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楽しい転生  作者: ぱにこ
67/122

47話

 朝の鍛錬の後、お風呂に入ります。

 ━━チャポン

「ふ、ふんふ、ふんふんふん♪」

 いいお湯だわ、ハーブとお塩をブレンドした特製入浴剤がいい仕事をしています。

 浴槽に浸かってこそ、疲労回復も望めるってもの。

 のんびり、ゆったり出来るバスタブをありがとうございます、父様。

 さすが、わかってらっしゃいますね。


「お嬢様。そろそろ朝のお支度を致しませんと、入学式に遅れてしまいます」

「はーい」


 ナタリーに急かされ、お風呂からあがると。

 待機していたナタリーに、ワッサワッサと体を拭かれ、瞬く間に制服に着替えさせられました。

 そして、鏡台の前に座らされ、髪を整えられます。

 その、流れるような作業はベルトコンベアに乗せられた商品の様。

 ナタリーにかかれば、私が大量生産出来そうですね!


「ねぇ、ナタリー。私が学園へ行っている間は、何をするの?」

 

 私が勉学に励んでいる間、部屋で待機しているナタリーが暇を持て余しているのではないかと思い、聞いてみる事にしました。


「本日はお部屋の清掃をした後、舞踏会用のドレスを準備をしたりでしょうか」


「明日以降は?」


「その時々で変化しますが、基本はお部屋の清掃や洗濯などをして、余った時間は刺繍をしたり、読書をして過ごす予定ですね」


「退屈したりはしない?」


「はい」

 

 良かったわ。侍女同士で遊べる様に、暇つぶし用のゲームでも提供しようかと思ったけど必要ないわね。

 定番のリバーシとか、トランプ、双六、福笑いもあるよ。

 ちなみに、リバーシとトランプは自作だけれど、双六と福笑いはサクラ公国にあったの。

 きっと、初代巫女様が作ったのだろうね。


 さて、身嗜みも整えてもらったし、行きますか!


「キッチンに置いてある籠の中にはお昼ご飯用に作った物で、ドームカバーの中にはクッキーが入っているから、仲良くなった侍女と一緒に食べてもいいし、小腹が空いた時のおやつにでもしてね。では、いってきます」


