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楽しい転生  作者: ぱにこ
49/122

37話

 人の波をすり抜け、辿り着いた場所は食品市場でした。

 この辺りから、合図が上がったのだけれど……。晴れわたる空を見上げた後、視線を人混みへと戻します。

 市場の喧騒に気を取られ、目的の人物を見つけられず、キョロキョロしていると……。


「ルイーズ様ーーっ!!ここです!」

 声を張り上げ、両手を振るリョウブさんの姿が……目に留まりました。

 リョウブさん、笑顔なんですけど……トラブルに巻き込まれたのよね?

 そんなリョウブさんの姿を見て、私達は首を傾げます。

 まあ、とりあえず理由を聞いてみようと、リョウブさんの傍まで歩み寄りました。


「いやあ、来ていただいて助かりました」

「なにがあったのですか?」

「それがですね……頼まれた分の買い物を終えて、いざ帰ろうとしたら……見てください」

 

 そう言って、リョウブさんが指差す先に目線をっ!!!

 ア˝ア˝ア˝ーーーッッッ!!!


 ぴ、よ、た、ろ、うっっ!!


 串焼き屋の屋台の隙間から、顔を覗かせているぴよたろうは、行き交う人の波が怖いのか、はたまた楽しいのか、顔を出したり、引っ込めたりしています。


 ……可愛いわね。


「可愛いですよね……」

「ええ、かわいいわ」


 リョウブさんとそんな短い会話を交わし、ぴよたろうの可愛さに見入っていると……。

 串焼き屋のおじ様が近づいてきました。


「あの、お尋ねしますが、このひよこ?!の飼い主さんでしょうか?」

「はい」


 私がそう答えると、物腰の柔らかそうなおじ様が一転。

 苦々しい表情を浮かべ、怒声を張り上げました━━

「鶏の串焼き屋の傍に、ひよこに張り付かれちゃあ、商売の邪魔なんだよっっっ!!」


 …………、確かにっ!!言われて辺りを見渡すと、ぴよたろうと串焼き屋のおじ様を交互に見て、ひそひそ話をし、怪訝そうな表情を浮かべて去っていく人がたくさんいます…………。

 

「も、もうしわけございません。すぐにつれてかえりますっ!」


 これはまずいと、おじ様に頭を下げ、屋台の隙間を陣取るぴよたろうを捕獲すると、激しく抵抗されました……。

 

 私、いちおうお母さんなのに……。


「ぴよたろう」

 腕から逃れようと羽をバタつかせるぴよたろうに声を掛けると。

【ぴ?】

 私の顔を見上げ安心したかの様に【ぴぃぴぃ】と縋り付き鳴き声をあげはじめました……不安だったみたいね……。

 可愛いからって、見てる場合ではなかったわ。ごめんなさい……。

 そんなぴよたろうの様子を見たリョウブさんをはじめ、カリンさん、カチヤさん、屋台のおじ様までもが「良かった」と、涙を浮かべてぴよたろうを撫でています……。

 先ほどの怒声にはびっくりしましたが、情に厚い方の様ですね。

 営業妨害したお詫びの意味も含めて、串焼きを買って帰る事にしましょう。


「おじさま。くしやきを30ぽんください」

 一人3本ずつ、昼食に頂きましょう。


「えっ?そんなに食えるのかい?」

 私達の姿を見て、不思議そうに聞き返すおじ様。

 この面子では、30本もの串焼きを食べられるとは思えないよね。

 でも、安心して。10人と1羽で旅をしているのよ。

 ぴよたろうは、鶏肉を好まないので数には入れませんが。


「ええ、いまはバラバラにかいものをしていますが、10にんでたびをしていますの」


 説明を聞き、納得したおじ様は「じゃあ、待ってな」と串焼きを焼き始めました。

 美味しそうな香りが立ち上っております……。

 肉の焼ける香りって、食欲を刺激するわね。

 さっき朝食を食べて、ベニエを味見したばかりだと言うのに、おやつに食べたくなったわ。

 でも、皆と合流して……。


「おじさま。もう1ぽん、ついかでおねがいいたします」

「はいよっ」


 誘惑には勝てなかった…………。


 先に焼けた1本を頬張りながら、リョウブさんを残し、次の合図先に向かうことにしました。

 全部焼けるまで待っていたら、遅くなっちゃうからね。

 しかし、美味しいわね……塩と香辛料だけなのに、何故こんなに美味しいのかしら?!


