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楽しい転生  作者: ぱにこ
26/122

21話

「「「ふぅー」」」

 ズズズ……。

 とりあえず、師匠を無理やり座らせ、お茶を勧めてみました。

 師匠は、お茶を飲み、お茶請けをもっそもっそと食べたら、少し落ち着いたのか、こちらの問いかけに答えてくれるようになりました。


「……2人ともすまない。故郷の、とある組織の制服に似てたもんだからよ。まあ、軽々しく話せるもんじゃないから、そこは聞かないでくれよ」


 とある組織って何かしら?

 秘密結社的な、なにか?……他国の暗部に触れる事になるのだったら、聞かない方が良いわね。

 では、忍者装束を着てると『とある組織』の者と見做されるんじゃあ……。

 まずいのかしら?


「とあるそしきですか……では、このいしょうですと、もんだいがありますか?」

「いや。似てるってだけで、問題があるわけじゃねえ。この国で着る分にはな」


 この国では、問題ないけれど『サクラ公国』では、問題ありって聞こえるのだけれど。

 冒険者として活動する時に着ようかと思っていたのだけれど、駄目なのかしら?

 そんな事を考えていると、師匠がお茶を飲み干し、立ち上がりました。


「……それじゃあ、この話はここまでだ。茶を飲み終えたら、鍛練を始めるぞ」


「「はい」」


 次の鍛練の時にでも、冒険者として、この忍び装束を着てもいいのか、問う事にしましょう。


 ◇ ◇ ◇


「剣術の鍛練に割り当てられた時間も残り少ない。今日は、ルイーズとケンゾーの力量を見るだけで終わりにしよう。まずは、木剣の打ち合いを始めっ!」

 木剣を持ち、ケンゾーに向き合い、礼をします。

「「よろしくおねがいしますっ」」


 木剣を構え、ケンゾーとの間合いを測ります。

 ケンゾーは、腰に帯刀している構えを取っているので、居合斬りを放つようですね。

 わざと、間合いを詰め、打ち込ませるとしましょうか。

 一気に距離を詰めると。

 「ハッ!」

 ケンゾーの掛け声とともに、シュッ!と、風を切る音が聞こえます。

 私は身を翻し、横一文字に放たれた剣技を避けます。

 なかなかのスピードですね。父様ほどではありませんが。

 次はこちらから参りますよ。上段の構えから、一気に木剣を振り落とします。

「たあっ!」

 カンッ!

 木剣同士がぶつかり合う音が響いた瞬間を合図に、一気に打ち合います。


 カン、カン、カン、カン!


 よしっ、体が温まってきましたっ!

 ケンゾーも体が温まってきたのか、動きがスムーズになってきています。


 カン、カン、カン、カン、カン!


 なにこれ、楽しいわ♪

 父様との打ち合いという名の、一方的な蹂躙とは違って楽しい~。

 力が拮抗していると、こんなにも違うのね。

 つい、楽しくて顔がにやけてしまいます。

 ケンゾーも楽しいのか、にやけていますし。


 でも、剣術の技量だけで戦うと、決定打に欠けるわね。


「ししょう~。けんぎだけをみるのですよね?」

 アクロバティックな動きをしてもいいのか、師匠に聞いてみました。

 その間も、ケンゾーとの打ち合いは続いています。


「ああ。でも、剣術の腕は同じくらいか……よしっ!魔法は禁止。それ以外は使ってもいいぞ」


 はい、許可いただきました~。

 

「ケンゾー、いきますよっ」

 私は大きく跳躍し、ケンゾーの背後にまわると、体を低くして、足元を狙いうちこみました。

「うわっ!」

 少し驚いたようですが、ケンゾーは小さく飛び、躱します。さすがですね。

 でも、今の攻撃はフェイントですよっ!

 私は、某アクションゲームの技を体得済みなのですよ。

「ハアアアッ!!」

 倒立した後、前方宙返りに踵落としで決めますっ!

 

 ゴンッッ!!

