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楽しい転生  作者: ぱにこ
70/122

50話

「それでね。シフォンケーキを食べる時も、殿下とナディアはどちらのケーキが大きいとか小さいとかで言い合いをしていたの。ふふ……寸分の狂いなく、魔法で均等に分けたのだから、どちらも同じ大きさなのにね。でも、不思議よね……誕生日パーティで出会った時のナディアはとてもクールな美少女だったのに、数年の間に何があったのかしら? 」


「…………姉が本当に、申し訳ございません。しかし、クールな美少女…………ぷふっ。確かに姉は、無駄口を好まず、与えられた仕事を淡々とこなす人ですが、お嬢様の誕生日パーティ以後、少し変わりましたね」


「どんな風に? 」


「はい。帰宅する度に『ああ、ハウンド家に遊びに行ってはいけないかしら? 』と言って、両親を困らせておりました……」


「ええ~!遊びに来てくれれば良かったのに」


「いえ、すでに殿下の侍女として勤めている以上、むやみに他家に出入りするのは良くないと止められていたのです」


「ん? あっ、婚約者候補だと思われたりするからかしら? 」


「はい」


「……ナタリーも、家に勤めるようになって、事情を聞いたのでしょう? 殿下の婚約者は、異世界の巫女が最有力候補だという事を」


「はい、聞いております。ですが、姉は聞かされていないので、まだお嬢様が婚約者になってくださる事を望んでいるかと思います」


「えっ、どうして? 」


「お嬢様が、殿下の婚約者となり、王妃となった暁には楽しく過ごせるという事と、美味しいものがたくさん食べられる可能性が高いと言っておりました……ふぅ、我が姉ながら、困った人です……」


「その内、ナディアにも事情を話さなくてはね。殿下と世界を救う旅に出るのだから、ナディアもお供するのでしょう? 」


「そうでしょうね。きっと楽しそうに、ついて行くと思うので、姉をよろしくお願いいたします。それと、くれぐれも、お気を付けて下さいませね」


「ええ、もちろんよ。ナディアの身に危険がない様に気を付けるわ。それと、旅の間は、たくさん美味しいものを作って満足させてみせますわ!」


「いえ、そうではないのですが……でも、お嬢様の事ですし、大丈夫でしょうね」


「ん? ああ、大船に乗ったつもりで安心して」


「はい、お願いします。では、明日も早いですし、そろそろお休みくださいませ」


「そうするわ。ナタリー、おやすみなさい」


「はい、おやすみなさいませ」


 退室するナタリーの背を見送って布団にもぐり込みます。

 ああ、今日は楽しかったわ。

 舞踏会なんて退屈だろうと思い、父様とダンスを踊った後に帰るつもりでいた自分に呆れる。

 結局、お喋りに夢中になりすぎて、最後まで居たもんだから、陛下が泊っていくか?と仰ったときの、父様のお顔……きっと、あれが憤怒の形相というものなのね、怖かった……。

 傍に居たフェオドールもララ様も、声にならない悲鳴を上げていたというのに、ダリウスは平気そうだったわね……なんでだろう? 心頭滅却すればなんとやらかしら? 今度会った時に、コツを聞いてみようっと。

 平常心を保つのは、戦闘中でも有効だしね。

 

 明日は、初めての剣術科の授業……剣だけでなく、弓や槍の扱い方も教えてくれるのよ。楽しみだわ。

 色んな得物を使ってみて、自分に合った武器を見つけるのが目的なの。

 だって、木剣一筋だった私だけれど、弓の方がうまい!とか槍の扱いの方がうまい!とかだと、勿体ないじゃない?

 可能性は未知数、色々試してみないとね。

 しかし、惜しむらくは、短剣や大剣がない事ね……。

 その内、学ぶ機会があるといいな。

 女性で大剣使いなんて、カッコいいじゃない……まぁ、今の私だと振り回されて終わりね……。

 ふむ、大剣については、身長が伸びてから考えましょうか。

 ……父様に似たら、高身長は間違いなしだと思うし。顔も似てるみたいだから、可能性はあるはず……。

 短剣は第二の武器として持ちたいな。

 強敵と戦い、剣を弾かれた!わっ、ピンチだわって時に使うのよ。いい案でしょう?

