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楽しい転生  作者: ぱにこ
86/122

56話

 サクラ公国での一件の次の日。

 魔剣シロからヒントを得た私は、放課後居残り課題と称し、ダリウスが装備する最終武器『炎銃フレイ』を、更に進化させた物を作り出そうと試みています。

 ゲーム上の『炎銃フレイ』は、その名の通り貫通力の高い炎の弾をはじき出すのですが、マナの補給は装備者に依存しているのよね。

 だから、MP切れを起こすと、途端に戦力外通告を受け、待機組と交代させられるのです。

 いや、プレイヤーが交代させるのだから、私自身の責任か……。

 ちなみに、戦闘パーティに参加できるのは巫女を入れた4人で、1人待機。

 でも、ゲームとリアルでは違うから、全員で突撃できる。

 MPマナ切れを解消すれば、魔法メインのダリウスも無双出来るって寸法なのです。

 

 しかしながら、これがなかなかに難しい……。

 魔道具の心臓部分である魔石に魔法陣を転写する作業の前の段階、紋様を描く事から躓いています。

 魔法陣とは、各意味を持つ紋様の組み合わせで術が発動する仕組みなのだけれど、その紋様が細か過ぎて訳わかんないの。

 ヒエログリフを書けって言われてるのと同じくらい難解。

 紋様の置き方にも意味があって、間違えると全く違った効果が発動しちゃうし。

 簡単に例えるのなら、掃除機を作ったつもりが送風機になっちゃったって感じかしらね。

  

「お兄様。これはどうでしょう? 」

 描き直した紋様を差し出し、リオネルお兄様にチェックしていただきます。

「う~ん……そうですね。これだと、術者のマナを吸い込み、勝手に術を発動し続けますね。少し危険なので、赤い箱の方へお願いします」


 また駄目かぁ……もう、何度目だろう。

 力なく、紙をクルっと丸めて専用の箱に放り込む。

 描き損じた魔法陣は専用の焼却炉で焼かないといけないんだって。

 これ自体は勝手に発動しないのだけど、この紙を持ってマナを注ぐと━━あら、不思議。術が発動しちゃうんですよね……。

 術が発動し終えると、魔法陣は消えちゃうから使い捨てなんだけど。

 まあ、悪用を避けるための処置という訳です。

 

 新たな紙を机に乗せ、紋様を描こうとするもペンが進みません。

 今回、改めて魔法陣や紋様を見せて貰ったのだけど、この悪魔を召喚するよ的な紋様を前にすると心がざわつく……。

 遺跡の祭壇に描かれた魔法陣との違いがわからないからかな?!


「ルイーズ様? お疲れになりましたか? 」

「あ、いえ。平気です」

「顔色も優れないようですし、今日はこの辺でお止めになってはいかがですか? 」

 

 そうね……リオネルお兄様の助言を聞いて、今日はここまでとしようかしら?

 でも、放課後に割ける時間が少ないから、もう少し粘ってみたい気持ちもある。

 心配そうに顔を覗き込むリオネルお兄様に視線を合わせ告げました。

 

「もう1度だけ描いてみます。これで駄目なら、今日は諦めますわ」

「わかりました。しかし、無理はなさらないでくださいね。魔法省に勤めている者でも、一から魔道具を作り出そうとすれば、途轍もなく時間がかかるのですから」


 これを始める時、魔法省に勤めるリオネルお兄様でも、私が作り出そうとしている物は難しいと仰っていたものね。

 さて、紋様を描きますか━━━━うん?

 ふと、父様とアルノー先生を入れ替わらせたペンダントを思い出す。

 そういえば……あれは、古代文字で書かれた物が血を吸い、発動したのよね。

 血はマナを含んでいるから、きっかけになったのは理解しているけど、古代文字と紋様の違いってなんだろう?!


