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楽しい転生  作者: ぱにこ
52/122

40話

「いけません━━あ、あぁ━━━━だめだっていってるでしょう━━━こらっ━━めっ━━」


 ん、んんっ?!


 ガバッ!!

 

 な、なんて怖い夢っ。

 はぁ、はぁ、はぁ。

 まだ心臓がドキドキしていますわ。

 ま、魔獣に食べられる夢なんて……。

 夢のせいで、頭から汗でびっしょりですわ…………。

 

 あら?


 馬車は止まってるみたいね。

 休憩かしら?

 着替えて、食事の準備でもしましょうか。


 と、振り返ったら……。


 ケンゾーが足元で土下座をしておりました。


「ど、どうしたの?」

「あ、あの、その、もうしわけございませんっ━━」


 ペコペコと何度も頭を下げるケンゾー……。

 

「だから、どうしたの?」

「その、あの、とめたのですが……とめられなくて……ですから、もうしわけございませんっ」


 だから、何が申し訳ないの?


【ぴぃぴぃ】

「あら?ぴよたろう、おはよう」


 鳴き声が聞こえたので、視線を上げるとぴよたろうが果実を咥えて、頭に乗っておりました。

 うん、頭が重いはずだわ。

 普通の子供なら、首が折れちゃうからね。

 この癖はやめさせなきゃあ駄目だわ。


「さあ、おりてらっしゃい。おそとにいって、しょくじにしましょうね」

【ぴぃ、ぴぴぃ】


 手を伸ばし抱えなおすと、ぴよたろうは咥えた果実を手に乗せてくれました。


「わたくしにくれるの?ありがとう~とてもうれしいわっ」

 見たところ、ぴよたろう自身が採ってきてくれた果実のようです。

 私の為に、頑張って採ってきてくれたのね。

 親思いの優しい子。


「あ、あの、おじょうさま」

「ほんとうに、どうしたの?はっきりいってくれないと、ケンゾーにあやまられるいみが、わからないわ」

「しょうちいたしました……では、もうしあげます━━」


 そして、ケンゾーが真実を教えてくれました。

 夜通し走ったが馬車が休憩の為に止まるや否や、ぴよたろうが駆け出し、森に入っていったとのこと。

 それを目撃した師匠がケンゾーを起こし、後を追う様に促しました。

 眠い目をこすりながらも、ぴよたろうを追いかけ森に行くと、いきなり大きな木が襲ってきたそうです。

 驚いたケンゾーは、風魔法で枝を切り落とし、後退。

 状況がいまいち掴めないながらも、ぴよたろうを探すため視線を彷徨わせると……。

 襲ってきた大きな木の上で一生懸命、果実をもいでいるぴよたろうの姿を目にします。

『ぴよたろう、あぶないから、こっちにおいでっっ』と、声を掛けるも【ぴひぃーー】と闘志を燃やすぴよたろうの鳴き声が響いただけだったそうです。


 ケンゾーは焦りました。

 このまま、この木の魔物?に突撃したくとも、武器を持ってきていません。

 この旅に持参できたのは訓練用の木剣のみだからです。

 大人を呼びに行こうにも、ぴよたろうが気になり、この場を離れられず。

『だれかっ!たすけてっ!』と、大声を張り上げ、異変に気付いてくれる事を願いました。

 大きな木の魔物は、なおも攻撃を続けてきます。

 ケンゾーは風を纏いました。

 この風は触れた者にダメージを与えつつも、自身を守る防御壁にもなるのです。


『ぐぁああぁああ』

 魔物の声が森に響きます。

【ぴぃぃぃーー】

 魔物の声に反応して、力強い鳴き声をあげるぴよたろう。

 その時、ケンゾーは思ったそうです。

『なんで、やる気になってるの?』

 勝ち目があると信じているぴよたろうと、勝ち目がないと冷静に判断するケンゾー。

 温度差はあるものの、逃げるという選択肢はなかったそうです。


 暫く攻防が続き、ようやく異変に気が付いてくれた師匠が駆けつけ、剣を構えケンゾーの前に出ました 


『大丈夫かっっ』

『じっちゃんっ!』

 

 その後は一瞬。


 カキン!カンッ!


