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楽しい転生  作者: ぱにこ
94/122

62話

 遠征2日目。

 朝露に濡れた草木が輝く清々しい朝。空は快晴だというのに、私の心は曇り空。

 数あるテントの脇から立ち昇る湯気。私の前の人物は、頭から湯気。

 スープの香りや肉の焼ける香りが皆の鼻腔を擽る中で。

 私達は、肺一杯に大地の香りを噛みしめている。

 

「「ごめんなさい」」


 フェオドールと私の土下座。

 昨日に続き、2度目ともなると息もぴったりである。


「夜の見張り、楽しみにしてたんですよっ」


 起こすのを綺麗に忘れた私の落ち度。

 憤慨するララに向けて、誠心誠意謝罪します。


「色々あって、すっかり忘れていたの。ごめんね、ララ」

 私が謝罪を述べているというのに。

 フェオドールは首を傾げて考え事をしています。

「…………」

「フェオドール。何を黙っているの? 二度寝しちゃって起きなかったんだから、この場は、誠心誠意謝った方がいいと思うわ」

「……ねぇ、二度寝したのは僕のせい? 」

 

「「? 」」

 フェオドールが二度寝した。それは、まぎれもなく本人のせいではなくて??

 言ってる意味が分からず、ララと顔を見合わせた。


「疲れて寝ちゃったのは仕方がないわ。でも、見張りを楽しみにしていたララの気持ちも考えて」

「全く、疲れてなんかいなかったよ」

 

「「? 」」

 しっかり前を見据えて、そう告げるフェオドール。

 そして、大切に抱えていた寝袋を掲げてこう続けた。

「僕が起きられなかったのは『むじゅうりょく寝袋・歩けるくんネオ』がいけないんだっ」


「「っつ!! 」」


「なっ、何て事を言うのっ。『無重力寝袋・歩けるくんネオ』は私が精魂込めて作り上げた逸品で、只の寝袋ではないのよ。…………私がどれだけ苦労して滞空魔法を魔石に埋め込んだのか知っているでしょう? フェオドールは隣で見ていたものね。それを惜しげもなく、寝袋の内側に設置する事でようやく無重力空間に身を任せるが如くふわふわの心地よい究極の寝袋になったのに、それの何がいけないって言うのっ!? 」


 最高級の寝心地をお約束『無重力寝袋・歩けるくんネオ』は私の自信作。

 寝袋などまだ必要としないジョゼと、全く不必要である母様にも贈った品よ。

 ショックを隠せず、ヨヨヨとしなだれる私の肩をポンとフェオドールが叩いた。

 そして、優しい眼差しでこう告げる。

 まるで、『現実をみなよ』って言っているかのように。

 

「ああ、そうさ。その結果、僕は寝坊した。ダリウスとカリーヌに至っては、まだ熟睡して起きる素振りも見せない。それがどういう事かわかるね? ━━━━ルイーズ……君は寝心地を良くし過ぎたんだ」


 わ、私はっ。快眠を望むあまり、ちょっとやそっとでは起きられないという危険な寝袋を作ってしまったと言うのね。

 確かに。よくよく考えると、外を警戒する必要のある野営時に熟睡なんて、危険極まりない。

 それは魔物の襲撃にも気が付かないって事であり、熟睡が永遠の眠りになる………なんてことに……。

 

「ああっ!! ごめんなさい、フェオドール」


 青褪めた私は、フェオドールに謝罪を述べつつ、原因となった寝袋を回収しようと引っ張った。

 が、フェオドールは激しく抵抗する。

 

「ぐぐっ! なんで引っ張るのっ? これ、僕のだからねっ」

「ぐぬぬっ! 危険な物は回収するべきでしょうっ! 」

「うぬぬっ。回収されてなるものかっ! 」


 ぐっ! なんて剛力っ。これが火事場の馬鹿力ってやつねっ!

