2 娘を探して
私の話を聞いて欲しいのです。
こうして、話として語ってしまうと、どこにでもあるような、無いような話になってしまうのですが。
実際にあったこととして書いてしまうと、悲しむ人もいると思うので、私はただの物語として、お話をしたいと思います。
私には娘がいました。夫は娘が生まれた年に離婚し、それから私一人で娘を育ててきました。
娘は、もし今、生きていたら十五歳です。ちょうど中学生です。
当時は五歳でした。
私の娘は、突然いなくなってしまったのです。
それは遊園地に行ったときのことです。
「あの遊園地に行きたい」
娘はテレビで遊園地を見たのをきっかけに、しきりにそう口にするようになりました。
夫の残した借金もあり、家計が一番苦しい時期だったのですが、なんとかお金を貯めて、娘を遊園地に連れて行くことができました。
初夏のことでした。
遊園地に着いてから、娘と、
「結構山の中にあるんだね。もうセミが鳴いているよ」
「お昼は何を食べようか」
と車の中で話したのを覚えています。
それで、入場料を払いました。入場料は大人1800円、子供が1000円でした。
遊園地に入ってからすぐ、娘は言いました。
「ママ、あの乗り物、のりたい」
初めて見るメリーゴーラウンドに向かって走って行った、その背中を今でも忘れません。
娘が元気に走って行くなあ、と思って見ていた矢先、娘が突然、消えてしまったのです。
穴にでも落ちたかのような、不自然な消え方でした。
それからどこを探しても娘は見つからず、警察を呼んで捜索をしてもらいましたが、結局は帰って来ませんでした。
それきり、娘とは会えずじまいです。
どうしても納得が行かず、これはもう、尋常のことではなく、何かの霊の障りに違いないと、その道で高名な修験者を訪ねました。
その方の話によりますと、到底信じることができないのですが、どうやら私の子は消えたのではなく、最初からいなかったようなのです。
その子の正体というのが、ツクモガミと言って、物が魂を宿すとそうなるというものだそうです。
私が小学生のときに同じ遊園地を訪れたとき、私に憑いたそうで、どうやら私はそのツクモガミの子を産んだそうなのです。それは、子供たちが持つ、いつまでも遊んでいたい、という想いがひとつの魂となったそうなのです。
そんな突拍子もないことを言われても、当時は信じられませんでした。私が、その子を生んで、腕に抱いてからの、五歳になるまでの思い出がしっかり残っているのですから。
でも、思い出も写真も残っていても、姿だけがありません。
それでも、私の子はいなくなったわけではなく、どこかでふらふらと彷徨っているそうなのです。
その遊園地は、今は廃園になったと聞きましたが、きっとあの子は、いまもどこかの遊園地で遊んでいるんじゃないかと思うのです。
私の子を見かけたら、お母さんが寂しい思いをしていると、伝えてください。
当時の服装は、赤い、がま口の肩かけポーチをさげて、白いワンピースを着ています。
娘はもう、人間の姿を忘れてしまったかもしれませんが。
幽霊でも妖怪でもいいので、戻ってきてください。