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4:刺客と追手2

 あきが立ち去ってしまうと、室内は静まり返ってしまう。ぼんやりと立ち尽くしていると、室外の気配が伝わってきた。新たに廊下を上がってくる足音に、風巳かざみはすぐに気がついた。ゆっくりと廊下を歩いてくる音が、すぐ間近で途切れる。何かを考えたつもりはないのに、体が先に反応してしまう。


 咄嗟に扉に歩み寄って、鍵をかけていた。カチリとしたかみ合う音が、不自然なほど響く。扉の向こう側にも届いたに違いない。


 息苦しい沈黙が広がった。扉を隔てた向こう側に、たしかに感じる気配。

 ジワリと掌が汗ばんでいる。動悸が響く。


 出来ることなら、今夜はそのままそっと立ち去ってほしかった。明日の朝には、何事もなかったように笑ってみせる。祈るような気持ちで、風巳は向こう側の気配が去っていくのを待った。

 けれど。


「……風巳」


 聞きなれた声が響く。愛しい声が、今は風巳を追い詰めた。


「ここを開けて。――私のせい?」


 小さな声は戸惑っているように聞こえる。それは無理もないだろう。彼女が原因にたどり着くはずがない。


「―――…」


 風巳は答えようとしたが、声にならなかった。

 彼女に優しくできないのがわかる。何でもないよと笑う自信がない。伝える言葉を知らない。きっと、酷いことを言ってしまう。


「風巳、開けて」


 扉から一歩遠ざかる。このまま答えずにいれば、彼女は諦めて立ち去ってくれるだろう。そんな安易な思いに縋って、風巳は答えることを放棄した。

 朝子あさこがどんな思いで一晩を過ごすのか、そんなことに思いを巡らせる余裕も持てない。


 違う。きっと何かを口に出せば、それ以上に朝子を苦しめる。

 これは胸に去来した嵐。過ぎ去れば、また晴れた空が広がる筈なのだ。

 彼女をこの嵐に巻き込む必要はない。


「風巳?」


 幾分激しい勢いで、朝子が扉を叩いた。風巳はただ立ち去るのを待った。長い沈黙があった。向こう側の気配が、踵を返すのがわかった。

 勢い良く廊下を駆けていく足音。きっと声を殺して泣いているに違いない。

 拒絶は何よりも痛いとわかっているのに。


 朝子に与えた痛みが、自身にも跳ね返ってくる。

 胸が痛い。そして、苦しい。


 風巳は堪えるように唇を噛み締めた。こんな想いをするために、朝子を傷つけるために帰ってきたわけではないのに。


 どうして。

 想いをうまく操れない。風巳は再び静寂を取り戻した室内で、固く目を閉じた。

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