 

「んっ? ララっ。貴方の寝袋も回収するわよ」


 隙に乗じてコソコソと寝袋を隠そうとしているララが目に留まった。

 フェオドールと攻防を続けているとはいえ、見逃しませんよ。


「あっ、ほ、ほら。私はキチンと起きられたし? この寝袋を使用しても問題ないと思うのですよ」


 なるほど。

 ()()()()()に起こすと、すんなり起きたものね。

 深夜に起こした場合はどうだったのかが気になる所ですが。

 そこは、起こさなかった私の落ち度。

 

「なら、ララの分を回収するのは止めておくわ」

 その言葉にララは胸を押さえ、安堵の息を吐いた。


「じゃあ、僕の分もいいじゃないか。この遠征の間は安全なんだし。あっ、そうだ! 目覚まし機能をつけなよ。魔物の気配が近づくと、勝手に歩き出すとか。いくら熟睡してても、歩き出すと目が覚めるだろうし……他には、えっと……寝てても攻撃魔法を打ってくれるとか? 」


 フェオドール…………。そう言う子供っぽい発想は嫌いじゃないわ。

 けれどね。勝手に歩き出して、攻撃魔法まで放てる寝袋って、色んな意味で怖いと思うの。

 熟睡して目覚めると、辺りは魔物の死体だらけでしたって事もあるのよ。

 いえ、魔物ならまだいいわ。盗賊だった場合はどうするの?

 人と魔物を嗅ぎ分けて捕縛か退治を決めるの?

 それ、どんなに高度なAIでも、難しいと思うの。


「フェオドール…………目覚まし機能としては、何か手をうつわ。けれど、勝手に歩いたり、攻撃魔法を打ってしまう寝袋は諦めて」


 妥協案である。


「仕方ないなぁ。ルイーズがそこまで言うのなら、僕も諦めるよ」


 腕を組み、不承不承ながらも聞き入れた風を装うフェオドール。

 訝しみながらも様子を見守っている私を前に、こう続けた。


「改造は遠征から戻ってするんだよね? この遠征中は、この寝袋を使うしかないよね? じゃあ、しまっちゃうね」


 口調は淡々と。されど、行動は素早く。

 私が制作したアイテムバッグに、フェオドールは寝袋を詰め込んでいる。

 フェオドール…………あなた。

 私の妥協案を見越して、寝袋保持のために無理難題を言ってみただけだったようね。

 そんな駆け引き、誰に教わったのっ?

