。また見直しちゃった!」
悠介と藤村が交互に俺を称賛した。まあ、事実は少し違うけどね…
「んじゃ!みんな揃ったし!遊ぶか!」
悠介が元気よく言った。
キャンプはここからが本番!遊び尽くすか!もちろん、食材調達兼で!
俺たちはひとしきり川で遊んでいた。途中でシンジがイタズラで俺をドロップキックして川に突き落としたり、悠介が崖みたいなところから飛び込んだり、女子2人の水鉄砲に死ぬほど銃撃されたりと、まあカオスではあったけれど楽しかった。目当ての魚についてはみんなで釣りの勝負と称して、食材調達兼川遊びを見事に貫いて、そこそこの量を調達できた。これなら待ち合わせのお菓子を含めれば、明日の朝までは持つだろう。
バーベキューをした場所まで戻った俺たちは着替えを済ませた。火はまだ生きていたが火力が少し心許なかったので、全員で木を拾ってくることになった。そうして一晩は持つであろう量の木を集め、火を残しておいた。
その後は各自自由の時間で、俺は釣った魚を食べるための下ごしらえを済ませて、テーブルで本を読んでいた。すると、隣にシンジが座ってきて話しかけてきた。
「さっきは楽しかったなぁ!あっ、ドロップキック、すまねえな!」
彼はそう言って笑っている。
「あの分はいつか10倍以上にして返す。死にかけたからな。半殺し程度は覚悟しとけ。」
それを聞いても彼は、悪かったって、と笑いながら言うのだ。まあこいつと俺の中ともなれば何が冗談で、何が本気なのかくらいは空気感でわかる。俺も実際、これは冗談で言っている。
「それより、飯の後はどうする?何かしたいことはあるか?」
一応彼に聞いておく。
「そうだな、俺花火持ってきてるから、それするか?」
彼はそう言ってバッグの方を指差す。たしかにそこには花火があった。
「それもいいな、飯の時にみんなに言っておくよ。」
「おう、頼んだぜ。」
そう答えてシンジは席を立った。トイレに行くようだ。その姿を見送ってから、俺はまた本に目を通す。
すると、今度は藤村がやってきた。どこかイタズラめいた目をしている。
「何企んでる?」
察している俺は彼女に言った。その答えは、意外なものだった。
「日菜ちゃんを助けた時、おっぱい触っちゃったんでしょ?」
ニヤッと笑って彼女は言った。俺は目を見開いて驚く。
「お前!なんでそれを!」
「あっ、本当だったんだ!」
あれっ、あっ!くそっ!俺のバカ!なんか適当にあしらっとけばもしかしたらバレなかったかもしれないのに!
「その!あれは故意にやったわけじゃないからな!絶対にわざとじゃないからな!」
俺は必死に弁明する。その様子を見て彼女はまた笑う。
「ははっ♪わかってるってば!日菜ちゃんから聞いたし、衛藤くんはそんなことする人じゃないって私も思ってるからさ。」
どうやらわざとではないことはわかっているようだ。その上で彼女は、生駒を守ったことを褒めてくれた。
「ただ…やっぱり触っちゃうのはねぇ…衛藤くんも大人になったね!」
「大きなお世話だ!」
そう言って、互いに笑い合う。彼女の笑顔が夕焼けに照らされて、美しかった。
「おーい!みんな!できたぞ!」
みんなに俺は声をかける。昼に釣った魚を俺はキャンプの火で焼き、塩をまぶした。焦げ目の綺麗なアユの塩焼き。我ながらなかなかの逸品だ。
「おっ!美味そうな匂いがするな!早速いただくぜ!」
すぐにシンジと悠介が駆け寄って、アユを手に取った。
「わぁ!美味しそう!」
藤村と生駒も、目を輝かせる。
「みんなでたくさん釣ったおかげで、どうにか今晩は持ちそうだな。好きなだけ食べとけよ。」
そう言って2人にも勧める。各々食べる分を取っていった。
「うんめえなぁ!塩が効いて最高じゃねえか!」
「ああ!こりゃいくらでも食えるぞ!」
