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楽しい転生  作者: ぱにこ
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54話

 訓練所の一角には、サクラおばあ様から賜った宝珠が大切に設置されている。

 宝珠を手にした当初は、1人しか転移が出来ないものと思い込んでいたのですが、どうも違ったようです。

 それを知ったのは、後追いの激しかったぴよたろうが飛びついてきて、一緒にサクラ公国へ転移してしまった時です。

 そこで、私は検証する事にしました。

 何人で移動できるのか。

 どういう風にすれば、まとめて転移できるのか。

 色々試行錯誤の末、わかったのが。

 マナを注ぐ人間に少しでも触れていれば何人でもいいという事でした。

 大人数で転移できるなら、広い場所の方がいいわね!と提案したところ、防犯面にも優れ、大人数が入れる訓練所が宝珠の置き場所に決まったのです。


 そして、休日のある日。

 一時帰宅した私とケンゾーは、ぴよたろう、ジョゼを連れサクラ公国へ遊びに行こうと宝珠の前に集まっていました。


「ひさしぶりだから、わくわくするね~」

【コッコ】

「ジョゼ坊ちゃま、ぴよたろう。本日は、前回食べられなかった『くしだんご』というお店にもう一度いってみませんか? 」

「いいね、行こう、行こう。前回は売り切れで食べられなかったもんね」

「そうです。折角、行列に並んだというのに買えませんでしたからね……私は、売り切れが告げられた時の絶望に彩られた表情、憔悴しきって食欲までなくされてしまったお嬢様の姿が、今でも頭から離れません……」

【コッコ……】

「こら!私はそんな絶望に彩られた顔なんてしてないわよっ。ちょっと、残念だなぁって思っただけなのっ。それと、串団子の口になっていたから、他の物は欲しくなかっただけなのっ」

「ふふ、姉さま。今日はたくさん『くしだんご』を食べようね」

【ココーッ】

「え、ええ、たくさん食べましょうね」

「フフフ」

 

 ニヤケるケンゾーは後でお仕置きをするとして、宝珠に注ぎ込む全属性のマナを練る作業を続けます。

 全属性を満遍なく練る必要がある為、時間がかかるのが難点なのです。

 よっと、よし!宝珠に注ぐマナの準備が整いました。

 はしゃぐジョゼとぴよたろうを手招きで呼び寄せると、私目掛けて飛びついて来た。


「では、マナを注ぐから引っ付いていてね。……ぴよたろう、引っ付いていればいいと言っても、髪は食まないでね。ジョゼも首が締まっているから、もう少し緩めてくれない? 」

「は~い【ココ】」


 ガッチリ引っ付いているジョゼとぴよたろう。

 そして、ケンゾーが肩に触れるのを確認して、宝珠にマナを注いだ。

 瞬間、眩い光が眼前を覆い尽くし、浮遊感を感じる。

 うんうん、何度も行き来して慣れた転移の瞬間。


 だったのに……。

  

「「「うわぁぁ【ココォォー】」」」

 ━━━━ドンッ! ドサッ! ゴロゴロ……ガツッ!


「いたっ! 」「いたたぁ」「うわっ! 」【ココッゴッ】


 なっ、なになにっ?!


「へっ、真っ暗じゃない! ここどこ?! 」

 暗闇に戸惑いつつ立ち上ろうとするものの、足元には金属片?が積み重なっているらしく、崩れ落ちそうになる。

 うぉっ、無闇に立ち上がったりしない方がいいわね。

 明かりを付けるのは後回しにして、皆の安否を確かめようと声を掛けました。


「みんな、無事? 」

「はい、無事です」

「だいじょうぶだよ」

【コッコ】


 良かったーー!!

 でも、ここがサクラおばあ様の屋敷でないのは確実。

 なので、用心に越したことはないと、ケンゾーに周辺の気配を探ってもらう事にした。

 

「ケンゾー、近くに人や敵意のある生き物の気配はする? 」

「いえ、人も生き物の気配はありません」


 警戒を解き、『ライト』を発動する。

 そして、目の前に現れた光景は……。

 息を呑むほどに美しい金銀財宝の数々でした。

 

