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楽しい転生  作者: ぱにこ
29/122

22話

「これから話す内容は、他言無用だと言う事を念頭に置いて聞くように」

「はい、とうさま。こころにきざんでおきます」


 父様からの大切な話。

 夕食の席では、沈んだようなお顔をされていた父様ですが、今は何かを決断されたような表情をされています。

 訓練所には、人払いをして、ケンゾーも父様付きの従者もいません。

 そして、最近出来る様になった空間魔法の一つである『防音結界』を施しています。

 いずれ空間魔法を極めて、ゲームでのお約束である『アイテムボックス』を作る?作動させる?発動させるでしょうか?とにかく、『アイテムボックス』を手に入れるのが夢なのです。

 現段階では、外気を遮断して食べ物を長期保存できる程度で、入れ物になる『鞄、袋』が必須。容量も鞄のサイズの2倍から3倍弱なのです。

 最終的には、何もない空間から出し入れ自由な『アイテムボックス』を手に入れるのです。


 脱線しました……。


 防音結界は単純で、空気の振動を抑えて外部に漏れないようにするだけで形になりました。

 長時間居ると空気が薄くなり酸欠になるので、魔法の発動範囲を大きく取る必要があります。

 この辺りは要改善ですね。

 

「ルイーズ。結界は施せたか?」

「はい、とうさま。かんいてきなものですので、ちょうじかんいると、いきぐるしくなってきますが、2じかんはだいじょうぶだとおもいます」

 

 先ほどまでケンゾーや師匠とお茶を飲むために敷いていたゴザに座り、父様と向かい合います。

「とうさま、おはなしください」

「まずは、異世界の巫女に関する話からしよう。数百年前、召喚された異世界の巫女はこの世界に残り、子孫を残した」

「えっ!かこにしょうかんされた、いせかいのみこは、もとのせかいにもどれなかったというわけですか?」

「いや。封印された邪神が復活するのを危惧して、封印した土地を監視する為に残ったそうだ」


 元の世界に帰れるのに、帰らなかった巫女……。

 急に異世界へと召喚され、怖い目にもあっただろうと予測できる。

 魔物や邪神と戦えと言われても、元の世界では見た事もなかっただろうし……。

 知らない世界を救えと言われ、『はい、承りました』とはならないでしょう……。

 私は、天寿を全うして生まれ変わったから、この世界で生きる事に納得して過ごしているけれど……。

 数百年前に召喚された異世界の巫女、どんな気持ちで過ごし、どんな気持ちでこの世界に残る覚悟をしたのか、とっても興味があるわ。


「あの、とうさま。みこのしそんは、いまも、そのとちをかんししているのですか?」

「……ああ、いや……うむ」

 父様は、歯切れの悪い返答をします。

 言いにくい事のようですね……。

「とうさま。じゅんをおって、おはなしください。なにをきいても、おどろきはするかもしれませんが、うけとめ、たいしょできるようにがんばりますので」

 

「わかった。では、今から話す事を聞いて動揺せぬよう、心をしっかり持つんだよ」

「はい」

「順を追うと、異世界の巫女は『サクラ公国』で生活する様になった。それは、国境付近にある森の中の遺跡、即ち、邪神を封印した場所を監視しやすい所を探したところ、それが『サクラ公国』だったとも言われている。巫女の血筋にのみ、瘴気を祓う力があった為、代々監視を続けていたそうだ。この事に関しては、この王国では王になる者と魔法省のトップのみに知らされ、宰相の私ですら、知る事が出来ない秘密事項だった……ここからが、大切な話になる。しっかり聞くように」


 父様は背を正され、私の目をしっかり見据えて話を続けられました。


「邪神が復活した兆しがあると『サクラ公国』の使者から受け取った手紙に書かれていた。手紙の内容と、使者の話によると巫女の子孫にあたる、当主が遺跡に向ったそうだ」


「えっ……じゃしんがふっかつした、かのうせいがあるのですか?……はやすぎませんか?」

「ああ、早すぎる。……陛下は当主に、ルイーズの事を知らせたそうだ。もちろん名前は伏せているがね。そして、ルイーズが16歳になった時に、再び異世界の巫女が召喚され、邪神と戦うという事も知っているそうだ。ルイーズ、最悪を想定して、邪神復活が事実だった場合、今、異世界の巫女召喚を行ったとして、うまくいくと思うかい?」

 

 今、巫女召喚の儀式を行ったとして、うまくいくか……。

 わからない……。

 早すぎる召喚だと、攻略対象者に合わせて、異世界の巫女も子供?

