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楽しい転生  作者: ぱにこ
69/122

49話

「ルイーズは僕の後ろに隠れてて!」

 一瞬たじろいだものの、フェオドールは男の子らしく、私を匿う様に前に出ます。

 そして、窓の取っ手をゆっくりと引き、張り付いている令嬢をキッと睨みつけました。

 フェオドールの睨みは……ごめん、怖くない。

 しかし、令嬢には効いたのでしょうか?


「……えっ? あ、あっ!ごめんなさい━━」

 私とフェオドールの姿を見た令嬢は驚愕し、慌てて逃げだそうとします。

「お待ちなさいっ!」

 少々、ドスの効いた声を張り上げると、令嬢はビクッと体を震わせ、こちらを窺う様に見つめてきました。

 うん、止まったね。

 近くにいらっしゃる方々の視線も集めてしまいましたが、令嬢スマイルで誤魔化しましょう!

 うふふ……。


「ルイーズ。その笑顔、可愛いね!」

 ちょっ、何を言ってるのですか!

 この爽やか天使は、天然のタラシになりつつあるの?

 サラッと、可愛いなどと言われて、嬉しくない女性はいないわ。

 フェオドール、恐ろしい子ね……。


「ふふ、ありがとう。この笑顔で、父様はコロっと落ちて下さるのよ」

「そうなんだ~。じゃあ、僕にもその笑顔で、何かお願いしてみて」

 

 おっと、その返しは予想外でしたわ。

 令嬢スマイルで、お願いをして欲しいと言われてもホイホイ思いつかないよ。

 …………。

 何かないかと、視線を彷徨わせていると、ダンスを踊っている方達の姿が目に留まります。

 この際、ダンスでもいいかな?


「フェオドール様。私とダンスを踊っていただけますか?」

 令嬢スマイルを浮かべながら、手を差し出します。


「喜んで」

 了承したフェオドールは私の手を引き、ずんずんとホールに引きずっていこうとする。

 私はホールに引きずられて行きそうになるのを必死に抗う。

 ああ、滑る……。ツルピカに磨き上げられたホールの床が恨めしい……。


 ━━ズルズル

 

 数メートル引きずられた私は、フェオドールに懇願します。

「フェ、フェオドール!後でっ!今は、お話をしなくては。ね?ダンスは、お話が終わった後でお願いします」


 引きとめた令嬢を放置して、優雅にダンスなんて踊れないでしょう。

 ほら、何が何だかわからないって顔をしてるじゃない。

 

「えーーー、仕方がないな……じゃあ、後でダンスを踊ろうね」

 一瞬、不服そうな顔をするも、すぐにいつもの穏やかな笑顔を浮かべ、そう告げるフェオドールは、

「でも、その笑顔はなかなか侮れないね。僕も、コロッと落ちた」

 と、続けた。

 …………?

 愛娘フィルターのかかった父様なら、理解は出来るのだけれど……。

 幼馴染フィルターってのもあるのかしら?

 あ、ああ!

 あるかも!

 私も、幼い頃のフェオドールのぷっくりした頬や、ムチムチした手を思い出すと、ニマニマしちゃう。

 なぜ、この世界はカメラがないのでしょう……。

 あの時の、愛らしいフェオドールやジョゼを写真やムービーで楽しめたら、私はきっと小躍りして見ているはずだわ。

 ムービーが撮れるのだったら、父様や師匠の技をスロー再生で見る事も可能になるわね!技を盗んだり、対処法を見い出したりも出来るじゃない……。

 