「うわぁぁー」

「すごい……」

【ココー】

「……ここは宝物庫ではないでしょうか? 」

「宝物庫? 」

「ええ、これほどまで希少価値の高そうな宝飾品や装飾品。武器に金貨や白金貨を積み上げているとなると、王城の宝物庫くらいしか思い当たらないのです」


 確かに……。

 初めは盗まれた宝珠が、盗賊団のアジトにでもあるのかと思ったけれど。

 盗賊団がこれだけ希少価値の高い宝物を抱え込んでいるはずはないわね。

 それに、当主の屋敷へ泥棒に入ったら、隠密部隊が黙ってはいないだろう。

 シャキーンと切り刻まれるのがオチだもの。


 金銀財宝の山に飲み込まれそうになっている宝珠を慌てて確保した後、私達は珍しい物はないかと漁ってみる事にしました。

 だって、外側から施錠されていて出れそうにないんだもの。


「姉さまーっ、見てみて」

「ぷふっ、ジョゼったら、ぴよたろうになんて恰好をさせているの」

 

 ぴよたろうの鶏冠にティアラを乗せ、宝石が散りばめられた腕輪を指輪のつもりで爪に嵌めている。

 そして誇らしげに立つぴよたろうの姿ったら、可愛いやらおかしいやらで思わず吹き出してしまった。


「ねぇ、可愛いでしょう」

【コッコ! 】

「ええ、可愛いし、格好いいわよ」

【ココォ】

 

 格好いいと言われ、ご満悦なぴよたろうはジョゼの飾りつけを始めた。

 足元にある首飾りを器用に咥え、ジョゼの頭にせっせと乗せている。


「もう、ぴよたろうったら、これは女の人が着けるやつだよ」

【ココ……】


 いや、ジョゼさんや。

 ティアラをぴよたろうに乗せた君が言ってはいけないよ。

 可愛いジョゼに心の中で突っ込みを入れていると、一回りして戻って来たケンゾーが話しかけてきた。

 

「お嬢様」

「なに? 」

「ここが王城の宝物庫だとして。なぜ、希少価値の高そうな物が無造作に山積みされているのでしょう? 」

「そうよね~それは、私も思ったわ。金貨や白金貨などは袋に入れておくだろうし、武器や装飾品の数々も専用の入れ物で保管するわよね」


 我が家の貴重品専用の部屋にある装飾品や武器などは、綺麗に並べられ、時折磨かれたりしながら大切に保管しているし、貨幣は枚数を揃え、袋に入れて管理しているもの。

 王城の宝物庫ってこういうものなのかも知れないけれど、宝珠がここにある時点でおかしい。 


「姉さま~これにさわると、頭がクラクラするぅ」

「「えっ!!」」


 私とケンゾーが驚き振り向くとジョゼは短剣を手にしてふらふらしていた。

 っつ!!


 ━━━━バシッ!

 私は咄嗟に駆け出し短剣を叩き落とした。

 同じく、駆け出したケンゾーはふらつくジョゼを支えた。


「大丈夫? ジョゼ。気分が悪いとか、頭が痛いとか、少しでもおかしなところがあったら、言ってね」

「坊ちゃま……」

【ココ……】

「う~ん……だいじょうぶみたい。へへ」

 身を案じる私達を安心させるように、ジョゼは()()()()で見せてくれる。

 可愛いっ!

 胸を撫で下ろし、叩き落とした短剣に目を向けると。

 ぴよたろうが直接触れない様、首飾りに引っ掛け、目の前に差し出してくれた。

 器用ね……。

「ジョゼが無事で良かったわ……にしても、この短剣はなんなのかしら? 禍々しい雰囲気はしないし。それに、これと同じように魔力を帯びている物って、他にいくらでもあるもの……」


 魔石を嵌め込んだ装飾品や武器、魔道具もこれと同じように魔力を帯びている。

 これが特別おかしいという点は見当たらない。

 

「触れてみようかしら?! 」

「いけませんっ!! あ…………」

 私がそう呟いた瞬間、ケンゾーが短剣を奪うように手に取ると貧血を起こしたかのように、倒れてしまった。


 ━━ドサッ!


「ケンゾー? 大丈夫? しっかりして」

 ケンゾーの安否を確かめる為、顔をぺちぺちと叩いてみる事にした。

 そうね、コットンにたっぷりと沁み込ませた化粧水を肌の奥までいきわたらせる様。

 それはもう、優しく、軽やかに。

 

 ━━ぺちぺち、ぺちぺち、ぺちぺち………………ぺちぺち……


「い、いい、いい加減にしてくださいっ」

 ケンゾーは叩かれて血行が良くなったピンク色の頬に手を当て、ぶつくさ言っている……。

「そう? じゃあ、これくらいにしておくわ。それで、何かわかった? 」

「いえ……あ、いえ。しかし…………」

「なによ、気が付いたことがあるなら、言ってみなさい。些細な事でもこの短剣の謎の取っ掛かりになるかも知れないでしょう?! 」

 何か言い淀んでいたケンゾーだが、こう感じる私もおかしいとは思うのですがと前置きして話し始めた。


「……この短剣、弱っているように感じます」

「はぁ?! あっ、ごめんなさい。続けて」

 あまりに荒唐無稽な事を言い出すから驚いちゃったわよ。

 謝罪して、話を続ける様に促します。

「……今にも力尽きようとしている。そう感じたのです」

「…………ふ~む」


 腕を組み、考えますが……短剣が弱るとか、よくわからん。

 切れ味が戻る様に研げばいいのでしょうか?

