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楽しい転生  作者: ぱにこ
51/122

39話

 持ち主の後に続き辿り着いた家、……そこはファンシー雑貨店でした……。

 うん、ファンシーだわ。

 いやいや、こういう時って薄気味悪い感じの魔法具店とかを想像しない?!私はしちゃってたわ。

 怪しいペンダントの持ち主の自宅ですもの。

 入り口には、乾燥した薬草がぶら下がっていて、怪しい液瓶が並べられていると……。

 私も駄目ね……、前世の知識が視野を狭くしているわ。

 精進しましょう。


「ここです。今日は定休日にしていますので、少々散らかっておりますがお寛ぎください。私はお茶の用意をしてまいりますね」

「「おじゃまいたします」」「お邪魔するよ」「お邪魔致します」


 私達はお店の中央を鎮座するパステルブルーの可愛いテーブルセットに腰かけました。

 ちなみに6脚ある椅子にはクマさん、ウサギさん、リスさん、ワンコにねこさん、小鳥のクッションが置かれています。

 男性陣には、酷な環境ですね。

 ファンシー雑貨店なだけあって、可愛いリボンや少しアンティーク調のレース、刺繍されたハンカチ、可愛い動物を模ったカップや置物。

 アクセサリーも可愛いわ……いいわね……。あ、あのエプロン可愛い~ウサギさん型のポケットが付いてる。

 あら?このカラトリーセットに、はめ込まれているのは魔石?綺麗ね。


「おじょうさま、ひとみがかがやいておりますよ」

「そう?そうかも。だって、すべてがかわいくて、めうつりしちゃうもの」

「そうかそうか、ルイーズはどれが欲しいんだ?なんなら、全て買い取ろうか?」

「…………とうさま。こういうのはいろいろ、ぎんみして、これというものを、えらぶのがたのしいのです」


 もう父様ったら、無粋ね。


「お待たせいたしました」

 持ち主さんが苺柄の可愛いティーセットでお茶を用意してくださいました。


「わぁ、とてもかわいいわ」

「ふふ、ありがとうございます。一式取り揃えておりますので、是非ご検討くださいね。では、冷めないうちに召し上がってください」

「「いただきます」」「いただこう」「頂きます」


 ハーブティーね、爽やかな草木の香りとお花の香りがして癒されるわ。

 それぞれがお茶を一口含んだ後、父様は話を切り出します。


「それでは、詳しく話していただこうか」


「はい、申し遅れましたが、私はこの店の店主『オレリー』と申します。……このペンダントは、魔道具職人であった私の曽祖父が作ったものなのです。ペンダントを作成したのは、今から60年前……ある貴族から、婚姻時に贈る品としての依頼であったと聞いております」


「ふるいものなのですね」

「はい。そして依頼通り、永遠の愛を誓う証の言葉『何時如何なる時も共にあろう』という文を古代文字で刻み終えた後、うっかり怪我をしてしまった曽祖父が曾祖母と入れ替わったそうで……」


「とうじもいれかわりがあったのですか?!」

「そうなんです。……曽祖父も3日間、入れ替わったままだったと聞かされました。明らかな失敗作ですよね……当然、依頼主である貴族に納品する訳にもいかず、新たに作り直したとの事です」


「作り直したペンダントにおかしな点はなかったのですか?」

 アルノー先生が原因を特定するための質問を投げかけております。

 文章が原因なら、新たに作り直しても入れ替わりがおこるはずだし……。

 どうなのかしら?


「いえ、新たに作り直したものは、問題なかったと聞いております」

 

 問題なかったのね……では何が原因なのかしら?

