33話
「ランラン♪うふふ~♪よっと」
寝袋のボタンを留めて、フードを被り完成!
ジャーンッ!!
「ねぶくろー!!」
ふふふ、自信作の寝袋ですわ。
首元から頭部は枕の様にふっくらと、腰からお尻にかけては、曲線を描くように芯を調節いたしました。
枕いらずで、背中も痛くなりにくい。
冒険者や旅人がこんな快適な寝袋があると知れば、こぞって欲しがるはず……。
将来、売りに出して冒険者資金を貯めるのも悪くないかも。
「何をしてるんだい?」
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「ルイーズ?」
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おっと、軽快な口調で仰っていますが、怒気も含まれていますわ。
これは、事と次第によってはお説教ですかね……。
女優タイム!
※女優タイムとは、演技かかった口調で話すと、なぜか大受けする父様のツボを逆手に取った手段である。
ここぞという時に効果がないと困るので、滅多に使わないけどね。
満面の笑みを浮かべ、父様に抱き着き伺います。
「とうさまいらしたのですか?」
「楽しそうな鼻歌が聞こえたからね、見に来たんだよ」
「ふふ、とうさま。なにをって、ねぶくろをちゃくようしたのですわ♪」
「それで、なぜ、それを着てるんだい?」
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→説明する
→お茶を濁す
さて、どちらにしようかしら……。
「ルイーズ。返答次第ではこの先、どの町にも立ち寄らないからね」
→説明する(ぴこーん)
「……では、ごせつめいさせていただきますので、おすわりになってくださいませ」
「ああ、わかった」
父様が座るのを見届けて、一連の流れを説明することになりました。
遡る事、師匠がケンゾーと感動の対面を果たした時。
私は考えたのです。
馬車に備え付けられている寝台は3つ。
初めは父様、私、ケンゾーで1台ずつベッドを使えると予想していた所、アルノー先生が仲間に加わりました。
まあ、増えたものは仕方がない。
大人はベッドを広々と使って私とケンゾーで寝ればいいじゃないと提案。ちみっこ同士だし不便はなかろうと、思ったわけです。
すると【なにをおっしゃってるのですかっ!主であるおじょうさまといっしょにねむるなんてっ……おそれおおい】と、ケンゾーに猛反対されたのです。
なんでなんだよ~昼寝なら一緒にしたことあるじゃん……と、思わず口に出してしまいそうになりましたが、我慢しました。
だって、言えば一緒にお昼寝してくれなくなりそうだしね。
お庭の芝生の上でお昼寝すると気持ちがいいんだよ~でも、一人だと寂しいから、ケンゾーも巻き込んでるのです。
それで、ああだこうだと意見を交えつつ話し合った結果、ケンゾーとアルノー先生が一緒に寝て、私と父様が1台ずつ使うという事に落ち着いたのです。
しかーしっ!
それは昨日までのお話。
師匠が合流されたのです。
師匠とケンゾーは祖父と孫。一緒に寝かせてあげなければいけないじゃない。
じゃあ、どうする?父様が1台、ケンゾーと師匠で1台、アルノー先生が1台。
あら?私、あぶれてるわ。
…………。
これは……寝袋を使えと言う、神からのメッセージなのだわ!
冷たい夜風を頬に受け、満天の星を見上げながら、鳥や虫の鳴き声を子守歌にして眠れるのね。
最高~~~~!!
「と、いうわけなのです」
女優タイムが発動中ですので、ドラマチック且つ、オーバーリアクションで説明したわけですが……。
「クックック……フハハ……はあ……息が………クッ……」
とっても、ウケていますわ。
「とうさま?ごりかいいただけましたか?」
『腹を抱えて笑う』を体現されている父様の顔を覗き込み、伺います。
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十分に笑い終えた父様は、呼吸を整えてジッと私の目を見つめ仰いました。
「ああ、理由はわかった。一つ聞きたいのだが、なぜ選択肢に父様と一緒に寝るがないんだい?」
「……なぜかと、とわれると……う~ん……いっしょにねむると、とうさまにつぶされそうだから?!」
小首を傾げて、父様に伝えます。
父様、寝相は悪くはない方だと思うのだけど……たまに打つ寝返りの勢いが凄いのです。
無防備に寝てる時に、あの寝返りを打たれるかと思うと恐怖でしかありません。
チートの弊害かしら?