 魔石が埋め込まれていると考えると、魔道具の一つだから、魔力不足かな?!

 ふむ。ならば、話は簡単だ。

 弱ってるんだったら回復すればいいんじゃね? と思い提案してみる事にしました。

 

「じゃあ、マナを補充したら生き返るかな? ……違うわね。瀕死って感じなのだから、死の淵から舞い戻る?! …………」

「「【…………】」」


 皆して、首を傾げて、そうなの?って顔しないでよ……。

 自信がなくなるじゃない。

 まぁ、いいわ。

 気を取り直し、短剣に目を向け、霞がかった程度に残るマナの種類を確かめます。

 あら?この短剣。

 よく見ると全属性のマナを必要としてるじゃない……。

 …………あっ! 私、わかっちゃった。

 何故、宝珠がここにあるのかを。


「みんな、よく聞いて。この短剣に注ぐマナは全属性なの。ケンゾーは先ほど、この短剣が弱っているように感じたと言ったわね」

「はい」

「では、宝珠に注ぐマナの種類は? 」

「全属性ですね」

「そうね。全属性を必要とする宝珠に、全属性を必要としているこの怪しい短剣。この2つの共通点は『全属性』なの」

「「おおーーっ【コッコォーーッ】」」


 ノリのいい皆の拍手と歓声を貰って、気を良くした私は得意気に話を続けます。


「ここで、先ほどケンゾーが言った言葉を思い出してみて。そう、弱っていると言ったわよね。では、この短剣に何かしらの意識があると仮定して考えてみましょう」

「あ、弱った短剣が助けてを求めて、宝珠をここに置いた。もしくは置かせた」

「そう! ケンゾー、なかなか冴えてるわね。宝珠が使える人間なら、宝珠を使い転移してくる。ならば、傍に置き、その人間が来た時にマナを補充して貰おうと考えたのよ。この、短剣は……」


 ここまで言っておいてなんだけど。

 怪しすぎる……。

 それは皆も同じなのか、訝し気な表情をしている。

「「「【…………】」」」

 

 そして、私は決断した。

「ぴよたろう、この短剣を石化しちゃいなさい」

【コッコ】

 こくんと頷いたぴよたろうは、短剣に向かって石化の魔眼を発動した。

 が…………。


『ひぇぇえぇーー』という叫び声と共に、短剣が逃げた。

 え? 何を言ってるのかわからない?

 ええ、私もよ。

 …………。


「ねぇ、ケンゾー。私、夢でも見ているのかしら? ? 今、とても不気味な光景を見ているの」

「…………はっ!!もしや、この空間には夢を見せる薬剤が振りまかれているのやも知れません。お嬢様、これで口を覆ってください」

 そう言って、ケンゾーは綺麗なハンカチを手渡してきた。

「ありがとう。とりあえず使ってみるわね」

「姉さま~あれ、きもちわるい……」

「ジョゼ、姉様も同じ気持ちよ」

【コッコ……】

「ぴよたろう……そうね。ありえない光景ね」


 金貨や白金貨の山の中に埋もれようと、もがく短剣。

 下手に触れる訳にもいかないし、どうしたものかと悩んでいると。


 ━━バンッ!

「おまたせーーっ!! 」

 盛大に扉を開け放つ音を立て、ナギがやって来た。

 グッドタイミングなのか、バッドタイミングなのかはわからないけれど、ようやく!この空間から、解放されると、皆が喜び勇んで駆け寄った。


「ナギ、遅かったじゃない。気持ち悪いものがあって、心が折れそうになってたわ」

「ごめん、ルイーズ。ここ、王城だからさ、手続きが面倒で遅くなっちゃった」

「ナギ兄さま、おひさしぶりです」

「おお、ジョゼも暫く見ない内に、大きくなったね」

「へへ」

【コッコゥ】

「ぴよたろうは、各段と大きくなった?! 頼もしい」

【ココ】

「よっ、ケンゾー」

「よっ、ナギ」

 ケンゾーとナギは拳と拳を当て、短く挨拶をした。

 男の子の挨拶って、どの世界も変わらないわね。


「さて、ナギが迎えに来てくれたし、サクラおばあ様の屋敷に戻りましょう」

「そうですね。もう、ここに居たくありませんし、向かいましょう」

「うんうん、あのきもちわるいのから、早くにげたい」

【コホゥ】

 

