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楽しい転生  作者: ぱにこ
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26話

 暴走した馬車を止めたものの、馬が荒ぶっていて落ち着くまでの間、休憩をとることに。

 ちなみに、先生は気が付きましたよ。

 先生は叱られると思いハラハラしていたようですが、特にお説教もなく、反対に気遣われたので居心地悪そうにしていました。

 父様に馬が暴走した理由を聞くと、先生の緊張と恐怖が伝染したのだろうということです……。

 初めて教習所で車を走らせたときの緊張感が脳裏をめぐります。先生もこんな感じだったのかな?!

 うん、慣れるまで怖いね。

 でも、頑張ってね、先生。

 

 さて、お昼ご飯用にケンゾーがスープを温めてくれている間に、積み込まれた食材をチェックしましょう。

「しょくざいチェーック!!おっ!かんそうとうもろこしですね……。がいひがかたい!ポップコーンになるかしら?……あら?!これは……かんそうさせた、いろいろなおやさいですわ。ニンジン……(くんくん)これはたまねぎね。このみどりのものは……ほうれんそう?!なっぱけいなら、スープにつかえるわね……あと、じゃがいもにほしにく、ちょうみりょうは……さとうに、しお、こうしんりょう、しょうゆ、みそ……(ペロ)これはあじからして、りょうりちょうとくせいスープのもとね」

 油に茶葉、肉、卵などの生ものは少々……主食用にお米と小麦粉。

 乾燥させたお野菜や干し肉は後で使うとして、生ものから使うべきよね……。


「おじょうさま。スープがあたたまりました」

 ケンゾーが、温まった料理長特製スープをカップに注ぎ手渡してくれます。

「ありがとう」

 ……夕飯のメニューは後から考えるとして。

 今は料理長特製サンドイッチに舌鼓をうちましょうか♪


 皆にスープが行きわたったのを確認して『いただきまーす』

「おいしい~~」

「うむ、外で食べるのも気分が変わっていいものだね」

 お外で食べるお弁当は格別ですよね。


「おや、これはルイーズ様の誕生日パーティーで出た『かつさんど』ですね。また食べられるなんて光栄です」

「アルノーせんせいも『カツサンド』がきにいってたのですか?たんじょうびパーティーのとき『からあげ』と『カツサンド』が、だいにんきだったんですよ」

「ええ、何度もおかわりをしました。『かつさんど』が追加された途端、一斉になくなるのでそばを離れられなかったんですよ……今思い返すと、さながら戦場の様でした…………」

 先生の目に闘志がみなぎってくるのが窺えます。

 カツサンドで、そんな戦いが繰り広げられていたなんて……。


 私の細やかな気遣いです。

 大き目のカツサンドを先生に手渡しながら「どうぞ、たくさんめしあがってくださいね」と微笑みました。

「ルイーズ様……」

 アルノー先生はカツサンドを見つめ、うっすらと涙を浮かべています……。

 使者さん達は『大袈裟な』という目で見ていますが、わかっていませんね。

 これは、揚げたてカツを挟んだ『カツサンド』の美味しさを知っているからこその反応なのですよ。


 素敵な田舎暮らしをしていた私は、初めて『カツサンド』を食べた時の衝撃を今でも鮮明に覚えていますもの。

 町にある小さな行きつけのパン屋さんの定番『コロッケサンド』が目当てだったのに、間違って買った『カツサンド』……肉々しいコロッケね、とじっと見たら……『トンカツだとっ?!あちゃーー、間違えたか…………ま、仕方がない!熱い内に食べちゃいましょう(パクッ)んぐっ、ウ、ウマーーーーーーーッ!!』って…………余りの美味しさに目が3割増し開きましたわ。


 あの衝撃を少しでも分かち合えるように、焼いてみようかしら。

 サクッとした歯触りのパンにジューシーなお肉のコラボは使者さん達を満足させてくれるでしょう。

 

 フライパンに『カツサンド』をのせて焼きます。

 パンの焼ける美味しそうな香りがしてきました♪

 (ジュ~ジュ~)