『がああぁぁぁ━━』 

 森の中に響く木の魔物の断末魔。

 

『間に合って良かった……』

『ありがとう、じっちゃん……』 

 

 ホッと一息を付くも、事切れ横たわる魔物の枝の部分から、ガサゴソと音が聞こえます。

 警戒し剣を抜く師匠でしたが、現れたのがぴよたろうだと気が付くと鞘に納め、ぴよたろうに駆け寄りました。

 ケンゾーも駆け寄り、ぴよたろうを抱え上げ『だいじょうぶ?けがはない?』と無事を確かめていると、【ぴぃ】と一鳴きした後、くちばしに果実を咥え駆けだして行ってしまいました。


『あ、ぴよたろうっ━━』ケンゾーも追いようとしますが、後始末の手伝いをしなくても良いのか、気になり師匠の方へ振り向きます。

 幸い向かった先は馬車の方。

『こいつの後始末は俺一人で十分だから、追いかけてこい』

 師匠の了承を得たケンゾーは、ぴよたろうを追いかけました。

 馬車に乗り込もうとするぴよたろうを目撃し、歩みを緩めます。

 まだ、主君が眠っている馬車に慌てて乗り込むわけにもいきません。

 そっと、馬車に乗り込み、ぴよたろうを探すと……。


 今日の成果である果実を、お嬢様に渡そうとしているではないか。

 ……ケンゾーは血の気が引いたそうです。


【ぴぃぴぃ】と鳴き声をあげながら、懸命に起こそうとするぴよたろう。

 やめなさい。と声を掛けるも、果実を口に放り込もうとするぴよたろう。

 いけません。とぴよたろうを抱えても、【ぴぃぃぃ】と抗い、咥えた果実を口に押し付けます。

 その間、涎が滴り落ち、顔はベタベタに……。

 頭上での攻防が不愉快に感じられたのか、眉間に皺をよせてうなされ始めた姿を見た時は、とても焦ったそうです。

 そして、私が目覚めたと。

 ……涎塗れを阻止できず、睡眠の邪魔までしてしまったお詫びにケンゾーは平伏すしかなかった様です。


 ケンゾーの話を聞いて、納得したわ。

 このデロデロは汗じゃなくて、涎なのね……。

 まぁ、それは兎も角。


「…………」

「おじょうさま?ぴよたろうに、悪気はないのです。とめられなかったのも、私のせきにんです。ですから、おしかりは私におねがいいたします」


「ずるいわっ」

「えっ?」

「きのまものとたたかったのでしょう?わたくしも、みたかった……」


 初魔物よ。

 木の魔物だから、きっと『トレント』だわ。

 父様に叱られるから、戦いたいとは言わないけれど、見たかった……。

 後始末ってどうするんだろう?木だから燃やしたりするのかな?

 まだ、間に合うかしら?


「ケンゾー。みにいきましょう」

「え?ですが、じっ、いえ、ししょうがあとしまつをすると、言っていたので、もう、おそいかと……それに、その、かっこうでいくのですか?」


 確かにデロデロのままで、外に出るのはまずいかしら?

 でも、川があるなら水浴びをしたいし、このままでいいわよね。

 着替えるなら、綺麗になってからの方がいいわ。

 それと。


「ケンゾー。わたくしとはなすときは、ししょうのことを『じっちゃん』とよんでいいわよ。けんじゅつのたんれんのときや、とうさまがいらっしゃるときは『ししょう』とよぶほうがいいかもしれないけれど」


 じっちゃん呼びや師匠呼びであたふたしてるケンゾーは可愛いけれど。

 何度も言い直しているのを聞くとね。

 慣れないのなら、じっちゃんでいいじゃないと思ってしまうのよ。


「しょうちいたしました…………」

 あら?腑に落ちない様ね。

 

