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楽しい転生  作者: ぱにこ
65/122

45話

 ナタリーの案内で無事、迷うことなく女子寮に到着いたしました。

 方向音痴ではないから迷う事はないのだけれど、うっかり寄り道はしちゃうからね……。


 レンガ造りの立派な建物で、門の前に噴水。獅子の像から水が噴き出て……ふ、風呂?!

 木造建築で趣のある校舎とは違い、豪華というか、なんと言うか……成金趣味。

 建物の管理は寄付で賄うって言ってたし、こういったオブジェ?も、誰かの趣味なんだろうね。


 中は普通だといいなぁ……。

 

「お嬢様、中へ参りましょう」

 ナタリーが、ぼーっと女子寮を眺めていた私に声を掛けます。

 

「ええ」


 シャンデリアがやたら眩しいエントランスを抜けて、寮母さんに挨拶に向かいました。

 白髪の優しそうな笑みを浮かべたおばあ様が寮母さんですね。

 慣れた感じでナタリーが寮母さんに声を掛けます。


「ごきげんよう。新入生の『ルイーズ・ハウンド』様でございます。お部屋は何号室になりますか?」

「ごきげんよう、寮母の『ニナ』と申します。これから、3年間よろしくお願い致しますね」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 

 私は微笑み、ニナさんにご挨拶を致します。

 3年間、お世話になります。

 マンションの管理人さんみたいな想像をしていたけれど、優しく微笑む姿は田舎のおばあちゃんの様だわ。

 なんだか、ホッとする……サクラおばあ様、お元気かしら?

 宝珠を使えば、すぐに会いに行けるのだけど、入学準備でバタバタしていて2ヶ月くらい会っていない。

 制服姿も見て欲しいし、落ち着いたら顔を出してみましょう。

 

「『ルイーズ・ハウンド』様は、……104号室となっておりますね。鍵はこちらになります」


 104号室というと1階のお部屋かな?

 専用のベランダでもいいし、小さなお庭とかあるかな?あるといいな。

 毎朝の素振りをお部屋の中でするわけにもいかないからね……。

 絶対、家具を壊すわ……。


 うん?鍵を受け取ったナタリーの顔が曇っております。


「ナタリーどうしたの?」

「私は今年、お嬢様と入れ替わる様に卒業しました。その3年間、104号室はずっと空室のままで、覗こうとする学生には、懲罰が下るほど厳しく管理されていたのです。それで、何か曰くがあるのではないかと学生の中で噂が━━━━」

 

「っ、怖い話は無理っ!やめてっ!!」


 耳を塞ぎ、ナタリーに話をやめるように懇願します。

 幽霊とか無理だからね。怖いの嫌いだからね。


「あの、寮母さん。本当に104号室なのですか?ハウンド家のご令嬢ですよ?」

「間違いなく『ルイーズ・ハウンド』様専用のお部屋となっています」


 ナタリーが念を押すようにもう一度寮母さんに伺ってくれましたが、間違いなく104号室との事。

 首を振り、諦めモードのナタリー。私は違う意味で首を振ります。

 幽霊部屋は嫌だーーーーーーっ!




 半場強制的に引きずられて部屋の前まで参りました。

 ナタリーも少し顔色が悪い。強がってはいても、怖いのね。

 ナタリーはゴクリと喉を鳴らして、

「お、お嬢様。あああ、ああ開けますよ…………」

 震える声でそう告げると、震える手にもう片方の手を添えてゆっくり鍵を開きます。


 ━━キィ


「「…………うわぁ」」


 2人でドアにしがみ付いて、部屋の中を覗いたのですが、普通のお部屋でした。

 中へ入り、ゆっくり見て回ります。

 寝室が2つとリビング、簡易キッチンにバストイレ付き。本当に普通のお部屋だわ。


「ねぇ、ナタリーが使っていたお部屋と何か違う?」

「そうですね……この部屋は私が使っていた部屋より広いですし、バスルームに浴槽があります。後は、他の部屋には簡易キッチンもありません」


「え?キッチンはなかったの?では、どうやって、お茶を淹れたりしていたの?」


 貴族の嗜みとしてお茶は欠かせない。

 簡易キッチンがなかったらどこでお茶を淹れるのかしら?