「っったーーーー」

 鈍い音が響き、蹲るケンゾー……咄嗟に頭は避けたので、肩に踵落としが決まってしまいました。

「それまでっ!」

 師匠の終わりの合図を聞き、「ありがとうございました」と礼をした後、ケンゾーの元に駆け寄りました。


 ケンゾーは目にうっすら涙を浮かべています。

「ケンゾー。だいじょうぶ?いま、かいふくまほうをかけるわね」

 私はそう言うと、ケンゾーに回復魔法をかけました。

 淡い光が、ケンゾーの肩を包み癒します。

「どう?もう、いたくない?」

 ケンゾーは肩をグリグリと回しながら不調がないかを確かめ「はい。もう、平気です」と、ニッコリ微笑んで、返事をしてくれました。

「よかったわ~」

 ホッと胸をなでおろします。


「しっかし、ルイーズは予想外の動きをするな。それは、侯爵様に教わったのか?」

「けんじゅつは、とうさまにおそわりましたが、いまのわざはちがいます」

 ……はい。これも、前世からのパクリです。

 師匠に向かって、ニッコリ微笑んで、更なる追求を拒むことにします。

 ニッコニコ、ニッコニコ……。

 ・

 ・

 ・

 ようやく、師匠は察してくれたのか、ケンゾーに向き直ります。

「ま、まあ、いいか。ケンゾーは大丈夫だな?」

「はい」

「今日は、二人の動きを見た。次回からは、個々に合わせたメニューで、鍛練を始めるから、そのつもりで」

「「はい」」

 個々に合わせるって、どんな鍛練になるんだろう。楽しみだわ♪

 ついつい、嬉しさを隠せず、にやけ顔のままケンゾーに顔を向けてしまいました。

「ぷっっ」ケンゾーは、私の顔を見て吹き出します……。

 な、な、なぜ笑ったっ!

「むうー」

「ぷっ……くふふ……(すぅ~はあ~~)ん゛、あ、いえ、すみません、おじょうさま。あまりにもうれしそうなお顔をされていらっしゃるので。笑ってしまいました」

 オイオイ、なんなんでしょうかね。この満面の笑みは……。

 少しだけ、イラッとするわ。

 ムニーーーーーッ!

「いひゃいでふ」

 イラッとしたので、条件反射で頬をつまんでしまった。

 ムニムニ、ムニュー!!

「すひはへん」

 もう少し、ケンゾーの頬をもてあそぼうとしたら、師匠が手をパンパンと叩き、こちらに向くように合図をしました。

 私はケンゾーから手を離し、師匠に向き合います。


「はいはい。じゃれ合うのはそれくらいにしろ。今日は、客が来るから、帰らせてくれ。以上、解散っ!」

「「はい。ありがとうございました」」


 お帰りになる師匠を見送り、屋敷へと戻って行く最中、ケンゾーが私に話しかけてきました。


「おじょうさま。今日は負けてしまいましたが、私はおじょうさまをお守りするため、強くなります。次は負けませんよ」

 いつもと違う真剣な表情のケンゾー。

「ええ、たのしみにしていますわ。そして、わたくしよりつよくなって、まもってくださいね」

「はい、お約束いたします」

 ケンゾーは従者ですものね。どんなことがあろうとも、私を守ってくれる気概でいるのでしょう。

 その気持ちはとても嬉しいです。これは、ケンゾーには言えませんが、私もケンゾーを含め、みんなを守りたいのです。ですから、互いが腕を磨き、互いに背中を預けられる様に、切磋琢磨しましょうね。


 ◇ ◇ ◇


 屋敷に入ると、嬉しそうに笑顔を振りまいたジョゼが駆け寄ってきました。

「ねえしゃま~~けんじつのおけいこはおわったのでしゅか?」

「ええ。さきほど、おわったわ」

 はぁ~、舌足らずなジョゼは、本当に愛らしいわ♪

 私は、ジョゼを抱き上げクルクルと回ります。

 ジョゼと身長差はあまりないけれど、クルクルすると大喜びするのよね。

「きゃははっ、ねえしゃま~もっと~」

 クルクル、クルクル──

 さて、目が回ってしまう前に、ジョゼを下します。

「はい、おしまい。またクルクルしましょうね」

「はい、ねえしゃま。あにょね、ねえしゃま、おはなしがありゅのでしゅ」

 ジョゼが、ぴょんぴょん飛び跳ねながら言います。

「うん?では、あちらのソファにすわって、おはなししましょうね」

 ジョゼの手を繋ぎ、ソファまで移動すると、母様が座っていらっしゃいました。


「かあさま。ただいまもどりました」

 母様に挨拶をして、向かいに座ります。

「お帰りなさい。剣術の鍛練はどうでした?」

 母様に、今日一日の出来事を大まかに説明する事にします。

 まあ、大したことはしていないのだけれどね。挨拶をして、お茶を飲んで、ケンゾーと模擬戦闘をしたって事を掻い摘んで話しました。

「まあ、ウフフ。楽しかったようですわね」

 母様は微笑んだ後、ジョゼにお話をするのでしょう?と、ジョゼを促します。

「あにょね、ねえしゃま。ぼくもけんじつのおけいこをしゅることになったのでしゅ」

 ジョゼはそういうと、エヘンと胸を張ります。ああ~可愛いわ~♪

 得意げなジョゼは、少しキリッとしてて、なんて愛らしいのかしら……。

 剣術の稽古を始めるだなんて…………。

 ・

 ・

 ・

 はっ?へっ???剣術の稽古???存在するだけで、心に活力が湧いてくる程の愛らしさを持つジョゼが?剣術の稽古ーーーーーー??ぷにぷにの可愛い手で、無骨な木剣を持つのーーーっ!!

