7話
魑魅魍魎が跋扈しそうな丑三つ時、屋敷では「っぐ・・・あ゛ーー」女性の悲鳴が…………。
「ほんぎゃ~ほんぎゃ~」
声をきいた瞬間、私は部屋を抜け出し、母様の元へ小走り(淑女は、走らないのです。と叱られました)をし、駆けつけました。
生まれたばかりの弟をびっくりさせないように、そ~っと覗き込みます。
「ルイーズ、弟ですよ」
「はい、かあさま。……まぁ、てんしがまいおりたのでしょうか?」
「ルイーズも姉になったんだなぁ……こんな風に小さくて、愛らしくて、天使の様な声で泣いて、成長した今も愛らしいが……初めて『とうさま』言われた時は……ルイーズを脅かすものは駆逐しようと、心に誓った……」
父様がしみじみ何か、時々、物騒な事を呟いた後、母様に「アデール、ありがとう」と感謝を述べています。
輝く黄金色の髪、開けたり閉じたりしてる瞳は透明感のあるグリーン。母様似で美人さんです。
美少年になるのは間違いないでしょう。
小さな手、小さな足、全てが愛おしく、全力で守ってあげたい………。
虐めたり出来る訳がない。この天使を前にして、自分が悪役令嬢になる姿が全く、想像できない。
「はぁ~かわいい~♪かあさま、かあさま、ふれてもいいでしゅか?」
「ふふ。優しくね」
ふにゃっとしてるほっぺを、つんつんとつついて、手を優しく握って「ねえさまですよ~よろしくね」
弟に挨拶をした瞬間、握った手を伝って、体の中のマナが吸い取られる感覚が走りました。
もしかして……。
ゲーム上で、ルイーズの体が弱い訳は弟が原因?
吸い取られたマナも、太極拳のお陰ですぐに回復する微々たる程度ですが……転生者ではないルイーズだったら……2歳の体では、徐々に弱っていっても不思議ではないし……。
◇ ◇ ◇
【ジョゼ・ハウンド】14歳
剣に魔法を付与した魔法剣を主軸にして戦う。
得意な属性魔法は、【風・火】
病弱な姉に虐げられ、暗い性格になる。
重要な恋愛イベントの時、巫女が「ジョゼくんが、気に病む必要はないのよ。病弱なのを言い訳に、あなたに辛くあたるお姉さんが悪いのよ……この戦いが終わったら、決着をつけましょう。ね?」
◇ ◇ ◇
こうやって思い返すと、薄っぺらいな……全年齢対象の弊害かも。
普通の人間は、大気中にあるマナを吸い込み体を循環させ蓄える。蓄えられたマナは、その人特有のものに変化するので、人から人へ渡ったり、ましてや、弟の様に吸い取ったりできない。
安易に病弱設定にした為、辻褄が合う様にこうなったのか……語られることのない裏設定ではそうだったのか、今となっては知る術もないけれど、対処は出来る。
弟を守る準備をしなくては。
父様と母様に向き合い「とうさま、かあさま、だいじなおはなしが、ありましゅ。いま、おとうとのてをにぎったとき、からだのなかの、まながしゅいとられました」
父様と母様は、目を見開き驚いています。
父様は、弟の顔を見て、そっと自分の手を握らせて、確認しています。
「ふむ、確かにマナを吸い取られるな……微々たるものだが……子を産んだばかりのアデールは、手を握らないように、きをつけなさい」
そう言われた母様は、切ない表情をしましたが、すぐに愛おしそうに弟の顔をなでました。
「とうさま、せいちょうしゅるにつれ、せいぎょができるものでしょうか?」
「今は、なんとも言えんな。魔法省にでも赴いて、聞いてみるか……」
布越しでもマナを吸い取ってしまうのか、気になったので「すこし、ぬのごしでためしてみましゅね」と言い、ハンカチを弟の手に置き、自分の手を重ねます。
「とうさま、とうさま。さっきよりも、しゅいとられるのが、かんじにくくなりました♪しばらくは、てぶくろをしてみては、どうでしょう?」
成長し、マナを吸い取る量が増えてしまうと、弟自身の生活にも支障が……あれ?
ジョゼのキャラデザも、使いまわしの立ち絵でも手袋をしていた。
剣を握る為と思ってたけど、この為??
「とうさま、わたしがおとうとをまもりましゅね。ですから、とうさまは、おとうとが、にちじょぉうせいかつにふべんがないようにする、しゅだんをしらべてくだしゃい」
布越しから吸い取られるマナの量を、確認し終えたのか父様は、私を抱きかかえ「ルイーズ、決して一人では、無理をしないように。父様が色々調べてくるから、ルイーズは、大船に乗ったつもりでいて、この子と仲良くしててくれると嬉しい」
「はい。まかせてください!おとうとのおせわをするのは、あねのやくとく…………(こほん)やくめ!それはそうと、とうさま、このこのおなまえは、きまったのでしゅか?」
「くっ、ハハハ……ああ、そうだね。この子は『ジョゼ・ハウンド』に決めたよ」
本音がポロリと出てしまったのを聞いて、父様が笑ってます。
「じょぜ♪すてきなおなまえでしゅね」
私はジョゼの顔を覗き込み「じょぜ、あらためて、ねえさまですよ~なかよくしましょ~うね~」
そろそろ、他の攻略者たちの情報も、仕入れ始めなくては!