「食堂でお湯をいただいて、お茶を淹れていました」

「お部屋に持っていくまでに冷めてしまわない?」

「いえ、お茶をいただくのは、食堂横にあるテラスか、ドローイングルームでしたから。…………お嬢様、私が思うに、このお部屋は改装工事をしていただけではないでしょうか?」


「改装工事?」


「はい。広さ的にも、他のお部屋の2つ分はありますし、浴槽や簡易キッチンが置いてあるお部屋となると、大掛かりな工事が必要になると思うのです。そして、何より簡易キッチンの方を見てください」


 ナタリーの指差す方向、簡易キッチンに目を向けると……。


「冷蔵庫!」


「ええ、魔道具である『冷蔵庫』です。あれは、まだ一部の貴族しか所持しておりません。それがこの場にあるという事は、この大改装工事をした人物が侯爵様と言っているようなものなのです。3年もの月日をかけて、お嬢様専用のお部屋を用意したと考えるのが妥当だと思います。寮母さんも専用と仰っておりましたし……」


 謎に包まれた曰くの正体が判明して、胸を撫で下ろすナタリー。

 幽霊部屋ではなかった事に安心して、胸を撫で下ろす私。

 厳しく管理までして、大改装工事を決行する父様……親バカに拍車がかかっておりますね。

 

 しかし、懲罰を受けた方には謝罪に行った方がいいかもしれません。

 そもそも、罰ってなんだったのかしら?


「ねぇ、ナタリー……覗き見をした方の懲罰ってなんだったの?」


「確か、反省文を書かされていたと思います。でも、謎が判明した今だから言える事なのですが、自分の部屋ではない場所に無断で立ち入り叱られるのは、当然ですよね」


「そうね、空き部屋だからと言って、無断で立ち入るのは駄目よね」


 謝らなくても良さそうね。

 

「でも、改装工事くらいで3年も費やすかしら?」


 ふと、疑問に感じた事を聞いてみます。


 ナタリーが頬に手を当てて、

「そうですね……改装だけなら、長くても半年ほどで済みますものね……っ━━」

 と、口に出した後、一気に青ざめました。

 

 うん?って、事はっ!

 幽霊部屋の可能性がまた出てきたーーーーーっ!!


 ああああぁぁぁっ!幽霊怖いっ!

 

「お、お嬢様、落ち着いてくださいませ。大丈夫です、きっと!━━━━そ、そうですわ!わわ、私が部屋の謎を寮母さんに聞いてまいります。で、ですから、お嬢様はこちらでお待ちになっていてくださいませ」


「お、おいていかないでぇぇぇ……一人はいやぁ」


 部屋から出ようとするナタリーの足に縋り付き、懇願します。

 パニックになっている私を見てナタリーは冷静になったのか、ふっと優しい笑みを浮かべました。


「お嬢様。では、お部屋の前で待っていてくださいますか?それとも、ご一緒にお話を聞きに参りますか?」


「部屋の前で待ってます」

「では、そういたしましょう」


 ナタリーに手を引かれて、部屋を出た私は大人しく、蹲りながら待機する事に。

 幽霊部屋ではない事を願いつつ、ナタリーの背中を見送ります。

 ナタリー、早く帰ってきてね。


 でも、幽霊部屋だったら……父様にお願いして変えてもらう? いやいや、…………私が快適に過ごせるように改装までしてくださったのに、言ったら落ち込む……。

 この世界に神社とかあれば、お札を授けていただくのだけど……。

 悪霊退散とか、……家内安全とか?!は、ちと、違うね。

 光魔法で結界を張るとかだと、どうだろう? だめだ、毎日3年間維持する自信がない。

 マナを消費すると、お腹が空くからなぁ……。

 意識したら、お腹が空いてきたかも。

 サンドイッチでも食べようかな。本当は、お昼用に作って持ってきたものだけど、いいよね。

 うん、食べよう!


