46話
フェオドールと仲良く手を繋いで、冒険者ギルドへ向かっているルイーズです。
フェオドールは10歳になった今でも、手を繋ぐのをやめない。
仲良しは繋ぐものなのだと、会う度に力説されるので諦めました。
きっと、子供の内だけだろうし、迷子になっても困るものね。
住んでる街であっても、貴族は一人で出歩くことがないから迷いやすいそうです。
私は知らない街でも迷わないよ。ただ、寄り道が多いだけ……。
それを迷子になりやすいと勘違いされています。
でも、よく考えてみて!
ここはどこ?ってなっても、高く飛んで目的地を一望するだけで、確認できるのよ。
それで迷うはずがないじゃない?!ねぇ。
「ねぇ、ケンゾー。私、武器を持っていないのだけれど、どれくらいのランクで必要になってくるの?」
ふと、目の端に武器屋が見え、気になった私は先導する先輩冒険者ケンゾーに聞いてみました。
「そうですね……お嬢様は剣をお使いになられますか?それとも魔法を軸に考えておいでですか?」
「う~ん……両方かしら?!拳も蹴りも剣も魔法も使うわ」
うん、きっとその瞬間に確実な攻撃を繰り出すと、思う。
「基本、武器が必要になるのはEランクからとなっております。最低ランクであるGはあまり危険がない場所で採取のみとなっておりますので、武器は使用致しませんし……持つとしてもナイフくらいかと。魔法を軸に考えておいでなのでしたら、魔法使いと認識していただく為に杖を装備するのもよろしいかと思います」
杖は邪魔だな……攻撃力もあまりなさそうだし。
杖で通常攻撃を繰り出しても、大したダメージにならないものね。
ダメージ1、1、1、1、1とか、よく見たもん。
じゃあ、ナイフか……包丁じゃダメかな?!いつでも、どこでも料理が出来るように、マイ包丁はアイテムバッグに入れているの。
きっと、採取に必要なナイフって根を切ったりする程度だよね。
……傷むかなぁ……刃毀れすると嫌だな……ナイフ買った方がいいかなぁ。
前を歩くケンゾー、手を繋いでいるフェオドール、横を歩くダリウスを順に見ます。
身長が伸びたケンゾーは短刀から、普通の刀にチェンジしているし、フェオドールは7歳の時に伯爵様からいただいた剣を愛用している……。
ふむ、ダリウスも魔法がメインのはずなのに、帯剣していますね。
「って、よく見ると武器を持っていないの私だけじゃないっ」
「ふふ、ルイーズは剣がなくても強いから大丈夫だよ」
「そうですよ。ルイーズはランクアップした時に手に入れたらいいのではないですか?」
「フェオドール様とダリウス様の仰る通りです。剣などなくとも、この中で最強ではありませんか。必要ありませんよ」
「でも、私もナイフくらいは欲しい……」
シュンと項垂れてそう言うと、ケンゾーがため息交じりに私に告げます。
「お嬢様は、刃物がなくとも麦刈りを楽しんでいたではないですか。そんなお嬢様にナイフなど無用でございます」
と……。
……そうかもしれない。
武器なんて手にしたことがない世界で生きて、今世では自分の武器が手に入るとワクワクしていたから、気が逸ったのよ。
仕方がない、もう暫く我慢しますか。
「ギルドに到着いたしました」
ケンゾーの声に反応して前を向くと、2階建ての大きな建物が目に飛び込みました。
ほぇ~これが冒険者ギルドなのね。
皆さん、ギルドですよ。ロマンの詰まった冒険者ギ・ル・ドですよ。
どうしよう、ドキドキしてきましたわ。
すっごくワクワクもしてきましたわ。
ヤバイ、テンションがだだ上がりですよ。
「皆さん、入りましょうっ!」
しっかりフェオドールの手を握りしめ、ケンゾーとダリウスを急かします。
くすっと笑みを浮かべたダリウスがドアを開けてくださいました。
「ありがとう、ダリウス」
ニマニマした顔でお礼を言って、ギルドの中へ入ります。
うぉぉぉ。受付は、綺麗なお姉さま。
こ、これは、テンプレを押さえているという事ですね。
壁際には依頼が貼りつけてあり、中央には記入する場所としてカウンターテーブルが設置してあります。
詳しく説明すると、古い建物の市役所みたいな雰囲気でしょうか。
リアルで見ると感極まります。
「お嬢様。手順はあちらで必要事項を記入した後、受付で申し込みを致しますと冒険者カードが受け取れる仕組みとなっております」
「ありがとう、ケンゾー」
いそいそとカウンターに向かい、2枚の用紙を取り、フェオドールに1枚手渡します。
必要事項はっと……名前、年齢、得意な武器、魔法の有無……魔法の有無ってなに?
