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楽しい転生  作者: ぱにこ
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30話

 『スルス』を過ぎて3日、野営が続いております。

 途中、村に立ち寄るも食料の買い出しのみを済ませ、そそくさと村を出てサクラ公国へと向かっているのです。

 なんで、そんなに急ぐのかと言うと、大層な理由はないのですが……。

 聞いてください。

 事があったのは、2日前。

 『マイス』と言う小さな村に訪れた私達は食料の買い出しと観光を兼ねてのんびりと村を回っておりました。

 見るものと言えば畑くらいしかなく、食料の買い出しは父様たちにお任せして、一人で畑に向かったのです。

 長閑な雰囲気が前世の田舎を思い起こさせ、畦道に腰かけた私はノスタルジーに浸っておりました。

 トウモロコシ畑に麦畑、麦わら帽子を被って作業をする人達。

 この世界でも麦わら帽子ってあるんだね。

 畑の作業って、異世界でも変わらないんだなぁ……。

 異世界に生まれて5年。

 こんな風に外の空気を感じたのは初めてではないでしょうか。

 これまで外出したのって、フェオドールのお家に行ったくらいだし。

 それ以外は、屋敷の中庭でしょ。

 やっぱり旅に出て良かったわ。

 ジョゼがいないのは寂しいけれど……。


「おめえ、みかけねえかおだな」

 ふいに後ろから声を掛けられ、振り向くとケンゾーと同じくらいの年頃の子供が3人、麦わら帽子を被り、手には鎌を持ち立っておりました。

 茶色い髪にグリーンの瞳の男の子、同じくグリーンの瞳に赤茶けた髪をおさげにした女の子、茶色い髪にブルーの瞳の男の子の3人組です。

 畑仕事を毎日手伝っているのでしょうね、健康的に日焼けしております。

 お手伝いの最中に余所者が気になってやってきたのでしょうか。


「ええ、たびのとちゅうのかいだしにたちよったのです」

「ギャハハ、へんなはなしかただな~」

 リーダー的立ち位置の子が、私の話し方に大笑いしております。

「へんでしょうか?」

 私がそう聞くと、3人共が首を縦にブンブン振りながら『へん』と……。

 そうか、変なのか……。


「はなしかたがへんなのは、おいといて、どこからきたんだ?」

「おうとからきました」

「おうと?おうとってどこだ??とおいのか?」

 王都って言っても知らないのかな?3人顔を見合わせて、首を横に振っています。


「ばしゃで、2かか、3かくらいかかりますね」

「とおいな」「とおいね」「うん」

 それぞれが結論を出した後、リーダー的な子が私の顔を覗き込み「それで、なんではたけなんかみてるんだ?おもしろいか?」と。

 面白いかというか、懐かしい風景だったから見てただけなんだけれど。

 詳しく説明すれば、変な子扱いだろうし、適当に説明することにしましょう。

 

「はじめてのたびで、はじめてのけしきだから、よくみておこおうとおもったの」

「ふ~ん……ずっとみてるから、はたけしごとをやってみたいのかとおもった……」

 畑仕事をやってみたそうに見えたのか!だから誘いに来てくれたの?

 体験できるのなら、一度はやってみたいわ。

「やってみてもいいの?」

 食い入り気味に聞き返すと、3人はニカっと笑い『いいよ』と言った後、ひそひそ話を始めました。

 「やった」とか聞こえてますけど……。

 どういう事??


 麦わら帽子を被らされ、手には鎌を装備され、ついて来いと促され、やった来ました麦畑。

「かあちゃん!てつだいたいっていってたから、つれてきたぞ」

 リーダー格の少年がふくよかな女性に駆け寄り、声をかけました。

 あの少年のお母さんなのね、とりあえず自己紹介をしておこうと思い、女性に話しかけます。


「はじめまして、ルイーズともうします」

「あらあら、かわいらしいお嬢さんね。私はアンヌよ、こっちは息子のジャック」

「あっ、なまえいうのわすれてた。おれ、ジャック。よろしくな」

 リーダー格の少年改め、ジャックは照れくさそうに笑いながら、自己紹介してくれました。

 すると、あとの2人も「わたし、エマ」「ぼく、ランディ」と、続けて名前を教えてくれました。

 

「アンヌさん、ジャックにエマ、ランディね。よろしくおねがいします」

 そう言って深々とお辞儀をすると、アンヌさんが怪訝そうな表情をします。

「ルイーズちゃん?あなた、貴族なの?」

「へっ?きぞくだと、おてつだいできないのですか?」

 恐る恐る伺うと、アンヌさんは笑って「いや、そうじゃないけど、貴族の令嬢に畑仕事をさせたらお咎めがあるんじゃないかと思ってね」

 

「それは、だいじょうぶです。このむらには、とうさまといっしょにきていますし、なにごともけいけんだとおっしゃいますわ」

「そう?じゃあ、怪我だけはしないように、気を付けてね。ジャック、後は頼んだよ」

「おう!」

「アンヌさんは、かえってしまうの?」

「ああ、おとうとのせわがあるからな。おとうとはまだあかんぼうなんだ」

 赤ちゃんのお世話があるから、行ってしまったのね。


「おめえ、きぞくだったのかぁ、あんまりてつだいにならないかもな……」

 ジャックがそういうと、エマもランディも残念そうな顔をしています。

「どういうこと?」

「ああ、きょうじゅうにこのあたりをかりとるんだけど、3にんじゃたいへんだから、おめえにこえをかけたんだけど……ま、しかたがない。はじめるか!」

 

 それだけ言うと3人は黙々と作業を始めてしまいました。

 私は放置ですかい?

