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楽しい転生  作者: ぱにこ
68/122

48話

 舞踏会ではなく、武闘会ならば、私はどれだけ喜んだ事でしょう。

 溜息交じりで唱えた発言をナタリーに一蹴され、完全武装した私は、舞踏会が行われる会場へと向かいました。

 社交デビューの意味合いが大きい舞踏会なので、場所は王城。

 主役でもある10歳を迎えた貴族の令嬢や令息達はもちろん、その家族一同も出席する大規模なパーティーとなっております。


 私も貴族の一員として、淑女教育をしっかりと受け、身に着けて参りました。

 それ故に、堅苦しい挨拶には慣れております。

 されど、心にもない賛辞を浴びせられると、むず痒くなるシャイな私は逃亡したい気持ちで一杯なのです。

 

 隣に座るニコニコ笑顔の父様さえいなければ……。

 

「いつもルイーズは愛らしいが、ドレスを身に纏った君は女神のように美しい」

「ナタリー渾身の作と申しておりましたわ」


 光沢のあるシフォン生地を幾重にも重ね、光を乱反射する事によってオーロラの様な輝きを生み出しているドレスには、装飾等はなくシンプルに仕上げられている。

 ドレスがキラキラで、装飾がゴテゴテだと、悪趣味になっちゃうものね。

 髪もパールがちりばめられた髪留めのみ。

 過度な装飾を嫌う私の意志を尊重してくれながらも、頑張ったナタリー渾身の作なのです。


「新しい侍女は優秀な様だね……何か、褒美を考えておこう」

「きっと、ナタリーも喜びますわ。……父様、申し遅れましたが、寮のお部屋を改装してくださり、ありがとうございます。父様のお陰で、とても快適に過ごす事が出来ておりますわ」


 主に、キッチンの装備が充実しているのがありがたい。細々した物まで揃えられていたのは、私を熟知している父様だから出来る事。

 菜箸まで揃っているのを目にした時は、熟知し過ぎている父様に対して、ほんのり恐怖を感じたのはここだけのお話です。

 

 以前、竹で串焼き用の串を作っている時『竹といえば箸よね!』と、大量の箸も自作した私は、我が家全員に配り、箸の使い方を伝授いたしました。

 さすが、侯爵家と言っていいのか、何をやらせてもそつが無いと言うか……1週間も練習を重ねれば、末端の使用人に至るまで、自由自在に扱い始めておりましたよ。

 料理長も、菜箸が使いやすいと愛用しています。


「そうか。喜んでくれて、安心した。行きたくないと駄々を捏ねられてしまった時は、改装した部屋を使わずに3年間、通い続けるのかと心配してしまったからね」


「いやですわ、父様。寮の件は私も納得いたしましたので、ご安心くださいませね。今、申したい駄々は、舞踏会をどう抜け出せるか!ですわ。…………父様……駄目?」


 隣に座る父様の腕に手を絡ませ、上目遣いでお伺いしてみます。

 もう、王城は目の前に迫っている。

 ここまで来たのならば、敵前逃亡は諦めよう。しかし、途中退場は許して欲しい。


「うっ、ルイーズ…………よし、許す!しかし、陛下へ拝謁し、父様とダンスを踊ってからだぞ」

「ありがとうございます。父様、大好きですわ」


 うふふふふー、途中退場の許可をもぎ取りましたわ。

 これで、憂うことなく、飽きたら逃げる事が出来ます。

 …………と、父様。

 頭をなでるのは程々にしてくださいませ……ナタリー渾身の作が潰えます。

 

 ・

 ・

 ・


 会場へと辿り着いた私の第一声は、なんじゃこりゃです。 

 豪華絢爛? いえ、そんな言葉では収まりきれません。

 運動場並みの広さがあるホールは、ピカピカに磨き上げられた乳白色の大理石で埋め尽くされており、頭上に落ちれば間違いなく圧死するだろうと思われるシャンデリアはキラキラと輝きながらも、暖色系の明かりを灯しております。

