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楽しい転生  作者: ぱにこ
79/122

53話

 ララとカリーヌが仲良くなった翌日。

 私は貴族科の授業を受ける為、鼻歌まじりで廊下を歩いておりました。

 なにせ、本日の授業は貴族の嗜みでもある『お茶』の勉強。

 学びの時間ではありますが、優雅で洗練された動作を身に着けた私にとっては、ただの『ティータイム』ですもの。

 授業時間まるっと、お茶を飲みながら菓子を頂くだけなんて……なんて素敵なんでしょう!

 と、ウキウキで歩いていたところ、衝撃的な光景が目に飛び込んできたのです。


 それは、ララを取り囲んだカラフルな御髪を持つご令嬢達の姿。

 …………。

 凄いわ!

 いえ、今は余計な事を考えないで、ララが何故取り囲まれているのかを探った方がいいわよね!

 でも……。

 ……………………。

 駄目……。

 もう、脳内からこの言葉を追い出せないっ!!

 許して!!


 赤巻き髪、青巻き髪、黄巻き髪!

 ふぅ、すっきりした。

 気分がスッキリした私とは対照的に、訝し気な表情を浮かべ一斉にこちらを見るご令嬢達。

 

 え? 声は出してませんわよね?

 はっ!もしや、このすっきりした笑みが怪しかったの?


「なんですの? 何か、私達に用でもあるのかしら? 」

「そうよ。いきなり現れてジロジロ見ないでくださらない?! 」

「私達は、ララ・ウィペット様と大切なお話があるのだから立ち去って欲しいわね」


 …………。

 こちらを向いてくれたお陰で分かったのだけれど、リボンの色が違うから2年生のお姉様方です。

 高圧的に立ち去れと言われても、ララ一人置いて行くわけにもいかない。


「オホホホホ。お姉様方、ごきげんよう」

 とりあえず、知らない方達なので令嬢スマイルを浮かべ挨拶をしてみたものの、お姉様達は足元から頭頂部までを舐める様に見た後、ふんっと鼻で笑った。

 お姉様達、令嬢の皮を被ったチンピラみたいね。

 気を取り直して、ララにどういう状況か聞いてみましょう。


「ララ様、こちらのお姉様方はお知合いですの? 」

「いえ。聞きたい事があると呼び止められたところで、まだどなたかは存じません」

 

 ふむ、丁度良いタイミングでかち合ったという訳ね。 


「それで、そのお話の場に私が居ては邪魔になるかしら? 」

 私がそう聞くとララは首を傾げるが、赤巻き髪トリオは腰に手を当てて叫んだ。


「あ、当たり前ではなくて! 」

「部外者は引っ込んでいて下さらないかしらっ」

「人の話に口を挿むなんて、無粋な方ね! 」

「それはそうよ。元平民と仲良くされている方ですもの」

「ああ、そうですわよね」

「「「オーーホホホホホーー!!」」」


 …………女が3人寄れば姦しいとは、こういう事なんだろうね。

 オホホが廊下の壁に反響してうるさいもの。

 溜息を吐いていると、ララが近寄ってきて小声で話しかけてきた。

「あ、あの、ルイーズ様。私、この方達のお話を聞いてみますので」

「いいの? 」

「はい」

 

 ふんすとやる気に満ち溢れているララ。

 でもね、喧嘩をすると決まった訳じゃないのだから、殺気を放たなくてもいいのよ。

 しかし、ララったら殺気を放つ方法なんて、どこで覚えたのかしら?!

 あら? 殺気にあてられ、赤巻き髪トリオが怯え始めてるわ。

 ララを鎮めましょう。こういう時は……とりあえず頭を撫でる。

 ぴよたろうも、撫でると落ち着いてくれるのよ。


 ━━ナデナデ


「ふふ」

 ララがふにゃっとした笑顔になったのを確認した私は、立ち去る事を告げました。

「では、後でね」

「はい」


 少々後ろ髪を引かれますが、この場は仕方がない。

 チラリチラリと後ろを振り返りつつ、廊下を後にします。



 ・ 

 ・

 ・


 貴族科の授業でお茶の時間を楽しみ、次は魔法科研究の授業を受ける為、また廊下を歩いていいると。

 見覚えのある光景が飛び込んで来ました。

 ん? 今度はララではなく、フェオドールじゃない!