「ほんと、衛藤くんってなんでも料理できるよね。尊敬しちゃう。」
「まさにハイスペックオタク、だね!」
みんな次々俺を称賛する言葉をかける。流石にそこまで褒められるとこちらも悪い気はしないのだが、少々照れる。俺は一介のオタクでしかないわけで…
「まあ…弟や妹に飯作ってるから、基本程度はできるだけであって…ほら、それもはっきりいってアユを焼いただけだしさ。」
俺はおどおどしながら言う。
「それでも凄えぞ。ただ焼くだけでも、色々考えなくちゃいけないからな。その辺のことをしっかりできてるってことだろ?」
シンジがフォローを入れてくる。こういう場面ではあまり嬉しくはない。
「それに、弟と妹に料理作ってるなんて、優しいんだね。ご両親はどちらも共働き?」
俺をまた褒めた後、生駒が聞いてくる。今日はあの一件から、なんとなく彼女の言葉がくすぐったく感じる。
「ああ、そうなんだ。だから俺が飯作った方がニ人とも手間が省けるし。あいつらも早く飯を食いたいだろうからさ。」
「だから少し早く帰ってるんだ。偉いなぁ、ほんと親孝行だよ…」
藤村も珍しく真面目に褒めてくる。なんか、どんどん俺が聖者みたいになってきている気がする…心なしかこいつらの視線が尊敬を帯びているような…
「すまねえな!蒼馬!そんな孝行なお前に少し強くソフトボール部の勧誘しちまってよ!お前が運動もできるから戦力欲しさにお前の境遇を考えてなかった…なんで俺はひでえやつなんだ…」
悠介が少し行き過ぎた謝罪をしてくる。いや、あの件は別にどうも思ってないしむしろ感謝もしているんだが…
「ああ…その件は大丈夫だ。」
「本当か!すまねえ…マジですまねえ…」
「おい…そろそろ俺を褒めるこの空気変えてくれねえかな…いい加減疲れてきた…」
俺は自分の率直な感想を吐露した。
「そ、そうだな…なんとなく変な感じになってきた…そうだ!」
いきなりシンジが立ち上がる。もしかして、あれか。
「みんなで花火しようぜ!ちょうど暗くなってきたし、今がやりごろなんじゃねえかな?俺持ってきてんだ。」
「おっ!そりゃいいな!」
土下座しかけてた悠介が一気に立ち上がった。まあ、元気になっただけよしとするか。
「花火かぁ。いいね!私線香花火得意なんだ!」
藤村もする気満々でシンジに賛同する。
「んじゃ早速場所を確保しよう。あと水を川から汲んでくるから少し待っててくれ。」
「わかった、じゃあその間に花火をまとめた方がいいね。」
生駒が機転をきかせて花火を分けていく。藤村もそれを手伝う。
「んじゃ、川の近くの広場集合な。そこで俺も合流する。先に行っててくれ!」
シンジと別れ、俺たちは先に広場へと向かった。
空は晴れ、星がよく見えている。その星空の下、俺たちは花火をしている。
「わぁ!綺麗…」
藤村が着火した花火を見て呟く。
「飛鳥ちゃん、見て!色変わったよ!」
生駒が言う。彼女はスパーク花火を持っていた。
「ほんとだ!すごーい!」
「綺麗だよな。めちゃくちゃ長持ちするし、やりがいがあるよ。」
俺が藤村に言う。彼女は、目を輝かせながらそれを見ていた。
『こいつも、こんな子供みたいな顔するんだなぁ。』
俺は今日、何度そう思っただろうか。初めて出会った頃は、まあ今もそう思うが、本当に絶世の美少女で俺なんか釣り合わないと思ったいたけど、意外と彼女はフレンドリーで、子供っぽくて、優しいんだ。今日のキャンプでまた一つ藤村に対する意識は変わったように思う。彼女もまた、同じなのだろうか。
「次は線香花火しよ!誰が一番長いか競争しようよ!」
「いいね!負けないよ!」
藤村と生駒が線香花火を用意する。点火するとそれは小さな火の玉を作った。俺もとりあえず参加する。
「やべっ…落ちた…」