 上品で洗練された空間で間違いはないはずなのに、規模が大きい……大きすぎて圧倒される。

 そして、ホールの隅に設けられたテーブルに並ぶ御馳走の中で一際目立つアレ。

 アニメやゲームでしか見たことがない、豚の丸焼き……すごい……。

 美味しそうとか食べてみたいとは思わないけれど、どうしても視界に飛び込む存在感。

 切り分けるところが見たいわ。

 

「父様……料理はいつ、食べることが出来ますの?」


 エスコートしてくれている父様の袖を、チョイチョイと引っ張り伺ってみます。

 

「挨拶に来る者に、ルイーズを紹介した後になるね」

 

 この数百人は集まっているのじゃないかと思われる人の挨拶が終わった後って……。

 新入生だけでも、80世帯分。お城に勤める高官の方々もいらっしゃるそうなので……どんなに素早く挨拶に回っても、優に2時間はかかるじゃない……。

 父様は、項垂れそうになる私の背を軽く叩き、前を見据えるように促した後、小声で囁きました。


「来たよ」


 どうやら、第一陣がやって来たようです。

 私は笑顔の仮面を貼りつけ、戦場へと赴くのでした。


 ・

 ・

 ・


 ふぃ~疲れた……。のど越し爽やかなジュースが五臓六腑に染み渡ります。

 しかし、貴族名鑑を丸暗記しても、顔まで一致させるのは至難の業だわ。

 ここまで、脳をフル回転させたのは生まれて初めてではないかしら?

 覚えきれているとは思えないけれど……頑張っている方よね、多分……。

 さて、本日のメインイベントのダンスと陛下へのご挨拶の前に、腹ごしらえでも致しましょう。


 あ……。

 すでに切り分けられ、各部位ごとに並べられた豚の丸焼きを前にして膝を折りそうになりました……。

 切る所、見たかったのにぃ~~

 …………。

 でも、文句を言っても仕方がないわね。

 美味しそうに並べられたお肉を前に、食欲を抑えられる私ではありません。

 こうなったら、たらふく食べてやる!と、心に決めました。

 皿一杯にロースとヒレ部分を乗せ、ソースをかけようとした時━━


 ━━ドンッ!ガシャンッ!


「あ……」

「あ、ごめんなさい」


 ぶつかってきた方の顔を見ようと振り返るも、一目散に逃げて行きました。

 咎めたりはしないのに、ああいった態度をとられると、嫌な気分になるわね……。

 ぶつけられた拍子に勢いよく飛び、無残に転がったお肉は、もう食べることが出来ません。

 素早く、転がったお肉を片付ける給仕の方に、お怪我はありませんかと声を掛けられますが、心に傷を負った私は、ええと答えるのが精いっぱいでした。


 肉……最後のロースとヒレだったのに……。

 食べ物の神様、ごめんなさい……。

 

 皿の割れる音で集まってきた方々に、騒がせたお詫びを致します。

 ホールへと去っていく方達の背を見つめていると、一人残られた王太子殿下が声を掛けてくださいました。


「平気か?」

「殿下……私は平気なのですが、あの方は何故逃げてしまわれたのでしょう?」

「一部始終を見ていたが、あの娘は昼間、大勢に囲まれていた者だったぞ」


 一部始終を見ていたと!


「殿下……初めから見ていたのですか?」


「ああ。切り分けられた肉を見た時は悲壮感を漂わせ、肉を盛る時は意気揚々としていた時からな」


 なんてこった!


「お声を掛けて下されば、よろしかったのに」

「下手に声を掛けると、宰相に睨まれるからな」


 そう答える王太子殿下は、目線をホールに向けていた。

 大丈夫よ。今、父様は陛下に捕まっていますから。

 

「ん、宰相は父上とお話中だな。お腹が空いているのだったら、この肉とこっちのテリーヌがお勧めだぞ」


 お勧めだと言ったお肉とテリーヌを品よく盛りつけ差し出して下さる殿下。


「ありがとうございます」


 礼を伝え、お皿を受け取り頬張ります。うまっ!これは柔らかジューシーなハンバーグですね!