 

 …………楽しい授業の後、ララ様と一緒にお昼ご飯を食べるの……たくさん食べるわね。あ、あの良い子の『カリーヌ・ローシェン』様とも仲良くなりたいな……会えたら、誘ってみましょう………………おや…………すみ……なさい…………すぅ…………。

 

 ・

 ・

 ・


 剣術科の授業を受ける為に、更衣室を探してウロウロと廊下を歩いております。

 ない……。

 あらぁ?

 男子更衣室はココ!

 ならば、女子更衣室はどこにあるのでしょう?

 腕を組み、う~んと唸り考え込んでいると。


「どうされました? 」

 声を掛けられた方に振り向くと、身なりから察するに先生でしょうか?

 怪訝そうな顔つきで私を窺っております……。

 この目、変態を見つけた時の目だわ!

 っ!男性更衣室の前で唸っていたからね!

 へ、変態ではないのよ。

 事情を説明しなくちゃ。

 

「男子更衣室は見つけたのですが、女子更衣室はどこにあるのでしょう?」

 令嬢らしく毅然とした態度を醸し出しつつ、それでいて迷子風を装います。

 まぁ、事実迷子なんだけれどね。


「女子更衣室? …………もしかして、剣術科の授業を受けられるのですか? 」


「はい」

 私の返答が予想外だったのか、先生は頭を抱えて右往左往しております。

 

「あああ、どうしたら……少々お待ちになっていてください。学園長に聞いてまいりますのでっ」


「…………」


 ピューンという音が似つかわしいくらいに、素早く走り去っていく先生。

 ……待ってろと言われても、男子更衣室の真ん前で待つのは、やめておきましょう。

 先ほどから、視線がチクチクと突き刺さっていますし……。

 

 離れて待つこと数分。

 ドタバタと慌ててやってくる人影が見えました。

 一人は先ほどの先生、一人は入学式で見た学園長、そして、もう一人はケンゾーでした。

 3人は、一様に平身低頭しています……。


「剣術科を受ける女生徒があまりいなかったもので、更衣室の準備をしておりませんでした」

 ハンカチで汗を拭いながら、そう教えて下さる学園長。

「昨日、提出した予定表を調べる時にでも気が付けば良かったのですが……完全にこちらの不手際です。申し訳ございません」

 と、仰る名も知らぬ先生。

 う~ん。と、いう事は、更衣室がないから着替えられないって事?!

 

「……あの、過去に女生徒が剣術科の授業を受けた事はあったのですよね? では、その時、着替えはどうしていたのですか? 」


 過去に使用されていた場所を教えてくれれば、それでOKと思い聞いてみます。

 その問いに、渋い顔を浮かべた学園長が答えてくださいました。


「それが……男子更衣室を広くという声があがった為……隣にあった女子更衣室を取り壊して一つにしてしまったのです」


 あらま……。

 どうしようかと、ここで思い悩んでも仕方がないわね。

 授業開始時間が差し迫っていて、先ほどまで賑やかだった廊下は人気がなくなっている。


「では、トイレで着替えてきます。ところで、こちらの先生は何を教えて下さる先生なのですか? 」

 男子更衣室の前で見かけた怪しい女生徒に親身になってくださった先生。

 素早い問題解決のためには、躊躇せずトップを呼び出してくるというフットワークの軽さ、頼れっぷりは大いに称賛できます。

 こんな先生だったら、興味のないジャンルでも学ぶ価値がありそうだと思い聞いてみたのですが……。

 

