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楽しい転生  作者: ぱにこ
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31話

 おねだりが功を奏して、明日到達する『シュクル』の町で一泊できる事になりました。


 野営も楽しいのだけれど………………。


 父様ったら、ウザ、いやいや、………………目を光らせすぎです。


 私が料理を作ろうとしたら、ああだこうだと、ぴよたろうに芸を教えようとしたら、自重しろとか、水浴びに行ってきますと言えば、くれぐれも生態系だけは崩さないように、とか……。


 本当に、本当に…………。

 

 だいたい、生態系を崩すってなんなのよ。

 見た目がチョウチンアンコウみたいな魚を捕ってきただけじゃない。

 本当は、おろしポン酢で食べたかったのだけれど、大根がなくて……。

 醤油にレモンの様な果実を絞って、なんちゃってポン酢で食べたの。

 淡白な白身とプルプルの皮の部分が美味しかったわ♪

 でも、なんで川にチョウチンアンコウみたいな魚がいたのかしら?これも異世界ならでは?と想像していたら、食べた後にアルノー先生が教えてくれました。

 魔物だったみたい。

 名前は『アングラーフィッシュ』だって。うん、まんま『アンコウ』だわ。

 身と皮は食用で、骨や歯は装飾品に加工されたり、矢じりに使われるそうです。

 狩る時のお勧め冒険者ランクはC……よくわからなくて、ふ~んとしか感想が言えなかった。

 遊泳中の水のうねりに巻き込まれてぷかっと浮いたのを持って帰ってきたのだけれど、強い魔物だったのかしら?


 ……………………。


 …………もしかして、バタフライって凶器?


 次からは気をつけよう…………。


 

 

 おやつのポップコーンを作った時も大変だった……。

 弾ける音で驚いた父様に凄い勢いで両手で抱えられ、問い詰められたの。その時の状況を詳しく説明すると、赤ちゃんを高い高いしてるような感じね。そして、ガクガク揺さぶられるの。

 私は、加熱して弾けてるだけなのと、必死に説明しつつ、料理長特製スープの素と少しの塩で味付けしたポップコーンを、父様のお口にポイっと放り込んだわ。


【美味い、もぐもぐ、なんだ、これは……もぐもぐ、軽い食感と香ばしさが癖になるな……もぐもぐ】


 咀嚼に夢中になった父様から解放され、静けさが戻った空間で、皆でおやつタイム。


 ん?

 父様、食べながらずっと感想を仰ってたから、静かにはなっていないわね……。


 最初に大きな音がしますって言っとけば良かった。うっかりしていた私のミスね。

 

 ポップコーン美味しかったな……。

 今度はポテトチップを作りましょう。

 料理長特製スープの素って、まんまコンソメなんだもの。


 余談ですが、カリンさんやリョウブさんは料理が出来ませんでした。

 一度、お手伝いをしてもらったのですが、お肉やお魚を捌くのは上手だったんだけれど……調理になると、壊滅的でした。

 なんでだろう、苦手意識がそうさせるのか、パニックをおこすのです。

【うわーっ!あつっ、あああーー吹きこぼれるーーーううぉっ、跳ねたっ】

 …………。

 食材が台無しになる前に、調理以外のお手伝いをお願いしました。

 お皿を並べたりとかね。

 皆の分の食事を作るのは大変ですが、食べたことがないものを出して、驚かせるのが楽しみの一つでもあります。


 そして、ぴよたろうの事。

 芸を教えるのは、大切だと思うのです。

 『待て』や『伏せ』などの基本はもちろんの事、ストレス発散の為の運動も必要でしょう。

 枝を放り投げて取ってこさせたり、干し肉をポイっと投げてくちばしでキャッチさせたり。

 ね、普通でしょう?


 生後間もないぴよたろう、スクスクと成長しています。

 姿は雛の時のままなんですが、大きさが60センチ程になりました。

 変化といえば、黒目だった瞳の色が金色になってきています。

 ブラックゴールドって感じでしょうか?!