 赤巻き髪トリオに取り囲まれて、いつも笑顔を絶やさないフェオドールが苦虫を噛みつぶしたようなレアな顔をしているわ。

 あ、フェオドールがこちらに気が付いた。

 口パクで『た・す・け・て』と言っているような……。

 …………ふむ。

 どうせ、また立ち去れと言われるだろうけれど。

 スルーする訳にもいかないし……。

 仕方がない。声を掛けてみましょう。


「あら? フェオドールじゃない。もうすぐ授業が始まるというのに、こんな所でお姉様方とお話をする時間はありませんわよ 」

 だから、解放してあげてという意味を込めて言ったのだけれど。

 

 ピキリと音が出そうなほどの青筋を額に浮かべた赤巻き髪トリオはこちらを向き怒鳴った。

「ま、また貴方なのっ?! どうして、私達のお話の邪魔をするのかしら! 」

 邪魔と言われてもなぁ。私の知り合いばかりを取り囲んでるからじゃない……。

「貴方が邪魔をしなければ、話はすぐに終わるというのにっ」

「そうよっ、貴方は部外者なの。早くこの場から立ち去りなさいっ」

「「「早くっ!!!」」」


「ぐっ……では、お邪魔な様なので、失礼いたしますわ……」


 このお姉様方、只者ではない。

 高圧的な物言いもさることながら鋭い眼光は、他者を平伏せさせる何かがある。

 これまで怖い思いをたくさんしてきた私を、ここまで怖気させるなんて……。

 

「ルイーズぅぅ、助けて……」

 スゴスゴ退散しようとしていた私の腕をギュッと握り締め、フェオドールが懇願してきた。

「フェオドール……ごめんなさい……不甲斐ない私を許して…………」

 フェオドールに許しを請いながら、握りしめた腕をそっと振り解く。

「ル、ルイーズ……君でもどうにもならないんだね……わかった。ここは任せて、ルイーズは早く行って! 」

「フェオドール……必ず、必ず!無事に戻ってきてね」

「うんっ!きっと、無事に戻るよっ」


 グッドラック!フェオドール……。


 ・

 ・

 ・


 魔法科研究とは、魔道具の基盤設計や改良、失われた魔法を蘇らせたり、新たな魔法を生み出すための実験を行うのが目的だそうです。

 簡単に言えば、魔法に関する事ならなんでも研究しちゃうぜって事ね。

 そして、魔法科研究が行われている部屋へ、学園長自ら案内していただき、ご紹介に与りました。


「皆さん。こちらが今日から在籍する『ルイーズ・ハウンド』くんです。ルイーズくん、ここにいる間は『生徒』ではなく『研究員』になるからね。先輩方の話をよく聞いて、頑張ってください」

「はい、学園長。皆さま、本日よりお世話になります『ルイーズ・ハウンド』と申します」

 

 皆さん、見向きもせず軽く会釈だけして研究を再開されてしまいました……。

 放置ですかい?!

 でも、ひぃ、ふぅ、みぃ……研究員全員で8人の手元には面白そうなアイテムがあり、夢中になるのも頷ける。

 

「学園長。ここの責任者はどなたですの? 」

「ここの責任者は、魔法省ですよ。研究員が研究したい物を申請し、それが通ると研究材料が送られてくる。そして、研究した経過を報告書にまとめ提出する。という流れですかね」

「では、研究したい物を決め申請したのち、許可が下りるまで何も出来ないという事なのですか? 」

「そうですね……ですが、あちらを御覧なさい」


 そう言って学園長が指差した先には。

 魔石の山と付与についてと言う本がありました。

 

「あれは? 」

「あれは、侯爵様から賜った魔石と本の数々ですね。ルイーズくんなら、きっと付与について研究したがるだろうと仰って置いていかれました」

 