 ……もう良い頃合いね。

 焼きあがった『カツサンド』を使者さん達に配ります。

「どうぞ、あついうちにめしあがってくださいね」

「はぁ……(パクッ)う、うまぁー!!あ、美味しいですっ」

「(パクッ)……おいしい……」

 そうでしょう、そうでしょう。

 手渡したときは胡散臭そうにしていたのに、今は一心不乱に食べてるわ。

「ルイーズ様、私の『かつさんど』も焼いていただけますか?」

 アルノー先生が、涙をためて見つめていたカツサンドを手渡してきます。

「おまかせください」

 丹精込めて、焼かせていただきます。

 ・

 ・

 ・

 お弁当のカツサンドがなくなるまで、焼いては配りを繰り返したルイーズです。

 雛鳥に餌をあげている気分でしたよ。

 皆が満足そうに膨れたお腹を撫でてるのを見ると嬉しくなります。

 屋敷に戻ったら、料理長にお礼と報告をしましょう。


 ◇ ◇ ◇


 食後、女子トークをしたいと思った私はお茶とクッキーを持って、カリンさんに声をかけることにしました。

「カリンさん、おはなししませんか?」

「ええ、いいわよ」

 その返事を聞き、隣に腰かけます。

「じょせいがたびをするときの、じゅんびひんについておうかがいしたいのです」

「女性の準備品?」

「はい。こんかいのたびで、にづくりをしていたとき、ぎもんにかんじたことをおしえていただこうかと……まず、きがえについてですが、ちょうきかんのたびのときはどうしてるのですか?」

「そうねぇ、基本は2枚くらいを洗っては使うってかんじかしら?!くたびれてきたら、立ち寄った町なんかで補充して、古いものを処分するわね」

「そうなのですね」

 ほうほう……如何にパンツの枚数を減らすか試行錯誤しましたが、やった事は間違いではなかったのですね。

 貴族の大きなかぼちゃパンツと、女性冒険者のパンツって違うのかしら?

 機会があれば、カリンさんに見せてって……いえいえ、淑女がパンツを見せてって言ったら、駄目ね。

 父様に叱られてしまいますわ。

 チャンスをうかがって、覗き見で確認しましょう。

 

「では、たびのとちゅうで、からだをせいけつにたもつには、どうするのですか?」

「う~ん、野営の時は、川で水浴びをするし、宿に泊まった時はお湯をもらって拭いたりかな」

「やどにおふろはないのですか?」

「高級宿だと、お風呂付の部屋もあるけれど、安宿だと一杯いくらか払ってお湯をもらうわね」

「……おゆなんて、じぶんでつくれませんか?」

「ああ、魔法はね……得手不得手があるから……私も苦手……って、ルイーズ様はお湯が出せるの?!」

 お湯?ん?出せるけど……まずいこと言った?!

 そう思って、離れて見ている父様に視線を向けます。

 口に指をあてて『し~黙ってなさい』と口パクで伝えてくださいました。

 あぶなっ!

 ついポロリと余計な事を言ってしまうことろだったわ。

「まだ、まほうのれんしゅうちゅうなので」と誤魔化します。


 話題を変えて、女子には最重要な案件である、トイレについて聞きましょう。

「つぎは、トイレについておしえていただけますか?たびのとちゅうで、もよおしたらどうしたらいいのですか?」

「それはね……」そう前置きして、小声で教えてくれました。

 要するに、草むらでって事です……。

 ……将来、冒険者になった時は草むらでするのかぁ。

 土魔法で簡易トイレを作れないかしら……。

 そうすれば、乙女の威厳を損なわずに済むのに。


 つぎは、お化粧品についてお聞きしますか!

「では、じょせいのおはだのおていれについてなのですが、たびのあいだはどうしているのですか?」

「肌の手入れ?ルイーズ様には、必要ないんじゃない?」

「いえいえ、いまはひつようなくても、しょうらいひつようになるでしょう?」

「うふ、そうね。他の人は知らないけれど、私はコレを使っているわ」

 カリンさんは鞄から取り出した、一つの瓶を見せてくださいました。

「……これは、あぶらですか?」

「そう。国の特産品で植物の種子から出た油を集めた物なの。顔を洗って水分が残った状態の時に、少量塗り込むって感じかしら」

 ホホバオイルや椿油の様な感じかしら?ほんのり、花の香りがするわ。

「ほぅ、これでうつくしく、きめこまかなおはだをたもっていらっしゃるのですね♪」

「もう~、褒めすぎよっ━━」

 バシッ!バシッ!