 考え込んでも仕方がないわね。

 軽く頷き、話の続きをお願いします。


「曽祖父は失敗作とはいえ、高価な金を使ったものなので保管することにしたそうです」

「てなおしはかんがえなかったのですか?」


「はい……原因が掴めず、手直し出来なかったと聞いております。それを今朝方、金策に困った息子が売ろうと持ち出しました。私は慌てて追いかけ、息子を掴まえたのですが……もみ合っている内にペンダントが飛んで行ってしまったのです……詰め所では身内の恥をさらす訳にもいかず、落としたと言ってしまい申し訳ありませんでした」

 

 人の家庭事情に口を出すべきではないけれど、こんな危ない物を持ち出すなんて……。

 3日という期間限定とはいえ、悪用しようと思えば、いくらでも思いつくもの。

 こわっ……。

 本当に、拾ったのが父様やアルノー先生で良かったわ。


「大体の事情は掴めたが、いや、だからこそだが、このペンダントは然るべき場所で保管した方が良いのではないか?形見である品ゆえ、無理強いはしたくないが、悪事に用いられるとそなたが困ろう。そなたが、私を信頼してくれるのであれば、アベル・ハウンドの名に置いて、国で大切に保管すると誓おう」


 父様……アルノー先生の姿ですのに、父様の幻影が見えますわ。

 ああ、父様はどんな姿であろうとも、父様ですのね。

 

「とうさま……アルノーせんせいのすがたですのに、とてもかっこいいですわ」


 つい思ったことをポロっと言ってしまった……。


「ルイーズ……そうか、父様は嬉しいぞ…………ああ、くっ、この身が呪わしい……」


 父様は拳に力を込めて耐えております。

 そんな父様の葛藤を、気にするでもなくオレリーさんは話を続けました。


「あの、申し出はありがたいのですが……。いえ、貴方様が貴族であることは、身なりや雰囲気でわかります。しかし、庶民である私は貴族の家名に疎く、信頼できるかどうかと聞かれましても……」


 まあ、そうよね。私も淑女教育の一環として、貴族名鑑を暗記させられているのだけれど、全く覚えられないもの……。この国の貴族は犬の名前だから、犬の絵を書き足してみたのだけれど、見たこともない犬種もあって、頓挫したわ。

 普通は、自分の住んでいる土地を治めている貴族の名前を知っているくらいか。


「とうさま。みぶんをはっきりおっしゃったほうが、あんしんされるのではなくて?」

「ああ、そうだな。私は『ヨークシャー王国』で宰相を務めている『アベル・ハウンド』と申す。国からは侯爵という位をいただいているのだが、まだ信用に足らぬだろうか?」


 父様の発言を聞き、オレリーさんが椅子から立ち上がったかと思うといきなり土下座……。

 土下座は、異世界でも有効なのかしら?


「も、申し訳ございませんっ、どうか、命だけはっ」


 っ!物騒な事言わないでっ!


「いのちはいただきませんし、ペンダントがあくようされぬように、ほかんしようと、ていあんしているだけではないですか。どうか、たちあがってイスにこしかけてくださいね」


 怯えた瞳で、父様の顔色を窺うオレリーさん。父様は安心させるかのように、優しい笑みを浮かべます。

 …………、頬を染めるオレリーさん。これは、アルノー先生にときめいたのか?それとも、父様?

 父様は駄目ですよ。愛妻家ですから。


「あ、そうですわ。とうさま、ペンダントはいったんあずかり、ぜったいにひらかないケースを、かいはつしてさしあげればよろしいのではないでしょうか?それか、こだいもじがまちがえているかのうせいもすてきれませんので、こだいもじをただすか」


 このペンダントはきっと血液を吸収すると発動するのよ。だから、開けられないケースを作ったら、安心してお店に置いておけるわ。後は、ペンダントに刻まれた古代文字をアルノー先生にしっかり解読していただいて、正しい古代文字に直すか。刻み間違えた可能性があるものね。


「出来れば傍に置いておきたい気持ちもございます。しかし、侯爵様の仰るように、悪用される可能性も視野に入れねばなりません……お嬢様の提案、とても嬉しく思います。しかし……それは、可能だった場合のみ、お知らせください。侯爵様、皆さま、ペンダントの保管をよろしくお願します……」