 ふぅ。


 そんな、ない物ねだりはさておき。

 フェオドールに「ええ後でね」と伝え、令嬢に話しかけます。


「引きとめた理由はわかりますか?」

 私がそう問いかけると、令嬢は俯き囁くような声で答えました。

「はい……先ほど、ぶつかった後、きちんと謝罪せずに、逃げた件ですよね」


「いえ、その件ではなく。何故、窓ガラスに張り付いて睨んでらしたのか聞きたいと思いましたの」

 ぶつかり逃げた件は、貴族らしからぬ謝罪でしたが、謝っていたのは確かです。

 これから、友人になるかもしれないのを考慮して、咎める気はありません。

 目撃したのも、殿下お一人でしたし、口封じのお菓子でもお渡しすれば、とやかく仰ったりはしないでしょう。


「あ、……いえ、貴方達を睨んでいたのではなくて……」


 知ってる。テラスから中へ入った時に、ホールの方達の姿がガラスに映っていたもの。

 外は暗く、中が明るいと鏡の様に映るものね。


「ふふ。外から見た時は、心臓が止まるかと思うほどに驚きましたが、中に入った時に私達を睨んでいたのではないと判明しましたので、弁明しなくてもいいわ。けれど、私とぶつかったのも、先ほどガラス越しに睨んでいたのも、理由があるのでしょう?」


「ぶつかった理由は……苦手な人が私を見ていたので、逃げようとした拍子によろけてしまったのです。ガラス越しに睨んでいたのは…………」


 令嬢は言い難そうに顔を歪めております……可愛い顔が台無しじゃない。

 逃げるほどに苦手な相手の事も、ガラス越しに睨んでいた相手も同じ人なのかしら?

 手助けが出来る範疇なら、聞いておくべきなのだろうけど、こちらが踏み込める線引きが難しいわね。

 初対面でもあるし……。

 あ、あらま、綺麗に忘れていたけれど、名乗ってなかったわ。

 

「ごめんなさい。私、名乗っていませんでしたわ。ふふ、誰かも知らない相手に、話せないわよね。では、改めて自己紹介させていただきますね。私、アベル・ハウンド侯爵が子、ルイーズ・ハウンドと申します。よろしくお願い致します」


 まずは、仲良くなることが先決よね。

 私が挨拶をすると、令嬢のくりくりしたブルーの目が見開かれる。

 ポカンとする令嬢を余所に、フェオドールも名乗ります。


「ブライアン・マスティフ伯爵が子、フェオドール・マスティフと申します」


 フェオドールが名乗り終えると、令嬢の瞳が揺らぐ。

 うん?今にも、泣き出しそうな顔をしています。

 男爵家に引き取られ、慣れない習慣や場所に、緊張しっぱなしだったのかな?

 よしよし、怖くないよ。

 この世界で、初めてみるピンクの綺麗な髪を優しく撫でながら、バッグの中からお手製のメレンゲクッキーを取り出し、令嬢の口元に近づけました。


「よしよし。ほら、甘い物を食べると落ち着くからね。あ~んしてごらんなさい」

 

 令嬢は戸惑いながらも、あ~んと呟き、小さく口を開いた。

 いい子ね。

 ポンと、口の中にクッキーを放り込むと、たちまち令嬢の顔が綻びます。

 メレンゲクッキーは、サクサクとした食感の後、シュワ~と溶け、口いっぱいに香ばしさと甘さが広がるのが特徴で、一瞬で笑顔にしたい時に用いると効果的なのですよ。


「美味しいです」

「良かったわ。貴方の家庭の事情は、とある方からお聞きしているので、省いてもらっていいけれど、お名前を教えてくれたら嬉しいわ」


「はい。私は、ララ・ウィペットと申します。…………2カ月前、母が病で亡くなり、急に父親だと名乗る男爵様に引き取られ、貴族として過ごすようになりました……挨拶の仕方や作法などは、まだまだ勉強中ですので、失礼がありましたら……仰って下さい」


 ふむ、引き取られて2ヵ月か。

 カーテシーも美しく、改まった言葉遣いなども出来ているように思えるのだけれど……。

 これが、囲まれて問い詰められるほど、酷いのかしらねぇ?