 色とりどりの野菜をゼラチンで固めたテリーヌが、箸休め的な役割をこなし、良い組み合わせになっております。

 いくらでも食べられるわ!

 

「グッジョブですわ!とても美味しいです、殿下。……うん?」

「ぐっじょぶ?」

 

 心の声の方も漏れちゃった、エヘ。


「良いお仕事を致しますね、という誉め言葉ですわ」


 私の言葉を聞いた殿下は、そうか!と呟きながら、笑みを零しておいでです。

 深く追求されなくてよかった。

 私はホッと胸を撫で下ろし、空になったお皿に料理をつぎ足します。

 次は、魚介類にしましょう。

 海老のカクテルは定番よね。見た目も華やかだし、手軽に摘まめるもの。

 白身魚のムニエルも美味しそうよね……この爽やかな香りと香ばしい香りは、レモンバターソースね。

 

 ふぅ、たっぷり食べましたわ。

 次はデザートに行きましょうか!


「まだ食べるのか?」


 殿下、まだいらっしゃったのですか。


「次はデザートを頂こうかと……口をサッパリさせたいので、シャーベットなどがあると嬉しいのですが……ありませんね」


 冷やしてあるジュースはあるのに、口直し的な氷菓がありません……。

 我が家ではアイスクリームもシャーベットも料理長が作り置いてくれるので、いつでも食べられる。

 

「しゃーべっと、とはなんだ?」


 えっ?

 てっきり父様がアイスクリームのレシピとシャーベットのレシピは、王家に伝えていると思っておりました。

 

「殿下、アイスクリームを召し上がった事はございますか?」

「あいすくりーむとは?」


 あちゃ~、レシピを伝えてないのか、伝えていても作れずにいるのかはわかりませんが、食べた事がないとは思っていなかった。


「殿下、アイスクリームとは玉子、牛乳、砂糖、生クリームで作る凍らせたデザートです。シャーベットは果実水などを凍らせたものになりますね。…………召し上がってみます?丁度、あちらに置いてあるジュースで作れますが」


 私の提案に、一瞬考えられた殿下は、

「食べてみよう。何事も挑戦する事に意味があるからな」

 と……意気込みを見せてくださいました。

 そんな、チャレンジャー精神は必要ないですよ。

 ただ、シャーベットを食べるだけですもの。


「では、ここで作ると目立ちますので、人気のない場所へ移動いたしましょう」

「ああ、わかった」


 魔法で作る物を人に見られては、父様に叱られる。

 ジュースとお茶用の砂糖、器などを失敬して、人気のないテラスへと移動しました。

 果汁100%で作るシャーベットも美味しいのだけれど、冷えると甘みが物足りなくなるのよね。

 なので、少し砂糖を足します。


「殿下、誰も居ませんよね?人の気配がしたら教えてくださいませね」

「何故だ?」

「今から、魔法を使用するのですが、人に見られると父様に叱られるのです」

「宰相に目を付けられては困るな……よし、任せておけ」


 腕を組み、テラスの窓際に立つ殿下は、不動の構えを見せている。

 そうですね、そこで通せんぼをしてくだされば、安心して作れます。


 いざ、シャーベットを作りませう!

 失敬してきた葡萄果汁に砂糖を入れ、よくかき混ぜます。

 この時、砂糖の粒感がなくなるまでしっかり混ぜてください。

 材料が乏しいこの場では、このまま魔法を発動させます。

 『アイスクリーム』!!