 鎌の扱いなんて知らないんだけど……教えてくれないのですか?

 見様見真似でやれって事ですね……。


 3人の様子を観察します。

 左手に麦を掴んで、根本付近に鎌を入れるのね。

 ふむ、手前に引くようにと……うんしょっと………。

 うん?あれ?

 勢いが足りないのかしら?

 渾身の力をこめて、とりゃっ!!

 …………。


「ありゃあ、だめだな」

「うん、だめだね」

「…………」

 3人は、呆れ顔でため息をついています。

 むぅ、初めてなんだから大目に見てよ。


 でも、なんで刈り取れないんだ?刃が鈍らなのか?

 そう思って、刃を観察してみるも……うん、鋭利だね。

 じゃあ、考えられる原因は一つ……腕が悪いってことだね。

 ふふふふふふふ………。

 アハハハハハハハハ………。

 やってやろうじゃないか!


「あいつ、わらってるぞっ!」

「なんか、こわい……」

「ぼくたちがおしえてあげないからじゃない?」

「でもよぉ、おしえてたら、かりおわらないぞ」

「「……」」

 

 おっと、心の笑い声が漏れていましたか。

 私の事は気にしなくてもいいんだよ。ふふ。

 鎌に頼らずとも、麦は刈れるのだよ。


 確認。

 よし、目視できる範囲に、この子供達以外の人はいない。

 では、ルイーズ5歳の本気を見せてあげますかっ!!


 魔法を発動させます。


 イメージは芝刈り機。

 風の刃で麦の根元を断つのです。

 

 ━━━━シュイン、ザクザクザクザク!


 次々と刈り取られる麦。

 巻き上がる麦。

 それを、手で受け止めて、一纏めにした後、脇に並べます。

 順調、順調。

 ふむ、もう少しスピードアップしましょうか……。


 ━━━━シュイイン、ザッザッザッザッ!


 キャッチアンドリリース!

 何言ってんだ?と心の中で一人ノリ突っ込みを入れつつ。

 受け止めた麦を脇に置く作業に没頭し、順調に麦を刈っていきます。

 指定された範囲の麦を刈り終えようとした時、子供たちに目線を向けました。


 ホホホ、呆気に取られていますね。

 …………。


 ギャラリーが増えてませんか??

 …………。


 と、と、とうさま?

 …………。


 と、他の方々もいらっしゃる……。

 …………。


 あ、短い人生の走馬燈が……。

 …………。


「ルイーーーーズッッ!」


 父様の怒声が村に響き渡ります。


 南無…………。


 ◇ ◇ ◇


 アンヌさんには感謝され、子供達からはヒーロー扱い。

 されど……。

 父様とケンゾー、アルノー先生からもお説教を受けました。


「目を離すと、これだ……君の魔法は目立つから自重しなさいと言っていただろう。だいたい、なぜ麦刈りをしてるんだ?しかも、魔法で刈るのは100歩譲って良いとしても、巻き上がった麦を束ねて置く動作が、只者ではないだろう。村の子供たちはまだしも、大人たちは泡を吹きそうになっていたぞ」

 これ、父様の感想。


「おじょうさま、じちょうということばをしっていますか?こうしゃく家のごれいじょうがなぜ、麦かりをなさっているのです?どこで、だれが見てるかもわからないばしょで、目立つことはおやめください。ゆうかいでもされたら、どうするのですか?!」

 これ、ケンゾーからのお説教。


「ルイーズ様、常々感じていたのですが、貴女の魔法は世間一般の物とかけ離れています。それを大っぴらに使用されると、どんな波紋を呼ぶかをお考えになり、自重する方がよろしいかと……しかし、素晴らしかったので後で教えていただけますか?」

 これ、アルノー先生のお説教?後半は耳打ちするように仰いました。


「今後、町や村に立ち寄ったとしても、食料の買い出しのみにする。この調子で問題を起こされては、旅の行程に支障が出るからね。どうしても、見て回りたい町があった場合は、父様のそばを決して離れず自重すると約束が出来るのなら許可しよう」


 『自重』という言葉を何度聞いたでしょう。

 目立たず、騒がず、速やかに。

 これ、旅の教訓となりました。

 自重の線引き加減が難しいけれど、大人しくするとしますか。

 だって、寄り道のない旅なんて、つまらないじゃない。

 

 ちなみにカリンさんとリョウブさんは『さすが、侯爵家のご令嬢ね(だ)』と。

 父様の娘だから、これが普通と思ってくれたみたいです。

 うん、父様のチートはこんな所でも有効なのですね。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そんなこんなで、急ぎ足の旅をしていたのですが、次の町『シュクル』には立ち寄ってもらえるよう、おねだりしなくては。

 なんてたって、お菓子の名産地なんだもの。


キリのいい所で終わったので、今回は短めです。

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