「「「剣術科でございます」」」


 私は「…………そう」と呟いた後。

「ケンゾー、父様に連絡して、女子更衣室を作ってくださるように手配しておいてね」

 と続け、着替える為にトイレに駆け込んだのでした。


 ・

 ・

 ・


 基本授業では、学年別に学び、上級生と関わる事はありませんが。

 魔法科と剣術科においては、1年生から3年生まで合同で行います。

 実力主義なんだろうね。

 1年生と3年生では身長差も大きく、漂う風格も違います。

 初めての授業でもあり、緊張した面持ちの同級生が多数。

 反して、1年生をなめるような目つきで見回す上級生たち……。

 あれは、どういたぶってやろうかという目付きですね……。

 ふふ、強そうな人たちがたくさんいます。

 どんな授業内容なのかはわかりませんが、実のある授業にはなりそうですね。


「それでは、新入生も居る事だし、自己紹介から始める。私は、剣術科を担当する『モーリス・バセンジー』だ。剣術科の授業中においては、上級生、下級生という垣根を取り払い、思う存分、己の実力を発揮してほしい。次に、特別講師を紹介する」


 あら、先ほどとは違い、男らしい口調ですね。

 モーリス先生の紹介で、ケンゾーが前に立ちました。


「紹介に預かりました、特別講師の『ケンゾー・シバ』と申します。剣術科では、実力がものを言います。強い者が勝者であり、弱いものは虐げられます。ですが、1年生だからと言って弱い訳では、ありません。2年、3年の皆さんは、なめてかからず気を引き締めて頑張って下さい」

 

 ちょ、ケンゾーったら。こっちをチラチラ見ながら、話さないでよ……。

 先輩方の視線が集中するじゃない。


「先生!何故、女生徒がここにいるんですか? 」

「そうです!怪我でもさせて、責任問題を問われると困ります!」

「いや、可愛い顔をしてるから、責任とってもいいんだけど」

 徐に手をあげ、質問を投げかける先輩方の声に反応したケンゾーが、苦虫を噛み潰したような顔をして答えます。


「剣術科は、久しく男子生徒ばかりでしたが、女人禁制ではないのですよ。授業を受けたいと思う生徒は全員受ける権利があります。それに、その方は剣聖と謳われる『アベル・ハウンド』侯爵様のご令嬢『ルイーズ・ハウンド』様ですよ。ちなみに、私の主でもあります」


 ふふんと胸を張って言い切るケンゾー。そして、ギョッとした目で一斉に見つめられる私。

 …………ケンゾーめぇっ!後でお仕置きしてやるっ!


 スゲェとか、強いのかとか、戦ってみたいとか、でも女に手を出すのはなぁとか……。

 収拾がつかないくらいに、話が盛り上がっております。

 いたたまれないではないかっ!!

 でも、紳士的発言をした方は、好感度高いですよ。

 

 そんな喧騒をモーリス先生が一喝。


「静かにっ!!強さはいずれわかる。では、授業を始める。まずは、訓練所を軽く20周するぞっ!」


『はいっ!』



 先生を先頭に、えっちらおっちら走りだす生徒達。

 我が家の訓練所の半分くらいの敷地を20周か、少ないね。

 しかも、なんだ、このゆっくり加減は。このペースだと、走るだけで授業が終わっちゃうんじゃない?!

 早く走りたい気持ちもあるけれど、これ以上輪を乱して注目されるんはごめんだしなぁ。

 そんな事を考えていると、モーリス先生が助け舟? を提案してくれました。


「20周走り終えた者から順に、木剣の素振りをしてきていいぞ」


 と、いう事は、ハイペースで走ってもいいって事ですね!

 ヤッホー!

 先頭を走る先生を追い抜き、後ろを振り返ると、1年生は、カルガモ親子の様に先生にくっ付いておりますが、2年3年の先輩方は、同じようにペースを上げ始めておりました。

 

 私は、自分のペースで行きますよ。

 やっぱり、このスピードで走るのが一番いいわ。

 風を感じて気持ちがいいもの。

 

「お嬢様……速すぎませんか? 」

 あら、ケンゾー。ついて来たのね。

「いいのよ。これくらいの速さで走らないと、授業が終わっちゃうじゃない。それより、先ほどのあれは何? 悪目立ちしちゃったじゃないっ!」


 ぷんすか怒って問いただすと。


「そうでしょうか? 生ぬるいくらいかと思っておりました。そもそも、お嬢様はあの生徒たちの顔を見ていないでしょう。何とも下種な顔と言いますか━━━━立場上、何とか耐えましたが、殴ってやりたいくらいでしたし」


 下種い顔をしていたのね……それならば、仕方がない。

 主を守るのが従者の務め。ケンゾーは正しい事を言ったと思っておきましょう。

 でもね、ケンゾー。

 この1年生から3年生って、小学5年生から中学1年生くらいの子達じゃない。

 まだランドセル背負ってたり、ピカピカで大き目の学生服を着せられてるくらいの子供達に、何を言われても私は怒ったりしないわよ。


 ・

 ・

 ・


「タァッ!!脇が甘いっ!」


 ━━カンッ!!