 付与か。…………確かに剣にしても装飾品にしても付与の有無で戦況が大きく変わる。

 父様っ、グッジョブですわ。


「あれは一人で使っても宜しいのですか? 」

「ええ、構いませんよ」

「ありがとうございます」

「それでは、私は戻りますね」

「はい」


 退出する学園長の背を見送って、ウキウキ気分で付与についてと書かれた本を手に取りました。

 なになに。

『付与について。著者:マティス・シバ』

 …………ケンゾーのお父様じゃない。

 魔法省に勤めているとは伺っていたけれど、本まで出されているのね。

『魔石の種類によって付与出来る効果が決まる。火の属性を秘めた魔石は、火に関連する付与が出来る』

 …………この辺りは、アルノー先生から教わっているから省きましょう。


 では、続きをば。

『何の力も秘めていない魔石(この場は無属性の魔石と呼ぶ)は、一見使い道がなさそうだが、複合魔法を付与する事が出来る。

 無属性の魔石は、ごく稀に高ランクの魔物から入手する事が可能である。

 入手困難であるが故、高額で取引されていたが、近年人工的に作り出すことに成功した。その方法とは』

 とまで読んだところで、横から声を掛けられました。


「ルイーズ様ですか? 」

「はい、そうですが……どちら様ですか? 」

 ブラウンの髪にダークグリーンの瞳を持つ端整な顔立ちの男性は、なんとなく……誰かに雰囲気が似ているような……気がしないでもない。


「初めまして。私は『リオネル・シバ』と申します。ケンゾーの次兄です」

 ケンゾーの次兄?!

 あ、ああ! 確か、お母様が違うお兄さんが2人いらっしゃると言ってたわね。

 

「初めまして、ルイーズ・ハウンドと申します。ケンゾーにはいつもお世話に……うん? ケンゾーとは仲良くしております」

 

 ケンゾーは頼りになるけれど、世話になっているかと言うとちょっと違うのよね。

 でも、こんな時に良い言葉が見つからないのは困る。

 時間がある時にでも、父様に伺ってみましょう。


「ハハハ。ケンゾーと仲良くして頂いてありがとうございます」

「は、はい。それで、リオネル様もこちらの『研究員』なのですか? 」

「いえ、私は父と同じ魔法省に勤めております。本日は、ルイーズ様の様子を見てくるようにと言われ、やって参りました」

「私の様子ですか……もしや、父様からですの? 」

「いえ、私の父からです。数年前の『れいとうこ』や『ていしゅうは治療器』などの案を出したのがルイーズ様と聞き及んでいます。もしかすると、また面白い案が飛び出すやも知れんと、偵察に出されたのですよ」

「あのぉ、冷凍庫も低周波治療器も楽しんで作っていただけたのは光栄ですが、私が今作りたい物は、武器や装飾品なのです」


 それは、ゲームでキャラが身に着けていたレア装備や課金アイテム。

 いずれ手に入るのかもしれない、手に入らないかもしれない。

 わからないからこそ、作ってみたいのよ。


「武器や装飾品ですか……たとえばどんな武器なのですか? 」

「口で説明するのは難しいのですが、魔法を圧縮させたものが飛び出す武器や風の攻撃魔法を纏い、投げると戻ってくる武器、持ち主の得意属性のマナをため込むことが出来る武器などです」

「…………ふむ、では装飾品とは? 」

「まず、防御結界、毒、麻痺を治癒するものや魔眼に抵抗しうる物を作れればと考えています」

 他にユニーク武器で野菜を模した物とかもあったけど、それを装備してもらうのは駄目だろうな……。

 面白可愛かったんだけれど。


 腕を組み考え込まれていたリオネル様がそうだ!と手をポンと叩いた。


「私に、ルイーズ様のお手伝いをさせていただけませんか? 」

「お手伝いですか? それは、大変助かりますが、どうしてと伺っても宜しいでしょうか? 」

「まず、何度も偵察に向かわされるより、身近にいて共に研究する方が有意義と感じたのと。そのお手持ちの本は我が父『マティス・シバ』が侯爵より依頼され、執筆した世界にただ一つの本なのです。私はそれに触れる事すら叶わなかったので、読んでみたいというのが2つ目の目的です。最後に、ルイーズ様のお傍に居ると、ケンゾーに会える。私や長兄がどんなに会いたがっても、ケンゾーはつれない態度ばかり取るんですよ……あんなに『にぃしゃま、だいしゅき』と言ってくれていたのに……」