ケンゾーにおいでおいでと手招きします。
「どういたしました?」
「ねぇ、ここ。魔法の有無ってなんなのかしら?」
「ああ、それはですね。生活魔法以外の魔法が使えるかどうかを記入するのです。使える者は有の所に丸を付け、使えない者は無の方へ丸を付けるのです」
ふむ、生活魔法以外の魔法ね……。
色々使っちゃうから、有に丸と。
武器は剣?
「ケンゾー。私は木剣しか使ったことがないのだけれど、本物の武器を使うとしたら、何が得意になりそう?」
「そうですね……木剣の長さや形を考慮いたしますと、私と同じ刀か、普通の剣でしょうね」
剣か刀……ロマンはどっちだっ!
両方持ってみたいけれど………………。
「決められないよぉ」
「ふふ、お嬢様。今、決めなくてもよろしいのですよ。まずは剣と記入しておいて、後々、自分にあった武器が見つかった折に、申告し直すのです」
「そうなの?後から変更がきくのね」
「はい。冒険者登録に来る者は、武器など扱ったことがない子供が多いですからね。そういった事を考慮して、武器の変更などは出来るようになっております」
では、剣と書いておきましょう。
うん?素朴な疑問ですが、使用する武器が変わる度に申告し直すのって何故なんだろう……。
「誰が、なんの武器を使っているか、ギルドが把握しておく必要があるの?」
「お嬢様も、そこが気になりましたか!私も、気になり聞いたことがあるのです。要は、近距離攻撃をする者か、遠距離攻撃をする者かが把握できれば良いとの事でした。依頼主に沿った人材をギルドが探す時や、高ランクの魔物の討伐に必要な人材を集め、即席のパーティを組ませたりする時の情報源にしているのだそうですよ」
何故か瞳を輝かせ力説するケンゾー。君はそこに、ロマンを感じているのだろうね。
━━私もよ!
高ランクの魔物討伐で、即席パーティなんてっ、ゲームの縛りプレイをしているようだわ!
ああ、某RPGゲームの、高難易度を思い出す。
敵に先手を打たれたら、確実にゲームオーバーのハラハラ感。
回復したくても、常に金欠で回復薬も買えない仕様。
雑魚敵に油断して、成す術もなく撃沈する様……。
そんな苦労の末、迎えたEDは一味も二味も違うのよ。
「ルイーズ、まだ?」
「あ、もう少し」
前世のゲームに思い馳せすぎたわ。
書き終えたフェオドールが、ジッとこちらを見ています。
今、書き終えるから待って。
えっと、名前は『ルイーズ・ハウンド』、10歳。
よし、完成しました。
「書けましたっ!これを受付に持っていくのね」
「はい。いってらっしゃいませ」
「いってきます」
綺麗なお姉さまのいる受付へ向かい、用紙を差し出しますが、窓口の高さが半端ない。
顔しか見えてないんじゃない?