しかし、よく母様はご無事でいらっしゃるわ…………。
我が家のベッド、かなり広いからかな。
寝台は狭いもんね……。
「……私はそんなに、寝相が悪いのかい?」
寝相が悪いと言われたのがショックだったのか、みるみる内に顔色が悪くなっています。
「ねぞうが、わるいわけではなく、ねがえりのときのいきおいが……ドンッ!ってかんじなのです」
「…………そうか、ドンッ!と寝返るのか……それだと、隣にルイーズが眠ると危ないな……しかし、いつも一緒に寝てるアデールはなぜ言ってくれなかったんだ?」
「…………とうさま、わがやのベッドはすごくひろいですわ。ねがえりを2かいうってもだいじょうぶなくらい」
「……ふむ。きっと、そういう事なのだろうな」
事実は母様にしかわからない。
なので、私達はそういう事なのだと無理やりに納得する。
「それで、とうさま?おそとでねてもいいですか?」
「うーん」
腕を組み、眉間に皺をよせて考え込んでしまいました。
後、一押しですね。
「とうさま?カリンさんもリョウブさんもとなりにいらっしゃいますし」
ね?と、可愛くおねだりしてみます。
「よしっ!わかった!では、今夜は父様と、一緒に外で寝よう」
え~~~~~!
◇ ◇ ◇
「とうさまっ!ほら、ほしがふってきそうですわ」
「ああ、とっても綺麗な星空だね」
寝袋を持っていない父様が、馬車の寝台をはずし、外にドンッと置いた時はびっくりしました。
焚火の向こう側で火の番をしているカリンさんは苦笑いを浮かべ、私達親子を見ています。
うん、外に割と豪華なベッドがある状況って変だものね……。
ベッドに横たわる父様の隣で、寝袋に包まれた娘。
これ、傍から見るとシュールだわ。
「ねえ、ルイーズ様。その寝袋ってお手製?」
お、カリンさんが寝袋に興味を示しています。
→売り込む (ぴこ~ん)
「ええ、わたくしのおてせいですの。こだわりはせなかにいれた、かたわたと、とうぶをまくらのようにつつみこむわたでしょうか。あと、ふそくのじたいにそなえて、てあしをじゆうにうごかせるせっけいにしましたの」
「へえ、ルイーズ様は器用ですね。いつも着ていらっしゃる服もお手製でしたよね?」
カンフー道着ね。
「あれも、うごきやすいようにつくりました」
「料理も、お裁縫も上手い……いいわね~私、なにも出来ないからルイーズ様の様なお嫁さんが欲しいわ」
「ルイーズはやらんっ!!」
ガバッと上体を起こして、父様が一喝。
「とうさまっ。カリンさんはじょせいです」
父様を落ち着かせようと、言ってみるも……。
「よその国では、同性同士の結婚もあるんだ。だからやらんっ!」
カリンさんとキッと睨みつけ、さらに一喝。
…………。
カリンさんも怯え始めているし、父様を落ち着けましょう。
「とうさま。わたくしのりそうはとうさまなのです。とうさまのように、つよさもやさしさもかねそなえたかたでないと、とつぐきもちはありませんわ。わたくしとけっこんしたいとおもうのでしたら、とうさまにかつくらいでないと」
父様に勝つくらいって、化け物じゃない?
でも、これくらい言っておかないと、貴族は家同士の繋がりで嫁がされたりするからね……。
父様は阻止してくださるでしょうが、予防線は何度でも張っておかないと。
「ふむ、そうか。父様が理想なのか。確かに、ルイーズを守るのなら、私に勝てるくらいの者でないとな」
うん、ご機嫌になった様ね。
カリンさんもホッとして、口パクでお礼を言ってくださいました。
どういたしまして。
◇ ◇ ◇
「とうさま。なにか、おはなししてくださいませ」
「そうだな。アデールとの馴れ初めをルイーズに話すのは早いし。学園生活の話は駄目だ……陛下が邪魔だしな……」
ボソッと囁きながら、聞かせてくれる話を吟味されてるようですが。
陛下が邪魔って、ハッキリ聞こえました。
一体、どういうこと?