 幼馴染の成長を喜ぶべきなのか、純真無垢な幼馴染が黒く色づき始めたのを嘆くべきなのか………。

 私にはわからない…………。

 しかし、これだけは言わせて。


「(策略にまんまと嵌められた私の)完敗よっ! 」


 ・

 ・

 ・


 なんだかんだと忙しない朝でしたが、私達は無事出発しました。

 全く、起きる気配がなかった2人。

 カリーヌは、私とララが寝袋から引きずり出し、着替えと身支度、放置。

 ダリウスは、テントから引きずり出し、放置という、処置を取らせていただきました。

 テントを解体、収納しなくちゃいけなかったからね。

 そんな2人も、スープの香りに誘われ、無事目を覚ましましたよ。

 目を開けた瞬間、戸惑い、驚愕し、項垂れておりましたが……。


「「「「「ふぅーーーーっ! 」」」」」

「「「「「はぁーーーーーーーーーーっ」」」」」


 本日は、森の中を行軍します。

 草木をかき分け、道なき道を歩く一行…………いえ、嘘です。

 獣道があり、大人2人が並んで歩けるくらいの幅がありました。

 ですので、私達は日課を行いつつ、殿しんがりを務めます。


「なぁ、嬢ちゃん達は何をやってんだ? 」

 ふふ、シモンさんったら。昨日に引き続き質問ばかりですわね。

「これは、朝の鍛錬の一つである太極拳を歩きながら行っているのですわ。名付けるのなら『ながら太極拳』でしょうか…………ふぅぅーー」

「「「「ふぅぅーーーー」」」」


「そ、そうか…………」


「「「「「すぅぅぅ」」」」」

「「「「「はぁぁぁーーーっ」」」」」


「なぁ、嬢ちゃん。皆から離れてしまってんだが」


 ああ、そうですわね。

 動作によっては、踏みとどまったり、後退したりしますものね。


「シモンさん。もう1組のパーティを守っていてくださいませんか? 私達は、日課を終え次第、合流いたします。あ、お気になさらずとも平気ですわ。シモンさんに、マナの糸を括り付けておりますので、迷子になったりしませんし、常日頃から、野山や屋根を走り回っている私達にとって、この森を駆け巡るぐらい、どうってことありませんもの。はぁーーーっつ」


「「「「はぁーーーっつ」」」」


「屋根? 」


「? あっ、ああ、言葉足らずで申し訳ございません。我が家の屋根ですわ。決して、余所様のお宅の屋根を走り回ったりしている訳ではありませんのよ。屋根に飛び移る時は、素早い状況判断が必要になりますでしょう? 戦いにおいて、瞬時の判断、行動は必要不可欠と感じましたので、我が家の屋根で訓練しているのですわ。すぅーー」


「「「「すぅーー」」」」


「そうか…………なんとなくだが、理解した。じ、じゃあ、俺は先に行っているから、気を付けるんだぞ」


「はい。はぁぁぁぁぁ」


「「「「はぁぁぁぁぁ」」」」


 時々、振り向きながらも、走り行くシモンさんの背中を見送り、日課の太極拳をこなします。

 しかし、この歩き()()()太極拳は、なかなか曲者ですわ。

 全く、前に進みませんもの…………。


 ・

 ・

 ・


 日課を終え、シモンさんと無事合流した私達は、ただいまジェスチャーゲームで盛り上がっております。

 出題は私。

 答えるのは皆。

 間違った際のペナルティはなく、兎に角早い者勝ち。

 賞品は、私が作った『プチフール』。

 小ぶりなタルトから、エクレア、シュークリーム等々。

 試作品の味見用に作った『プチシリーズ』で、この日の為に用意した物ではありませんが、歩くだけの暇を潰すために、大放出します。


「では、第3問め」

 皆が見えやすい様に、浮遊魔法を発動し、ある動作を行います。

 優雅に。そして、時々気怠げに。


「う~ん…………カウチソファに座っているのはわかるんだけど」

 惜しい、フェオドール。

「そうですわね。物憂げな表情を鑑みて、恋の詩集を読み、自分と重ね合わせているご令嬢? 」


 カリーヌ、乙女ちっくね!

 ちなみに、正解を答えない限り、私は言葉を発さない様にしています。

 カリーヌが不正解だと知り、ララが元気に手を挙げ、答えた。


「はいっ! カウチソファに横たわりながら、料理レシピを思案しているルイーズっ! 」

「ララ、正解! 難しいかなと思いましたけれど、さすがですわ。では、好きなプチフールを1つ選んで、召し上がれ」


「やった! やりました! 」


 大喜びで、タルトを選び、口に運ぶララは頬を押さえ、ニコニコしている。

 美味しそうに食べてくれる姿は見ていて、嬉しいものがあるわね。

 さて、気を引き締めて、第4問目と行きましょうか。


「お次は、サービス問題とします。いきますよ」


 なるべく皆に食べて欲しいからね。それぞれに馴染みがある問題を出題する事にします。

 まずは、フェオドール用の問題。

 私は宙に浮き、とある動作を行います。元気に、弾ける様に。


 すると、ピンと来たのか、フェオドールが大きく挙手をして答えました。

「わかったっ! ハウンド家の訓練所で、初めて魔法の練習をした時の僕とルイーズだ」

「正解っ! さすが、幼馴染ね。覚えていてくれて嬉しいわ」

「へへっ、色々と思い出深いからね。━━━━えっと、僕はエクレアがいい」

 

