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2018/06/05に見た夢 幸せすぎて悲しい夢

こんな夢を見た

 ねぇ、俺死ぬの?


 そんな風に思えるくらい、目が覚めた時に焦燥感に打ちのめされたり、夢と現実とのギャップに絶望感に包まれて、思わず両掌で顔を覆わずにはいられないくらいなとても幸せな夢を見た。


 俺はとても風光明媚な温泉街で生まれ育ち、街の外に出ることなく地元の高校を卒業すると、そのまま市街地の外れにある小さな印刷屋に就職して今に至るまで働いている。


 ここ数年は従業員の高齢化と人手不足で夜勤の日々が続いているが、誰もいなくなった工場で一人作業しているというのは気楽なもので自分自身にも合っている。


 今日もいつもと同じように午後三時の出勤に合わせて家を出る。


 ついでに年老いた母親が買い物に行くので近所にあるスーパーまで乗せていくのが日課だった。


 「そういえばアンタ今日は病院の日じゃないの?もう血圧の薬が無かったでしょ」


 母親にそう言われて持病の高血圧の薬がもう無いという事を思い出す。


 三年前に会社の健康診断で血圧を測ったら200/110という社内レコードを記録した。


 それ以来、月に一度は病院に行き薬を貰ってる。


 母親をスーパーの前で降ろし、会社の近所にある病院に行く。


 その病院は患者も少ないので、すぐに見てもらえるのでとても便利だった。


 診察もあっという間に終わってしまうので、少しこの病院は大丈夫かと心配になる事もあるけれど、別に自覚症状があるわけでもないのでそう心配はしていない。


 薬局で薬を貰って出た時点で午後三時を少し過ぎた処だったのだけど、会社自体が残業代を一切合切払わないとてもブラックな会社なので、多少の遅刻も気にしたりしないし、されないのである。


 会社に着いてその日の作業量を確認すると、この会社の経営は大丈夫なのだろうかと心配してしまうほど仕事が薄い状態で、上司から機械の周りの清掃を終えたら帰っていいと言われたので、日勤の人と交代して退社を見送ると自分一人になった工場の清掃を始めたのだった。


 途中、トイレに行きたくなった。


社内の廊下をトイレに向かって歩いていると、デザイン課の人達が退社の為に部屋から出てきてタイムカードを押している姿を見つけた。


 「鰤鰤君、おはよう‼ そしてお先に失礼します」


 そんな事を屈託のない笑顔で言ったのは私の中学時代のクラスメイトで、高校も同じところに通った同僚の五所川原さんだった。


 同い年の45歳ではあるが、見た目は小学生の頃から変わっていないという小柄なロリババアで、今でも月に一度は中学生と間違えられて補導されるという。


 「だから免許証とか、保険証はいつも肌身離さず持ち歩いているの」


 中学の頃と全く変わらない姿で彼女は言うのであった。


 高校卒業後、彼女は全く別の業種の会社に就職して、25歳の時に最初の結婚を機に家庭に入っていたが、離婚と再婚、また離婚という人生の大海原で揉まれた後にたまたま求人を出していた私が働くこの会社に就職してきたのである。


 今は実家に戻り、両親と暮らしていて子供はいない。


 新しい人生をスタートさせた彼女は少し輝いて見えた。


 二度の離婚も基本的には彼女に非はないと言えるだろう。


 最初の離婚は相手の両親と馬が合わないという理由で、二度目の離婚はいきなり元旦那さんが役所勤めの公務員だったのにいきなり仕事を辞めてきて、彼女にこう言ったのが理由である。



 「ユーチュバーに俺はなる!!」



 そりゃぁ、離婚されても文句は言えないだろう。


 普通ならば頭がおかしくなったと思って病院に連れて行くところだが、元旦那さんは自らの夢と希望と野心を妻である五所川原さんに熱く語ったらしいが、何の相談もなく仕事を辞めてきた時点で彼女の気持ちは固まっていたらしい。


 「ひどいと思わない?ユーチューバーって。ありえないでしょ、奥さんいて」


 俺としては、男には戦わなければならない時があるんだよと、元旦那さんに賛同する気持ちもないわけではなかったが、五所川原さんを怒らせても怖いのでそれは言わなかったのである。


 「まぁ、一つだけ言えるとすれば、男を見る目がないという事はわかるな。だから中学生の時の俺の告白を受けてくれていれば良かったのに」


 トイレの前でそんな話をしていると、五所川原さんは口を尖らせて言った。


 「はいはい、どうせ私は見る目がありませんよ。どうせ中学生の頃に鰤鰤くんを選んでいたら高校くらいで妊娠して貧乏子沢山状態になって、苦しい生活の中で心を病んでいたのは間違いなわね。やっぱり人生はお金よ。お金なら離婚した時に慰謝料貰っているから、当面は働かなくても生きていけるだけあるもの」


