6話
ルイーズ、2歳が過ぎました。
ただいま日課の、太極拳をやっております。
どういう訳か、色々あって、父様も一緒に……。
「ルイーズよ、これは……なかなかに……(ふぅーー)体の中のマナが循環する……(はぁーー)良い訓練だな」
◇
◇
◇
昨日、太極拳には『カンフーの道着』だろうと、針でちくちくと裁縫を始めた幼女。
小さな手でも、前世で培った洋裁の技術で、スイスイ縫えます。
しかし、それを見たジルは「ひゃーーー」と悲鳴の後、青い顔して「お、お嬢様?それをゆっくりと、こ、こちらへ…」
針をよこせと言う。
「いやよ、これはね~たいきょくけんには、ひちゅようなのよ~」
「これがないと、うごきが(阻害は難しい言葉ね)ままにゃらないのよ」
そうよ、そうなのよ!ドレスじゃ動きにくいし、恰好よくないのよ。
見た目も大事、これ重要。
だから、ジル?足音を消して近づいて来ないで……(ア゛--)押さえつけられ没収された……。
「ふ~、お嬢様?こういった物は、侍女にお任せください。どういったデザインか、教えてくだされば、明日の朝までには、ご用意いたします」
◇
◇
◇
で、夜も明けきらない時間帯にも関らず、すでに用意されていた『道着』を着て、伸びてきた髪をツインテールにして訓練所へ向かうと、父様も鍛錬の最中でした。
「おはようございます、とうさまもくんれんでしゅか?」
「おおールイーズ、おはよう。今朝は変わった格好をしてるが、可愛いな♪」
「ありがとうございます、これは、かんふーどうぎといいまして、まなをあつめるうんどうを、じゃましないつくりになってるんですよ♪じるにつくってもらいました」
「ルイーズは、難しい事をよく知ってるが、書物を読んだり、誰かに聞いて教えてもらってるわけでもない。そろそろ、父様に訳を話してみないか?」
ゲームという事は話すわけにもいかないけれど『召喚される異世界の巫女』と、同じ世界からの転生という事は、話しておいた方が良いと思っていた。
愛されてるし、受け入れてもらえるとは思うけれど、気味悪がられたりするかも……。
体の芯が冷えてくるのがわかる。
でも、覚悟を決めて、言わなければ……。
「とうさま?るいーずは、ぜんせのきおくがあります」
言いながら、からだの震えがとまらない。
「せかいに、けがれがまんえんしたとき。いせかいから、みこがしょうかんされますよね?そのいせかいでくらしていた、ぜんせのきおくがあります。とうさま・・・き、きらいに……ならないでくだしゃい……」
拒否されるのが怖くて、涙が溢れてくる。
この世界に生まれて2年、前世の記憶があり、前世の両親の記憶もある。
初めはルイーズの体を通して、世界を眺めて、ルイーズという子供を演じようという気持ちがあった。
ゲームの内容に沿い、不幸になるフラグはへし折るだけでいいと思っていた。
けれど、父様や母様に抱きかかえられた時の安心感。絶対的な信頼感は、前世の両親に感じていたものと同じものだった。愛されたいと強く思った時、ルイーズは自分自身となった。
だから、こわかった。
「ルイーズ、よく聞いて」
父様は、私を優しく抱きかかえてくれた。伝わってくる父様のぬくもりは、私のからだの震えを止めた。
「ルイーズ、前世の記憶が残っていたとしても、今、この世界に生まれたルイーズは、間違いなく、父様と母様の娘だ。嫌いになるはずがないだろう。穢れが生じた時に召喚される『異世界の巫女』と言うのは、調べてみないとわからないけれど、ルイーズのこの世界とは違う知識は、異世界のものなんだね。……では、キャロルの病気の知識もかい?」
「はい…………ひっく……くわしく…………しんさつするしゅだんがなかったので……きおくにあったやまいのしょうじょうとおなじものに…………けんとうをつけてかいふくまほうをためしました……かんちしたかはわからないですが……ぐすっ」
「……ルイーズ、君は我が家に来た天使だ!父様が、ルイーズの力になるからね。異世界の記憶があったとしても、この世界では赤子と同じだ。だから、悩む前に相談するんだよ」
父様の心強い言葉に安心して、涙も乾いてきた。それと同時に、胸のあたりに暖かいものが溢れる。
自然と笑みがこぼれるのがわかる。私の顔を見た父様も、微笑んでくれる。
「はい。とうさま」
「さて、ルイーズ。マナが効率よく循環するという訓練を、父様にも教えてくれるかい?」
「はい!とうさま♪」
◇
◇
◇
こうして、父様と太極拳をしてるわけですが「とうさま?おしごとのおじかんはだいじょうぶですか?」
話してる時間が長引いて、すっかり日が昇ってしまいました。
「うぉっ!大変だっ!ルイーズ、帰ったらまた、話を聞かせてくれるかい?」
「はい」
「では、行ってくるよ」と言いながら、私の頬にキスをする父様。
「おきをつけて、いってらっしゃいましぇ」
大慌てで走り去っていく父様。
帰ったら色々、話を聞いてもらいましょう。