 後、馬車の警報装置に引っ掛かり始めたので、魔道具をペンダント仕様にして装備させました。

 とっても似合っていて可愛いです。


 脚力も大したもので、木に登って木の実などを採ってきてくれるようになったのですよ。

 ぴよたろう自身は食べないのに、私達のために採ってきてくれるなんて……優しい子に育って、とっても嬉しいわ。


 ちなみにぴよたろうは完全な肉食の様です。生のお野菜も温野菜もプイっとそっぽ向きます。

 果物はどうかと思ってリンゴを小さく切ったものをあげてみましたが、食べてくれませんでした。

 野菜を煮込んで形がなくなったスープなら飲んでくれるので、今はそれで様子を見ることに。

 コカトリスが必要とする栄養源なんて……誰も知らないので手探り状態です。


 スクスク育っているので、栄養不足にはなっていないと思います。




 ◇ ◇ ◇




 馬車の中でぴよたろうの成長日記を書き終えた私は、急にホットケーキが食べたくなりました。

「ホットケーキがたべたい……」

「ホットケーキ?」

 囁くように言ったのに、聞こえていたのね。

 アルノー先生と薬草についてのお勉強をしているケンゾーが振り向き聞き返します。


「ええ、すこしおなかがすいてきたから、ホットケーキがたべたくなったの」

「それはどんなものなのですか?」


 ああ、こちらでは甘くないパンケーキはあるけれど、甘くてふわふわのホットケーキは見ないわね。

「パンケーキをすこしあまくして、ふわふわにしたものよ」

 手を口元に置いて、少し考えこんだ後「パンケーキで良いのでしたら、作れますよ」と、ケンゾーが言いました。

「えっ?ケンゾー、パンケーキがつくれるの?」

「はい。先日、じっかへもどったときに、母からおそわりました」

「すごいわっ!━━」ケンゾーに作ってとお願いしようと思ったところで、ハッとしました。


 我が家のパンケーキを食べたケンゾーが言ってたけど、パンケーキって家庭によって、味が違うのらしいのよね。 

 『シバ家』オリジナルパンケーキに舌鼓を打つか、最初に食べたくなったふわふわのホットケーキをケンゾーにお手伝いをしてもらいながら作るか。

 む~ん……両方食べたい…………。

 でも、ホットケーキ用のメイプルシロップはないのよね。代替品として、蜂蜜を使うでしょう……両方、美味しくなりそうなんだけれど、自分の口はどちらを欲しているの?