「ねぇ、フェオドール。ララ様の話し方は、可笑しいかしら?」

「うん?別に、可笑しくないと思うよ。だって、ルイーズの方が砕けているし、時々、妙な言葉を使うもん」


 妙な言葉とは、前世特有の言い回しの事ね。

 脳内思考が漏れた時に発するのよ。

 まぁ、フェオドールと話している時は気を使わない分、だだ漏れ状態だけれど。


「ララ様。私達とお友達になってくださいます?」

「えっ!」


 お友達になったら、気を使った話し方などせずに済む。

 そしたら、気にする必要もなくなるじゃない!

 

「先ほど、フェオドールも言っていた通り、私の方が貴族らしからぬ言葉遣いをしますわ。言葉遣いで、責められるのなら、私も同罪です。一緒に、叱られましょう。ね?」


 ララ様の瞳を覗き込み、問いかけると、コクンと頷いてくれました。

 よし、お友達1人出来ました!


「やりましたわ!フェオドールっ、学園で出来た初めてのお友達ですわよ。これは、父様にも報告しないといけませんわね」


 嬉しさのあまり、フェオドールとララ様の手を取り、ブンブン振りまわします。

 フェオドールは私と同じように、喜んでくれますが。

 ララ様の顔色は、どんどん青褪めていきます。


「あ、あの。ルイーズ様のお父様は侯爵様ですよね?私、ご挨拶をするのですか?」

「ええ。お友達ですもの」


 同年代の女の子のお友達が出来たと報告すれば、父様はとっても喜んで下さるでしょう。

 父様の笑顔を想像して、私も嬉しくなり、頬が緩む。

 そんな、私にフェオドールが小声で教えてくれました。


「ルイーズ……侯爵様にご挨拶をするのは、緊張しちゃうんじゃない?」


 緊張?!

 

「緊張しちゃうものなの?」

「そうだよ~侯爵様のお人柄を知らない人は、緊張してしまうのも仕方がないよ」


 あの、父様ですよ。いつも、親バカモード炸裂させている父様ですぜ。

 殿下のお耳にも、入るくらいに愛娘自慢をしてらっしゃる父様に緊張ねぇ……。

 ヒソヒソ話の対象になっていたから、貴族間では有名なのかと思ったわ。


「ララ様。緊張してしまうの?」


 こういうことは本人の口から聞かないと、いけませんからね。

 問うてみると。

「はい」

 と、小動物の様にプルプルと震えながら、答えてくださいました。

 これは困った! 私の手に負えない案件だった時、お力を貸していただく為にも、まずは父様に紹介して、ゆっくりと先ほどの訳を聞こうと思っていたのだけれど……。


「あ! 私の父様に挨拶が出来たら、自信が生まれませんか? 父様は、私が言うのもなんですが、親バカで、国の象徴でもいらっしゃる陛下相手でも、娘自慢をする方なのですよ。とても優しい方ですから、緊張なさらずに、紹介させて下さいませ」


 父様に挨拶するという事は、一緒に談笑されている陛下にもご挨拶する事になる。

 国のトップである陛下と顔合わせする事が、自信に繋がるといいのだけれど。


「…………はい」


 ララ様は、かなり躊躇いながらも了承してくださいました。

 ではでは、気が変わらない内に、挨拶に向かいましょう。

 

 ・

 ・

 ・


 陛下に淑女の礼を執り、父様に声を掛けます。


「父様、お友達が出来ましたのよ。ご紹介させてくださいませ」

 ふふっと笑みを浮かべ、小声で父様にご報告をしました。

 

「おおそうか!それは、喜ばしい事だな」

「どうした? ルイーズ嬢に友が出来たのか? では、私にも紹介してくれ」


 父様と陛下は顔を綻ばせ、喜んでくださっているようです。

 ご挨拶の許可も頂けたし、私とフェオドールの後ろに隠れるララ様の手を引き、父様達に紹介いたします。


「先ほど、お友達になりました『ララ・ウィペット』様です」

「私……『ウッツ・ウィペット』男爵様に引き取られました、ララ・ウィペットと申します」

 今にも消え入りそうな声で、自己紹介をしてくれるララ様……。

 引き取られてきたって事を言っちゃう?

