5話
「ふんふんふふふ~♪ひるさがり~ふんふ~ふふふ♪……ドナドナ……♪」
ルイーズもうすぐ2歳です。馬車に乗ってます。
けっして、ドナドナされてる訳ではありませんが、お約束なので歌ってみました。
あれから、父様に「おともでゃちがほしいです(ついでに滑舌も欲しい)」と言ったら、同じ年の子供がいるからと、伯爵家にお邪魔する事になりました。
父様は「しかし、ルイーズに男の子の友達は……早すぎないか……悪い虫……」とか、ぶつぶつ言い、母様が、まだ淑女教育もやっていないお転婆娘には、男の子の方が安全だと言う事で決まりました。
ご令嬢に、怪我でもさせたら大変だもんね。
『マスティフ伯爵』は、父様の御学友だそうです。
馬車で半日ほど行った所に、伯爵家の領地があります。
特産は<葡萄>で、ワイナリーもたくさんあるそうです。幼女の内は飲めませんが、もう少し大きくなったら、<ワインゼリー>でも作ってみたいと思います。
林檎とワインで作った、<コンポート>もいいですね♪温かいコンポートに、アイスクリームをのせて♪…(じゅるり)です。
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長閑な葡萄畑を抜けると、レンガ造りのお屋敷が見えてきました。
もうすぐ『フェオドール』に会えます。
馬車が屋敷に着き、父様が扉を開け、私の手を取りエスコートしてくれます。
屋敷の門の前には、執事さんと緑の髪の色に青い瞳のイケメンが……。
『フェオドール』と同じ色なので、きっと『マスティフ伯爵』様でしょう。
執事さんが「ようこそ、おいで下さいました。ハウンド侯爵様、ルイーズ様」と言いながら恭しく礼をします。
伯爵様は一歩前へ出て父様とハグを、それから私と目を合わせると、頭をわしゃわしゃと撫でました。
「よく来てくれたね、アベル。そちらの小さなレディを、紹介してくれるかい?」
爽やかです、ガムのCMに出てきそうなくらい、爽やかイケメンです。
「ルイーズ、ご挨拶をしなさい」
父様に促され「はじめまして、あべる・はうんどがちょうし、るいーず・はうんど、ともうします。このたびはおみゃねきいただき、ありがとうございます」少し噛んでしまった……恥ずかしい。
「初めまして、ルイーズ。中で、息子が待っているから紹介しよう」
屋敷の中に案内され、客間に行くと、一人の男の子が立っていました。
伯爵様と同じ髪色、瞳の色、幼いけれど間違いなく『フェオドール』です。ゲームの画面越しでしか見ていないけれど、懐かしい気持ちが蘇ります。
「フェオドール、お客様だよ。挨拶をしなさい」
伯爵様に促され、男の子は、
「はじめまして、ふぇおどーる・ますてぃふともうします」
私は 拙いながらもカーテシーをして「はじめまして、るいーず・はうんどともうします。なかよくしてください」と挨拶をしました。
それぞれが挨拶した後、父様たちはお話があるそうで、私とフェオドールはお庭のベンチでお話をすることにしました。
「るいーずさまは いつもなにをしてあそんでるのですか?」
「ふぇおどーるさま、るいーずでいいですよ。もうすこし、ふつうのおともだちみたいな、はなしかたのほうがうれしいです」と言うと、フェオドールは「じゃあ、ぼくもふぇおどーるでいいよ」と優しく微笑んでくれました。ゲーム以上に 優しくて素敵な男の子の様で、嬉しくなりました。
「わたしは、さいきんまほうをべんきょうしてるの」
「まほう?るいーずはすごいね。ぼくにもできるかな?」
「まほうは、きとそうぞうりょくがだいじだから ふぇおどーるにもかんたんにできるとおもう。さいきんは、ちゆまほうができるようになったの」
「ちゆまほう?」
「びょうきやけがをなおすの」
「ぼくのかあさまは……おからだがよわいんだ……だから、げんきになるようにかあさまがすきな、はなをおみまいにもっていくのだけど……」
「わたしも、ふぇおどーるのおかあさまの、はくしゃくふじんにおみまいしたらだめ?」