「んぎゃっっ」

「あ、ああ、あ、あ、あ、ご、ご、ご、ごめんなさいっっ」

 イッッ、テテテ!!なっ、なんて攻撃力なのっ。

 背中に大きな手形がついてるんじゃない?!

「おじょうさまっっ!!」「ルイーズっ!」「「ルイーズ様っっ!」」


 私の悲鳴を聞いて、皆が駆けつけてくれました。

「何やってるんですかっ!カリンさんの剛腕でこんな小さな子に手にあげたら死んでしまいますよっ」

「いやいや、だいじょうぶよ……いきているからね」

 リョウブさん、背中をバシッとやられたくらいで人は死なないからねっ。

「おじょうさま……大きなてがたがついています……」

「へいきへいき、あとでかいふくまほうをかけるから……」

 ケンゾー……お願いだから、服を捲って確かめないで。一応、お外だからね。

「ルイーーーズッ!!こんな身近に危険があったのに、気が付かなかった父様を許しておくれ。」

「いえいえ、じょうだんでせなかをパシッとされただけですし。ゆるすもなにも、だれもわるくはありませんわ」

「ルイーズ様。旅を始めて、一日も経っていないのに生傷が絶えませんね……お労しや……」

「さきほどおったなまきずは、せんせいがげんいんですわよね??」

 父様とアルノー先生は……お顔を拝見すると冗談半分で仰ってるようね。この状況を楽しんでますわ。

 もうっ!!

 

 カリンさんがシュンとしてるじゃない。

「カリンさん、へいきなので、きにしないでくださいね。ケンゾーいがいは、ちゃかしているだけですし」

「ルイーズ様……すみません……いつもリョウブが相手だったので、うっかり……力加減を間違えてしまって」

「なんだってっっっっっっ!!ル、ルイーズさまっ!骨は折れてませんかっ!!」

 さき程まで冗談半分で茶化していたリョウブさんが、青い顔をして詰め寄ってきます。

「えっ、ええ、おれてませんわ」

 カルシウムもとってるし、これくらいで折れるほど柔な鍛え方はしていないわ。

「丈夫なんですね……」

 ん?褒め言葉のはずなのに、ムッとくるわ……。

 物申したい気分でしたが、カリンさんに怒鳴られ、殴られているリョウブさんを見ると、つい手を合わせてしまいました。

 ご武運を……。



「ひとまず、てあてをしてしまいしょう」

 ケンゾーに手を引かれ馬車に乗り込みました。

 回復魔法を発動させると、淡い光が体を包みこみます。

 ケンゾーは、赤くなった手形が消えるのを見守って……「きれいになおったようです」とホッと胸をなでおろしています。

「しんぱいをかけてごめんね」

「いえ、ごぶじでなによりです……」


「…………ねえ、ケンゾー、おこっているの?」

「……いえ、おこってなどいませんが」

 それじゃあ、なんで不機嫌なんだ?ほんの少し、頬を膨らませているんだが……。

 これは、何か言いたい事があるんだけれど、言えない時にする抗議。

 こういうところは、まだまだ子供よね。

「うん、ケンゾーはおこっているね。きっと、わたくしが、けがばかりしてしんぱいをかけたから」

「…………」

「ずぼしね~」

「ケンゾー、ほんとうにごめんね。たびのあいだは、むきずですごすことはできないだろうし、つぎからはけがをしたしゅんかん『かいふくまほう』をかけるわ。だから、きげんをなおして。ね?」

「……おじょうさまが、悪いわけではないのです。よそくのつかないけがも、しかたがありません。けれど、おたすけしたいと思っているのに『かいふくまほう』を使えない自分が、はらだたしく、やつあたりしているだけです」

 回復魔法ね~

 光魔法が使えないから、回復魔法は無理だけれど……。

「あのね。『かいふくまほう』をつかえなくても、ケンゾーにはたくさんたすけてもらってるの。だいいちに、わたくしのそばにいてくれる。だいにに、けんじゅつのあいてをしてくれる。だいさんに、そうだんあいてになってくれる。それいがいにもたくさんあるから、わたくしは、ケンゾーがいないと、すご~く、すご~~くこまってしまうの。きっと、いなくなると、ないてしまうわ……」

 ケンゾーがいなくなる想像をしてしまって悲しくなってきた……。

 自分で言ったくせに……。

「おじょうさま……も、もうしわけありません……ほらっ、もう『かいふくまほう』のことはもうしません……から。今までいじょう、それいがいのことで、おやくにたてるようにがんばります。ですから、かなしそうなおかおをされないでください……」

「ケンゾー……」

 頭をナデナデしてくれるのは、嬉しいけれど……ちょっと照れくさい……というか、こっぱずかしいーー!!