「お兄様、古代文字と紋様の違いってなんですか? 」

 私の助けになる様にと、使えそうな紋様を選出して下さっているリオネルお兄様に疑問をぶつけると、ふっと笑みを浮かべて━━━━いえ、ニヤリと笑い一気に捲し立てられた。


「良い質問ですね! 結論から言いますと、古代文字と紋様に違いはなく、古代文字を使用するも紋様を使用するも効果は同じと捉えて下さってかまいません。紋様は簡略化されており、この魔法陣に収まる様に作られたもの。この小さな魔法陣に古代文字で効果を記すのは難しいですから。ならば、私達が普段使用している文字を簡略化すれば、古代文字を知らない若い世代にも理解しやすく描きやすくなるのではと思いますよね? 残念ながら、それは効果がありません。古代文字の一文字は複数の意味を持ち━━━━」


 いきいきした表情で、解説を続けるリオネルお兄様……。

 何かが琴線に触れたのね。 


「━━━━更に紋様は、文章になっているのです。これらを順に配置する事によって効果を出そうとする訳ですが、これにも決まりがあるのです。まず、四方の何処から見ても同じ紋様になる様に。そして、中へ向かうに従って続きの効果━━━━」


 ふむふむ。では、現代文字がひらがなで、古代文字は漢字、紋様は四字熟語みたいな解釈でいいのかな?!

 マナを集めて、蓄えておく…………ふむ、マナを漢字で書くとすると……。

 『空気』は違う気がするし、『大気』とか? 大気を集め蓄える。

 『大気集蓄』

 とりあえず書いてみたのはいいけれど、こんな言葉は見たことがない。

 意味が通じる四字熟語を当てはめてみましょうか━━━━『雲合霧集うんごうむしゅう』、『備荒貯蓄びこうちょちく』とかが近いかしらね。

 ふふ、四字熟語で思い出したけれど、小学生の時『焼肉定食』って言うのが定番だったわ。

 焼肉定食かぁ、食べたいな……特に和牛……甘辛いタレがしみ込んだお肉を炭火で焼いて、ホカホカの白いご飯に乗せて食べるの。

 あのお肉と白ご飯の相性は抜群よね。

 

「ルイーズ様? 何を描いてらっしゃるのですか? 見た事もない文字? 紋様? 」


 あ、やばい。

 いつの間にか、お話は終わっていたようです。


「オホホ。これは、ただの落書きですわ」

 本当に落書きなのよ。

 思いついた四字熟語を書きとめた後、焼肉定食と書いただけだもん。

 弁明し、苦笑いを浮かべたまま慌てて紙を丸めようとした私の手を、リオネルお兄様はガシッと掴み取り上げます。

「あっ」

 そして、じっくり吟味し始めた……。


「ほう。意味は分かりませんが、魔法陣として体を成していますね……。危険な物ではなさそうですし、マナを注いでみても宜しいですか? 」

  

 それはやめた方が良いと思ふ。

 思いっきり首を振り拒否するも、リオネルお兄様の目はギラギラと輝いております。

 そして……紙を持ったまま、私から距離を取り、高笑いを上げマナを注ぎ込み(やがり)ました。

  

 ・

 ・

 ・


「うわぁぁぁ」

「ううぉぉぉぉ」


 ━━━━グゥゥッ!!

 ━━━━キュルルル


「ああぁぁぁ」

「おおおぉぉ」


 やばい、なんでっ。

 なんでぇぇぇ、どうしてぇぇぇ。


 ・

 ・

 ・


「はぁはぁ。━━━━お兄様、酷い……」

「はぁはぁ。━━━━私のせいですかっ」

「そうですよ。私は拒否したのに、高笑いまで上げて、マナを注ぎ込んだではありませんかっ」

「こ、こんな事になるとは思っていなかったのですよ」


 私も思っていなかったわ。

 焼肉定食の現物が出るのならまだしも。

 空腹時に、焼肉屋さんを横切るくらいの香りを上げておきながら、食べられないのよ!

 あんまりだわ。

 こんなの拷問と同じよ。

 

「お、お腹空いたぁ……」

「私もです」

 

 焼肉の香りに胃が刺激された私達は、盛大にお腹を鳴らしながら、机に突っ伏した。

 これって香りだけ召喚されたって事なのかなぁ?