 空気を含ませる様に、しっかり混ぜながら凍らせます。

 シャリシャリ感を楽しむなら、余り混ぜなくていいのだけれど、ふんわり口当たりの良い食感を好むのなら、しっかり混ぜましょう。


 所要時間1分もかかりませんでした。

 さすが魔法ね。

 綺麗なガラスの器に盛り、スプーンを添えて殿下に差し出します。


「完成いたしましたので、召し上がってみてください」

 殿下は、器を受け取り、シャーベットを恐る恐る口に運ぶもすぐさま、笑みを零されます。

「んーーっ!冷たいっ、美味いっ」

「気に入っていただけたようで、嬉しいですわ」


 私もいただきましょう。パクッ、うん、冷たい~~美味しい~~

 口の中がサッパリするわ。


「しかし、父様がレシピを伝え忘れたとは思えませんし、なぜ、王城では出ないのでしょう?……」

「これは、魔法でしか作れないのか?」

「いえ、魔法省で作られた『冷凍庫』があれば簡単に作る事が出来ますが。我が家の料理長も魔法を使用せずに作っていますもの」


「ナディア!」

 殿下が暗闇に向かって、声を掛ける。

「はっ!」

 その声に反応して、暗闇からナディア・シェパードが現れました。

 …………忍者か!


「ルイーズ様、お久しぶりでございます」

「ええ、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「はい、お心遣い傷み入ります」


 5歳の誕生日パーティーで会った時よりも、成長して美しくなったナディアにシャーベットのお裾分けをいたします。

 器を受け取り、躊躇なく口に運ぶナディアは、歓喜に打ち震えております。


「ああ、なんて美味しいのでしょう。影から拝見していた時から、気になっていたのです。ナタリーはこのしゃーべっとというものを食べた事がありますか?」


 ナタリー?

 ああ、美味しいものを妹にも食べさせたいという気持ちからかしら?

 ふふ、妹思いなのね。


「ええ、もちろん。このシャーベットもアイスクリームも、私が作った菓子も色々食べていますわ」

「ずるい……」

 ギリッと歯軋りして、そう呟いたナディアは殿下に向き直り、声を荒げます。


「殿下!しゃーべっとと、あいすくりーむの件は私が調べて参ります。ですので、殿下はルイーズ様と仲良くなり、菓子を分けていただいて下さい」


 そう、殿下に告げたナディアは再び、暗闇へと消えて行きました……。

 食べ物の恨みは怖いってやつかしらね?!


「ああ、すまない。普段は必要最低限の言葉しか話さず、言われた事を着々とこなす切れ者なのだが……なぜか、ルイーズの誕生日パーティーに招かれて以来、食べ物の話になると人が変わったようになるんだ……」


「そうですか……あ、殿下。━━━━これは、私が非常食用に持ち運んでいるマドレーヌと、ドライフルーツとナッツ入りのビスコッティですが、ナディアに渡していただけます?次回からは、ナタリーに食べてもらった菓子はナディアも食べられるように、用意したしますわ」


 小さなクラッチバッグの中から取り出した菓子を手渡し、殿下にそう告げます。

 次からはナディアの分と配達人となる殿下の分も、作りましょう……。


「すまないな……」

「もちろん、殿下の分も用意したしますわ。そちらも、お二人で召し上がってくださいね」


 続けざまにそう告げると、手渡したばかりのマドレーヌを嬉しそうに頬張り始める殿下。


「これも美味いな」

「ビスコッティは、固めですから、お茶に浸して召し上がると美味しいですわよ」

「そうか!後で試してみよう」


 なんだろう、私。攻略対象者を餌付けしている気分になってきたわ。

 ……いい事なのかしら?お菓子で釣って強化特訓を促す。

 ……両者ウィンウィン?!


「あっ!ルイーズ。ここに居たんだね」

「あ、殿下にルイーズ、こちらにいらっしゃたのですね!」


 息を弾ませ、フェオドールとダリウスが駆け寄って参りました。


「フェオドール、お疲れ様。シャーベット食べる?」

「うん。その前に、王太子殿下にご挨拶をしなくてはね」


 フェオドールが殿下に向き直り、挨拶の許可を待ちます。

 が、ビスコッティと戦っている殿下の目に入らず……。


「殿下?幼馴染のフェオドールがご挨拶を致しますので、許可をお願いします」

「ああ、許す。しかし、これは固いな……でも、美味い」


 だから、ビスコッティは固いからお茶に浸して下さいって言ったじゃない。

 後で試すと言ったのに、なんで今、食べてるの?食いしん坊さんか!