「ししょうという、よびなも、わたくしがかってにきめたことだし、かぞくなんだから、きにしなくてもいいのよ」

「しかし、あらためてそう言われると、はずかしいのです……」


 難しい年ごろなのね。


「はずかしいかしら?なかがよいことがうかがえて、すてきだとおもうのだけど」

「そ、そうでしょうか?」

「ええ、とってもすてきよ」

 

 素敵だと思うのは、嘘ではないわ。

 なので、ニッコリ笑って伝えました。


「では、そのように、いたします」

 今度は納得したのか、元気な返事が返ってきました。

 

「では、きのまものをみにいきましょう。あっ、きがえはみずあびをしてからにするわ。このままだと、きもちがわるいもの」

 もう、デロデロがバリバリになってきてるの。

 早く、水浴びをして着替えたいし、トレントも見たいのよ。

 私は馬車を飛び下り、足踏みしながらケンゾーが出てくるのを待ちます。

 ケンゾーが私の着替えを持ち、降りてきました。


「おまたせしました。まいりましょう」

【ぴぃぃ】

 あ、ぴよたろうも一緒に行くのね。

 ケンゾーの案内で、戦闘があった場所まで走ります。


 ・

 ・

 ・

 

 森に入ったすぐ近くで、師匠に出会いました。


「おっ、どうした?」

「ししょう、おはようございます。まものはっ?」

「あ、ああ、そこだ。トレントだったから、魔石を取るだけにした。これが他の魔物だったりすると、しっかり土に埋めなきゃなんねぇけど、こいつは自然に朽ちていくからな」


 へぇ、そうなのね。

 倒されたトレントを見てみると、木でした。

 顔の様な部分も木目になっているので、どこから見ても木にしか、見えません。

 ああ、動いているところが見たかったわ。

 あら?ぴよたろうが採ってきてくれた果実は?


「ししょう。かじつはなかったのですか?」

「ぴよたろうが採った果実だけだったぞ。一つだけ実ってたんだろうな……」

「たった1つのかじつを、いっしょうけんめいにもいでくれたのね。ぴよたろうは、やさしいこね」

 うふふ。とっても嬉しいわ。

 

「おじょうさま、よかったですね。ほんとうにぴよたろうはやさしいこです」

 ケンゾーも、ぴよたろうの優しさを感じて微笑んでいます。

「あとで、いっしょにたべましょうね」

「はい」

【ぴぃ】

 

「ああ、悪いんだが……トレントの実はまずいぞ……いや、体にはいいみたいだが、美味くはない。なんというか、不毛な味?」

 師匠が苦笑いをしながら衝撃的事実を教えてくださいました。

 不毛な味ってなんなの?

 師匠の言葉にショックを受けたのでしょうか?ぴよたろうが悲し気な瞳を向けております。

 ……。


「……ケンゾー、わ、わたくしはたべてみるわ」

「…………おじょうさま。そうですね、ぴよたろうのやさしさをむげには、できませんし。私もたべます」

「そ、そうか。まあ、体にはいいからな」


 師匠のフォローはフォローになっていないと思うの。

 その後、トレントの果実について詳しく聞くと、マナポーションの材料になるのだと教えてくださいました。

 マナポーションか……そう言えば、ドロップ品にマナポーションが出ると聞いたことがあるわ。

 あ、ネット情報よ。

 レア過ぎて、私は見たことがないのだけれど。

 でも、果実はドロップ品ではなかったし、……これはゲームとリアルの差なのかしら?

 魔石はゲームと同じ、楕円形をしており、透明感のある緑色をしていました。

 


 ひとしきり、トレントを観察し終えた後。

 師匠に護衛をお願いして、川までやってきました。

 

「わぁ、きれいね」


 沢蟹がいそうなくらい澄んだ水ね。

 水のせせらぎを聞いていると、とても落ち着くわ。

 α波でも出ているのかしら?