 そう言って、私が差し出したプチフールの箱からエクレアを選び取り、口に運ぶフェオドール。

 頬張った瞬間、ふにゃっとした笑顔を浮かべたものの、途端に悲し気な表情に変わった。

 美味しかったのね、一口だったから、物足りないのね。


「フェオドール。まだまだ出題するからね。勝って」

 ぐっと握り拳を作り激励すると、フェオドールはやる気を漲らせて、高らかに宣言した。

「ようしっ! 勝つよぉ」


「では、次のサービス問題」


 次は、カリーヌがわかる問題にしましょうか。

 他のメンバーに比べ、カリーヌと仲良しになって、日は浅い。

 一目瞭然で理解できる問題となると、限られてくる。

 なので、アレにしましょうかね。

 手を振り上げ、力強く、されど滑らかに。


 出した問題が、カリーヌに宛てたものだと理解した皆は、頷き見守っている。

 そして、暫く考え込んだカリーヌは、小さく手を挙げ、おずおずと恥ずかし気に答えた。

「…………あのぉ、自信はありませんが…………『炎の鞭』を練習している私でしょうか? 」

「正解っ! では、好きな物を選んでくださいね」


 差し出した箱から、タルトを選んだカリーヌ。

 口に運ぶのを見守っていると、カリーヌは私を見つめ呟いた。


「えっと、あの。私、あんなに嬉しそうに、鞭を振るっておりますの? 」


 あー。

 何割か増しで、表現はしたものの。

 実際の所は、どうなんだろう?

 自分の姿は見えないからねぇ…………。


「ねぇ、皆。私の出題した時の姿とカリーヌが鞭を練習している時の姿に違いはありました? 」

 なので、第三者からの意見を聞く事に致しました。


 最初に答えてくれたのは、フェオドール。

「う~ん、ルイーズの方は意気揚々としてたけど、カリーヌは恥じらいながらだから………少し違うかな」


 あれ?

 私、意気揚々としてたかしら?

 首を傾げ思案していると、今度はララが答えてくれました。


「そうね。恥じらいながら鞭を振るうカリーヌだから、見ていてニマニマしちゃうのだけれど。ルイーズの場合は………猛獣を手懐けている感じ? 」


 あらぁ?

 猛獣を手懐けるほどとなると、相当険しい顔をしていたのではないのでしょうか。

 由々しき問題と踏まえた私は、顔を手で覆い、グリングリンとマッサージします。

 淑女のスマイル……と呟きながら。

 そんな事をしていると、最後にダリウスが答えてくれました。


「教える側と教えを乞う側の違いでしょうね。ルイーズは手慣れた感じがしますが、カリーヌはまだ硬い。カリーヌが慣れ、一皮むけた暁は、猛獣をも手懐ける鞭使いとなれるでしょう」


 …………?

 ダリウスとララは何か、誤解をしている様子ですわね。

 

「あのね、皆。私、猛獣使いにしたいが為、カリーヌに鞭を教えている訳ではないのよ」


 ハッとした後、視線を逸らすララとダリウス。

 そして、2人は互いを見遣り、ニヤリと微笑んだ。

 こ、この2人はっ!

 私を弄んだのねっ!

 

 そんなやり取りを見ていたシモンさんが、プッと吹き出し笑い始めた。

「ハハハッ。嬢ちゃんが弄ばれているっ。いや、正確には嬢ちゃん達か━━━━フハハ」


 シモンさん、笑い過ぎです。

 私はともかく、カリーヌが…………。

 あら? いたたまれず、恥じらっているのかと思いきや。

 力強くロッドを振りまわしております。


「ふんっ、ふんっですわっ! 恥じらってばかりでは成長致しません。私も一皮むいて、立派な猛獣使いとなるのですわっ! ふんっ! 」


 っつ!!

 わぁぁぁーーーーーーっつ!!

 カリーヌがっ!

 純真で、乙女ちっくで、根っからのご令嬢が。

 荒ぶっているーーーっ!!


「返してっ、前のカリーヌを返して! 」

 そう言って、非難する私をよそに。

「進化しちゃったね」「早かったわね」「きっかけさえあれば、進化は時間の問題だったからね」

 皆は淡々と言葉を告げた。


 つまり、なるべくとしてなったという事なの?