「衛藤くんちょっと早くない?まだまだこれからだよ?」
「あっ、私の火花が出てる!」
生駒の線香花火から火花が出てきた。それは小さいながらも綺麗だった。線香の特有の匂いもする。
「あっ私のも!」
藤村の線香花火からも火花が出る。2人ともなかなか長い間線香花火を保ち続けている。本当に2人ともうまかったようだ。
「あっ…落ちちゃった。飛鳥ちゃんまだ持ってるの?」
「うん。私が一番長いのかな?でも、もうすぐ落ちちゃうかも。」
藤村がそういった時、彼女の線香花火も落ちてしまう。彼女は、あっと少し残念そうに声をあげた。
「2人とも、線香花火うまいんだな。あんなに長く持つなんて。」
「じっと持ってたら衛藤くんのも長続きするよ。ゆっくり持ってると自然に消えるまで見られるんだ。」
生駒が言った。彼女の線香花火が一番最初に火花を出していたんだっけ。
線香花火を終えた俺たちの元にシンジが駆け寄ってくる。そして俺たちを見つけると手招きして言った。
「おーい!ロケット花火するぜ!こっちきてみろよ!」
その奥では、悠介がロケット花火を用意していた。あの大きさを見るに、結構規模が大きい。火事になることはないだろうが少々心配だ。
「準備できたぜ!シンジ!声頼む!」
悠介が力強く言った。それに合わせてシンジがカウントを始める。
「いくぜ!3・2・1!ファイヤー!」
シンジの掛け声とともに花火が宙を舞う。それは勢いよく火花を散らした。
「凄い!めちゃくちゃ綺麗!」
「こりゃ凄いな!」
俺と藤村は、目の前のロケット花火に圧倒された。美しく宙を舞う火花。それらは色を変えながら空に舞っていく。
「たーまやー!」
遠くでシンジと悠介が声を上げる。それは打ち上げ花火だろ…とツッコミながらもたしかにそう言いたくなる気持ちもわかっていた。
「綺麗…だね。」
「そうだな。」
花火が尽きるまで俺と藤村は並んでそれを見ていた。互いの手にほのかな暖かさを感じながら。
花火を終えて、それらの始末を済ませた。俺はそろそろ眠くなりだしてきた。
「ふう…疲れたなぁ…あとはテントで寝らとするかなあ…」
俺はそのままテントへ帰ろうとした。すると
「待てよ。まだあと一つお楽しみがあるんだぜ…」
シンジが静かに言った。なんか目が怖い。ロクなこと考えてない目をしてやがる。
「なんだよ…お楽しみって…もう花火もしただろう?」
「いやいやいや!何言ってんだよ!まだあるだろ!あれが!」
「なんだよ、あれって!」
「あれだよ!あれ!肝試しだよ!」
「はあ!?」
彼はまた、面倒なことを言い出した。こんな疲れてる時に肝試しかよ…怖いわけではないがこんな疲れた時によりによって歩き回る肝試しをするのが面倒だ…
「他の奴らはどうすんだよ…みんな寝たいだろー」
「おーい!2人とも!早く行こうよ!」
少し先で、藤村と生駒、悠介が待っていた。藤村が俺たちを呼んでいる。
「ですよねー…張り切っていく気満々なんですよねーこのメンツ…」
俺はとうとう諦めて肝試しに行くことにした。さっさと帰って寝よ。そう願いながら。
しかし、あんなことが起きるとはこの時はまだ想像もしていなかったのであった。
「よし!集まったな!じゃあ肝試しを開始する…その前に!班決めだ!」
シンジが唐突に言い出した。
「班決めって…小学生かよ…」
呆れてしまい思わず俺は呟いた。5人まとめていく方が早いだろ…
「2人と3人の班に分けるんだが…公平にくじでいいか?」
シンジが全員に聞いた。周りに異論はない。
「じゃあ決まりだな!よしっ!全員引こう!赤い2つと何もない3つ、それで別れたメンツで出発だ!」
俺たちは一斉にくじを引く。結果は…
「俺は…赤か…じゃああともう1人…」
「私赤だ!」
隣にいた藤村が言った。えっ!こいつと!?