「グッ、参りました」

 

「次っ!トゥッ!!腰が入ってない!」


 ━━ドスッ!


「グハッ!!参りました」


「次っ!隙だらけっ!!」


 ━━ガンッ!!


「グフッ!ま、まいりましたっ」


 ・

 ・

 ・


「次っ!!━━━━ん? もう、終わりなの? 口ほどにもないわね」

「はい、お疲れ様でございます」

 ケンゾーがそう言いながら、汗拭き用の手ぬぐいを手渡してくれます。

 横たわる2年、3年の生徒たちを一望して、ふぅと溜息を吐きます。


 事の起こりは、木剣の素振りの後。

 各自ペアを組んで、打ち合いをするように指示された生徒たちが、こぞって私の前にやって来たのです。

 

『ペアを組んでいただけますか? 』『いや、私が先だ!』『私が、一番強いから、私が組むべきだろう』『剣聖と謳われる侯爵様の娘だからって手加減はせぬぞ』『私が平伏させてやる』等々。

 変なモテ方をして困り、少々カチンときた私は、先生に助け舟を出していただけるようにお願いいたしました。

 しかし、なにやらケンゾーに耳打ちされたモーリス先生は、『いいのですか? 』と困惑した表情を浮かべた後、頷くケンゾーに促され、こう仰いました。

『ルイーズ・ハウンド対抗、生徒全員の勝ち抜き戦を行います!我こそはと思う者のみで構わない。並んで待つように!』

 と……。

 

 ケンゾーめぇっ!!やっぱりお仕置きしてやるっ!!

 と、心に固く誓った私は間違っていないと思う。

 しかし、横たわる生徒を見て、大人げなかったかなとも思う。ちょっと、反省!

 言い訳になりますが、俺様目線で話されると駄目なのよ。

 教育的指導という名のお仕置きをしてしまいそうになりますもの。

 でも、きちんと加減をしたのでセーフですわよね?


「お嬢様。まだ時間もありますし、私と打ち合いましょうか? 」

「いいわね!ケンゾーにもお仕置きが必要そうだし。本気で行くわよ!」


 両者、不敵な笑みを浮かべて剣を構えます!

 そして…………。


 ・

 ・

 ・


 ふぅ、剣術科の授業は楽しかったわ。

 着替えが終わり、魔法科の授業を受けに、教室を移動いたします。

 あ、ケンゾーとの打ち合いは、なんとか勝ちましたよ。

 身軽さは私の方が勝っているのだけれど、剣の重さはケンゾーの方が上なのよね。

 闇雲に打ち合っても負けるだけ。素早い動きで、片を付けるに限るわ。

 

 さてさて、魔法科の授業はどんな感じかな?!

 教室に入り、一望すると。

 あ、ララ様見っけ!ちょこんと席についているララ様の姿を見た私は、駆け寄って行きます。


「ごきげんよう。ララ様も魔法科の授業を受けられるのですね」

「ルイーズ様、ごきげんよう。はい、魔法は不得手ですが、色んな教科を学ぶように言われておりますので」

 苦手なものでも勉強するなんて、頑張り屋さんだね。


「魔法のどんな所が苦手なの? 」

「そうですね……生活魔法は発動できるのですが、初級魔法がどれも発動しないんです」

 

 生活魔法は発動するのに、初級魔法が発動しないのはよくある事だけれど。

 誰しも得意属性というものがあり、それに関してはへなちょこだろうが、放てるのが普通。

 じゃあ、何が原因かと聞かれたら、こう答える。

 自分の得意属性を知らないからと。

 と、いう訳で。


「ララ様はご自分の得意属性を御存じですか? 」

「へっ? いえ、知りません」

 ポカンとした表情を浮かべるララ様に、得意属性を教えて差し上げましょう。

 常時、マナを見分ける魔法を目にかけて生活している私に死角はありません。

 

「ララ様の得意属性は、闇と風ですわ」

「闇と風? 」

「ええ。闇は単体で使えないし、風魔法は目に見えない分、発動したかどうかが見分けにくい事もありますので、気に病む必要はありませんのよ」


 闇魔法と風魔法が使えるなら、飛行魔法が発動できるのよ!凄いわ!