 …………。


 空腹を紛らわせるため、ポケットから非常食ビスコッティを取り出す。

「お兄様もどうぞ」

「ありがとうございます、いただきますね━━━━あ、美味しい」

「お兄様、先ほどの魔法陣なのですが」

「はい」

「あれって、香りだけ召喚したって事でしょうか? 」

「あ、もう1ついただけます? 」

「どうぞ」

「ありがとうございます。そうですね……そうとも考えられますし、違うとも言えます」

「それは何故ですか? あ、お茶もどうぞ」


 ビスコッティは口の中の水分が奪われるので、マイ水筒に入れたお茶を勧めながら、リオネルお兄様の考察を聞く。


「無から香りを生み出した可能性と、何処からか召喚した可能性があるからですね」


 ふむ、だとすると。

 焼肉定食の現物が出たとしても、無から生んだのか、召喚してきた物なのかはわからないって事か。

 無から生み出す物なら、気にしなくても良い事なのだけれど、召喚だったとしたら気を付けなきゃいけないわね。

 だって、誰かが注文した物を召喚しちゃうわけでしょう?

 それを勝手に食べちゃったら、無銭飲食になるもの……。


「お兄様。今日はありがとうございました。日も暮れてきましたし、そろそろ戻りますわ」

 水筒をポケットにしまいながら、リオネルお兄様にお別れのご挨拶をいたします。

 早く、女子寮に戻って菓子ではなく、お腹にたまるご飯を食べたい。


「あっ、最後に先ほどの文字? 紋様はなんなのか、教えていただけませんか? 」

「あれは…………」

「あれは? 」

「異世界の文字ですの」

「異世界の文字っ?! 何故、その様な文字を御存じなのですか? 」


 ふふ、リオネルお兄様ったら。綺麗な瞳がポロっと零れ落ちそうなほど、目を見開いていますわ。

 何故、簡単に教えたかというと、シバ男爵家に隠し事をしても意味がないからなの。

 私が転生者だという事は、ケンゾーも師匠も知ってる。魔法省に勤めるシバ男爵もご存じのはず。

 父様の補佐官である一番上のお兄様も知っているだろうし、リオネルお兄様にだけ秘密にしてもねぇ。


「それは、私が転生者ですから」

「ええっ!! 」


 あら、新鮮な反応ね。ケンゾーも師匠も反応が薄かったから、リオネルお兄様の驚きっぷりが小気味いいわ。

 けれど、これ以上話を長引かせる訳にもいかない。

 

「お聞きになりたい事は、次回に持ち越しで宜しいですか? もう、これ以上の空腹には耐えられませんの」

「そうですね。私も、何か食べないと持ちそうにありません。では、次回に持ち越しという事で」

「それでは、お兄様。ごきげんよう」

「はい。気を付けてお帰り下さいね」


 優雅に美しいカーテシーで締め括り、リオネルお兄様と別れた私は、女子寮へ猛ダッシュですよ。

 とにかく肉、今日は何が何でも、肉が食べたいっ!


 ・

 ・

 ・


 翌日。

 剣術科の授業を受けている私は、模擬戦相手であるフェオドールに昨日の出来事を話していた。


「ふふっ、僕もその香りを嗅いでみたいかも! ━━━━っつ、なかなか素早いねっ! 」


 フェオドールは自分の身長と同じくらいの大きさがある木剣をいとも容易く扱っている。

 ゲーム上、フェオドールの最終武器は『大剣シグルズ』と『双剣カストル』の2種類があった。

 これは、レベルUPの時に、振り分けるパラメーターによって持てる武器が変わる仕様だったため。

 力と体力に振り分ければ、大剣使いになり、器用さと俊敏さに振り分ければ、双剣使いになる。

 ちなみに、ダリウスの武器も、もう1種類ありますが、私的趣味にそぐわず却下したのよね。

 だって、洋風イケメンに錫杖は似合わなかったんだもの。


 フェオドールの攻撃を晒しつつ、隙を探す。

 大剣は動きが大ぶりなせいで、隙が生まれやすいものなんだけれど……。

 フェオドール自身も子供なもんだから、大剣が大盾の役割を担っている。

 隙がない。俊敏さを生かし、後ろに回り込むしかないわね。


「━━あれは、暴力的な香りよっ。一度、嗅いだら最後。お肉を食べるまで、グールの様に彷徨う羽目になるわっ! ━━━━やあっ! 」

「甘いっ! 」


 ━━━━カッ!


 ちぇっ。

 フェオドールは自身が移動して、大剣の後ろに回った。器用ね! 最小限の動作で攻撃を弾くだなんて。

 しかし、フェオドールも強くなってるわ。これは、うかうかしていたら追い越されちゃうかも。

 自主練を増やそうかしら?