 私達の年齢が達するまで、召喚は成功しないパターンも考えらえる。

 時間軸も関係なく、あの主人公の巫女が召喚され、うまくいく可能性も捨てきれないけれど、同行する人達は誰になるんだろう。

 そうなると、もうゲームの話と違うから、対策を練る事もままならない。

 

「とうさま、うまくいくかどうかは、わかりません。わたくしのきおくとちがうので、よそく……いえ、そうぞうになりますが、いせかいのみこしょうかんがせいこうしたとして、みこもおさなごのかのうせいがあります。そのばあい、みこをこのせかいでそだてるのでしょうか?」

 

 幼児誘拐になるよ……。

 高校生の主人公が異世界に召喚され、世界を救い、攻略対象者をお持ち帰りorこの世界に残るEDが選べるのだけれど、元の世界に帰った場合は時間経過がなかった。

 ゲーム内の時間は2年。

 幼児が召喚され、年頃に育つまでこの世界で過ごす。

 11年から13年ってところかしら……。

 世界を救い、元の世界に戻る。

 体は……元の幼児に戻るの?記憶は……消えてしまうのかしら?恋をしてお持ち帰りしたら……攻略対象者も幼児になるの?

 成長した姿が戻らなかったら?主人公は、どこで過ごすの?家に戻れなくなるわ。


 ああーーーーーーー!!わからないーーーーー!!


 そして、可能性の一つとして、違うパターンを父様にお話しします。

「とうさま。わたくしのしるねんれいにたっした、いせかいのみこがしょかんされたとして、ともにたびをするのは、だれになるのでしょうか?フェオドール、ダリウス、ジョゼも、みことたびをできるほどのつよさのせんざいのうりょくが、そなわっているとおもいます。ですが、おさないかれらに、たびのともはできません。ほかでじんざいをさがすとしても、みこのたびをほさできるほど、つよいものはいるのでしょうか?……」


 父様ほどのチート級ならば、一緒に旅をしても、巫女も安心できるだろうけれども。

 一般兵士の強さってどれくらいなんだろう……。

 父様が、私達の魔法を見て驚くくらいなのだから、期待は出来ないのよね……。

 幼いフェオドールやダリウスと、まだ見た事のない王太子殿下がちょこちょことお供するの?

 巫女は、引率する保育士ではないのだし、見守る方は胃に穴が開きそうだわ。

 ジョゼは幼すぎて絶対にダメっ!

 ジョゼを行かせるくらいなら、私が一人で巫女と旅をするわ。


 そして、一番可能性が高いと思う一つを父様に話します。


「とうさま。さいごに、いちばんかのうせいがたかいのが、わたくしたちのねんれいが、たっするまでいせかいのみこしょうかんは、しっぱいにおわるとかんがえました」

 

 可能性をすべて話し終え、父様の返答を待ちます。


「ルイーズ。陛下からの命で私は『サクラ公国』へ行かねばならない。今、ルイーズが話した可能性の事を念頭に置き、邪神復活が真実だった場合、それを踏まえて対策を練らなければならない」

 陛下からの命で、『サクラ公国』まで確認しに行くと言う父様。

 真実なら大事ゆえに、宰相である父様が向かうのね。


「…………とうさま……わたくしも、いってはいけませんか?」

 私がそう言うと、父様は私の発言は想定通りだったという様な、呆れ顔をされました。

「ルイーズ。行ってどうするんだ?」

 そうですよね……今の私には、なにも出来ない可能性が高い。

 でも、父様の帰りを待つだけでは、気持ちが落ち着かない。

「じゃしんのことをしる、わたくしがかくにんしてこそ、たいさくがねれるとおもいます。あぶないことはいたしませんし、じぶんのりきりょうもわきまえております。ですので、いっしょに『サクラこうこく』へいかせてください」


 父様は、私の頭をクシャッと撫でた後、顔を寄せて、苦笑されました。


「共に行くとなると、君の事を『サクラ公国』の使者に話さねばならなくなるぞ」

「はい。それは、かまいません。じゃしんふっかつのかのうせいを、たしかめにいくさいしょうさまが、こづれで、むかうのですから、それなりのりゆうがひつようなのも、りかいしています。もし、だめだとおっしゃられても、とうさまのばしゃにしのびこんでいきます」


 強い決意を知って頂く為に、真剣な表情を作り、父様のお顔をじっと見つめます。

 ジョーリ、ジョーーリ……。

 ジョーリ、ジョーリ……。

 ………。


 何がツボだったのか、父様にスリスリされているルイーズです。

「はあ、可愛いルイーズ。真剣な表情をしてるつもりなんだろうけれど、力を入れ過ぎて顔が赤くなって、リンゴの様だ」

 そう言いながら、父様のヒゲジョリジョリが止まりません。

 毎朝、ヒゲを剃っている父様ですが、夕刻になると、ちょぴっと伸びてきます。

 それがジョリジョリして、地味にダメージを受けます……。


「とうさま……お、おひげがいたいです……」

「おっと、すまないね。今から剃ってくるから待ってておくれ」

 そう言いながら、訓練所を飛び出そうとする父様を、必死に止めます。

 話の途中で、スリスリする為だけに席を外すなんて。

 