「はぁ……」


 1つ目と2つ目の話だけなら了承するところだったけど、3つ目の話を聞いちゃうとね~可愛い弟の傍に少しでも居たいだけというのと、ちょっと違う。

 私にはわかる。これは、親バカな父様やジョゼを溺愛する私と同じ香りがするもの。


 縋る様に手を組み返事を待つリオネル様に判決を言い渡すわ。

「申し訳ございません。私の一存では決めかねますので、家族会議にかけ公正な判断の元、改めてお返事させていただきます」 

「わ、わかりました…………」


 うっすら涙まで浮かべ落胆するリオネル様は、ほんの少し罪悪感に捕らわれていた私にとんでも発言をしました。

「ルイーズ様、年上の男性を呼びかける時はなんと申しますか? 」

「おじ様やお兄様でしょうか? 」

「そうですね。では、私の事は是非『リオネルお兄様』か『お兄様』と呼んで頂きたく存じます」


 はぁ?!

「お兄様? 」

「はい」

 う、うっかり声に出して言ったものだから、すごい笑顔で返事されちゃったよ。

 

「リ、リオネル様っ、今のは無しでお願いします」

 慌てて訂正をお願いしますが、リオネル様はキリっと顔を決め、お兄様です!と強調した。

 もう、いいや。

「はい、お兄様……」

 

 その後、お兄様……と付与についての本を読んだだけで、本日の魔法科研究の授業は終わりました。

 ちなみに、研究室にある物は持ち出し厳禁との事。

 本の続きを読みたかったのに残念。


 ・

 ・

 ・


「はぁぁぁぁぁぁ、疲れたぁ。今日は、色々あり過ぎて頭が追い付かない。とう、糖分をくれぇぇ」

 食堂脇にあるテラスのテーブルに座り、一人突っ伏して溜息と弱音を吐いていると。

「「お待たせしました。ルイーズ様」」

 おっ、待ってました!

 カリーヌとララが糖分補給のケーキとお茶をトレイに乗せて持ってきてくれました。

 

「ありがとうぅぅ」

「「どういたしまして」」

 クスクスと笑う2人にいただきますをして、本日のケーキであるチェリーパイを一口。

 パクッ!

「おいひぃぃーーーさぁ、2人も一緒に食べましょう」

「「はい、いただきます」」

 3人でパクっといくと頬を押さえ、美味しいと感嘆の声を漏らす。

「本当に美味しいですぅ」

「今日は色々あり過ぎて、甘い物が食べたかったんですの」

「あら、ルイーズ様もですか? 私もですわ」

「カリーヌ様もですの? お伺いしても宜しければ、お聞かせ願えませんか? 」

「ほんの些細な事なのですが、上級生に呼び止められ、あれやこれやと質問攻めにあいましたの……」


 それを聞いて、私とララは顔を見合わせた。


「カリーヌ様を呼び止めた上級生って赤、青、黄色の髪をくるくるっと巻いてる方達ではありませんか? 」

「え、ええ。そうですわ」


 私とララは頷き合った。


「実は、ララ様もフェオドールも呼び止められていたんですのよ」

「そうなんです! 」

「まぁ! 」

 それを聞いたカリーヌが驚きの声をあげた。

 しかし、こうも人の知り合いばかりに声を掛けるって偶然?

 それとも……。


「それで、何を聞かれたのです? 」

 質問の内容によっては、私の所へも来るかも知れないと考え、聞いてみたのだけれど。

 カリーヌは口止めされてしまったのよねと言い、ララは眉間に皺をよせて、考え込んでしまった。

 美少女に眉間の皺は似合わないからやめて!


「ルイーズーー!!! 無事、戻ったよーーーーっ!!」

 すると、手を振り無事生還を果たしたフェオドールがやってきました。

 私はガタンと立ち上がり、フェオドールの元へ駆けて行きます。

 

「フェオドール……よ、よく、ご無事で……」

 涙を拭うフリをしながら、喜びを表しているとフェオドールが拳を握りしめ、なかなかの強敵だった、さすがに死を覚悟したよと呟きます。

「「ぷっ、アハハハ……」」

 

 一頻り大笑いをした後、テーブルに戻りお茶の続きを頂きながら、フェオドールに事と次第を説明します。

「それでね、ララ様もカリーヌ様もあの上級生に呼び止められたそうよ」

「ああ、きっと、そうなってるんじゃないかなとは思ったけど……あの人達の目的は果たされないんだよね」

 意味深な物言いをするフェオドールに補足説明をお願いします。

「うん?! どういうことですの? もう少し詳しく教えて」

「うん。あの人達が聞いて回っていた事とは……」

「とは……」

 ゴクリ!