 ━━ガサゴソ

 ふふふ、空間魔法を施したポッケに入っているのだよ。

 空間魔法の使い手になった私は、このこぶし大のポッケを半畳分ほどの容量まで引き出すことに成功したのです。

 この中にはお弁当でしょう。おやつに木剣、道着一式とリョウブさん作のお薬色々が詰め込まれ、たとえ遭難したとしても、1週間は生きていける。

 備えあれば憂いなしというやつだね。


 今日のサンドイッチは野菜とチーズに照り焼きチキン。

 はむっ、はぁぁ、美味い。

 自分で言うのもなんだけど、腕が上がったね。

 料理長にも味見して貰ったけど、美味しいって絶賛してくれたし。

 やっぱり、プロから褒めてもらうと嬉しい。

 最近では、料理長と一緒に調理場に立つことが多くなって一緒にああだこうだと言いながら、懐かしくも新しい味を作り出しているのです。

 この世界にしかない食材で、前世の料理を作ると味の違いが出てくるのよね。それを補うために、プロである料理長の意見を聞きながら、懐かしい味へと近づけていくって感じ。


 もぐもぐ、はぁ、美味い。


「お嬢様ぁぁ」


 サンドイッチを頬張っていると、ナタリーが戻ってきました。

 決して走らず、されど、素早く。

 競歩の様なスピードを出しつつも淑女然とした優雅さを出す。

 ナタリー、立派ですわ。

 私も見習わないと……。

 

「お帰りなさい。それで、どうでした?」

「ふふ、サンドイッチを召し上がっていたのですね。タレが頬についています」

 そう言ったナタリーがハンカチで頬を拭ってくれました。

「ありがとう」

「いえ、お嬢様の身嗜みを整えるのも、私の役目ですから。では、寮母さんに聞いた事を報告いたしますね。ふふふ、幽霊が出るとかではありませんでした。このお部屋は元々、寮母さんが寝泊まりしていたお部屋だったそうです。ですから、他の部屋よりも広く作られていたのですわ」


 寮母さんのお部屋?!だったら、私が取っちゃったの?!


「続けますね。寝る時にしか使わないお部屋だったので、学生が起きている時間が無人で空室だと思うのも仕方がないと仰っておりました。そして、3か月前に侯爵様から入学する娘の部屋を改装したいと報告を受け、常々寝る時にしか利用しないお部屋を無駄に感じていた寮母さんが、丁度良いと思い提供したのだそうです」


「では、今、寮母さんはどちらに寝泊まりしているの?」

「101号室です。私達が使っていた部屋と同じくお嬢様のお部屋の半分ほどの広さですが、寝るだけなので問題ないと仰っておりました」


「そうなのね……良かった……寮母さんのお部屋を無理やり奪ったのではなくて安心したわ。━━それと、幽霊部屋ではなかったのが、一番の朗報ね」


「はい、これで一安心ですね。では、お部屋に入りましょうか」


「ええ」


 はぁ、曰く付きの部屋ではなくて良かった。

 部屋に戻り、荷物を解くナタリーを手伝います。

 そう言えばベランダには出ていない。木剣を振りまわすスペースがあるかしら?

 窓辺に歩いて、覗き込むと……わぁ、広い。

 各部屋が覗き込めない様に囲いがしてあり、専用の庭って感じ。

 朝の鍛錬をするスペースも十分にあるし、端っこの方で家庭菜園しても良さそう。

 冒険者登録をする時に、種でも仕入れてこようかな。ふふ、楽しみ。


「お嬢様、そろそろお昼ですが、お出かけになる支度はどういたしますか?」


 もう、そんな時間?!


「道着に着替えたいのだけれど、学園への出入りの時に問題になる?」


 学生証は明日の入学式の時に配られるから、この制服以外に身分を証明できるものがない。


「学園を出る際に守衛から、出入り札を手渡されます。ですから、道着に着替えられても問題ないかと」

「良かった。では、着替えるわね。ナタリーも一緒に行く?」


 部屋の片付けといっても、大した量ではないし、暇になるといけないから誘ってみます。


「いえ、私は、片付けを終えた後、ご挨拶回りをしてまいります」

「挨拶回り?それは、私も一緒に行った方がいいのではない?」


「それはいけません。確か、今期の1年から3年までの方でお嬢様より身分が上の方は3年の王太子殿下のみでございます」


「私自ら行くと困ってしまう事になるのね?」

「はい」


 貴族は本当に面倒くさいね……。

 でも、確かに上位貴族が挨拶回りに来たら、委縮しちゃうかも?