 ━━ガシャン

 ジョゼの手を取り、いそいそと出ようとしていたら、金貨や白金貨の山が崩れ落ち、音をあげた。


「ジョゼ、振り向いてはいけないわよ」

「うん」

「お嬢様、お急ぎください。ぴよたろう、私が殿しんがりを務めるから、お嬢様とジョゼ坊ちゃまをお守りしろ」

【コッコ】


 覚悟を決めたケンゾーが私達を逃がそうと、扉の前を立ち塞いだ。

 

「ケンゾー。貴方がいないと、困ってしまうから、駄目だと思ったら逃げるのよ」

「はい、お嬢様のお世話は私しか務まりませんので、無事戻るとお約束いたします」


 何故か、死亡フラグっぽいセリフを吐くケンゾー。

 駄目だ、不安しか感じなくなった。


「いやいやいやいや。みんな待って、落ち着こうよ」

 この緊迫した状況に似つかわしくない言葉を吐くナギに、私は苛立ちを覚える。

 ケンゾーの決死の覚悟が水の泡じゃない。

「ナギ。何を待つというの? あの気持ち悪い短剣が近付いて来ているかも知れないのよ」

「いやいや、ルイーズ。あの短剣にマナを注いであげてよ」

「嫌よ」

 拒否する私を見て、ナギが笑い堪えている。

 何故、笑う……。


「わかった、説明するよ。そもそも、あの短剣は初代巫女様が身に着けていた物で国宝として大切に保管されていたんだ」


「「「【…………】」」」


 相槌すら打たない私達を見て、ナギは話を続けた。

「でもね最近、公王様の夢枕に夜な夜な、あの短剣が現れて『力を』と呟くもんだから、睡眠不足が続いちゃって、ほとほと困り果てた末に、姉である当主様に相談したんだ。そこで短剣に力を注ぐ必要があるのなら、ルイーズに頼むのが一番だと当主様が思い至ったんだよ」


 迷惑な短剣ね!というのが素直な感想よ。

 夜な夜な夢枕に立たれて、睡眠の邪魔をされたら堪らないわ。


「それで? 」

「あの短剣に触れると、気分が悪くなったり、目眩がしたりするだろう? 」

「ええ」

「だから、短剣は移動できない。なら、宝珠をここに持ってきたらどうだろうと提案したのが、俺」

 お前が元凶かっ!!

「宝珠を移動しなくても、屋敷に来た私に説明して、ここに連れてくれば良かったんじゃない?! 」

「ハハハ。そう、その通り。でも、ここに直接転移させた方が面白そうだったし」

 やっぱりかぁ、そんな事だろうとは思ったよ。

 ふぅと深い溜息を吐き、呆れた視線をナギに投げつけた。

 他の皆も同様に、呆れた顔をしている。


「理由は分かったわ。きっと、この無造作に置かれた宝の山も、ナギが言って作らせたんでしょう? 」

「うん。なんだっけ? ルイーズが聞かせてくれた盗賊が出る話のやつ。あれを参考にしてみた」

 うんうん、童話に出てくる宝の山にそっくりだものね。


「でも、マナは補充しないわよ。気持ち悪いもの」

「ええ~っ、補充してあげなよ。公王様が困ってらっしゃるんだよ」

「無理ね。そもそも、独りでに動く短剣に力を与えたら、もっと煩く夢枕に立つかもしれないわよ」

『そんなぁ、力を頂けたら大人しくしておりますからぁ』


「「「「【…………】」」」」


「ほら、気持ち悪いでしょう? 」

「そうだね。止めとこう。これは、俺たちの手に余る」

「行きましょうか」

「「「うん【ココ】」」」


『待ってくださいぃ。こう見えて私、ただの短剣ではありません』

 縋り付くように、ただの短剣ではないと言う時点で、ただの短剣ではないわよ。

 冷ややかな目で短剣を見つめる一同に、怖気づいたのか短剣が数歩?後退った。


『私、自分で攻撃も防御も出来るんです。旅のお供にして頂ければ、お役に立てるとお約束しますぅ』

 尻すぼみ気味に自分アピールをしてくる短剣。

 それくらいで、旅のお供にしようとは考えないわよ。

 こっちには可愛くて大活躍してくれるぴよたろうもいるのよ。

 可愛い枠ではジョゼとぴよたろうが担ってくれるし、頼もしい枠では全員が担当している!