「お心遣い感謝いたします。お嬢様、いってらっしゃいませ」


 ナタリーに見送られ、部屋を出た私は、寮母さんにも差し入れを持っていきました。

 香り高い紅茶を練り込んだクッキーは料理長作で、私のお気に入り。

 気心の知れた人には自作をプレゼントするのだけれど、そうでない方には料理長作を渡しております。

 知らない相手の手作り品を食べるのは、ハードルが高いものね。

 食いしん坊な私でも、少し警戒するもの。


「ありがとうございます。これ、私が作ったケーキで恐縮なのですが、自信作ですので召し上がっていただけますか?」

「わぁ、美味しそう!ありがとうございます」


 ふふふ、寮母さんにフルーツケーキを頂きました。

 後で、皆と一緒に食べようっと♪


 ・

 ・

 ・


 入学式が行われる講堂へとやってきた私は、行き交う人々を観察しております。

 昨日、冒険者登録をしたついでに、薬草取りの初依頼をこなしている時。

 フェオドールが『一緒に隣り合わせで座ろうね』と言っていたので探しているのですが……。

 ……、真新しい制服を着ている者が新入生だと思ってはいけません。

 貴族たるもの、何年生になっても新品の様な制服を着ているのです。

 人混みでは、学年毎に色分けされたタイやスカーフなんて、目印にもなりゃしないし。

 …………見つからない。

 色とりどりの髪色、キラキラ輝く面差しは、さすがは貴族と言っていいのか、美男美女だらけです。

 街の中を歩いた時は、然程気にならなかったけれど、ここは異世界なんだと実感させられる。

 そして、ゲームでは感じる事のない熱気と香りがある……しかし、熱気はともかく、香りがキツイ……統一性のない香りがブレンドされて、人酔いしそうですわ。

 まだ、子供なのだから、香水の香りより、石鹸の香りやお日様の香りがした方が好ましいと思うのだけれど、貴族たるもの、そうもいかないのでしょうね。

 ……もう、駄目。

 私は、頑張って探した。うん、潔く断念しよう。

 そう心に決めた私は、新鮮な空気を求め、窓に近い場所に着席します。



 入学式が始まり、学園長の長いお話が耳に心地よく……、睡魔が顔を覗かせています。

 いい天気……外でお昼寝したら気持ちよさそう……。

 この後、何をするんだっけ?確か、教室で自己紹介をした後、受ける授業を選択するとか言っていたような……。

 ちなみに、新入生は80人前後で、AからDまでの4クラスに分かれております。

 入学試験などもなかったので、成績順でクラス編成が行われるわけではなく、完全にランダム。

 私はCクラスで、フェオドールはBクラスでした。

 クラスと言っても、出欠を確認する程度だそうで、受ける授業によって、バラバラになります。

 選択授業は、魔法科、剣術科、政財学科、歴史科、数学科があり、一般授業の国語やダンスや礼儀作法などを学ぶ貴族科もあります。

 一般授業は必須科目でもあるので、一日の内どこかに入れないといけません。

 それ以外は選択科目から、好きな授業を好きなだけ入れられるのです。

 ある程度の歴史や政財学、数学はアルノー先生から教えていただいたし、好きな授業だけに専念しますよ。

 なので、魔法科と剣術科を満遍なく入れる予定。


 ふわぁ~

 欠伸を噛みしめ、目尻に浮かんだ涙をハンカチで拭います。

 眠い……。

 学園長の話、長すぎる…………。


 ・

 ・

 ・


「ルイーズ。ねぇ、ルイーズったら、起きて!」

「ん…………んーーーっ!」


 大きく伸びをして、振り返るとフェオドールがニッコリ笑って佇んでおりました。

 

「おはよう、フェオドール。……あら、式は終わったの?」


「さっき、終わったよ。もう、ルイーズったらぐっすり眠ってるから、驚いたよ」


 途中から記憶がないのは眠ってしまったのね……。


「ハハ……心地よい陽気に、長いお話で睡魔が押し寄せてきたの。最初は耐えてたんだけど、負けてしまったわ」

ギュッと拳を握りしめ、少しばかり、悔しさを表現してみました。


「ふふ、負けちゃったんだね」

 と、言いながら頭を撫でてくれるフェオドール。

 今朝、見つけられなかった事を詫びて、一緒に教室へと移動します。

 

「ルイーズ、選択授業は決めた?」

「ええ、剣術科と魔法科を満遍なく入れます」


「そっかぁ……僕はどうしようかな……」


 そう言って、フェオドールは考え込んでしまいました。

 ……そうか、そうよね。

 フェオドールは伯爵家の長子ですし、色々学ぶ必要があるものね。


「ねぇ、フェオドールは魔法科も剣術科も入れるのでしょう?私は、ほとんどの授業がその2つだから、フェオドールに合わせるようにするわよ」

 

 2つの授業で占められているとはいえ、どちらを受けているかはわからない。

 なるべく、合わせて一緒に授業を受けたいものね。

 

「本当?」

 フェオドールは念を押すように、私の顔を覗き込みながら聞いてきました。


「ええ、一緒に授業を受けた方が楽しいものね」

「良かった。剣術科の授業だけでも一緒に受けられたらいいなって思ってたんだけど、合わせてくれるなら2つとも一緒に学べるね」


 安心したフェオドールは、晴れやかな表情を浮かべ陽気な声で色々話してくれました。

 政財科は必ず受けるように、伯爵様から言われたとの事。

 魔法科よりも剣術科を多く受けたいとの事。

 そう言えば、剣術で私より強くなるって言っていたものね、頑張って!

 

 ・

 ・

 ・


 教室の前でフェオドールと別れた私は、意気揚々と教室のドアを開くと。

 ━━━━うっ!

 総勢20名、40の眼がこちらを一斉に見つめております……。


「これから、クラスの自己紹介を始めたいと思いますので、席についていただけますか?」

「は、はい」


 担任と思しき方に促され、空いている席に着くと、自己紹介が始められました。

 担任の名は『アリソン・プーリー』先生といい、数学も教えられているそうです。

 キッチリと纏め上げられた髪型ときつめの眼差しは、前世で見たアルプスアニメのあの方を訪仏させます。

 またアニメが見たいわ……。

 コミックの続きも気になるし、大好きなゲームの続編が出ていたらと想像すると、あちらの世界に飛んで行きたくなる。

 まぁ、叶わぬ夢だけれどね。


 そして、生徒たちの自己紹介、授業の選択をした後、下校時間となりました。

 初日からお友達が出来るとは思っていなかったけれど、絶賛ボッチ中です。

 自己紹介をした時から、ざわついておかしな感じがしたんですよ……。

 私、何か噂になるような事をしたかしら?