 一緒に空の旅をしたら楽しそうと、一人で浮かれている私と違い、ララ様の表情は曇ったままです。


「どうしたのです? 」

「いえ、闇魔法と風魔法で何が出来るのかなと思ってしまって……」


 う~ん……飛行魔法に関しては、一朝一夕で習得できるものでもないし。


「そんな事で思い悩んでいないで、授業を受ければ自ずと道は開けますわ!」


 ん、誰?

 頭上から降ってきた言葉の主を、見ようと振り向くと。

 おお!良い子の『カリーヌ・ローシェン』様ではないですか!

 これはこれは、好都合!

 挨拶をしようと立ち上がり、淑女の礼を執ります。


「ごきげんよう、初めましてですわね。私、ルイーズ・ハウンドと申します。仲良くしていただけると嬉しいですわ」


 うふふと令嬢スマイルを浮かべると、カリーヌ様も挨拶をしてくださいました。


「ごきげんよう、初めまして。私、カリーヌ・ローシェンと申します。ルイーズ様とは知らず、余計な発言をしてしまい申し訳ございません」


「えっ? 余計な事とは思いませんよ。ララ様と一緒に悩んでいたのは確かですし、カリーヌ様の発言で、道が開けましたもの。ね? 」


 ララ様の顔を見て、賛同を得ようとしましたが、俯いてらっしゃいます……。

 

「ララ様? 」と、再度問いかけると。

「えっ……はぁ、そうですね」

 そんな、曖昧な返事をして、再び俯いてしまいました。


 もしかして、昨日のことが尾を引いているのかなぁ。

 二人に仲良くしてもらいたいけれど、今は無理そうね。

 時間をかけてどうにかしましょう。


 授業開始のベルが鳴り、教室に入ってきた先生が席に着くように促します。

 

「さぁ、席について!自己紹介から始めます。私は魔法科を担当する『セレスタン・ペンブローク』と申します。魔法科の授業では、基礎、初級魔法、中級魔法という具合に順を追って学んでいきます。しかし、初級を完璧に使いこなす者が基礎を学び、中級を発動できる者が初級を学ぶのは非効率と考えました。そういう訳で、別室に移動し各自の力量を見せていただた上で、クラス分けをを行いたいと思います」


 力量かぁ。どれくらいまでなら、父様に叱られないかな?

 それに、力量別にクラス分けするなんて聞いてないよ……。ララ様と離れ離れになっちゃうじゃない。

 フェオドールとも別れちゃうのかな……。

 

 先生の後に続き、別室に移動する生徒達。

 体育館の様な部屋に到着し、先生の説明を受けます。

 この部屋は、結界が施されており、上級魔法までならば建物に被害が出ないとの事。

 上級魔法ですか……これは、うまく加減しないと破壊してしまいますね。


「では、1年生から順に、的に向かって魔法を当てて下さい。自分の最大だと思う火力で当てても構いませんよ。終わった順から、クラスを言い渡しますので、クラス担当の先生の指示に従って行動してください」

 と、最大の火力と先生は仰いますが……私は駄目よね?