「がくえんせいかつのはなしはなぜ、だめなのですか?」
「クッ!聞こえていたのか。仕方がない。今から話すことは他言無用だよ」
「はい」
「私と陛下が幼馴染なのは知っているだろう?」
「はい。であいはしりませんが、とてもなかがよいことはぞんじております」
「うむ。陛下に出会ったのは、私が3歳の時だ。当時は殿下だったな……殿下は幼い時より、魔法も剣術も天才と称されるほど秀でていた。半面、私は学問に関しては神童と呼ばれる程だったのだが、魔法も剣術も人並み程度にしか出来なかった」
「とうさまがですか?しんじられません……」
「学園に入学し、学生達からの羨望の眼差し、教師からの期待の眼差しを一身に受け、少々天狗になった殿下は鬱陶しかった」
…………。
鬱陶しいって、不敬罪になりませんか?
だから、他言無用のここだけの話なのかしら?
遠い目をされた父様は、お話を続けます。
「殿下は、私を見るたびに『アベルも少しは鍛えたらどうだ?そんなに軟弱では私の側近は務まらんぞ』としつこかった」
しつこかったって……。
そこまで、軽口が叩けるほどの仲なのですね。
「鬱陶しい殿下も面白かったのだが、当時婚約者だったアデールに『将来の夫を鍛えないでどうする』と言い出してな……さすがに、カチンときた」
…………。
「アデールには、楽しい学園生活を過ごして欲しい。煩わしさからも守ってやりたくてな……私は本気で鍛え始めたんだ」
「とうさま?なぜ、へいかはそこまでとうさまにつよさをもとめたのですか?」
陛下が固執する訳を知りたい。
「ああ、簡単な理由だ。皆、畏れ多いと、本気を出さなかったからだ……本気で打ち合う友が欲しかったらしい」
「まあ。でも、たしかにおけがでもされたら、おおごとですし……しかたがないことなのかもしれませんね……」
王族に怪我でもさせたら、リアルな首が飛びそうだもの。
「それで、きたえはじめたとうさまは、どれほどのきかんでつよくなったのですか?」
「1年ほどだったか。剣術の手合わせで天狗になった殿下の鼻をへし折ることは出来たが、魔法での打ち合いでは決着はつかなかった。しかし、ルイーズに教えられて魔法の威力もバリエーションも増えた今ならば陛下に勝ったと宣言できよう」
「すごいわ……1ねんほどのたんれんで、そこまでつよくなられたのですか。でも、なぜ、がくえんせいかつのおはなしは、だめとおっしゃったのですか?」
「…………それは、ルイーズがいつも褒めてくれるだろう?『凄いわ、父様。さすがちーと』とな。弱かった頃の話もそうだが、強くなったきっかけが陛下だ……その事実を知ったルイーズが陛下を称賛でもしたらと思うと……悔しいではないか」
「そんなっ。わたくしは、とうさまとかあさまをせかいでいちばん、そんけいしていますのに……」
「ルイーズ……ありがとう」
そう仰って笑みを浮かべる父様。娘の称賛が欲しくて、意地なるところも大好きです。
「ふふ、とうさま。だいすきですわ」
「私の可愛いルイーズ、そろそろ眠りなさい」
父様が、私の頭を優しく撫でてくださいます。
ふわぁ~睡魔が…………。
「おやすみなさい…………」
「ああ、おやすみ………」
◇ ◇ ◇
「ルイーズッ!起きなさいっ!」
「う~ん?……とうさま?……あさですか?」
寝ぼけ眼で辺りを見渡しますが、まだ暗い……。
私以外は皆起きて、武器を構えています。
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えっ!何かあったのっ!