「ルイーズについてだったんだよ」

「はぁいぃ?? 」

「あの人達はね、侯爵家の令嬢であるルイーズの外見、性格などを聞きまわって近づこうと考えていたんだよね」

「でも、本人を前にして、高圧的に邪魔と言っていた方達ですよ」


 何がどうなっているのか、よくわからずにいると、眉間の皺を緩めたララが口を開いた。


「ルイーズ様ご本人とは思わなかったのでしょう。私も本人を邪険にしておきながら、あれこれ聞くあの方達の意図がわかりませんでした」

「僕もわからなかったんだよね。本人に立ち去れと言っておきながら、何が好きかしら? とか言ってくるあの人達の意図が。でもね、聞かれた事は素直に答えておいたよ」


 ニコッと笑うフェオドール……素直に答えるって、どう答えたんだ?!

 聞くのは怖いけれど、? 腹をくくって聞くしかない。


「な、なんて答えたんですの? 」

「えっと、まず容姿については、綺麗なオレンジゴールドの艶やかな髪、美しくも力強い澄んだゴールドの瞳が特徴的だと言った後に趣味などを聞かれたから、剣聖の父に教えを請いながら、幼少の頃より剣術に励んでいると答えた」

 …………。

「その後は? 」

「お菓子や料理が好きで、自分でも作るその腕前は、陛下もお認めになるほどって言ったよ」

「そう……では、カリーヌ様やララ様は何を聞かれて、どう答えたの? 」


 死んだ魚の様な目をした私がそう尋ねると、まずララが答えてくれました。


「私は、分け隔てなどせず、何方にも優しくて、とても美しい方ですと答えました。それと、ルイーズ様のお作りになる料理や菓子は、殿下もお認めになったほどですと」

 …………。

 最後に、口止めされていると言って黙認していたカリーヌが、私に止めを刺した。

「私は、いつも明るく笑顔でいらっしゃる姿は、まるで太陽の様だと。そして、裏表のない性格でいらっしゃるから、一緒に過ごしていて楽しいと答えました」

 

「…………」

「「「ルイーズ(様)? 」」」


 ごめん、皆。

 今はそっとしておいて。

 褒められ慣れてない私にとっては、これは処刑と同じこと……。

 そんな話を聞いてやって来たお姉様方にどんな顔をして会えばいいの。

 恥ずかしい……。


 はっ!!


 でも、よく考えると赤巻き髪トリオは私の事を知らない。

 あの話だけで、私を特定するのは難し過ぎる。

 そうよ、贔屓目で見ているフェオドールの話は全く参考にならないもの。

 ララとカリーヌは容姿について語っていないし、あの方達はきっと来ないわ。


 はぁ、良かった。

 ホッとした私は、新しく淹れられたお茶を飲んで落ち着く。

 うん?

 誰が新しく淹れてくれたのかしら?


「お嬢様、もう一つケーキを召し上がりますか? 」

 ケンゾーいつの間に来ていたの!

「ええ、お願い。そうそう、今日、魔法科研究室でケンゾーのお兄様にお会いしたわよ」

「兄にですか……」

 スッと遠くを見つめるケンゾーに、今日あった事を伝える。

「私の研究を手伝いたいと仰ってくれたのだけれど、その目的がケンゾーとたくさん会えるだったから、どう返事していいのか分からず、家族会議にかけると言っておいたわ」

「お嬢様……賢明なご判断感謝いたします」

「あとね、昔は『にいしゃま、だいしゅき』と言ってくれていたのに最近はつれないと零していたわ」

 ふるふると震え唇を噛みしめるケンゾーの姿は何かを耐えているようでもある。

「それとね。『リオネルお兄様』か『お兄様』と呼んで欲しいと懇願されたので、お兄様と呼ぶことにしたわよ」


 そう伝え終えると、ケンゾーは『リオネル兄様めぇっ!!』と叫びながら、駆けて行ってしまった。

 ふふ、仲良し兄弟ね。

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