 言わなくても、父様や陛下はご存じだろうし、ぼかして良いところだったのに。


「そうか。君が最近、男爵家に引き取られて来たという娘なんだね。急に貴族として生きる事になり、気苦労もあるだろうが、娘と仲良くしてくれるのなら、歓迎しよう」


 父様……。

 ありがとうございます。


「そうだな。庶民として暮らしてきた者が、急に貴族として生きるには苦労も多かろう。だが、ルイーズ嬢が居れば、其方の無作法も霞んで目立たぬぞ。なにせ、ルイーズ嬢は奇想天外な事をしでかして注目を集めてくれるからな!。ハハハハ━━━━」


 陛下……。

 何がツボったのか、大爆笑をしております。

 フェオドールもララ様も意味が分からず、首を傾げているではありませんか!

 ヤレヤレという感じで、父様に視線を投げかけます。

 軽く頷いた父様は、陛下に進言いたしました。


「陛下……それは子供達、いえ、ルイーズに対する暴言でしょうか? いくら陛下であろうと、友であろうと、愛娘を貶める発言は聞き捨てなりません。これは、互いが納得いくまで剣を交えつつ話し合った方が宜しいのかもしれませんね! 」


 進言じゃないね……。喧嘩売ってるわ。

 ブリザードが吹き荒れるような、視線を陛下に投げつける父様。

 不敬罪になるから、やめて。


「すまんすまん。ルイーズ嬢を貶めるつもりはなくてな、軽口を言ったまでだ。だから、落ち着け」


「そうですわ。父様、落ち着いて下さいませ」


 いくら、仲の良い友だとしても、陛下の逆鱗に触れれば、不敬罪で処罰されるのよ。

 ……昼間、殿下に不敬罪にあたる事をしでかした私が言うのもなんだけれど、穏便にお願いします。


 父様に縋り付き、懇願するような目で訴えると、不承不承ながらも聞き入れてくださいました。

 ふぅ、一家逃走とかにならなくて良かったわ。


「あ!失念しておりました。陛下、先ほど殿下とお話をさせていただいた折に仰っておりましたが。王城ではアイスクリームは作られておりませんの? 」


「……そう言えば出てこないな……アベルがレシピを渡したのは確かなのだが……ふむ……」


 陛下は手を顎にあてて、考え込まれてしまいました。

 陛下の発言から察するに、レシピは渡したのよね……じゃあ、なんで出てこないのだろう?!

 王城には『冷凍庫』もあるし、料理人も超一流のはず。

 ……実物を見たことがないからとかだと、笑える……。


「陛下、父様。レシピは渡っているのですよね? 作れないのは実物を知らないからとかではありませんよね? 」


「「っ!! 」」


 父様と陛下は互いに見つめ合い、それだ!と言う顔をしております。

 こっちが『っ!!』だわ。


「陛下、王城の厨房にお邪魔してもよろしいでしょうか? 殿下にアイスクリームを御馳走すると約束を致しましたの」


「ほう、ルイーズ嬢自ら、作ってくれるのか! それは私も食べられるのだろうな? それなら、許可するのだが━━」

 と、仰りながら陛下はチラチラと、こちらを窺っております。


「父様……私が作った物を、陛下が召し上がって、罪になったりはしませんの? 」


 冷たいアイスクリームを食べて、腹痛でもおこされたら、毒を盛った!とかならない?

 

「ルイーズ……陛下が、食べると仰ってるんだ。罪になったりはしないよ。もし、腹痛で苦しむ事になっても、回復魔法で治るだろ」

 

 そうか、そうよね!回復魔法で、腹痛でも毒でも治るわね!

 死にさえしなければ治すことは可能だわ。

 ビバ!回復魔法!


「陛下、食べ過ぎで腹痛をおこされても、治せますから、たくさん召し上がってくださいませね」


 ニッコリ微笑んで、陛下にお伝えします。

 

「そうか、それは頼もしいな。では、参ろうか」

 

 えっ、陛下も一緒に行くの? 厨房に?