 …………。


「ケンゾー。パンケーキもホットケーキもたべたいから、いっしょにつくりましょう」

 うん、両方食べたい。

 たくさん作って、リョウブさんやカリンさんにもおすそ分けするとしましょう。

「はい。かしこまりました」


 しかし、簡易キッチンは便利よね。

 食べたいものがあった時、いつでも作れるのだから。


 さて、レッツクッキング!ですわ。


 重曹やベーキングパウダーがないから、玉子の泡立ては必須ね。

 卵黄に半量のお砂糖を加えて白っぽくなるまで泡立て、牛乳と小麦粉を入れます。

 この時、小麦粉はサックリ合わせるように混ぜてね。

 卵白にも半量のお砂糖を加えて、角が立つくらいしっかり泡立てた後、メレンゲが潰れないように、卵黄の方と混ぜ合わせるの。

 後は、弱火で熱したフライパンでじっくりと焼いたら完成。

 う~ん、いい香りがします。


 ケンゾーの方を見てみると、卵黄と卵白を分けずに大匙一杯程度のお砂糖を加えて、全卵を泡立ててるわ。

 小麦粉と牛乳を混ぜ合わせてしっかり混ぜるのね。そして、最後に泡立てた玉子と合わせて焼けば完成と。

 ケンゾーの方もいい香りがしてきたわ、美味しそう。


「おいしそう~いつも、このパンケーキはどうやってたべてるの?」

 蜂蜜をたらして、甘い系で食べるのか、ベーコンやハムと一緒にしょっぱい系で食べるのか。

「そうですね~朝食で出てくるので、ハムやウインナーとあわせて食べています」

「しょっぱいけいか~ハムはないけど、ウインナーならあったわよね。やく?」

「はい。おねがいいたします。……おじょうさまの『ホットケーキ』はどうやっていただくのですか?」

「あ、これはね。バターとはちみつをかけて、あまくしてたべるの」

「デザートなのですね」

「おんなのこはあまいものがすきだから、ちゅうしょくになったりもするわ」

 ホットケーキってボリュームがあるのよね。食後のデザートだと食べきれなかったりするし。

 かと言って、3時のおやつにすると、なかなかお腹が空かなくて、夕食の時間が遅くなったりしたり……。

 なので、よく昼食に食べたわ。


 そんな事を考えつつ、ウインナーをじっくり焼き上げました。


「やけたわよ。おさらにもるわね」

「はい」

 パンケーキが盛られたお皿に、ウインナーを乗せます。

 美味しそうなパンケーキを眺めていると、ある事に気が付きました。

「…………ぎょしゃをなさっているとうさまが、めしあがれないわね」

「あ、では、先にご主人さまにめしあがっていただいて、その間は私がぎょしゃをいたします」

 ケンゾーはそう提案しますが……。

「まって……」

 パンケーキにウインナーを巻いて、片手で召し上げれるようにしようかしら?う~ん、でもそれだと、一人ご飯になってしまうから、少し寂しいわね。

 ここで、点数を稼ぐために……私が口に運んでさし上げようかしら……。

 うまくいけば、監視の目が幾分ゆるむかも。


「ケンゾー、とうさまのぶんは、わたくしにまかせて、さきに、アルノーせんせいとめしあがっていて」

「えっ?よろしいのですか?」

 私の提案に戸惑うケンゾーに満面の笑顔を向けます。

「ええ、まかせて」


 そう告げて、パンケーキを持ち、御者台に座る父様の隣に腰かけます。

「とうさま、おやつのじかんにいたしましょう。ケンゾーがやいてくれたパンケーキと、わたくしがやいたホットケーキですわ。わたくしがおくちにはこんでさしあげますね」

「お、ルイーズが食べさせてくれるのかい?」

 嬉しそうな父様の声を聞きながら、パンケーキとホットケーキを一口サイズに切り分けます。


「はい、あ~んしてください」

「あ~ん……もぐもぐ……うん、これはケンゾーが作ったほうかい?美味いな」

「つぎは、わたくしがつくったほうですわ。はい、あ~ん」

「あ~ん……もぐもぐ、おっ、こっちは蜂蜜がかかっていて、甘くてふわふわしているな。こちらも美味い」

「わたくしがつくったほうはデザートで、ケンゾーがつくったほうは『シバけ』のちょうしょくにでるパンケーキですわ」

 一先ず、両方を食べてもらった後、しょっぱい系のパンケーキの方を先に召し上がっていただきましょう。ウインナーは温かい方が美味しいものね。


「おいしいですか?」

「ああ、美味しいよ。ルイーズに食べさせてもらってるから、より美味しく感じる」

 ふふ、良かった。

 美味しそうに召し上がっている父様の姿を見ると、ついつい顔が綻んでしまいます。

 やっぱり、作ったものを美味しいと食べてもらえるって幸せだわ。


 父様がホットケーキを完食された後、まだ食べ終わっていないケンゾーの隣に腰かけます。

 アルノー先生は綺麗に完食されたようで、ごちそうさまを言った後、薬の調合をなさっています。


「ケンゾー、まっていてくれたの?」

「はい。あ、でも、ホットケーキの味見はしました。ふわふわしていて、とてもおいしいですね」

「ふふ、よかった。きにいってくれたのね。では、わたくしも、ケンゾーがつくってくれたパンケーキをいただくわね」


 いただきま~す。

 ……美味しいっ!

 ジューシーなウインナーとの相性がバッチリ。

 シバ家のパンケーキ素晴らしいわ……シンプルな材料で作ったとは思えない。もっちりが癖になりそう……。


「あの、お口にあいますか?」

 夢中になって黙々と食べていると、ケンゾーが不安気な顔をしてジッと見つめています。

「ええ、とってもおいしくて、むちゅうになってしまっていたわ」

「よかった……」

 ケンゾーはホッとした表情を浮かべ、私がつくったホットケーキを食べ始めました。

 美味しいと言って向けてくれる笑顔も、美味しいと言って向ける笑顔も。なんかほのぼのとしていいわね。


 幸せだわ。


 ふぅ~食べた、食べた。

 満腹なお腹をさすりながら食休みした後。

 もう少し、ダラダラしたい気持ちを跳ねのけて、勢いよく立ち上がります。

 アルノー先生とケンゾーは薬のお勉強を再開してるし、暇つぶしも兼ねて、カリンさんやリョウブさんに差し入れを持って行きますか!