 うわ~顔が熱い……

「お、おじょうさま……」

 ケンゾーも伝染して、赤くなっているじゃないかっ!

 なんなんだこの沈黙……うわ~ううぉ~いたたまれない~~



 コン、コン、コン……

「ひっ?!な、なにか、おとがしないっ?」

「え、ええ、なんのおとでしょうか……」

 馬車の中で、何かを突くような音が聞こえました。

「こ、こちらから、きこえたわよね……」

 気恥ずかしさから逃げるように、音の出所を探ります……なにか、わからないけどグッジョブ!

 ━━コン、コン……パリッ……「ぴぃぴぃ━━」

「っ!!なにかなきごえがするわ」

 ゴトッ「ぴぃーー」

「しょくりょうのはこのなかからきこえるっ」

「お、おじょうさま。あぶのうございます。私がたしかめますので、おまちください」

「ええ、きをつけてね……」

 積み荷を検めるケンゾーのこわばった背中を見て、なんだかホッとする。依然、緊張は抜けきらないけどいたたまれない空気から抜け出せたことにおいては、音の主に感謝しないとね。

 ・

 ・

 ・

「おじょうさま…………ひよこでしょうか?!」

 うわぁ~~~~可愛い♪

 黄色く柔らかなふわふわの毛に、黒くてまん丸の目がなんて愛らしいんでしょう…………。

「かわいい~~ひよこ?なぜ、ひよこがいるのかしら」

「しょくりょうのはこに入っている、玉子の一つからふかしたようですね」

「……」

 あの玉子、全部孵化しちゃうの?全部が有精卵なのっ?!

 「ほかの玉子は、だいじょうぶみたいですよ。このひよこがかえった玉子は明らかに、大きさもしゅるいもちがっていました」

 私が何を思っているのか、察してくれたようでケンゾーが補足説明してくれました。

「よかったわ……わったしゅんかん、ひよこがでてきたらちょっとしたホラーだもの……」

「しかし、このひよこはどういたしましょうか?」

「う~ん。とりは、はじめてみたものをおやとおもうみたいよ。だから、ケンゾーがこのこのおとうさんね」

「お父さんですか……」

 ひよこは、ケンゾーの手の中で気持ちよさそうに、眠っています。

 きっと親だと思って、安心してるのね。

「ほんとうにかわいいわ♪でも、なんのとりかしら?あきらかに、ふつうのひよこではないわよね?!」

「お父さん……」

「ケンゾー?おとうさんはいやなの?じゃあ、わたくしがおかあさんになってあげるわ。よろしくね、ひよこちゃん」

「っ!!おじょうさまが『お母さん』……では……私はお父さんになるんですね……」

 ケンゾーが何かブツブツ言っています……。

 父親になる心構えかしら?

 


「ルイーズ、そろそろ出発しようか」

「っっ!!はっ、はい、とうさまっ」

 父様ったら急に大声を出すから、心臓に悪いわっ。

「ケンゾー、ひよこをかくして」小声でひよこを隠すように伝えます。

「はい」

 ケンゾーはひよこを服の中に隠して「なぜ、かくすのですか?」と不思議そうな顔。

「だって、たびのとちゅうよ。かってもいいって、ぜったいにおっしゃらないわ」

「それもそうですね……では、ないしょでかいましょう」

「ええ」


 小声で相談した後、父様や先生に見つからないよう、小さな小箱に移し替えました。

 でも、本当になんの鳥かしら?そもそも、鳥なの?

 ひよこはすぐに寝ちゃったから、ちらっと見ただけだけど、明らかにしっぽの様なものががあったわよね……。

 なんの生き物でもいいわ。ケンゾーを親と思ってるんだもの。頑張ってお世話しましょう。

 ふふ、こちらの世界で初めての子育てね♪



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