 そんな事を考えつつ、次の攻撃に移ろうとした瞬間。

 

「はい、これまでっ! 両者、礼! 」

 審判役のケンゾーが、時間終了を告げた。

 模擬戦は1組当たり、5分程度の時間で行われる。

 終了を告げられたら、次の生徒と入れ替わる為、素早く移動しなければならない。

 フェオドールと向き合い礼をとる。


「ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 

 そして、観客席の方に戻り、椅子に座って人心地ついてると、ケンゾーが汗拭き用の手拭いを持ってきてくれた。


「どうぞ。フェオドール様もこちらを」

「ありがとう、ケンゾー」「ありがとう」


 汗を拭きながら、スポーツドリンクもどきで喉を潤していると、フェオドールが先ほどの話の続きをしてきた。

「ねぇ、ルイーズ、。さっきの話の続きだけどさ。お肉を目の前に置いて、匂いだけ出すってのはどう? 」

 っ、目の前に肉を置いて香りを出すですってぇ!

 それだと、昨日の様に、のたうち回らなくてもいいって事じゃないっ。

「フェオドール…………天才なの? 素晴らしい案よっ! 」

 思わず立ち上がり称賛してしまったわ。

「へへっ」

 はにかみ微笑むフェオドール。

「どうせなら、炭でお肉を焼いた方が本格的よね。…………街の外で、焼肉パーティってどうかしら? そうね、次のお休みの日にでも」

 寮内で火を熾すなんて出来ないだろうし、煙の心配をしなくてもいい場所となると、街の外しかない。

「いいね! じゃあ、僕。ダリウスに声を掛けておくね」

「ええ、お願い。ララとカリーヌには、私から声を掛けておくわ」


 その時、殿下の顔が脳裏を掠めた。

 甘い物が好きで私の作った物を喜んで食べてくださるけど、外で焼肉ってのはどうなのかしら?

 殿下の為に、銀食器を揃えて、テーブルや椅子、クロスを草原に設置する…………。

 想像だけで、面倒くさっ。


「ねぇ、フェオドール。殿下にもお声を掛けた方がいいかしら? 」

 こういった場合、どうすればいいのか。どうする事が正しいのか分からず、フェオドールに聞いてみる事にしました。

「う~ん……お誘いしたとしても、参加するかどうかは殿下が決められるだろうし……僕から、お声を掛けてみるよ」

 

 そうね、お誘いしたとしても来て下さるかどうかはわからないし。

 こんな下品な物、とか。野蛮だな、とかは仰らないだろうけれど……。

 王族に召し上がっていただくには、些か品がないのも事実。

 まぁ、来てくださるのなら、最大限のおもてなしをするとしますか。


「フェオドール、お願いするわ。それはともかく、お肉とおにぎりで良い? 」

 アツアツの白ご飯を用意するのは無理だから、おにぎりで我慢して貰おう。

「えっ! おにぎり?! じゃあ、僕。唐揚げが入ったのがいい」

 お、変わり種として作ってみた唐揚げおにぎりを希望しますか。

 フェオドールったら、本当に唐揚げが好きよね。

 でも、しっかり味のついたお肉と唐揚げおにぎりって合うのかしら?


「お肉にしっかり味が付いているから、塩むすびにしようかと思ったのだけれど……わかったわ。フェオドールが食べたいというのなら、たくさん作ってくるわね」

「うん、ありがとう」

「後は、お野菜と、口直しにその場でアイスクリームでも作りましょうか? 」

「いいねっ! 」

 