「ルイーズ様……私に出来るでしょうか? 」

「そんな不安気な表情をしなくても大丈夫よ。ララ様は、風魔法の特性があるのだから、自分を信じて魔法を打って御覧なさい。きっと上手くいくわ」

 

 ララ様は若い分、マナの循環も良かったし、初級魔法なら難なく打てるはず。

 

「はい、頑張って参ります!」


 うんうん、頑張ってね。握りこぶしを作り、意気込む姿がとても可愛らしいわ。

 ララ様は、気合十分といった感じで魔法を発動させました。


「ウィンドカッターッ!」

 

 ━━シュン、シュン


 風を切る音と共に、的が傷ついていきます。

 いい感じじゃない。うまく行ったわね。


「ララ・ウィペット。Bクラス」

 ララ様が嬉しそうな笑みを浮かべ、走って来ました。

 ララ様はBクラスか。


「やりましたっ!上手く出来ましたよね?!」

「ええ、とても上手でしたわ」

 称賛の声に少し照れたような表情を受かべております。

 

「ルイーズ様は最後ですか? 」

「ええ、そうね。最後にするわ」

 だってね……。ギャラリーがたくさんいると問題ありそうじゃない?!

「では、頑張ってくださいね。私は自分のクラスの所に並んできます」

「ええ、頑張るわね!」

 程々に……。


 1年生の数がどんどん減っていっております。

 3年生の後くらいでもいいのだけれど、1年生最後じゃないとダメなのかな?


 うん?おやぁ?

 なんの集団でしょうか?10人程、先生らしき方に先導され入って参りました。


「おお、あれはSクラスの方達じゃないか!」

「すげぇ、Sクラスかよ」

 Sクラスって何? と思い、噂をしている先輩らしき方に尋ねてみました。


「あの、Sクラスとなんですか? 」

「うん? 1年生なら知らなくても仕方がないな。Sクラスとは中級魔法をマスターした者だけが入る事が出来るクラスの事だ」

「そうなのですね。先輩、教えていただきありがとうございます」

 

 深々とお辞儀をして、お礼を伝えます。

 Sクラス……エリート集団って訳ね。

 そう言われれば、なんとなく自身に満ち溢れた表情をしているわ。

 …………あらっ!

 ダリウスじゃない!!

 姿を見かけないと思ったら、あんなところに居たのね!

 

「かっこいいよな、ダリウス様」

「ああ、憧れるぜ」


 …………ダリウス、噂されているわよ。

 なんだろう、身内に近い友が称賛されているとこっぱずかしい気持ちになる。

 どこか身を隠す場所はないかしら?


「次の生徒!おーい、1年で魔法を打っていない者は誰だ? 早くしなさい」


 ちっ、身を隠す時間はなかったか。

 は~い、今いきますよ。


「1年、ルイーズ・ハウンドと申します。最大の火力で打つと結界を壊してしまいますので、程々の力加減で頑張ります」

「うん?最大の火力だと結界を壊すのか━━ハハハ、よし!面白い!やってみなさい」

 先生は冗談だと思ってらっしゃるのね……。

 いいわ!その挑戦受けてたちましょう。

 でも、火魔法は却下ね、火事になると困るから。

 土魔法も……掃除が面倒そうだから却下。

 水も駄目よね……あ、雪!

 温暖な気候のせいで、雪を見たことがない人達ばかりだから、驚くかも!

 それに、雪合戦とかで遊んだら楽しそうじゃない。


 ではでは、マナを練り、魔法を発動させましょうか。


「氷点下!雪!」


 気温を下げ、降らせた雪を積もらせます。

 ドーム状の結界の中に雲が発生して雪がしんしんと降り始めました。

 急に寒くなった気温のせいで、生徒たちがガタガタと震え始めております。


「寒い……」

「なんだ? この氷の欠片の様なものは」

 ああ、見たことがない人は雪と認識しないのね。

「これは、雪ですわ。寒い地域では雨の様に降り、積もるのです」

「ゆき? 」

「しかし、寒いですわね」

「いつまで続くの? 」


 身を寄せ合いながら、寒さを耐えている生徒達。


「ルイーズ・ハウンド。これはいつ終わるんだ? 」

「そうですね。魔法を発動する時、命一杯マナを注ぎ込んだので、1日くらいは続くかと思います」

 先生の質問に、簡潔に答えると。

『1日っ?!!!』

 

 ふふ、生徒、先生全員でハモってる。

 ああ、雪は綺麗よね……後で、フェオドールと雪合戦をして遊びましょう。

   

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