 そんな殿下を気にすることなく、フェオドールは恭しく礼を執り、挨拶を致しました。


「ブライアン・マスティフが長子、フェオドール・マスティフと申します。王太子殿下にお目通りが叶い、光栄に存じます」


「フェオドールはルイーズの幼馴染と言ったな」

「はい」

「ルイーズの作る菓子で一番美味しいのはなんだ?」


 何を聞いているのでしょうか?


「そうですね……木の樹液で出来たシロップをたっぷりとかけたホットケーキも美味しかったですし、茶葉を練り込んだシフォンケーキにたっぷりのアイスクリームを乗せたものも絶品でした」


「そうか、ルイーズ。頼んだ」


 真摯な態度で、横柄な物言いをなさる殿下。

 ホットケーキもアイスクリームを乗せたシフォンケーキも無理だからね。

 温かいままでいただくものと、冷たいものだから、持ち運びが出来ないよ。


「出来上がった直後にいただく物ばかりですので、無理です」

 ここはハッキリと告げなければ、期待だけして待っていられても困る。

 悲壮感を漂わせ、呆然と立ち尽くす殿下は放っておいて。


 フェオドールとダリウスにシャーベットを振舞う為、『アイスクリーム』を発動させました。

 ジュースはたっぷりあるので、作りたてを召し上がれ。


「ダリウスはどうして舞踏会へ?」

 

 この舞踏会には新入生とその家族、そして王城に勤める高官のみ。

 一学年上のダリウスが参加しているとは思っておりませんでした。

 殿下は特別。王城が自宅だもんね。


「私は、殿下にお仕えするため、色々学ばせていただいているから、王城にはよく来ているのですよ」


「ほぅ、そうだったのですね。━━今日の昼間、殿下に初めてお会いしたのですが、この様に食いしん坊さんだとは思っておりませんでしたわ」


 ダリウスに耳打ちするように伝えます。

 すると、ダリウスも耳打ちするように、

「常日頃から、侯爵様と私に食べ物の話を吹き込まれておりますので、致し方ないかと……」

 と、教えてくれました。

 そうか、見た事もない不思議な食べ物の話ばかりを聞いていたのなら、気になっても仕方がないわね。

 

「殿下。王城の調理場に立ち入る事は出来ます?」

「っ!食べられるのかっ?」

「はい、材料さえ揃っていれば、ホットケーキは簡単に作れますし、アイスクリームも出来ますので」

「よしっ!今から向おう!今すぐに、向かおう!」


 私の腕を掴み、引っ張って行こうとする殿下を制止させます。


「殿下。父様と陛下に許可を頂いてからではないと、向かえませんわ」


 娘の姿が見えないと、心配なさるでしょうし、陛下へご挨拶もしていませんし、父様とダンスも踊っていないもの。

 約束事はしっかりと守らねば、気持ちが悪い。

 先ほどまで、瞳を輝かせていた殿下が意気消沈したような気がします。

 

「あの、私だけが向かい、伺って参りますわ」

「私はここで待っているから、是非とも許可を頂いてきてくれ」

「かしこまりました」

 

 殿下に淑女の礼を執り、御前を離れると、僕も行くと言ってフェオドールが付いてきてくれました。

 

「殿下って、楽しい方だね。もっと、凛としていて近付き難い方なのかと思った」

「私も、そう思っていたわ。でも、気さくに話しかけてくださるのは嬉しいわよね。変に構えなくてもいいもの」

 仲良く談笑し、テラスの窓に手をかけようとした時。


「ひっ!」

 フェオドールが小さな悲鳴をあげました。

「どうしたの?ひっ!」


 私達二人の目に映ったものは。

 ガラス戸に張り付いて、恨みがましくこちらを見つめる一人の令嬢の姿でした。


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