「ルイーズちゃん、美味しい?」

 カチヤさんが串焼きを凝視しています……。

 食べたいのね。

「たべてみます?」

 そう提案すると、コクコクと頷き、期待に胸を膨らませたかのような笑顔を浮かべ、口をあ~んと開けるカチヤさん……無邪気なところも可愛いわね。


「はい、あ~ん」

 串焼きを口に運んであげるとパクっと一口かじり「ん、んん~、おいふぃい~~~」と、悶絶しています。

 

 カチヤさんの姿を見て、カリンさんも気になったのか、呟くように……。

「そんなに美味しいの?」

 カリンさん……、肉を凝視するのはやめてっ!目が獲物を狙う猛獣みたいになってるからっ!


「カリンさんもどうぞ」

 串焼きを手渡そうとすると、イヤイヤと手を振り、口をあ~んと開けるカリンさん……。


 …………。

「はい、あ~ん」

 …………。

「(パクッ)んん~~~、美味しい~~っ!ルイーズ様にあ~んしてもらった串焼きは格別ねっ。後で自慢しましょう」


 …………。

 誰にっ?!


「だれにじまんするのですか?!」

 カリンさんは、口元を指差し「ふふふ、ひ・み・つ」


 …………。

 

 笑い話のネタにされるのは構わないけれど……。 

 この手の話に、いい反応を示すのは父様だけだわ。

 旅のメンバーの顔を思い浮かべ、それぞれで想像してみるも『良かったですね』とか『それで?』くらいの手応えのない反応しかしないもの。

 …………、あまり父様を刺激しないでくださいね。

 

 よくわからないカリンさんはさておき、足元をトコトコと歩くぴよたろう……。一生懸命に付いて行こうと速足です……、やばいわ。可愛すぎるっ。

【ぴぃ?】

 見られているのがわかったのか、振り向き頭を傾げています。

 いえ、なんでもないのよ。ただ、あなたが可愛かっただけ。


 

 

 ◇ ◇ ◇




 そろそろ、合図の上がった場所だと思うのですが……。

 入り組んだ路地裏に差し掛かり、確認の為、足を止めます。

 人通りは少ないものの、迷路の様になっていて探し人が見つけにくい……。

 むやみに探しに行くと迷子になりそうだし、どうしましょう。

 

「カリンさん、このあたりだとおもうのですが、へたにうごいて、みうしなうといけないし、どうしましょう?」

「う~ん……どうしましょうか?!こちらから、空に合図を打って来てもらうとか?」


 それも、良い手だと思うのですが。もし、その場から離れられないトラブルだった場合、困りますね……。

 空から探すのが、一番手っ取り早いと思うのだけれど、人目に付くし……。

 

「あのあの、カリンさん、ルイーズちゃん」

「カチヤさん、どうしました?」

「あのね、あっちの方に、父さんと叔父さんがいる気配がするの」

「「へっ?!」」

 

 カリンさんと私のすっ呆けた声を聞いたカチヤさんが、補足説明をしてくれます。


「獣人の私達は、感覚が鋭くてね。嗅覚もいいし、少し離れていてもわかっちゃうの」

 えへんと胸を張って、自慢気に語るカチヤさんは大変可愛いく……。

 

「わ~、すごいですわっ!それでは、みちあんないをおねがいしてもよろしいですか?」

 つい、小さな子に接するテンションで返事をしてしまいました……。


「もちろん、任せておいてっ!ふふ、ルイーズちゃんに頼られたっ♪」

 ウキウキとハイテンションで、先頭を歩き始めるカチヤさんの後を追い、路地裏を進むと……。


 ……、悲壮感を漂わせる師匠と涙を浮かべたケンゾーの姿が目にとまりました。

 イザークさんとフリッツさんは、木樽を退かせてみたり、建物の隙間を覗いたりしています。

 ふむ、これはきっとぴよたろうを探しているのね。

 

 早く安心させてあげないと。


「ケンゾーー!ししょうーー!」

 私の呼び声に反応して、一斉に振り向くも、ケンゾーは泣き顔を見られたくないのか、師匠の背に回り、顔を拭いた後、こちらに歩いて来ました。


「…………お、おじょうさま…………ぴよたろうが………」

【ぴぃ?】

 呼んだ?という風に私の足元にいるぴよたろうが悪びれもせず、愛らしい鳴き声で返事をすると。

「ぴよたろう……、ぶじだったんだね……よかったぁぁぁぁ」

 