 仮に、噂があったとしても、社交デビューもしていないお子様たちの耳に入るとも思えないし……。

 駄目だ、わからな過ぎてお手上げですわ。

 あのぉ、理由はわかりませんが、居た堪れなくなるので、遠巻きに眺めながら、ヒソヒソ話はやめていただけますか?


 あっ!そうだわ。

 寮に戻ってナタリーに聞いてみましょうと、手をポンと叩いた時。

 人だかりが目に留まりました。

 ひい、ふう、みぃ……えっと、7人の令嬢が一人の令嬢を取り囲んでおります。

 なんだろ?女子会? な、訳ないか。

 取り囲んでいる令嬢たちの顔は険しく、声をがなりたてているようにも見受けられます。

 いじめではないよね?!


 気配を消して、近付いてみましょうか!

 隠密部隊の方たちに伝授された秘儀『私は道端にある石ころ』を発動した私は、近くの植え込みに身を隠し、令嬢たちの話声に聞き耳を立てる事にしました。

 ちなみに、秘儀の名は嘘だと思うの。私が声に出すとゲラゲラと笑っていましたし、他の方は何も告げずに発動しておりましたもの……。

 

「庶民の血が入っているとはいえ、この学園に入ったのですから━━」

「そうですわ!たとえ下賤な血が流れようとも、この学園に入ったのですから━━」


 遠いせいか、いまいち聞こえないわね。

 この秘儀は、気配を消すのに特化したものであり、目視出来ない場所にいる限り、見つかる事はない。

 だが、稀に暴く者も存在する。

 そう、移動しようとする私の背中を突き、「何をしてるんだ?」と声を掛ける者の様にね。

 この秘儀を発動中に、声を掛けてくる者といえばケンゾーに違いない。

 手をパシンと払い除けて「静かにっ」と言って振り返ると……。


 あら、どうしたことでしょう……。

 そこにいらっしゃったのは、王太子殿下でした。

 南無……。


「それで、何をしているんだ?」

 いきなり現れた攻略対象者でもある王太子殿下の姿に私は凍り付きました。

 

「おーい、聞いているのか?」


 王族の者だけが持つ紫の瞳がこちらを見据え、私の言葉を待っております。

 どうしよう!きちんとご挨拶をしなければいけないのだけれど、今は私的に極秘任務中。

 ここから王太子殿下が登場すると、あちらのご令嬢たちもパニックになりますし……。


 ええーい!


 父様、不孝をお許しください。ルイーズは不敬罪に問われる行動をとります……。


 心を決めた私は、手で王太子殿下の口を塞ぎ、植え込みに引きずり込みました。

 

「殿下。御挨拶もせずに申し訳ありません。ですが、今は極秘任務中ですので静かにしていただけますか?」

 ふぅ、これは打ち首か、一家取り潰しかも知れません。

 ですが、私だけを罰して頂けるように懇願しましょう。事実、私の罪ですものね。

 家族まで巻き込むというのなら、一家で逃亡しますか……。

 サクラ公国は足が付きそうだし、獣人さんの大陸にでも行きましょうかね。

 あ、侯爵家が取り潰されると、ケンゾーとも別れねばいけなくなります……わぁ……離れるのは寂しいから、拉致ろうかしら……。


「うっ……て、手を…………離せ……」


 何をモガモガ言っているのでしょうか?!

 ━━━━━━あ!

 手を離せと仰っているのね!


「静かになさいますか?」

 私の問いに、コクコクと頷く王太子殿下。

 