 辛い現実を目の当たりにして、意気消沈した私。


「も、もう、前のカリーヌは戻ってこないのね………………」

 

 したがって、ジェスチャーゲームは続行不可能となり、お開きとなりました。


「アハハハハハッ━━━━」


 シモンさん、笑い過ぎです。

 

 ・

 ・

 ・


 右を見ても、木。左を見ても、木。

 そう、ここは森。

 ぶつぶつと不満を言って、ふてくされていた私ですが。

 時間の経過とともに、またもや暇を持て余している。


 時折、森の中を駆けて行く冒険者の方々。

 その背後に付いて行ってしまおうかと考えたりもしましたが。

 ここは、我慢。だって、父様が目を光らせておりますもの。


「ねぇ、私達もEランクに上がったでしょう。だから、ダリウスとパーティが組めるじゃない? なので、パーティ名を考えましょう! 」


 冒険者がパーティを組む時の規約として。

 ランク差は1つまでとする、となっていた。

 高ランク冒険者のパーティに新人が入るのを未然に防ぐためであり、無闇に命を散らすことが無いよう、こういった規約があるのだろう。

 新人が高ランク冒険者に守ってもらう分は、心強いかもしれない。

 だが、魔物との戦闘に置いて、必ず守れるという保証はどこにもないのだから。

 

 現在、ダリウスはDランク冒険者。

 つい最近登録したばかりの私達は、Gランクの薬草採取を頑張り、Fランクのスライムエキス採取を黙々とこなした。

 そして、念願のEランク冒険者となったのだ。

 ランク差は1つ。これで、パーティが組めるって寸法よ。


「そうだね~赤狼仮面や金狼仮面が『オオカミ戦隊・六聖仮面』だから、似たものにする? 」


 父様達と似た名ね……。

 名によっては、採用しないでもない。

 真似をしたなんて知ったら、大喜びしそうだし。

 なので、発言者フェオドールに問い返す事にしました。


「例えば? 」

「『カンフー戦隊・五聖仮面』とか? 」


 …………。


「フェオドール…………真面目に考えて。皆もよ。あっ、良い案を出してくれた者には、先ほど余った『プチフール』を全部差し上げるわ! 」


「「「「「やったーーっ!! 」」」」」


「えっ!? シモンさんも参加されるのですか? 」

 皆に交じって、手を挙げ喜ぶシモンさん。

「いいか? 」

「もちろん。良い名を付けて下さるのでしたら、大歓迎ですわ」

「おお、良かった。その菓子、美味そうだったからな」

 ふふ、シモンさんも菓子に釣られましたか。

 では、是非とも良い名を付けて『プチフール』を召し上がってくださいな。


「ぐぬぬ。シモンさんがライバルなんだね。僕の『ぷちふーる』は渡さないよ」

「ふふふ、正々堂々と勝負だっ! 」


 参入者であり、最も良い名を付けてくれそうなシモンさんを前にして、メラメラと闘志を燃やし始めるフェオドール。

 なんでも良いから、色んな案を出して下さい。

 話が進まないんでね。


「では、『赤い獅子』」

 赤は何処から来た? えっ、私の髪?

「『魔術師軍団』」

 魔術師以外も居ますが? えっ、大した問題ではない?

「『ちーと貴族』! 」

 確かに、攻略対象者である2人はチートでしょうが、チートでない方もいますのよ。

 えっ、私にかかれば、皆チートですって?