横に居るフェオドールは胸くらいの高さですね……。
私も成長したとはいえ、まだまだちびっ子ってことなのね。
「冒険者登録をお願いします」
「はい、用紙を確認させていただきます。…………記入漏れはありませんね。では、発行される間にギルドの規約を説明いたしますね」
「「お願いします」」
フェオドールと2人して、大きな声で返事をします。
受付のお姉さまは、脇から小冊子を取り出し説明を始めました。
「では。受け付けられる依頼は冒険者ランクと同じものだけとなっております。例え実力があり、高ランクの魔物を退治したとしても、ギルドは受理致しませんし、依頼達成にもなりません。そもそも、受付で申告してからでないと、討伐、採取に関係なく、遭遇したから、見つけたからと持ちこまれても、冒険者ランクのポイントとして加算する訳にはいかないのです。これは、低ランク冒険者の無謀や無茶を抑える為と思ってくださいね。そして、ランクアップに必要なのは、依頼を達成した数で決まります。GからFに上がるには採取クエストを5回成功させた後、試験があります」
「「試験?」」
「はい。ギルドの地下にある訓練所で、的に攻撃を当てるというものですので、難しくはないでしょう。FからEに上がるにはスライムエキスの採取クエストを5回成功させてください。この場合、スライムは討伐してもしなくても、どちらでも構いません。専用の瓶にエキスだけを入れ、持ち帰れば成功となりEランクへと上がります。EからDへとランクアップするには、3カ月間、冒険者として活動する事と15回の依頼を受ける事でDランクになります。新米冒険者のランクアップ説明は以上です。後はランクが上がる都度、説明をさせていただいております。次に、冒険者の約束事ですが、私闘は禁止です。もし、絡まれた場合は報告してくださいね。素行の悪い者は冒険者カードの剥奪と、罪の度合いによっては衛兵に突き出しますので。━━━━冒険者カードが出来上がりましたね。それでは、カードの説明に入ります。このカードには個人に関する内容は記されておりません。個人情報は、ギルド内で厳重に管理しておりますので安心してくださいね。もし、紛失した場合の再発行は、銀貨5枚をいただいておりますので、大切に保管してください」
銅のプレートに紐が通された冒険者カードを受け取り、受付のお姉さまにお礼を言います。
「「ありがとうございました」」
「これからのご活躍を、心より期待しております」
うふふ、活躍という言葉を聞いて嬉しくなり、笑みが零れます。
たくさん活躍できるといいな。
フェオドールも嬉しかったのか、こちらを見てニコニコと笑っております。
「冒険者になりましたね」
「うん、なったね」
ホクホク気分で、ケンゾーとダリウスの元へ向かっていると━━
ん? 暗い……明かりが遮られた様な暗さに包まれ、上を見上げる。
2メートルは優に超えてるのではないかと思われる30代くらいのおじ様2人と、20代くらいのお兄様に覗き込まれていました。
身長、でかっ!しかも、すごい筋肉!
リアル荒くれだぁ~凄いわ。さすが、冒険者ギルドね。
「へぇ、新米冒険者か!こんなお嬢ちゃんとお坊ちゃんが冒険者とはなあ。大丈夫か?」
と、スキンヘッドのおじ様が言いました。
「お坊ちゃんはともかく、お嬢ちゃんに冒険者は向いてないんじゃないか?」
と、茶髪を短く刈り込んだ、もう一人のおじ様が言いました。
「確かになぁ。こんなチビ、ゴブリンに囲まれたら一溜りもないだろう」
と、銀髪のお兄様が言いました。
むぅ、チビじゃあないもの……平均身長はあるもの!
ぷんすか怒っていると、体がふわりと浮き上がりました。
って、なに?!
ギャァーー!!
スキンヘッドのおじ様に荷物みたいに抱えられてるっ。
フェオドールも、もう一人のおじ様に荷物運びされているしっ。
うわぁぁーー!
2人してジタバタ、もがきます。
「よしよし、威勢はいいな」
「だな」
だな、じゃない!!
威勢は良いかもしれないけど!
こんな主のピンチに、なぜケンゾーは助けてくれないの?!
と、後ろを振り向くと、クスクスと笑っております。
この、裏切者めぇぇぇ!