「では、手を離しますので、小さな声でお話くださいね」

 そう念を押し、押さえていた手を離すと、殿下は肺一杯に新鮮な空気を取りいれるかのように深呼吸しました。


「ふぅ。それで、極秘任務とはなんだ?」

「あちらに、複数のご令嬢が一人のご令嬢を取り囲んでいますでしょう?いじめではないと思うのですが。念のため確認をしておこうと思いましたの」


「ふむ……囲まれているのは、最近、男爵家に引き取られた娘だな」

「最近、引き取られましたの?」

「ああ、庶民に産ませた子供だったらしいが、母親が亡くなったのを機に引き取ったと聞いた」

「……ですから、先ほど庶民の血がどうとか言ってたのね。でも、それだけでは、いじめかどうかも判断できませんし、もう少し聞いてみましょう」


 貴族というものは、礼儀作法に厳しい。自分自身にも他人にも。

 最近、引き取られたばかりという男爵家の令嬢に礼儀作法が身についているとは思えないし。

 それを責められたとしても、いじめとは言えないのが貴族社会というもの。

 私は、更に聞き耳を立てようと、身を乗り出しました。


「挨拶は『ごきげんよう』ですわっ!『こんにちわ』ではありません。貴方の行い一つが如何に、男爵家に影響をもたらすかを考えて行動しなければいけませんのよ」


 あの令嬢、良い子だな。


「そんな事を言われても……急に変えられません」

「急に変えろと言っているのではなくて、挨拶から始めればよろしいのではなくてと、提案しているのですわ。そんな事も理解できませんの?これだから、下賤な者は嫌なのよ」


 こっちの令嬢は、少し口が悪いわね……。


「目障りなんだったら、放っておいてくださいっ!」

「あっ!」


 取り囲まれていた令嬢が、走り去っていきました。

 良い子の令嬢が、引き留めようと手を伸ばしたけれど、届かずに空を切る。

 あの子、本当に良い子みたいね、仲良くなりたいわ。


「殿下、あのご令嬢はどなたですの?」

「あの娘は、『カリーヌ・ローシェン』だな。『ジョフロワ・ローシェン伯爵』の令嬢だ。どうした、気になるのか?」


「ええ、とても優しい子の様ですし、仲良くなりたいなと思いましたの━━━━」


 うっ、わっ!すっかり忘れていたけど、ただいま絶賛不敬罪中でしたわ。

 こんな私と友達になってなんて言えば、あのご令嬢に飛び火する可能性も出てくるわね。

 

「ん? どうしたんだ。そんなにジッと見つめて。私の格好良さに見とれて、二の句を紡げないのか?」


 金色に輝くサラッサラの髪をかき上げ、何言ってんだ?!

 これだから、イケメンは……。

 ふぅ……。


「確かに、殿下は見目麗しいですが、そうではなくて。私、殿下に名乗りもせず、植え込みに引きずり込みましたのよ。不敬罪に問われても、申し開きのしようもありませんが、罰は私だけにしてくださいね」


「クッ、フハハ━━」

「なぜ、笑うのですか?」


「フッ、アハハ、いや、不敬罪に問おうなど思っていなかったからな。それに、父上の親友でもある宰相の娘を不敬罪として告発しようものなら、私が叱られる」


「殿下は、私の事をご存知だったのですか?」


「ああ、知っている。宰相が父上に、娘自慢をする度に私も聞かされているからな」


 父様っ!娘自慢は、ほどほどにしてくださいませ。

 恥ずかしいにもほどがある。


「しかし、見たこともない私を特定できたのは何故ですの?」


 自慢話を聞かされていたとしても、会った事もない人間を特定するのは難しいし……。


「宰相と、同じ髪の色と瞳の色ですぐに分かった。それに、変わった娘だという事は、ナディアにも聞いていたし、ダリウスからも聞いたぞ」


 ナディア……ナタリーのお姉さまですね。

 ダリウス……貴方まで噂するとは思っていなかったよ。

 私って、あちこちで噂されているのか。

 あの、遠巻きにヒソヒソ話をされる原因が、今わかりましたよ。

 はぁぁぁーーーーなんてことだ。

 盛大な溜息を吐き、殿下に向き直ります。


「殿下。挨拶を致しますので、許可をお願いします」

「ああ、頼む」

「アベル・ハウンドが娘、ルイーズ・ハウンドと申します。王太子殿下にお会いできる日を心待ちにしておりました。この世界はいずれ、邪神が復活し、混沌が訪れるやもしれません。その時に備えて殿下には強くなっていただこうと思っております。ですので、殿下」


「なんだ?」


「ご一緒に、鍛錬に勤しみましょう!」


「あ、ああ」


 引き攣った笑みを浮かべて煮え切らない返事をいただきました。が、まだ出会ったばかり。

 後、6年ありますから、のんびり、されどバシバシいきますよ!

 殿下と知り合った?記念に。

 

「あ、食べます?」


 ポッケから料理長特製クッキーを取り出し、殿下に差し出すと「うん、美味いっ」躊躇なく口に運び絶賛しましたよ。

 毒見もせず食べるなんて、警戒心がないのかしら?

 しかもおかわりを要求しているし……。

 殿下もゲームの公式設定と外れて成長しているようですね……。


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