 気持ち悪い枠は募集していないわっ。


「触れた者に目眩を起こさせたり、意識を奪う短剣が何に役立つというのかしら? 」


『それは……私の意志とは関係なく、勝手に力を吸い込もうとしてしまうんですぅ。力が溢れている状態だと持ち主に危害を加えたりしません。そもそも、私は世界に漂うマナを勝手に吸収して使用するタイプだったのに、マナを吸収する事も叶わない棺の様な箱に閉じ込められてしまったのです……』


 自動でマナを吸収する事が出来て、攻撃、防御が出来る。

 う~ん、もう一声欲しいわね。

「他に出来る事はないの? 」


『……あっ! この世界にある魔法なら、どれも発動可能です! 』

「回復魔法も? 飛行魔法も? 」

『回復魔法は知っていますが、飛行魔法とはなんでしょう? 』

「こういうのよ」

 そう言って、宝物庫の中で低空飛行してみせました。

「これよ。この魔法を持ち主と一緒に出来るかしら? 」

 短剣は、暫く考え込み、結論を出した。

『出来ると思います。今は、マナ不足で無理ですが……可能です』


 ふむ、いいわね。

 ならば。

「ナギのお供にどうかしら? 」

「えっ! 俺? 」

 何をそんなに驚いているの?

 ナギは邪神に身を捧げたせいか、闇魔法しか使えないし。

 回復魔法も飛行魔法も使えて、他の魔法もいけるのなら、安全じゃないね。

「そうよ、回復魔法も使えて飛べるのよ。マナも一度補充してあげれば、勝手に補充するそうだし。冒険者のお供として、きっと役立ってくれるわよ。あっ、でも、駄目ね。この短剣は国宝なのでしょう?! 短剣さん、ごめんなさい。お供に出来ないのなら、マナの補充は諦めて」

 

 国宝を持ち出して、勝手に使う訳にはいかないもの。

 なので、短剣に現実を告げる。


『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!! 』

 すると、宝物庫の中に短剣の絶叫が響き渡った。

「落ち着いて、短剣さん。一度、マナを補充したところで、また箱に入れられ、大切に保管されてしまうのよ」

『いやよ。箱詰めはもう嫌……私は旅をしたいの。サクラちゃんと一緒に旅をしたあの時みたいに……』


 サクラちゃんか……初代巫女様のお供だったんだものね。

 う~ん、邪神の事にしても、他の知識にしてもこの短剣は色々知っていそうね。

 色んなお話を聞いてみたいのは山々だけれど。


「ねぇ、ナギ。公王様から、この短剣を貰い受ける事って出来そう? 」

「う~ん、どうだろう?! おばあさんに口添えして貰えば出来るかも知れない」

「なら、頑張ってナギの物にしてね! いくわよ! 」


 全属性のマナを、これでもかというくらいに込めて練り上げる。

 そして、そのマナを短剣に注いだ。

 …………えっ、足りていない?

 しゅるんと簡単に吸い込まれてしまったマナを見て、足りないのかと不安になる。

 これ以上は無理よ、帰れなくなるもの。


『うわぁ~~~凄いですぅ。ここまで力強いマナは初めてですぅ。力が溢れて来る。あっ、先ほど見せていただいた飛行魔法も、今なら可能ですよ』

 

 良かった。足りないと思ったのは杞憂だったみたいね。

 

「姉さま、姉さま、とべるんだって。もう、手にとってもふらふらしないんでしょう? もってみてもいい? 」

 はしゃぐジョゼにいいわよと、承諾すると大喜びで短剣を手にした。


「大切な可愛い天使を傷つけない様、気を付けて飛んでね」

『お任せくださ~い』


 なんか、この軽すぎる口調が不安にさせるのよね。

 女性みたいな話し方なのに、声はダンディな感じなんだもの……。


『参りますぅ』


 短剣がそう告げ発光した。

 その光はジョゼを包み込み、ふわりと体を浮かばせた。

 おっ、上手くいった様ね。

 ジョゼと短剣は宝物庫の中をくるくると飛行している。

 ジョゼったら、とっても喜んでいるわね。

 私と飛ぶ時より、嬉しそうに見える。

 ……私と飛ぶのと、何か違うのかしら?!

 …………、姉として複雑な心境だわ。


【コッコォ】

「ぴよたろうも飛びたいの? なら、順番ね」

【ココ】


 この後、ぴよたろう、ケンゾー、私、ナギの順で飛行して貰った。

 結果。

 自分の意志で行きたい所を思い描けば行けるという事。

 すなわち、自分の力で飛んでいる感覚になるという訳です。

 私が抱っこして飛ぶより、嬉しそうだったのも頷けるわ。


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