「決まりだな!藤村、衛藤ペアってことで。蒼馬、ちゃんと藤村を守ってやれよ。」
彼がからかってくる。そのまま幽霊のお仲間にしてやろうかと思ってしまったが、どうにか抑える。それにしても、藤村とか…どうしよう。めっちゃ緊張する…正直お化けが出てくるよりずっと怖え。
「衛藤くん…頼んだよ?」
そんな目で頼むな!守るしかないだろうが!
男とは悲しい生き物だ。ただ仕方がない。これならとことん務めを果たすまでだ。決心した俺は藤村を導くように、森の中へ入っていった。
森は静まり返っていて、不気味さをかき立てた。夜風は心地よいが、鬱蒼と茂る森の影が恐怖を煽る。
「藤村、大丈夫か?」
俺は彼女に声をかける。
「うん。 まだ平気…」
彼女はまだ俺の後をしっかりついてきていた。なかなか度胸がある。
「ここで半分…まだなんも出てきてないな。これならどうにか帰れるな。」
道を曲がろうとしたその時、
「えっ…きゃぁぁあ!」
藤村がいきなり叫んだ。
「どうした!?」
俺は彼女の手を握って聞く。
「なんか、影が動いた気がする…怖いよ…」
彼女は近くの木を指差していう。そこには何もない。
「何もない…ぞ?」
「あれ…ほんとだ…ごめんね…」
彼女の早とちりだったようだ。ただこの状況ならしかないかもしれない。
「先行こう。後、怖かったら捕まっててもいいよ。」
「うん…ありがとう。」
そう言って俺たちは道を曲がって進んだ。
俺はさっき掴んだ彼女の手を握るのをやめなかった。彼女もまた、その手を強く握っていたからだ。
先へ進んだが、特に何も起こらず、俺たちは帰ってきた。
「どうだった?なんかあったか?」
シンジが興味津々で聞いてくる。
「私が早とちりして、一旦止まっちゃったけど、特に何もなかったよ。夜の森は怖いなって思ったくらいかな。後、意外と衛藤くんの男気が強いってこともね。」
藤村はそう言って俺の方を見た。
「あっ、まあそうだな…男は俺だったし。やっぱ守るべきなのは俺の方だしね。」
「ひゅーっ!かっけぇ!」
シンジがまたしても茶化してくる。ふんじばって森の中に投げ込んでやろうかな。
「それより、さ…2人とも、いつまでそうしてるのかな?」
突然、生駒が少々申し訳なさそうに言った。
「ん?どした?」
俺は聞きかえす。
「その、いつまで、手を握ってるのかなって。別に、悪いわけではないけどね。」
彼女は微笑んで言った。あっ!そういえば!
俺たちは藤村が叫んでからずっと手を握ってここまできたのだ。なぜかまだ手を握っていた。
「わっ!ごめん!」
俺はかなり驚いた。無意識だったため気づかなかった。それは藤村も同じだったようで、彼女もびっくりして、顔を赤らめる。
俺はゆっくり手を離した。その時、
「…守ってくれてありがと。」
藤村が小さく感謝をしてくれた。俺は聞き逃さなかった。
「どういたしまして…」
互いに頰を赤らめながら言った。
少し暖かい、星空の下の夜の出来事であった。
「ほほーん…いいですなぁ…」
シンジはそんな2人を悪戯めいた目で見つつも、暖かく見守っていた。
どうも!Asukaです!この作品は「カクヨム」にも連載しております。
久しぶりの更新ですね。最近はファンタジーとの同時進行で頭がクレイジーなことになっております笑笑楽しい反面、やることも多く、かなり苦労しています。そんな今作ですが、そろそろ短編から中編に移行しつつあります。次の話でもう30000字を超えるので、中編小説レベルの文字数になってきていますね。目指すは10万字、まだまだですが頑張ります!
今回もご感想、レビュー、ブックマーク等お待ちしております。
最後になりますが、いつもご愛読ありがとうございます!