 …………。

 おっと、ゆっくりしている場合ではなかったわ。

 バリバリになってしまった髪を濯がなくては。


「では、ケンゾー。みずあびをしてくるから、あたりのけいかいをおねがいね。ししょうもおねがいします」

「かしこまりました」

「任せておけ」


 ケンゾーと師匠は川を背にして、森の方を警戒してくれています。

 さてと、寝間着代わりの道着も洗わなくちゃいけないから、そのまま入っちゃいましょうか。


 水浴びが終わったら、朝食の準備をしなくちゃね。

 大所帯になって、下拵えから調理まで、一人でやるのは結構大変なのよね……。

 ケンゾーは混ぜたり、火の番をするくらいなら出来るのだけど……。

 そういえば、師匠って料理は出来るのかしら?

 冒険者をしていたくらいだから、野営には慣れてるだろうし、簡単な料理は出来そうなんだけど。

 …………。

 後で聞いてみましょう。

 そうだわ、獣人さんにも料理が出来るか聞いた方がいいわね。

 

 しかし、髪のバリバリが取れないわね……。

 一度、乾いちゃったから?それとも、水温が低いからかしら?

 こんな時に、アニメや小説でよく見かけた、体を清潔にする魔法『浄化クリーン』があると便利なんだけれど。

 この世界の浄化って、瘴気を祓う魔法だからなぁ……。

 汚れ落としにはならないでしょうね。

 …………。

 けど、やってみます?ダメ元でやっちゃいましょうか?!


 よしっ!

浄化クリーン


 微細な汚れを落とすイメージで、光魔法を発動してみました……。

 金色に輝く光を、バリバリになった髪に塗布するかのように……。

 ナデナデ……。


「…………おじょうさま。なにをしてらっしゃるのですか?」


 ケンゾーが急に振り向きました。

 光魔法が眩しかったのかしら?


「……うん?よだれがかわいちゃって、きれいにおちないから、だめもとで、まほうをはつどうしてみたの」


「……いみがわからない…………それで、きれいになったのですか?」


「いえ、だめだわ……これは、だめなまほうよ」


 だって、水に濡れた髪から、よくわからない汚れがポロポロ落ちてくるのよ。

 汚れや垢が目に見えて落ちてくる……。

 女性として、淑女として、どうなのよ。

 これは、由々しき問題だわ。この魔法は封印しましょう……。


「どう、だめなのですか?」

 あら、聞いちゃうの?

 ……いいわ、答えてあげましょう。


「あるいみ、まほうはせいこうしたわ。けれど、……よごれをボロボロおとす、じょせいをみて、なんともおもわない?」

「あ、ああ……」


 ケンゾーは曖昧な返事をした後、目を逸らしました。

 …………。

 

 私もそういう反応をしてしまうかもしれないし、仕方がないわね。

 

 さて、もう一度、水浴びをしてきましょうか……。


 


 ◇ ◇ ◇




 水浴びを終えて、すっきりした後。

 馬車の方へ戻ると、父様とアルノー先生が太極拳をしておりました……。

 

「とうさま、アルノーせんせい。おはようございます」

「おはよう、ルイーズ」

「ルイーズ様、おはようございます」


「とうさま。なぜ、アルノーせんせいとごいっしょに、たいきょくけんをなさっているのですか?」


 私も朝の鍛錬がまだだったので、ご一緒します。


「入れ替わったとはいえ、鍛錬を怠る訳にはいかないだろう?━━しかし、この身体は硬いな」


「侯爵様の身体は柔軟ですね━━息切れもしませんし、力が溢れています」


 アルノー先生と入れ替わっている父様は、元の身体とのギャップに苦しんでおります。

 

 反対にアルノー先生は、軽やかに動けるのが嬉しいのか、太極拳に余計な動作を加えております。

 極上の笑みを浮かべて……。

 父様のお顔でその笑みはやめて欲しいわ……。

 まるで、悪代官みたい。


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