 ケンゾーは安堵の表情を浮かべ、ぴよたろうに抱き着き頬ずりしています。

 しかし、運よくリョウブさんが見つけてくれたから、大事なかったけれど……。

 迷子防止の策を練らないといけませんね……。

 後で父様に相談する事にしましょう。


 師匠やケンゾー達に、ぴよたろうを見つけた経緯を話し、ぴよたろうが迷子になったのか訳をを聞くと。

 こうです。

 路地裏にある衣服店に入ろうとしたら、小さな子供や動物は遠慮してほしいと言われたとの事。

 そこは冒険者用の衣類や武器なんかも扱うお店だったみたいで、怪我でもしたら大変だからという正当な理由があったわけなんだけれどね。

 なので、ケンゾーとぴよたろうは、外で待機してたそうなんだけれど、路地裏で遊ぶ子供達に興味を示したぴよたろうが、走って行ってしまったそうです。

 ケンゾーはすぐに追いかけるも、曲がり角で見失ったと。

 ここ、迷路の様だから仕方がないよ。


「それで、イザークさんとフリッツさんのおかいものはおわったのですか?」

 終わってないのなら、買い物を優先して貰って、私達は3つ目の合図先に向かわなくてはいけないから、わかれる事にしましょう。

「全部そろえたから、一緒に行動しよう」

 師匠の言葉に頷きながら、イザークさんとフリッツさんが、買い物袋を掲げています。

 

「そうですか。では、いっしょにあいずさきにむかいましょう。とうさまがトラブルにまきこまれたとは、かんがえにくいのですが……」

「アルノー先生だと、そうぞうできるのですが……ご主人さまのまほうでしたもんね」

 そう、あの合図の魔法を打ったのは、父様。アルノー先生の魔法だったら、もう少し『ぽふっ』という感じなります……。


「侯爵様も手に負えないほどのトラブルか……こりゃあ、大事だな」

「じっちゃん……、おじょうさまが、ふあんになるようなことはいわないで」

「あ、ああ……すまないな」

「いえ、へいきですわ」

 

 アルノー先生が迷子になったとか、アルノー先生がトラブルに巻き込まれるorトラブルを起こすならいくらでも想像出来るのですが……。

 チート父様が助けを呼ぶなんて、きっと魔王が出てくるクラスのトラブルの可能性があるわ……。

 臨戦態勢を維持したまま、急がなくてはっっ!!


「まわりもけいかいしつつ、すすむことにしましょう。あと、なにがおこってもむかえうてるように、じんけいをくみましょうか?!」


「そうだな……侯爵様のトラブルだから、警戒し過ぎるくらいでちょうどいいだろう。俺を先頭にして、ケンゾーは右端でルイーズは左端、イザークさんとフリッツさんは娘さんを間に挟んで縦並びで移動、カリンは後ろを警戒しつつ、ぴよたろうが脱走しないように見張っててくれ」


「「「りょうかい(了解)しました」」」


 簡単な陣形を組み移動する私達。傍から見たら、不思議な光景かも知れませんが……。

 父様の姿を目視するまで、安心できません。


 ・

 ・

 ・


 そうして、辿り着いた先は町の中央にある噴水広場……。

 市場の喧騒もなく、路地裏の閑散とした雰囲気もなく、ここだけ時間がゆっくりと流れているかのような、穏やかな場所。

 こんな場所でトラブルをおこしたとは考え難い。

 本当に、何があったのかしら?!


「ここですわよね?」

「はい、このあたりだったはずです……」

 ケンゾーは、私の問いに返事をした後、視線を彷徨わせます。

 私も父様とアルノー先生の姿を探すも、見つかりません。


「ししょう。とうさまとアルノーせんせいのすがたはみえましたか?」


 ちびっ子の私達より、より多く見渡せるだろう、背の高い師匠に聞いてみるも……。


「いや、見えねえな……」

「そうですか…………」


 シュンと項垂れる私の腕を突くぴよたろう……。

「どうしたの?なにか、きになるものでもあった?」

【ぴぃぃ】

 そう叫んだかと思うと、ぴよたろうがダッシュで走って行きました。


「あっ!ぴよたろうっっ!!まちなさいっ━━」

 ぴよたろうの背を追いかけ走りますっ。

 あっ。

「ししょうたちは、ふんすいのところでまっていてくださいっっ」

 後ろの振り向き、師匠たちに伝えると、ケンゾーが走ってきました。


「おじょうさま。私もおともいたします」

「ええ、おねがいね」

 

 再び走り出した私達を待っていたかのように、ぴよたろうも走りだしました。

 ?これ、TVとかでよく見る道案内をしてくれる動物みたいな動きだわ。

 もしかして、ぴよたろうも道案内をしてくれているのかしら?!