「とうさまっ。おはなしのとちゅうです」

 ぷくっと頬を膨らませて、抗議します。

「あ、ああ、ああーー。ルイーズーーなんて愛らしんだ。くっ!!そうだね、話の途中だったね」

 スリスリ出来ない悔しさを、表現してるのでしょうか?辛そうなお顔をされ、拳を握りしめています。

  

「とうさま。おへんじをいただけますか?」

「わかった。同行する許可を出そう。本当は、ジョゼに剣術を教えながら過ごしていて欲しかったんだが……しばらくジョゼと離れる事になるんだ。自分でジョゼに話すように。父様は言わないからね。ジョゼの悲しむ顔を見るなんて……出来ない……」


 あーーーーっ!!邪神の件は重要だけれど。

 ジョゼと離れて暮らすなんて…………。

 

 私は恐る恐る、聞いてみました。

「と、とうさま……『サクラこうこく』まで、いくにちかかるのですか?」

「行くのにひと月程と聞いたが……往復で2ヶ月、滞在日も考えると、三か月程になるのか」


 クラクラしてきました。

 三か月もの間、ジョゼと触れ合えないなんて……。

 連れて行ってしまおうか……。


「ジョゼをつれていくのは……むりですよね?」

「くっ!!私もそうしたいのは山々だが、出来ないんだっ!!」

「とうさま……」

「ルイーズっ……」

 悲しみに暮れ、父様と一緒に涙を流しました。

 

 ◇ ◇ ◇


 少し気持ちが落ち着き、疑問に思った事を父様に聞いてみました。

「とうさま。わたくしがどうこうしたいといわなかったばあい、おひとりでさんかげつもすごすことが、できましたの?」

「ふっ、出来る訳がなかろう。いや、過ごす事は出来るかも知れんが、荒れ狂うのは確かだ。まだ、幼い娘を危険な旅に誘うつもりはなかった。だが、ルイーズには話すべきだと考え、それを知った君が、どう答えるかも想像できた。父様は葛藤したんだ……娘を同行させることによって、心の安寧を得るか、同行させず、荒ぶるかを……」


 父様はそうですよね。溺愛する家族と離れて暮らすなんて出来る方ではありません。

 私と一緒だとしても、母様やジョゼと離れて、本当に安寧を得られるのかしら?

 私も離れて暮らすなんて、初めてだからホームシックになったりしないかしら……。


「とうさま。たびのあいだ、ずっとそばにいてくださいね」

「ああ、もちろんだとも」

 私と父様は手を取り、励まし合いました。


 そうそう、従者であるケンゾーも一緒に行ってもいいのかな?!

「とうさま、じゅうしゃであるケンゾーもどうこうしてもよろしいのですか?」

「ん……ケンゾーの祖父である『カツラ』殿もサクラ公国出身だと聞いた。詳しい話は、出来ないが同行する事は構わないだろう」

「ありがとうございます。それで、しゅっぱつはいつになるのですか?」

「明後日には発つ。明日は旅の準備をして、ゆっくり休むように。……しばらく留守にするのだから、カツラ殿には連絡しておかねばならないか……」


 そうね、しばらく剣術の鍛練が出来ないのだから、師匠に話をしておかないといけないわね。


「とうさま。ししょうは、あすもまいりますので、わたくしからはなしておきましょうか?」

「いや、私が話しておくよ。愛娘ルイーズは意外と嘘が苦手だからね。ついポロッと言ってしまいそうになるだろう?」

「……おまかせいたします」


 くっ!

 嘘が苦手っていうか、嘘を吐きたくなくて回りくどい言い方しか出来ない私の事をよく知ってらっしゃるわ。

 さすが、父様ね。

 

 ◇ ◇ ◇


 防音結界内の息苦しさを感じ始めるころには、父様とのお話も終わり、私達は訓練所を後にしました。

 ジョゼになんと告げようかしら……気が重いわ。

 荷造りはサクッと終わるだろうから、残りの時間はジョゼと過ごす事にしましょう。

 泣かれないかしら……素直にいってらっしゃいってされても、寂しいわね……。

 そんな事を考えつつ、屋敷に向う私と父様。

 父様の背中も哀愁が漂っています。

 母様に告げたのかしら?

 

「とうさま、かあさまに、たびのことはつげたのですか?」

 項垂れながら父様は首を振り答えてくれました。

「これから話すんだが……長い間離れるのは、結婚して初めての事だ。反応が怖い……」

「わたくしもです。ジョゼになかれるのもつらいし、えがおでおくりだされるのも、さみしい……」

「……私もだ……はぁー」

「はぁ」


 月だけが見守る夜。

 溜息を吐きながら、トボトボと歩く2人、似た者親子ですね……。

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