駄目って言わないで、治るかどうかはわからないけれど、その為に来たのだから……。
効くかどうかはわからないけれど、上目使いでおねだりです。
「う~ん、とうさまにきいてみないとわからないから、ききにいく?」
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フェオドールと一緒に屋敷の中に入り、伯爵様と父様にお伺いします。
まずは、フェオドールが「とうさま、るいーずが、かあさまにおみまいしたいそうですが、よろしいですか?」
「はくしゃくさま、とうさま。すこしのじかんでいいので、おみまいするきょかをください」
必殺・上目使いです。
困った顔をした父様は、伯爵様の方へ向きます。
「う~ん、長居しないと約束できるのだったらいいかな」
「ありがとうござます。はくしゃくさま♪」
普通の治癒魔法に関しては、伯爵様もお試しになったはず。
私自身も細かな病気の診断は出来ないけれど……。
病原菌が特定できないのを考慮して、光と水と闇の複合魔法の後に、普通の治癒魔法を試してみる事にします。
伯爵夫人の部屋へと案内され、まずはご挨拶をしましす。
「はじめまして、るいーず・はうんどともうします。よろしくおねがいします」
伯爵夫人は、ベッドの隣のゆったりしたソファに腰かけておいででした。
「こんな格好で申し訳ありません。キャロル・マスティフともうします。お見舞いに来てくださってありがとうございますね」
銀色の美しい髪に紺色の瞳で、病気で痩せてはいらっしゃるけど、凄く美しい方です。
コンコンと乾いた咳をしています。
結核の様な病気でしょうか?
「はくしゃくふじんは、よくせきがでるのですか?」
「ええ、乾いた咳がよく出ますね」
「けったんなどもでますか?あと、やせてきたとか、いきぎれがしやすいとかありますか?」
「ええ」伯爵夫人が、不思議そうな顔をして、伯爵様や父様を見ています。
私は部屋に居る皆の顔を見渡し、告げました。
「とうさま、はくしゃくさま、はくしゃくふじん、やまいにこころあたりがあります。ちゆまほうをかけるきょかをいただけますか?」
父様達は、互いの顔を見合わせて、困った表情をされました。
その様子を見兼ねた伯爵夫人が、
「いいわよ。お願いします」
「なっ!キャロルっ!━━」
「大丈夫よ、他に治療法もないのだし、ものは試しです」と、微笑んでいらっしゃいます。
なかなかに剛毅な方の様ですね。
「では、しつれいします」
肺の辺りを中心に、体全体に行きわたる様に、アンチドートをかけます。
その後、弱った体を癒す様に、治癒魔法をかけます。
これで治ったとしても、結核だったら、他にも感染してるかもしれませんが、今は様子見ですね。
「どうでしょうか?」
「あら?胸の苦しさが和らいだわ。今のところ、咳も大丈夫みたい」
「また、くるしくなったら、すぐにおうかがいしますので、ほんじつはこれでようすをみてもらえますか?」
「ええ、本当にありがとう。咳が出たら、小さな可愛いお医者様に来てもらうわね」
「はい」
伯爵夫人と笑みをかわし、父様にかけよりました。
「キャロル、すまないね。家の娘の願いを聞いてくれてありがとう」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。小さなレディにお見舞いに来ていただいて、治癒魔法までかけてもらって。幸せな気分ですわ」
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とりあえず、当初の予定は完了し、帰宅しました。
伯爵夫人の御様子は、お手紙で知らせてくれるそうなので、一安心です。
初めは不安そうに見ていたフェオドールも、帰りは笑顔でお礼を言ってくれましたし。
父様は「可愛くて、頼りになって、益々、結婚はさせられない……」と ぶつぶつ言っておりました。
次は、第二の目標<ルイーズ健康計画と弟を可愛がろう>です。