「かあさま、ジョゼ。わたくしは、ききまちがいをしたかもしれませんので、もういちどおっしゃっていただけますか?」

 ジョゼは少しポカンとした顔をして、もう一度話してくれました。

 ・

 ・

 ・

「やはり……ききまちがいでは、なかったのですね……ジョゼが、けんじゅつを……もし、けがでもしてしまったら……わたくし、わたくし……」

 想像するだけで泣けてきます。

 うぁ~~~~ん…………。

 

「ねえしゃま?ぼく、けがしにゃいよ~ぼく、いっちょうけんめーがんばうかりゃ、なかにゃいで」

 ジョゼがそう言いながら、小さな手で頭をナデナデしてくれます。

 ぐすん、姉様ですものね……。

 もう、泣かないわ。

「ありがとう、ジョゼ。ねえさまは、もうなかないわ。……でも、かあさま。ジョゼには、はやすぎませんか?」

「旦那様の提案なのよ……ルイーズ、貴女が剣術の鍛練を始めたのは3歳を過ぎた時だったけれど、訓練所で魔法の練習をしたりしていたのは、いつからだったかしら?」

「2さいになるまえです……」


「そうでしょう。ですから、ジョゼも早すぎるという訳ではないのですよ」


 私は、体は幼児でも、頭は大人ですよ……心も体も幼児なジョゼに、無茶はさせたくないのです。


「ルイーズ。明日から、剣術の師として、ジョゼを頼みますよ」

「へっ?わたくしが、ジョゼのししょうになるのですか?」

「ええ、これも旦那様からの提案です。まずは、身体作りから始めて、剣術に移って行くようにとの事です」

「ねえしゃまがししょーにゃの?へへへ、たのしみだね~」

「ええ、たのしみね。…………かあさま。わたくし、ジョゼのために、がんばりますわっ!」

 私がジョゼの師匠になるのだったら、怪我などしない身体作りをして、剣に慣れさせる事が出来るわね。

 ゲームのジョゼは、剣術の才能が確かにあったわ。

 後は……魔法剣ね。風と火、これを纏わせた剣技が得意だったはずよ。

 可愛いぷにぷにの肌を痛めない様、細心の注意を払って、鍛練しましょう。


 可愛いジョゼの為に、カンフー道着と忍び装束を縫わなくてはっ!!

 こうしちゃいられませんわっ。


「かあさま、ジョゼ。わたくしは、しばらく、ししつにこもるので、しつれいいたします」

 そう言った私の手をガシッと捕まえる母様……。笑みが怖いのは、何故?

「ルイーズ。私室にこもり、ジョゼの道着を縫うつもりですわね。その・ま・え・にっ!もうじき、旦那様もお帰りになりますわ。家族揃って、お食事にしましょう。部屋にこもって軽食で済ませようなんて考えてはいけませんわよ」

「……はい、かあさま」


 料理長にサンドイッチでも作って貰って、部屋にこもろうかと思ったのに……。

 母様、お見通しでしたか……。

 

「ねえしゃま、しかられちゃったね~ぼくが、なでなでしてあげりゅ」

 しょぼ~んとしていると、ジョゼが手を繋いできて、慰めてくれました。

「ありがとう、ジョゼ」

 はあ~癒しだわ。温泉に浸かり、森林浴をして、滝の側でマイナスイオンに包まれているのかと、錯覚するほど癒されるわ。


 そんな癒しを堪能していると、父様がお戻りになられました。


「とうさま、おかえりなさいませ」「旦那様、お帰りなさいませ」「とうしゃま、おかえりなしゃいましぇ」

 それぞれが挨拶をすると「ああ、ただいま」と、覇気のない声で父様は返事をなさいました。

 執務が忙しいと仰ってましたし、お疲れなのでしょうか……。


「……ルイーズ。食事の後に、執務室に……いや、訓練所に来なさい。大切な話がある」

「はい、とうさま」


 大切なお話とはなんでしょう?

 屋敷の執務室ではなく、訓練所へと仰るのですから、人には聞かれたくないお話なのだと言う事は、想像できます。

 悪いお話ではないといいのですが……。

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