 はぁぁぁ……ナタリーに任せましょう。


「では、ナタリー。お願いしますね。そうそう、挨拶回りってお菓子でも持っていくの?」

 持っていくなら、隠しているおやつを出しますよ。

 クッキーやマドレーヌみたいな、手軽につまめる系がいいかな?

 サクラおばあ様と一緒に焼いたおせんべいもあるよ。


「お心遣い感謝いたします。ですが、本日はご挨拶だけですので」

「そうなのね。…………それでは、この━━マドレーヌはナタリーのおやつにして、こっちは━━━━お昼のお弁当ね。私が作ったサンドイッチよ」


 ポッケからおやつとお弁当を出し、ナタリーに手渡します。


「ありがとうございます」

 

 さて、道着に着替えて、髪を纏めて出発しますか!

 私の髪は順調に伸びております……そして、順調に縦ロール化してきております。

 本当にロールが邪魔……。

 髪切りたい……。バッサリ、ショートヘアにしたい……。

 くるくるロールを纏めて、よし!ツインテール完成。

 冒険者用のアイテムバッグも装備。この中にもポッケ同様の品が入っております。

 ポーチ大の大きさでお部屋3畳分ほど。

 ふふふ、アハハ、その内、無限アイテムボックスを完成させてみせますよ。必ずね!


「では、ナタリー。いってきますね」

「はい。いってらっしゃいませ」


 ナタリーにお見送りをしてもらい、目指すは待ち合わせ場所である門の入り口。

 るんるんと鼻歌を奏でながら闊歩する私を見ている者がいますね。

 道着が珍しいのかな?

 動きやすくてお勧めだよ。


 そういえば、サクラ公国に行ったことで、忍び装束の謎が判明しました。

 リョウブさんやカリンさんが所属している『隠密部隊』の隊服になっているのです。

 あ、カリンさんは違ったけどね。あんな花魁道中みたいな恰好で良く動けるよ。

 それでいて、戟を振りまわすんだもの。あの、細い腕に剛腕が隠されているなんて、誰も想像だにしないだろうな……。

 あの着物も初代巫女様が教えたものだとすると……遊び心からなのだろうか?

 ふむ、そう考えるとお茶目さんだね。


 謎が判明した今、忍び装束はサクラ公国へ遊びに行った時だけ着る事にしたの。

 いつも一緒にいるのが隠密部隊の皆さまだからね。

 おそろい♪

 もちろん、ナギにもプレゼントしたよ。瞳の色と同じ綺麗で落ち着いたグリーンの忍び装束を。

 

 あ、門が見えてきました。 

 あら?フェオドールにダリウスも一緒ですね。

 

 駆け寄り、久しぶりに会うフェオドールとダリウスに挨拶をしましょう。


「お待たせしました~っ!フェオドールもダリウスもお久しぶりです。お元気でしたか?」

「うん、久しぶり。ルイーズも元気だった?」


 久しぶりと言っても、昨年の暮れに会ったフェオドール。出会ったばかりの時は、同じくらいの身長だったけれど、今は抜かされております……。

 着々と攻略対象者らしく、高身長になっているのですね。

 可愛らしかった顔も、伯爵様に似て爽やかイケメンになってきてる。

 緑色に輝くサラサラの髪をなびかせ、微笑む姿はゲームの画面越しに見たものと同じ。

 

「もちろん、有り余るほど元気です!」

「ふふ」


 フェオドールと挨拶を交わし、ダリウスの方に向き直ります。


「ダリウスが学園に通い出して会っていないので、1年ぶりくらいでしょうか?お元気そうで安心しました」

「ルイーズも元気そうで安心いたしました」


 このニッコリ微笑む姿はゲームでは見る事がない笑顔なのです。

 設定上のダリウスは腹黒で、微笑んでも黒さが隠しきれていなくて、ヒエッてなるのよ……。

 真っすぐに育ってくれて嬉しいわ……。

 今は、魔術師っぽいローブを羽織っていて、少し伸びた髪を後ろで束ねています。

 こうして、成長した姿を見るとやる気が満ち溢れます。

 巫女様召喚まで、後6年。

 この2人と、まだ見ぬ王太子殿下を強くするため頑張りましょう!


「では、行きましょうか!ケンゾー、案内をお願いね」

「かしこまりました」


 ケンゾーの案内で、いざ冒険者ギルドへ。


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