 

「父様ぁ。厨房に陛下が現れたら、料理人の方は恐慌状態に陥ったりしませんか? 」

「うーむ……そうなる可能性はあるな。陛下、あいすくりーむが出来次第、この会場に持ってきて貰う様にして大人しく待っていてはいかがですか?」


 そうそう、大人しく待っていて下さい。料理人たちの、心の平穏の為にも。

 

「ふむ……速やかに作り、持ってくると約束出来るのであれば、待っていよう」

「はい、完成次第お持ちします。それでは、陛下、御前を失礼いたします。父様、待っていてくださいませね」


「ああ、頼んだよ」

「うむ」


 シュタッ!と敬礼をしそうになりましたが、ぐっと押さえ。

 スカートをちょこんと摘まみ、淑女の礼を執って御前を離れます。

 少しでも、ララ様の手本にならなくてね。うん、ララ様も美しくも可憐な礼を執っております。

 

 それでは、テラスで待機している殿下とダリウスを回収して厨房へと参りましょうか!


 ・

 ・

 ・


 いつの間にか現れていた殿下付きの侍女ナディアに先導され、やって参りました厨房……。

 簡潔に説明しますと、ホテルの厨房の様な規模ですね。とにかく、広い。

 戦場の様に慌ただしく、調理をされているのかと予想して、ワクワクしていたのですが……のんびりしております。

 まぁ、料理は完成して並べられていたので、取り急ぎ作る物はないのでしょう。

 

 殿下も初めて踏み入れる場所に興味を持たれていらっしゃるのか、手当たり次第、調理器具を眺めておいでです。

 あ、刃物はもたないでね、怪我でもしたら大変だから……。


「皆さん、王太子殿下とご学友の方が、いらっしゃいました。こちらに集まってください」

 ナディアの声に反応して、のんびりしていた料理人の方々が、慌てて整列いたしました。


「王太子殿下がなぜ、こちらに? 」

「わからない……料理が気に入らなかったとか? 」

「ご学友の方までいらっしゃるのだから、見学か何かか? 」


「静かに! 殿下の御前で失礼であろう」

 料理長と思しき方が、引き攣った笑みを貼りつけながらも、料理人達を叱責する。


「いや、構わない。それより、其方たちに聞きたい事があるのだが。数年前、宰相より受け取ったレシピを何故作らない? 」


「レシピと申されますのは『あいすくりーむ』なるものですか? 」

「ああ、そうだ」

「「「「…………」」」」


 殿下の問いかけに申し訳なさそうな顔をして、俯く料理人さん達……。

 父様や陛下、私の予想が当たっていそうね。


「あのぉ、アイスクリームの実物を見たことがないから、レシピを見ただけでは作れない。もしくは完成したかどうかがわからないのではないですか? 」


「「「「っ!!!!」」」」


 …………ハハハ。

 父様、陛下、想像通りでしたよ。

 仮にも超一流の料理人が揃っているのだから、まずはレシピ通りに作り、試行錯誤していくものと勝手に思っていました。

 けれど、見た事もない料理に関しては、レシピだけでどうにかなるものではなかったのですね。

 これから、レシピを伝える時に気を付けましょう。絵を加えるとか、味や食感なども記した方が良いかしらね?!


「殿下。時間も勿体ないですし、作り始めてもよろしいでしょうか? 」

「ああ、頼んだ」


 殿下の了承を得て、料理人の方達に材料をそろえていただきます。

 玉子、牛乳、砂糖、生クリームがアイスクリームの材料。

 茶葉、玉子、砂糖、小麦粉にオイル。オイルは植物性の物で、香りが少ない方がいいわよ。前世では、透明のごま油を愛用していたわ。これがシフォンケーキの材料。

 

「では、料理人の皆さま。これから、アイスクリームから作ります。よく、覚えて王家の皆様に召し上がっていただけるように精進してください」


 料理人の一人が、ナディアに耳打ちするように問いかけております。

「あのご令嬢はどなたですか? 」

「あの方は、アベル・ハウンド侯爵様のご息女でいらっしゃるルイーズ・ハウンド様でございます。レシピの考案者でもいらっしゃるルイーズ様が、これから実演してくださるのですよ」


「「「「おおっ!!!!」」」」


 ナディアの声に歓声を上げる料理人たち。

 謎レシピが明かされるのが嬉しいのかな?