「うむ。では、ルイーズの提案通りに対策が取れれば連絡するし、無理ならば、国が責任をもって預かると約束しよう」

「はい、お願いします」


 こうして、ペンダントについては一件落着?!致しました。

 また、誰かが怪我をして入れ替わるといけないから、厳重に包んで持ち帰ることになりました。

 魔法省で色々と調べたのち、対策を練ってくださるでしょう。

 ケンゾーのお父様、よろしくお願いしますね。

 お店を後にする時に、私は可愛いエプロンを買っていただきましたよ。ウサギさんのエプロン♪

 うふふ、可愛い~旅の間はこのエプロンを身に着けてお料理しましょう。


 ・

 ・

 ・


 しかし、色々と濃い1日でしたわ。

 皆と合流した時には、もう夕暮れでしたもの。

 急がない旅ならば、もう1泊しても良かったのですが、そうも言っていられないらしく、急いで町を発ちました。

 父様とアルノー先生の中身が入れ替わったという話を聞いた時の皆の反応は、個性が出ていて面白かったです。

 リョウブさんは苦笑、カリンさんはアルノー先生に手合わせを願い出ておりました。なんでも、中身が違うと強さに差が出るのか気になったそうです。

 師匠は……私に触れられない父様を見て、お大事にと言っておりました。

 イザークさんとフリッツさんは、出会って間もないせいもありますし、反応に困っておりました。

 カチヤさんは、ペンダントに興味津々で「父さんと叔父さんだったら入れ替わっても、違いがわからない~」と、笑っておりました。双子ですものね。

 

 先頭にリョウブさん、カリンさんの馬車、間に獣人さんの馬車、最後に私達の馬車が走ります。

 今日は、野営をせずに夜通し走り、距離を稼ぐのだそうです。

 ああ、串焼きを買っておいて正解だったわ。

 馬車を走らせながら、串焼きを頬張ります。冷めても美味しい。

 これって、お昼ご飯になるのかしら、夕飯になるのかしら?

 食べ足りないだろうから、もう少ししたら、馬車で何か作りましょう。

 

「とうさま、かなりおくれたので、よどおしはしるのはよいのですけれど、よみちにきけんはありませんの?」


 月明りだけが頼りの夜道を、危険もなく走り続ける事が出来るのでしょうか?


「大丈夫。夜道とはいえ、今日は満月だからね。明るいし、危険も少ないだろう……それに、少し気になる事を聞いたのでね」


 気になる事?


「わたくしがうかがっても、かまわないはなしですか?」

「…………いずれ、知ってしまうのだから、話しても構わないだろう。……町に立ち寄る際に、カリン殿やリョウブ殿が、公国の上司と手紙でやり取りしていることは知っているかい?」

「いえ、ぞんじませんでした」


 もしかして、乙女の秘密と言って出かける時かしら?


「その、手紙に気になる事が書かれていたんだよ。毎日、異変がないか確かめるために、遺跡に足を運んでいるようなんだが……先日、おかしな違和感があったそうだ」

「いわかんですか……それは、どんなかんじのものか、かかれていたのですか?」


「ああ。今、遺跡は術が施され部外者が立ち入れないようになっている。関係者以外が侵入しようとすると、痕跡が残るそうだ。しかし、足跡がなく人の仕業と決めつけられない為、違和感と書かれていた」


 邪神が封印されている遺跡に侵入?!