「おじょうさま。私はぴよたろうがあんないをしてくれているように、かんじるのですが……」

「わたくしも、そうおもっていたところよ。ほはばをあわせてくれているし、こちらがとまると、ぴよたろうも、とまるし……それに、ときどきふりむいて、こちらをかくにんしているでしょう?!」


「…………、私たちのぴよたろうは天才なのかもしれませんね」

 ケンゾーは、歓喜に打ち震えています……。

 でも、親バカの様に見えるかもしれないけれど、私も天才かも知れないと常々思っているわ。

「ケンゾー、わたくしたちのぴよたろうはてんさいなのよ」

 そう断言する私の言葉を聞き、ケンゾーは頷きながら微笑んでいます。

 先ほどまで泣いていたせいか、目が腫れぼったいけれど、子供自慢をする時の親の顔になってるわ。


 暫く走った後、ぴよたろうはカフェの前で止まりました。

 落ち着いた雰囲気のカフェ……香ばしく焙煎されたコーヒーの香りが……。

 こーひー?!

 coffee?!


「あ、あそこに、とうさまがいらっしゃるのかしら?」

「おじょうさま?!なぜ、そわそわしていらっしゃるのですか?」


 何故って?!コーヒーよっ!この世界ではまだ一度も味わっていないcoffeeなのよっ!

 この香りを嗅いで、じっとしてられる訳ないわ。

 私は、紅茶も好きだったけれど、コーヒーの方がもっと好きだったのっ。


「だって、このかおり……」

「こうばしいかおりですよね。なんのかおりなのでしょうか?」

「たしかめるわっ!」

「あっ、おじょうさまっ」


 そう言って、カフェを覗き込むと……父様とアルノー先生がいらっしゃいました。

 ここに居たのね。

 父様はお元気がなさそうですね。反対にアルノー先生がハイテンションだわ。

 

「ねえ、ケンゾー。とうさまとアルノーせんせいがいらっしゃったわ。なかにはいって、わけをきいてくるから、ここで、ぴよたろうとまっていてくれる?」

「かしこまりました」

「ありがとう」


 こういう所は動物の立ち入りを禁止している場合があるからね。ケンゾーが付いて来てくれて助かったわ。


 カフェのドアを開けると、ドア鈴が涼し気な音をたてました。

 ダンディーなおじ様が「いらっしゃいませ」と、お辞儀をした後「あの、お一人でいらっしゃいますか?」と聞いてきました。


「いえ、まどのそとから、ちちをみかけましたの」

「左様でございますか。では、ごゆっくりとお寛ぎください」

「ありがとうございます」


 軽く会釈をして、父様が座ってらっしゃった席の方へ向かいました。

 いたわ。

 神妙な面持ちの父様とやたらハイテンションなアルノー先生……。

 酔っぱらっているのかしら?!


「とうさまっ、アルノーせんせいっ」

 私の声を聞き、振り向く2人。けれども、父様は絶望の顔、アルノー先生は晴れやかな笑顔で手まで振っています。

 近寄りがたい雰囲気ね。

 けれども、頑張って傍へ近づいた私はえらいと思う。


「とうさま、アルノーせんせい。……なにがありましたの?」

「ハッハッハ。ルイーズ、よく聞くんだよ」

「?アルノーせんせい?よっぱらっていますの?」

「いえ、そうではありません……ルイーズ様、心を強く持って聞いてください」

「?とうさま?、?、?」


 アルノー先生が豪快な話し方をして、父様が他人行儀に話しています。


「まあ、座りなさい」

 アルノー先生に促され、椅子に腰かけました。

「そして、水を一杯飲みなさい」

 アルノー先生に、水を飲むよう勧められ、水を飲み干しました。


 その様子を見届けた後、父様が語り始めました。

「では、話します。実は、侯爵様と私の体と中身が入れ替わったようでして……」

「はいぃぃ?!」


 ???

 そういう遊び?

 ドッキリ?


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