・
・
・
ギルドの2階にある酒場兼食堂に拉致られてきたルイーズです。
目の前にはジョッキに入ったジュースが置かれています。
「さあ、遠慮せず、飲め」
フェオドールと顔を見合わせ、首を傾げ。
「「いただきまーす?」」
2人でジュースをクピクピ飲む。
ぷはぁ、美味しい♪
爽やかな酸味と甘さのコラボレーション。この食堂、いい仕事していますね。
「まずは自己紹介からだな。俺はBランク冒険者のガストンだ」
「そして、俺が同じくBランク冒険者のラウルだ」
「俺も同じくBランク冒険者のシモンだ、よろしくなお嬢ちゃんとお坊ちゃん」
えっと、スキンヘッドおじ様が、ガストンさん。
短髪のおじ様がラウルさん。
銀髪のお兄様がシモンさんね。
よし、覚えましたよ。
「初めまして、ルイーズ・ハウンドと申します。本日、冒険者になったばかりの新参者ですが、宜しくご指導くださいませ」
おーほっほっほ!自己紹介と合わせて華麗な淑女の礼を披露してみましたわ。
驚かされた意趣返しです。
そして、フェオドールの方を見て、コクンと頷き合図を送ります。
理解してくれたのか、フェオドールは恭しく礼を執り挨拶をしました。
「初めまして。先輩冒険者の皆さま。私はフェオドール・マスティフと申します。未熟者ゆえ、至らぬ点が多々あると存じますが、なにとぞご教導賜りますようお願い申し上げます」
おお、フェオドール凄いわ。
いつも、ニコニコしている顔しか見てなかったけれど、こんな凛々しい一面もあったのね。
ふふ、みなさん、口をあんぐり開けて放心しています。
意趣返しは成功したみたいだし、本題をお聞きしましょうか。
「それで、お話があるから、ここへ連れてこられたのですよね。お聞きしても宜しいですか?」
ジュースをクピっと飲み、皆さんの顔を見据えます。
先輩冒険者の3人は、引き攣った笑みを浮かべ、話を始めました。
「強引な事をして申し訳ありません。新米冒険者には、冒険者の心得を教える事になっているのです」
冒険者の心得?いいわね!
「ガストンさん、普通にお話してください。先ほどの挨拶は驚かされた仕返しみたいなもので、他意はないのです。普通の新米を指導するつもりで、お願いします」
そう告げると、3人はホッとした顔を浮かべ、豪快にエールを飲み干しました。
「プハッ!良かった。お嬢様って事は聞いていたんだけどよ。あんな挨拶をされたら、こっちが委縮しちまったぜ。ハハハッ!」
「ふふ、ガストンさん。聞いていたとは、誰にですの?」
多分、いえ、確実にケンゾーでしょうけどね。一応聞いてみます。
「うん、あっちに座っているケンゾーに頼まれたぞ」
やっぱりね!さっき、クスクスと笑っていたものね!
「ねぇ、フェオドール。ケンゾーが仕組んだそうよ。一緒に睨みつけてやりましょう!」
「うん、了解!」
ジーーーーーーージーーーーーーと、睨みつける事、数十秒。
ケンゾーが慌ててやって参りました。
「お、お嬢様、フェオドール様っ、申し訳ございませんっ」
頭を下げ、詫びるケンゾーを見て、フェオドールは爆笑しております。
ふふふ、確かにこのやり取りは楽しいけれどね。
「フッハハッ、もういいよ。別に怒ってなかったし、面白かったらね」
笑い過ぎて、目に涙を浮かべたフェオドールが謝罪を受け入れます。
「ふふふ、確かに、悪意がない事は初めからわかっていたし、楽しかったものね」
「そうですか。安心いたしました。お嬢様はともかく、フェオドール様には強引過ぎたかと反省しておりましたので」
「…………ケンゾー。後で、お話があります」
「かしこまりました」
ニヤリと笑みを浮かべたケンゾーは、礼を執り席に戻って行きました。
もう、私に対する扱いが雑過ぎる!
何か、ケンゾーをギャフンと言わせる事を考えなくてはいけません。
…………。
……すぐには思いつかないから、後でじっくり考えよっと。
さて。
「では、ガストンさん、ラウルさん、シモンさん。お話をよろしくお願いします」
「おお、もういいのか?」
「はい」
「じゃあ、始めるぞ。ギルドの約束のギは、ギルドに報告。これは、街道に魔物が出た時や、森の浅い場所で魔物が出た時には、必ず報告する義務があるという事だ。次はギルドのル、ルールを守ろう。ギルドの規約に反する事をやったら、冒険者人生を絶たれるからな。大事な事だから、しっかり守れよ。次はギルドのド、どうしようもない時は逃げよう、だ。新米冒険者は、力量もわからずに突っ走ってしまう時があるからな。少しでも危険を感じたら逃げるんだぞ」
なんだろう、とても良いお約束事だと思うのだけれど。
小学校で教えられる防犯標語っぽいのが、気になる……。
これ、誰が考えたんだ?!
「ガストンさん、このお約束を考えられたのはどなたですか?」
「うん?これは、覚えやすい様にギルマスが考えたみたいだぞ」
ギルドマスター。
まだ見ぬ貴方ですが、なぜか仲良くなれそうな予感がします。