「『影の撲滅者』」

 物騒な名ですわね。ええっ、私のイメージで名付けたですって? もっ、もう、笑い事ではありませんわよ。

「『光の救世主』」

 先ほどとは真逆ですわね。ふむ…………第一案として、心にとどめておきましょう。

「『猛獣使い』」

 先ほどのネタをまだ引っ張るんですの? もう、私のライフはゼロよ。

「『王の盾』」

 騎士団みたいな名ですわ。

「『五色の異端児』」


 …………。


「もう、真面目に考えてくださいなっ」

 

 しかし、彼らはこの後もよくわからないネタを、次々と投下していくのであった。


 ・  ・  ・


 そんな彼らの無尽蔵と思われたネタも尽きかけた矢先。

 これまで無言を貫いていたシモンさんが、やれやれと前に躍り出た。


「面白くないかも知れねぇけどよ」

 そう前置きして、私の顔を窺っている。

 いえ、面白さは求めていないのでお願いします。

 私がコクンと頷いたのを確認して、シモンさんは続けた。

「『紅の煌(あかのきらめき)』なんてどうだ? 」


 紅の煌ですか…………いいんじゃない?!

 私は皆の顔を順に見遣り、反応を確認した。

 私と視線が交わると、コクンと頷き了承してくれる。

 では、決定で宜しいですね。


「私達のパーティ名は『紅の煌』に決定です! さぁ、この名を付けて下さったシモンさんに惜しみない拍手を」

 

 ━━━━パチパチパチッ!


 さて、ここで賞品である『プチフール』をシモンさんに贈呈いたしましょうか。


「シモンさん。この度は素敵な名を付けて下さりありがとうございました。これは、賞品『プチフール』でございます。生ものなどもございますので、本日中にお召し上がりくださいね」

 

 この世界のアイテムバッグは。

 私が初めて製作したアイテムバッグを父様が魔法省へ持ち込み、普及した物なのです。

 ですから、容量は割と少な目であり、時間経過もあります。

 しかし、ここで満足する私ではありません。

 改良に改良を重ねた後、権力(父様)におねだりして手に入れた魔石を用いる事で、時間経過がほぼ無く、容量もたっぷりなアイテムバッグが完成いたしました。

 余談ですが、この大容量、時間経過ほぼ無しアイテムバッグを持っているのは、父様と私だけです。

 他の仲間達のアイテムバッグはというと、それぞれがご家庭で魔石をおねだりして手に入れたものを、納品、制作という手順を組んでおります。

 なので、それぞれ容量と時間経過率が違ってるのですよ。


 たぶん、シモンさんの持つアイテムバッグは市販品。

 ゆえに、生菓子の取り扱いについて、一言添えさせていただきました。


「ありがとよ。へぇ…………11個も残ってるのか。1,2,3━━━━ あちゃぁ、俺の担当だけで11人じゃないか。…………仕方ねぇか、俺は我慢するから、皆で1つずつ食ってくれ」


「いやいやいやいや。シモンさんの賞品ですよ。私達の事はお気になさらず、召し上がってくださいな」

 

 それでも、シモンさんは差し出した箱を引っ込めない。

 どこまで男前なんだよ。それとも子供キラーか。

 この優しくて、頼りになる皆のお兄さんみたいなシモンさんに菓子を食べて貰うには。

 私達はいらないと、明確な意思表示をする必要がありそうです。


「私達は、もうすでに食べてるからいらないわよね? もう1組のパーティの方に1つずつと、残り全部をシモンさんが食べてしまっても問題ないわよね? 」


 こら、名残惜しそうな顔をしないの。

 ダリウスは2つ食べたじゃない。

 他の皆も1つずつ食べたでしょう。


「残念だけど、ここは我慢するよ…………」

「私も」

「私もですわ」

「わかりました」


 うんうん。


「皆も賛成してくださいましたし、あちらの方々と召し上がってきてくださいね」

「そうか。皆、ありがとうな。じゃあ、あっちの奴らと食って来る」

 

 シモンさんは笑顔を振りまきながら皆の頭をポンポンと撫で、もう1組の元へ去って行った。

 銀髪で長身、笑顔が可愛い。

 子供好きなうえ、優しい。

 もしシモンさんがゲームに登場してたら、続編で攻略対象キャラに昇格するパターンだろうな。

 大量発生したファンを落ち着ける為に。


 続編はなかったはず…………。

 私が死んだ後に出たとか言わないでね…………。


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