 焼肉パーティの話で盛り上がり、きゃっきゃっと手を合わせ、飛び跳ねている私達を見たケンゾーが、不思議そうな顔をして「なんのお話ですか? 」と尋ねてきた。

 模擬戦の間、割と大きな声で話してたのだけれど、聞こえていなかったのね。

 なので、昨日あった出来事を事細かくケンゾーに説明する事にしました。

 リオネルお兄様のやんちゃぷりを強調しつつ。


 すると、ケンゾーの顔がみるみる赤くなり、「リオネル兄様めぇっ」と叫び、駆けて行ってしまいました。

「いってらっしゃい」

 手を振り、ケンゾーの背中を見送った私は、一仕事終えた様な満足感を味わいながら、椅子に腰かけました。

「いいの? 」

「いいのよ。仲良し兄弟の喧嘩は犬も食わないって言うでしょう」

「??…………意味がわからないけど、ルイーズがそう言うなら、いいかぁ」

「そうそう」

「ねぇ、ルイーズ。ダリウスの武器の次は、僕の武器を作ってくれるんだよね? 」 

 切り替えの早いフェオドールは、違う話を持ち出してきました。

 フェオドールの武器かぁ。


「フェオドールの武器って大剣でしょう? 私、剣を作る事は出来ないから、すぐには無理かも」

「ええぇぇぇっ。じゃあ、ダリウスだけ? ずるい」


 ぷくっと頬を膨らませて拗ねるフェオドール。

 ずるいって言われても、出来ないんだよ。ごめんね。

 ダリウスの武器は銃を模してるけど、見た目だけでいい。

 要は、魔道具の心臓部分さえ完成すれば、水鉄砲くらいチープな物でいいのよ。

 しかし、大剣はそうもいかない。しっかりと作り上げられた剣を改造する事は出来るけど。


「ねぇ、フェオドール。改造は出来るから、しっかりとした大剣を手に入れた後では駄目? 」

「改造は出来るの? 」

「ええ」

 私がそう答えると、フェオドールはスッと立ち上がり、「わかったっ! 手に入れてくる」と、返事をして駆けて行ってしまいました。


 まだ、授業中だって言うのに…………この自由人達めっ。

 先生になんて言い訳すればいいのよ。


 ・

 ・

 ・


 剣術科の先生に厳重注意を受けた私は、重い足取りを引きずり女子寮へと戻って参りました。

 事の発端が私だから、叱られても仕方がないんだけどね……。

 口は災いの元。気を付けましょう。


「ただいま、ナタリー。何か変わった事はなかった? 」

「お嬢様、お帰りなさいませ。先ほど、リオネル・シバ様よりお届け物がございました」

「うん? リオネルお兄様から? 何が届けられていたの? 」

「こちらです」

 そう言って、手渡してくれたのは豪華な花束とカード。

 私は花束をナタリーに渡し、カードを読んでみる事にしました。

 

『親愛なるルイーズ・ハウンド様へ

 貴方と過ごす時間は私にとって、かけがいのないものとなっております。

 次は、貴方といつ会えるのでしょうか?

 早く会いたい。


 リオネル・シバより


 追伸:今日もケンゾーが会いに来てくれました』


 カードを覗き込んだナタリーがワナワナと震えている。

「こ、これはっ! 恋文っ」

「違う違う。これは、私と会った次の日は、必ずケンゾーが会いに行くから、そのお礼」

「へっ? 」

 

 余計な勘違いをされて、父様に報告されても困るし。

 意味がよくわかっていないナタリーに詳しく説明する事にしました。

 リオネルお兄様はケンゾーが大好きな事。

 昔の様に甘えて欲しい事。

 話したくても、年に数回程度しか会えない現状を打破するため、ケンゾーが会いに行くのを見越して、私が大袈裟に言ってる事を伝えました。

 すると、私の言葉をどう解釈したのか? ナタリーが目に涙を浮かべている。

「すれ違った兄弟の絆を、再び結んで差し上げるなんて……お嬢様は、なんてお優しい方なのでしょう」

 違うともそうとも言えるけど、なんか違うのは確か。ううっ、もやもやする。

「ナタリー、お願い。泣かないで」

 慰めようとすると、更に泣きじゃくるナタリーを前にして、私は途方に暮れる。


 そして、ナタリーが泣き止むまで、私は背中をさすり続けたのでした。

 ああ、疲れた。

 ベッドにダイブして、今日あった出来事を振り返る。

 フェオドールは、あれからどうしたのかしら?良い大剣は見つかったかな。

 ケンゾーとリオネルお兄様は…………きっと平常通りね。

 後は、焼肉パーティに向けてタレを仕込んでおかないと。

 醤油、ニンニク、生姜、甘味に梨の様な果物を擦りおろして……あ、リンゴでもいいのよ。

 前世、通い詰めた焼肉屋さんのタレが梨を使用していたから、マネするだけ。

 他に必要な材料は……ゴマにごま油と唐辛子。

 全部、似た様な物しかないけれど、平気でしょう。


 …………………………。


 っ!!


 今、気付いたけど、焼肉を前にして、焼肉の香りって必要っ?!

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