 実は俺は中学生と高校生の頃に何度か五所川原さんに告白し、交際を申し込んでいたのだけれど、ことごとく足元の害虫を踏み潰す様にお断りされた過去がある。


「いまスマホアプリの出会い系SNSとか、お見合いパーティで絶賛婚活中なのよ? 何なら一度くらい鰤鰤くんと結婚してあげようか?」


「まだあきらめないのか。まぁ、普通に結婚はあり得ないよね」


「何でよ!! あり得ないってどういう意味よ!!」


俺の襟首をつかんでいる五所川原さんをなだめながら、俺は冷静に現実という奴を言う。


「ほら、ウチの会社って給料安いじゃないか。それにもう両親が年老いて、待っているのは介護の日々だし、俺と結婚するメリットって何も無いだろ? もう地雷臭しかしないじゃないか」


 そんな俺の言葉をきょとんとした症状で聞いていた五所川原さんはため息を一つついてから言った。


 「地雷臭がどちらを指しているかは聞かないけれど、聞きたくないけれど、あえて聞かないけれど、割と優良物件なのよ? 二回の離婚で慰謝料はきちんとそれなりにいただいているし、両親と暮らす実家は持ち家でローンもすでに終わっている。弟はいるけれど、弟は自分でもう家を建てているから将来的には私が相続するし、年金を貰う歳まで働かなくても、余裕で生活していけるだけの貯蓄はあるもの」


 「じゃあ何でウチみたいな中小ブラック企業に入ってきたの?しかもデザインとか専門職で」


 「転職サイトをスマホでみてたら見つけたのよ。デザイナー募集。未経験でも可。一から働きながら教えます。やる気重視。って、書いてたけど」


 「この会社大丈夫かな?」


 俺が会社の将来に一抹の不安を覚えた時、ちょうどその会社の社長がやってきた。


 「なんだ? 二人はずいぶん仲がいいな。そう言えば昔からの知り合いだったか? 五所川原さん、何だったら鰤鰤に嫁入りしてやってよ。こいつ45にもなるのに独身でな」


 「ちょうどそんな話をしていたところなんですが、結婚してあげてもいいと言っているのに、この野郎は経済的理由を盾にして拒否してくるんですよ」


「一応言っておくけれど、三十年以上前にそっちが拒否いているんだからな? 俺は酷く打ちのめされて傷ついて、今は立派に成人女性恐怖症のロリコンだよ」


「だから、責任を取ってあげるって言ってるじゃない!!」


「兎にも角にも今は立派に独身貴族を満喫しているわけだから、一人の日々を堪能しているわけだから、いまさらこの歳で結婚とかめんどくさいし、ありえないだろう」


 俺がそう言うと、五所川原さんと社長は声をそろえて言うのだ。


 「贅沢なことを言うんじゃない!!」


 社長は帰り、俺は仕事に戻ることにした。


 五所川原さんは玄関まで俺に付いてきて来て言う。



 「まぁこれから三十年くらいたったとき、お互いに本当にしがらみがなくなった時、それでも独り身だったら、またその時に考えましょう。そうしましょう。 その時までご飯食べたり、時々エッチなことをしたりする関係でいいんじゃない?」


 なんかもう、がんじがらめな気がしないわけでもないけれど。


 「ソダネー」


 「いいじゃない。もう初めて会ってから三十年以上も経つのよ。あと三十年経ったところで何も変わったりしないわよ」


 そう言って五所川原さんは笑うのだ。




 目覚めたのは会社の休憩室にある椅子の上だった。


 夜勤の仕事を終え、休憩室で一服する為に座った背もたれのある椅子の上で、コーヒーを飲んでいるうちに眠ってしまったらしい。


 時間にしてみれば三十分も経っていないのだけれども、目ざめたところで当然のように五所川原さんがいるわけがないのである。


 夢の中で見た五所川原さんの姿や言動は鮮明に頭の中に残っていて、そのリアルさがまるで死ぬ間際に見れるという走馬灯の様に感じられたのである。


 何がショックかと言えば、SNSなどでつながっているために、リアルな彼女の近況を知ることができるとしても、現実にあったのは少なくとももう二十年以上前のことであり、それなのに今でも夢の中でリアルな彼女の姿を再現してしまえるという事である。


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