 籠に入れたパンケーキとホットケーキを抱えて。


「とうさま。カリンさんとリョウブさんにさしいれてまいりますね」

「ああ、距離が近いから飛び移るといい」


 おお、確かに飛び移れそうな距離ですわね。


「では、いってまいります━━」

 父様の横をすり抜け、御者台からジャーンプッ!

 ……このジャンプ、旅の間の定番になりそうですわね。


 一旦、幌の上に着地します。

 そして、後ろから入り込むのです……。


「━━━━!」

 おっ、揺れました……。


 御者台に座っている2人に目をやると、仲良くお話をされていました。

 ……うん?仲良くなのかしら……。


「━━━━━━」

「━━━」

 言い争い?…………また、リョウブさんが余計な一言でカリンさんを怒らせたのかしら?

 よくわからないけど、美味しいものを食べて、笑顔になってもらいましょう。

 

「こんにちわ。たいくつだったので、またあそびにきました」

 と、二人に声をかけたのです。


 すると、2人は錆びついた機械の様に振り向き。


「ルイーズ様っ」

「あなただったのっ」


 顔面蒼白から、安堵まで一気に見せられると、なんて声をかけていいのか見つからない。

 ちょっと、ホラー漫画の様だったわ。


「………………」

 

「あの~ルイーズ様?大丈夫ですか?」

 カリンさんが、無表情で無言の私の目の前で手を振っています。

「え、ええ……わたくしはだいじょうぶなのですが、おふたりがなんともいえない、おかおをされていたので、つごうがわるいときに、きてしまったのかと……」

 項垂れてそう答えると、2人とも苦笑いを浮かべました。


「いや~馬車が揺れたのはカリンさんのせいだと思ってたんですよね」

「それで、私じゃないと言ってたら、ルイーズ様がひょっこり現れてびっくりしたのよ」

「…………あの、けはいでわからなかったのでしょうか?」


「「━━!!」」


 2人の表情を見る限り、気配を感じなかったのね……。

 

「話に夢中になってて気が付かなったんだわ……」

「そうですね……カリンさん、熱くなっていましたもんね……」

「そんなにたのしいおはなしだったのですか?」


 ぴよたろうを連れて湖に行った時、気配を消したつもりだったのに、気付かれてたもんね……。

 そのリョウブさんが気付かず、夢中になったお話ってなんだろう?


「あはは……」

「うふふ……」

 笑って誤魔化していますわ。

「いいにくいことなんですか?…………もしかして━━」こういう時って大体が噂話や悪口なのよね。

 さっき、私が来た時の驚きっぷりからすると……。

「わたくしたちのはなしをしてたのですねっ!!」

「「っっ!!」」

 図星をつかれたのか、驚愕の表情を浮かべていますわ。

 でも、悪口を言うタイプではなさそうだから、きっと……噂話ね。


「おやつをもってきたので、それをめしあがっていただきながら、じっくり、どんなおはなしをされていたのか、おきかせください」

 そう言ってニッコリ微笑み、籠の中からパンケーキとホットケーキを取り出します。


「「美味しそう……」」

「ふふ、おいしそうではなく、とってもおいしいのですわ。ケンゾーとわたくしのじしんさくですもの」


 美味しそうなおやつを目にして観念したのか、2人はどんな話をしていたのか教えてくれました。

 モグモグ、美味しいとパンケーキとホットケーキに舌鼓を打ちながら。


「へぇ。カリンさんはとうさまと、てあわせをしたいのですね」

「そうなのよ。剣聖の再来と噂されている宰相様に手合わせを願う者が大勢いると聞いて、私もお願いしようと思ったのよ」

「カリンさんは戦闘狂ですからね。強いと聞けば、すぐに手合わせを願い出るのですよ」

「とうさま、ほんとうにつよいですよ。あ、でも、わたくしやケンゾーのきじゅんですから、おとなのカリンさんやリョウブさんでしたら、よいしょうぶができるのかもしれませんね」


 すぐに宙を舞う私やケンゾーと違って、大人同士の手合わせなら緊迫した戦いになるかも!


「ぜひぜひ、てあわせをしてください。わたくしから、とうさまにつたえておきましょうか?」

 カリンさんの手を握って言うと「えっ、いいの!お願いできる?」と、キラキラした目でお願いされました。

 ふむ、今夜の野営地では楽しいものが見れそうですね。

 子供の私達では窺い知れない父様の強さ、篤と見せていただきましょうか。

 


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