 では、頑張っちゃうよ~~


「まず、卵黄と卵白を分けます。そして、卵黄を軽く混ぜ、砂糖を加えて砂糖が溶けるまでよく混ぜます。牛乳を沸騰する直前まで温め、この卵黄を混ぜたものに加えます。牛乳と卵黄を混ぜ合わせたら、漉し器でこし、鍋に戻した物を、弱火にかけ木べらで優しく混ぜながら火を通していきます。とろみがつくまでしっかりと丁寧に作業してくださいね。とろみがついたら、なべ底を冷水に当てながら粗熱をとっていきます。が、今は時間がないので……魔法で冷やしますね……よし!料理人の皆さんは冷水で粗熱が取れるまでに、ボールに入れた生クリームを泡立てる作業などをしているといいですよ。今は、同じく時間がないので……魔法で泡立てます。軽くもったりするくらいに泡立てた生クリームと粗熱が取れた物を混ぜ合わせたら!ここから『冷凍庫』のお世話になります。深めの容器に流しいれ、軽く凍る度に混ぜるのです。滑らかにするためには手間を惜しんではいけません。……あのぉ、この中で氷魔法と風魔法を使える方はいらっしゃいますか?」


 魔法『アイスクリーム』を伝授しようと思い、聞いてみますが……。

 皆さん一様に、首を振っております。駄目か……。

 

「では、時短の為にこれから魔法で仕上げていきますので注目!『アイスクリーム』!!」


 はぁ、このぐるぐる何度見ても楽しいわ。発動した魔法の光が消えると、完成です!


「出来上がりました!まずは、殿下から召し上がるのですよね? 」

「もちろんだ!」

 

 本当に食いしん坊さんだね。

 しかし、ナディアに止められました。


「殿下! まずは毒見を致しませんと」

「いや、毒見といいつつ、最初に食べたいだけだろう」

「そんな訳あろうはずもございません。殿下の御身に、万が一の事でもあれば、このナディア、侍女としての命を失うのですよ」


「侍女として生きていけぬだけで、普通の令嬢としては生きているよな」

「ふふふ」


 何を言い合っているのでしょう?

 仲良しな主従ですね。

 まあ、二人は放っておいて、溶けちゃうから盛っちゃいましょうね。ガラスの容器にアイスを盛り、ベリー系のジャムなどもあればいいのだけれど……え?ある?!じゃあ、くださいな。

 うわぁ、美味しそう……ささ、料理人さん達も召し上がれ。

 ふふ、美味しいでしょう。気に入っていただけて嬉しいわ。

 あ、そうそう、陛下と父様にも持って行ってくださいますか? あら、料理長自らが持って行って下さるの?

 ありがとうございます!溶けちゃわない様に、氷魔法で、容器を冷やしておきますね。

 へへ、氷魔法は便利でしょう。習得したい? では、機会があれば練習してみます?

 そんな……師匠だなんて……照れちゃいますわ。

 ララ様も、気に入った様ですわね。美味しいでしょう。ふふ、お口に白いおひげが付いているわよ。ハンカチで拭きましょうね。

 フェオドールはおかわり? でも、シフォンケーキも焼くのよ。アイスクリームを乗せて食べたいでしょう? あ、我慢するのね。ダリウスも我慢? よしよし、良い子達ね。


「「はぁはぁ…………」」


 あ、殿下とナディアの言い合いは終わった様ね。

 これから、シフォンケーキを焼きたいから、ささっと食べちゃってくださいね。

 

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