 

「とうさま、じゃしんはまだふっかつしておりませんの?とうしゅさまがあしをはこんだあとのことも、かかれていませんでした?」

「復活したか否かは、書かれていなかったそうだ。当主様についても、書かれていないみたいだね。短い文章のやり取りだからなのか、手紙に書けない内容だからなのかは、私にもわからないが……憶測で言うものではないが、立ち入らない様にしてる辺り、私達が到着するまでくらいは猶予があるだろう。だから、あまり気に病む必要はないよ。その上司も含め、カリン殿やリョウブ殿の同僚が、昼夜問わず見張っていると言っていたからね」


 私の不安を拭う様に、父様が頭を撫でてくださいます。

 そうね、私一人が急いても、現状は変わらない。

 当初の予定通り、遺跡を見なければ、対策も取れないし……。けれど、いつ何時でも戦えるように訓練を増やすべき?!

 それがいいわね。


「ししょう。あすから、くんれんのじかんをふやしていただけますか?そして、とうさま。ひがたかいあいだは、ばしゃにのらず、はしります。わたくしはもっと、つよくならなくては、いけないのです」


 スポ根ならば、私の目に炎があがっているでしょう。そんな強い闘志を漲らせての発言だったのに……。


「ルイーズ、父様の強さを信じなさい」

 ため息交じりに、そう仰る父様。


「侯爵様の仰る通り、大人の強さを信じなさい。今でも、その年頃には過剰ともいえる訓練をしているというのに……」

 師匠には叱られました。声色は温かいので、私の体を心配してくれてのお叱りなのでしょう。


「おじょうさま……しょうらい『オーガ』にでもなるおつもりなのですか?」

 父様や師匠の言葉に俯いていた私の顔を覗き込んで、ケンゾーは失礼な発言をしました。

 オーガって!!


「むぅーー!!ケンゾーのいじわる。オーガになんてならないものっ」


 むくれた私を見て、父様も師匠もケンゾーも盛大に笑っております。

 ケンゾーの発言は失礼だけれど、気持ちが楽になりました。

 ケンゾー、ありがとう。


「皆さん、お取込み中すみません。解読出来ましたっ!」

 一人熱心に、ペンダントに刻まれた古代文字を解読していたアルノー先生が、興奮しております。


「もう、かいどくがすんだのですか?」

「はい。短い文章だったのが幸いして、時間がかかりませんでした」

「それで、なんと書かれていたんだ?」

「説明いたします。本来『何時如何なる時も共にあろう』と記されているべき文章のはずが『何時如何なる時も共にかわろう』と書かれておりました。正確には石そのものの亀裂のせいで、そうなってしまったみたいです」


 石の亀裂のせいで、変わっちゃったの?……。

 そんな些細な違いで、入れ替わってしまうものなのかしら?

 これは、正しい文章の方にも、何かしら効果があったと考えるべきよね。

 依頼主が望んだ効果がきっとあったのよ。

 

「きれつがげんいんだとすると、こだいもじをただすことはふかのうですの?……」

「あっ、大丈夫だと思います。そもそも、こういった石に刻む場合、魔法で刻む方法、工具を使い刻む方法、転写する方法などがあります。このペンダントは魔法で刻まれております。ですので、ルイーズ様、お願いします」


「なにをですか?」

「魔法で刻んである言葉を消去するのです」

「どうやってですの?」

「石の属性と同じ属性の魔法で埋めるのです。この石は闇の力を持っていますから、闇属性の魔法で埋めてみてください。この中で闇属性を使えるのは侯爵様とルイーズ様だけですが、侯爵様の体は生憎……私と入れ替わってしまっていますし」


 ズイッとペンダントを差し出すアルノー先生……失敗しても文句は受け付けませんからね。

 ふと、文字を消したせいで、生涯入れ替わったままだったら?と不安が過りました。

 

「やってみても、かまわないのですが、いれかわったとうさまやアルノーせんせいに、がいはありませんか?」

 

「…………その可能性も捨てきれませんね。では、侯爵様と私が元に戻った際にお願いします」

「わかりました」

 アルノー先生はペンダントを包みなおし、戸棚の奥にしまいこみます。

 うん、厳重に保管してくださいね。うちの馬車にはやんちゃ盛りのぴよたろうがいますから。


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